103、戦の気配
「異世界からこんにちは!
徹底投擲チャンネルの投神です
今日は朝からショッピングを楽しみました
見てくれ、この橙色のいでたちを!
目立つよねー!
橙色はチャンネル内でイメージカラーとして使ってたから、どうしても選らんじゃうんだよね…
ブロキャサーの悲しい性です
他にも普通の服や武器類もゲットしました
しかもお会計は全てギルド持ち!
いやー太っ腹
ギルド最高!ヨイショ!
……しかし、タダほど怖いものはないと言いますが、これから何をさせられるのでしょうか?
誰かに会いに行くようですが、それだけでこんな経費落とせる訳ないですよね…
装備を整えさせたということは、何かと戦わせられるということなんでしょうか
有り得る…
ダンジョンのモンスターなら何とかできそうだけど、人と戦うのはやはり重いし、嫌だわ…
ま、誰かと会って、こんにちはーさよならーで済むかもしれないし、いま悩んでも仕方ないかー
宿代も払ってもらったし、かかった経費分ぐらいは働く所存でございます
視聴者の皆さんもその辺りはご期待下さいね!
それでは今日も頑張りましょう
世界を〜投げ投げ!」
オープニングを撮り終えてプロアウェイを確認する。
青いランプは点灯したままだ。
一体バッテリーはどうなっているのだろうか…。
本体は熱いほどではないが、ほんのり温かい。
やっぱり稼働しているような気がするんだよね。
相変わらず何のボタンを押しても反応はしないのだが。
撮れてるのか、自動アップロードしてるのかなんて分からないけど、俺の中で相棒のような存在なのだ。
ともすれば不安や孤独に苛まれる状況でも、ブロキャサーとして“撮れ高”と思えば楽しく乗り越えることができる。
コイツとならな。
だから異世界で生きる俺の勇姿を、撮してくれよプロアウェイ!
やたらフレンドリーなエルフのイケメンズに装備や小物を強制的にリュックに入れられ、ホクホク顔で見送られた。
不良在庫を押し付けられてないか若干不安なのだが、クノイチさんは当然のような顔をしていたのでこれから必要になる可能性がある物ばかりなのだろう。
店を出た俺たちは、街外れのダンジョンに入った。
あのおしゃべり黒剣士に襲われたことがあるので、念のためゲットしたばかりの鏢を軽く投げる。
『パーティーのゲスト枠に追加申請されました 承諾しますか?(Yes/No)』
もうこのアナウンスには慣れたぜ。
イエスだイエス!
これでクノイチさんがワープしても、同じ場所に連れて行ってもらえる。
しかしこのワープって、ロールを持ってたら誰でも気軽に使えるのかね。
昨日のパーティーの子たちは使えないようだったけど…。
いつでも帰れるもんだと思って余裕ぶっこいてしまったよ。
ロールの種類により使えるかが決まるかもだけど。
忍者がワープ…?
有り得るっちゃ有り得るか!
煙とともにドロンと消えるイメージあるわ。
なら当然か。
「それでは跳びましょうか、投神様」
「宜しく頼む」
そう言って手をつないだ。
意外に小さくて柔らかい手にドキリとする。
この手はあまり剣類は振ってないように思える。
「……………『∑γ∴Ω∇Ω∂∣∶∃』」
魔法陣が輝く。
そして浮遊感。
こ感覚はこの世界に落ちてきたことを思い出させる。
流れに身を任せながら、しばし今までのことを振り返る。
そういや前の世界では赤峰家の血筋は途絶えてしまうのか…。
前の世界にいる時はそんなことどうでも良かったのに、この断絶された世界に来てしまうと、それが少し残念に思える。
勝手だな…。
「着きましたよ、投神様」
「あ、すまんすまん」
考え事をしていてクノイチさんの手を握りしめたままだった。
「ここは…?」
見た感じさっきまでいたダンジョンと然程変わっていない岩肌のダンジョンだが、どこか殺伐としているような気がする。
「ここはアルターという街に最寄りのゲートダンジョンです
これから街に入って頂き、γ∃∑β∴様がたにお会いして頂きます
なお、魔人との∝Ω∞∃の∝∶Ω∝Ωでもありますので、ご注意下さい」
「ご注意下さい、と言ったか?」
「はい」
おー、何となくだけど聞き取れたぞ。
いや聞き取ったというより、感じ取ったに近いが。
ピーヒョロロの音に惑わされてはいけない!
下の音に耳のベクトルを向けるのだ!
会話の前後関係も含めて考えれば、イケるかもしれない。
「ああ、注意しよう」
具体的に何を注意するのかは知らんケド。
まあクノイチさんの指示に従ってたら問題ないだろう。
ダンジョンからでると、今までとは何かが違う景色が広がっていた。
空気に張り詰めた緊張感をはらんでいる…気がする。
戦…、戦場が近いのか?
煙が上がっていたり、鬨の声が聞こえるわけでもではないが、何となくそう思った。
「こちらです」
クノイチさんが先導してくれる。
彼女も少し警戒している様子。
無論、俺は縄鏢歩行だ。
異世界投げパワーに死角はないのである。
街はすぐに到着した。
他の街と同じく城壁に囲まれていて、デザインはほぼ同じ。
これじゃ見分けがつかん。
でも今までの街とは違い、行き交う人が少なくて武装した者の割合が多い。
門でチェックを受ける。
ドヤ顔で冒険者カードを見せるぜ!
…何の興味も持たれない。
この尊い橙色の装備をスルーするとは!
「投神様?」
すみません、すぐ行きます。
街の中は物々しい雰囲気だが、意外に活気に溢れている。
冒険者と思しきパーティーの他に、統一された金属製の鎧を身に纏った集団もいる。
これはあれだ、兵隊さんだ。
装備を統一しているし、母体は国レベルなのだろう。
あれ?これは俺もここで戦争に参加させられる流れ?
個人の恩讐を越えた、人の集団対集団の戦いには関わりたくないんだが…。
俺はこの世界でどこかの陣営に属してる気は全く無いし、歴史も共有してない。
よく分からん自分に責任を持てない戦争に参加させられるぐらいなら、あの岩ばかりの大地に戻るぜ、俺は!
柳も気になるし!
ん、周りから鋭い視線が飛んどりますな。
殺気という程ではないが、怒気ってとこかな。
なに見てんだコラ!
…あ、目立つオレンジ色の服装だったわ。
そりゃしゃーないっす。
「この∝∶Ω∝Ωに∈⊂∶∠な姿で何のようだ、持たざる者?」
「ちっ、能無しが…!」
「∈∋∶∈α∉∑εか!」
「………!」
おーおー、4、5人の兵士に罵られてる!
でも自分の事として受け取れないから、何とも思えないよだよね〜これが。
ウケる。
「何がおかしいんだ!∌∞∶∃!」
「投神様!」
一気に怒気が膨れ上がったのに危険を感じたのか、クノイチさんが俺を引っ張る。
少しよろけた様子を装い、ビニール袋の中の石を投げ上げた。
「あら?……なんちゃって〜」
そこから五つの石を使ってジャグリングを始める。
和むかも知れないし、逆に怒るかも知れない。
俺はどう転んでも投げるだけだ。
「とざいとーざい」
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「トザイトーザイ」
あちゃー、投神様が兵士を煽っています…。
先に敵意を向けてきたのは向こうなんですが、投神様の格好が目立ち過ぎるんですよね。
兵士も戦続きでピリピリしてるところに場違いな出で立ちで、しかも戦う力がないと見なされている持たざる者がいたら、そりゃあ睨まれますよね。
とりあえず喉を隠してもらわないと…。
あ、呆気にとられていた兵士たちが我に返り出しましたよ。
「なんだコイツ…
ふざけやがって!」
「我らは愚弄された!
誇りを取り戻す戦いは“善”なり!」
「善にアッド!」「善にアッド!」
「正義の制裁を!」
5人の兵士たちは戦闘態勢に入ってしまいました。
勇者がこの街に居るというのにこんなトラブル起こして良いのでしょうか。
「ホウ、ソッチニコロブカ」
あー、投神様まで不敵な笑みを浮かべてやる気です!
投神様は強いとは言え、職業を持ってません。
戦士系の職業を持つ5人に立ち向かうんですか?
「コレガウワサ丿、テンプレ、グフフフ」
「なんでそんなに嬉しそうなんですかー⁉」
待ってましたって感じの投神様に強くツッコミを入れてしまうのでした…。




