104、人投げ遊戯施設
「囲め!囲め!」
5人の兵士たちは投神様を逃がすまいと広場に広がって退路を塞ぎます。
ギルドとしては冒険者のトラブルに首を突っ込むのはタブーなのですが、今回は投神様を勇者様がたに引き合わせるのが私の任務です。
それが遂行できないような事態になるモノは排除しても構わないと判断します。
兵士たちを無力化しましょう。
「テヲダスナ」
「投神様…」
牽制しようと動き出した私を投神様が止めます。
投神様は確かにお強いのだとは思いますが…。
それよりも今は大きなトラブルに発展するのを避けて欲しいのです。
「怪我がないようにお願いします
いざとなれば介入致します」
「ケガナシ、ショウチ」
投神様は自信たっぷりに頷き、五つの石をさらに高く投げ上げて、間隔を間延びさせました。
本当に大丈夫なんでしょうか…。
「皆、魔技は使うなよ!」
「当たり前だ!」
「このアルターがどんな場所か教えてやるだけだ」
「戦えないくせに前線をひやかしに来やがって…!」
「多数でかかるのは卑怯だ!1人ずつ行け!」
正面の若い兵士が突っ込んできます。
流石に剣を抜くことはしないようです。
街中は特定の施設以外は魔素が薄く、周囲の魔素に働きかけるタイプの魔術は使用できません。
ですから街中では物理攻撃に特化した戦士系職業の者の力は絶大で、投神様に敵うものではありません。
投神様が普通ならば…。
「正義の制裁だ、おらっ!」
石を投げ続ける投神様に殴りかかる!
シュウンッ!
「…はぁっ?!」
殴りかかった兵士は一体どういう訳か真上に飛んでいます。
他の石と同じように空高く…。
投神様が投げたんでしょうが、武装した人ってあんなに高く上がるものですか?
皆さんびっくりして固まってる間に兵士が落ちてきました。
「うわーーっ!」
「ホイ」
地面に激突するかと思われましたが、投神様は石をキャッチするかのように軽々と兵士が落ちてくる勢いを殺し、一切の衝撃もなく地面に降ろしてしまわれました。
そして何事もなかったように石を投げ続けてます…。
「ツギ」
「えっ…?何いまの?」
「アイツ空飛んでなかった?」
「何という力だ!スキルか?」
投げられた兵士は地面に降り立った状態のまま、呆然とたたずんでいます。
「ツギ、ハヨ」
「お、お前行けよ!」
「お前が行けよ!」
「ミタイノダロウ?ワガ“ナゲイ”ヲ」
投神様はそう言うといつの間にか前方の兵士に近付き、先程の兵士と同じように空高く投げてしまわれました。
シュウンッ!
「うぎゃーー!」
「オマエモダ」
シュウンッ!
「いやーー!」
投神様は次々に兵士を投げ上げ、それを丁寧にキャッチして地面に降ろす、を繰り返します…。
意味が分かりません。
無傷で地面に降り立った兵士たちは、やはり魂消た様子で思考停止状態です。
投神様は構わずに歩き回りながら順番に投げていきます。
兵士たちの悲鳴が定期的に上がります。
怖過ぎです。
ザワザワと周りがうるさくなってきました。
そりゃこんなことをやってたら人だかりもできますよ。
街の住人や他の兵士、冒険者が見物しだしました。
「あのオレンジ色の芸人さん、すげぇ!」
「何かのスキル?」
「魔力は使ってないわ」
「女神像前じゃないのに奉納してるのか?」
「楽しそう!」
「え…、マジ?」
「絶対楽しそうだよ!」
「僕もやって!」
楽しそうに見えたのか、1人の子供が投神様の前に飛び出しました。
「ヨイゾ、ホレ」
シュウン
「わーーい!」
子供は高く投げてもらい歓声をあげ、優しく着地させてもらいました。
目をキラキラと輝かせています。
「もいっかい!もいっかい!」
「ヨイゾ、デモジュンバン」
楽しそうな男の子の様子を見て、他の子供たちが一斉に駆け寄ってきていたのである。
「僕も投げて!」「私も投げて!」
「俺も良いだろうか…?」
「えっ、じゃあ私も!」
「儂も…」
「ヨイゾ、ナゲル」
子供たちばかりではなく、大人も投げてもらおうと列をなしています。
投神様は石を投げる合間に、まるで小石のように軽々と人を順に投げていきます。
先ほどの兵士たちとは違い、皆さん非常に楽しそう…。
兵士や冒険者ばかりの殺伐としていた街が、今は明るく楽しげな歓声で溢れています。
この前線の街にこれほど一般の人たちが住んでいたとは思いませんでした。
あまりの人の列に投神様は石をしまい、人だけを順番に投げ始めました。
空中に随時3人ほどの人が飛んでいます。
人々を天に投げ上げる遊戯施設と化した投神様。
もう大人も子供も半狂乱のお祭りのような状況です。
投神様はこの街の抑圧さていた空気を投げ飛ばしてしまわれたのです。
「こらー、お前たち!何をしておる!」
この騒ぎをとうとう衛兵たちが聞きつけ、事態収拾に乗り出したようです。
「女神像前以外での神賑は禁止だ!」
「ここは前線だぞ!何を考えている!」
「そこのオレンジの!手を止めろ!」
「ナゲテホシイノカ」
「ちょい待ち!投神様!」
この人、まじでヤバい!衛兵まで投げる気だ。
そんなことしたら話しがどんどん大きくなってしまいます!
「彼らはこの街の衛兵です!
投げないで下さい!」
「ナゲナイ…、ワカッタ」
ひどく残念そうですが、当然ここは大人しくしておいてもらいます。
「衛兵さま、お騒がせして申し訳ございません
私はオウブルのギルド情報部に所属する忍者でございます
こちらの投神様はちょっと変わったところがございますが、オウブルの冒険者でございます
勇者様がたのご依頼により、この投神様と勇者様がたをお引き合せる為にアルターへと参りました
勇者様がたへのお取次ぎをお願い致します」
「なに…、勇者様がたのご依頼だと?」
胡乱な目で投神様を見るが、勇者様がたの名前を出されては確認せざるを得ない様子です。
衛兵の幾人かを城に走らせます。
「確認致す
しばし待たれよ」
「はい、ありがとうございます」
とりあえず乱暴なことにならないと、集まった皆さんは安堵されています。
「オレンジ色のおじちゃん、冒険者だったの?」
最初に投げてもらった男の子が投神様にきいてます。
「ワカラン」
「分からないの?変なのー」
「あんちゃんスゲェなー!楽しかったぜ!」
「今度は女神像の前でやってくれよ!」
「そうだ、そうだ!」
「たっぷり賽銭を奉りさせてもらうからよ」
余程楽しかったのか、多くの人々が投神様に声をかけたり、互いに感想を言い合ったりしています。
そう言えば最初に絡んできた5人の兵士たちはいつの間にか姿を消しています。
大の大人を何度も何度も投げ上げる投神様のステータス値は、異常に高いんじゃないかと錯覚してしまいますものね。
でも実際は一般人より少し上、という程度…。
不思議です。
「マタ、ナゲルサ」
「「おお〜!」」
「絶対だよ?」「待ってるぜ!」
人々に囲まれて投神様も楽しそうにしています。
ちょっと私も投げてもらいたかっ…、いやいや忍者たる者、任務遂行中は私情を挟んではいけません!
ニンニン!
「敵襲!」「敵襲だー!」
人々の楽しそうな雰囲気を切り裂くような絶叫と警鐘の音が響き渡ります!
敵…、即ち魔人が攻めてきたのです!
「ま、魔人がくる…!」
「家に戻るんだ!」
「お母さん!」
戦えない一般人の人々は蜘蛛の子を散らすように広場から逃げて行きます。
兵士は自分の持ち場に戻るようで、冷静に行動しています。
冒険者は事態の推移を見定めようと、装備を手に辺りに注意を払っています。
「オウブルのギルドの者よ!
我らはすぐに城へ戻らねばならん
勇者様がたもこれから軍の指揮を執られる故、しばらくは目通り叶わぬ
済まんな…」
衛兵は全員急いで城に戻るようです。
この状況では仕方ありません。
「了解致しました
日を改めましょう」
「そうしてくれるか
折を見て勇者様がたにはオウブルから冒険者の投神殿の来訪があったことは報告しておく」
「お願い致します」
この街が戦場となるなら早めにゲートダンジョンから避難したほうが良いのですが…。
魔人や魔物がダンジョンから押し寄せてくるのならこの街に留まるしかありません。
「マジンガクルノカ…」
投神様はゲートダンジョンの方角を石を軽く投げながら睨んでいます。
まるで彼には敵が見えるように…。




