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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
102/177

102、出会い、再び

「コレハ…スバラシイ」


 冒険者向けの商品を扱うテントの店先に飾ってある装備に投神様が強く興味を惹かれています。


 鮮やかな橙色の防具装備一式に…。


 それは商品というか半ば看板扱いのようで、“いらっしゃい”という札を持たせてある。

 長らく売れ残り、売るのを諦めたような状態と見受けられます。

 冒険者の中にはこのような奇抜な装備をする者がいるのですが、それは装備と職業がマッチしている場合です。


「あの…投神様

 こちらの商品は売り物だとは思いますが…、もう少し別の装備もご覧になられては如何でしょうか?」


「コレガキニイッタ」


 もう何か運命の出会いみたいな程に気に入っていますね…。


「あんちゃん、これの良さがわかるとはやるね〜!」


 声を聞きつけて店主が声をかけてきました。


「この防具装備一式の性能は折紙付きなんだが、何故か冒険者のウケが悪くてなぁ…

 こんなに格好良いのによ〜誰も買わねーんだわ、これが」


「ゲセヌ」


「だよな!

 よしっ、あんちゃんには格安で売ってやる!」


「あの!投神様…!」


 軽快な口調の店主にのせられて商談が成立しそうです!


「一式9万で良いぜ!」


「ヨイゾ、タリルカ」


 そう言ってギルドカードを出す投神様。


「お待ちを!

 このような目立つ格好をされては、他の冒険者から何を言われるか…」


「メダツ…スバラシイ

 カオウ」


「あんちゃんわかってるな!

 冒険者は目立ってなんぼよ!

 よし、この橙色のブーツもつけてやる!」


「サイコウダ」


 投神様は自分のお金で購入されるつもりです。

 髪の毛も橙色ですし、以前も橙色の服を着てらしたし、強い拘りがあるのでしょう…。


 ギルド長からは必要な装備をギルド負担で整えるように指示を受けてますから、投神様にお金を払わせる訳にはいきません。


「ぅわかりましたっ!

 そんなに気に入られたのでしたらギルドで購入し、投神様に支給致します!!」


「おーおーギルド持ちか〜、豪勢だな」


「マジカ、アリガトウ」


 近くで見ると確かに素材はしっかりとした革製で、縫製も丁寧です。

 こんな奇抜な色に染めなければ一式21万ぐらいでも売れたのではないでしょうか…。


 チャリーン


 今回の指名依頼の経費をチャージしてある専用のギルドカードで支払いました。


「あんちゃん、早速着てみるか!」


「アア、ヨイナ」


 投神様は購入したばかりの装備を装着しようといそいそとコートを脱ぎました。


「って裸ー⁉」


「ア、スマン…」


 そういえば先の戦闘で全て燃やされてました…。

 決して露出狂のような趣味はお持ちではないと思いたいです。


「はっはっはっ、おもしれーあんちゃんだな!

 店の奥に着替え用に仕切りがあるから、そこで着替えな」


「…ハイ」


 投神様は店の奥へと入っていきました。

 ついて行くのは憚れるので店内の商品を見回ります。


「あのあんちゃんは本当に冒険者なのかい?」


 よく見るとこの店主は普人族ではなく、耳長族です…。

 耳を隠すような帽子を被っていて気が付きませんでした。


「はい、このオウブルで冒険者登録されました」


「ふぅ~ん…」


「耳長族の方が装備品のお店をされているのは珍しいですね」


 耳長族は閉鎖的な種族で、他種族と交易をするのは苦手と聞きます。

 この店主のような社交的な耳長族は初めて会いました。


「そうだな〜

 俺たちは他種族と関わるのを嫌うからな

 実は俺も耳長族以外には取引きしないんだぜ?」


「えっ…?

 では何故投神に装備を売られたのですか?」


「あのあんちゃんは耳長族のマントを羽織ってるからな

 俺たちは認めた奴にしかマントを渡さん」


「あぁ、ジンズ様の…」


「ほう、アイツが渡したのか…

 ならますます気に入った!

 持たざる者のようだが、サポートしてやるぜ」



「…キガエタゾ」


 店の奥から出てきた投神様は上からは下まで橙色で統一された人々の目を否応なく引く姿です…!

 案の定、周りの冒険者や店の者たちがザワつき始めました。


 ・あの服を買っただと?

 ・まじウケる

 ・変な色じゃなきゃ俺が買ったんだがなぁ

 ・意外とかっこいい…

 ・何のロールなんだ?

 ・目立って魔物からヘイトを稼ぎそう

 ・イケメンは何を着てもイケメン、爆ぜろ!


 以上が街の声です。


 当の投神様は目立ってご満悦のご様子…。

 忍者の私にはよく分からない感覚です。


「あんちゃん、似合ってるじゃねーか!

 何故だかしっくりくるな…

 …申し遅れた、俺はダール、宜しくな!」


「アリガトウ

 オレハ投神ダ

 ヨロシク」


 二人は固い握手を交わしています。

 何かをやり遂げた男の友情が芽生えてしまっているようです。

 理解不能です。



 理解不能といえば…、投神様は別の世界からやって来たとのことですが、私にはそれがどのような事なのかよく分かりません。

 全く別の世界なら全く言葉は通じないと思います。

 魔人のように。

 それに投神様は私のことを“くノ一”と呼びます。

 これは古代において女性忍者を意味し、現代では全く使われない言葉とされています。

 これは転職を介さずに生まれた時から忍者の職業を与えられる“忍びの里”出身の私だから知っている言葉。

 だから投神様は里の関係者か、古代と繋がりがある方なんじゃないかと思ってしまいます。


 あ、忍者は推察するのが仕事ではありません、ニンニン!


「投神様、防具装備はそれで良いとして、武器は如何致しましょうか?」


「あんちゃん、武器も探してるのか?

 なら良いとこ紹介してやるよ」


「マジデ?アリガトウ」


「良いってことよ

 ついてきな!」


 ダールさんという防具装備の店主は店の暖簾を下ろしてスタスタと歩きだしました。


「ミセハヨイノカ」


「ああ、俺は気に入った奴にしか売らないからな

 それにこの装備が売れたし、今日はもう店じまいだ

 はっはっはー!」


「カルイナ、ハッハッハッ」 


 この二人、完全に打ち解けてますね。


 注目を浴びつつ少し歩くと武器屋の一角に辿り着きました。

 ここでも投神様は盛大に人目を引きながらダールさんの後をついて行きます。





「ハン!いるか?

 客を連れてきたぜ」


 ダールさんはそう言って一つのテントの前でどなります。

 暖簾は下ろされ、一見商店のようには見えません。


「…ダールか?

 珍しいなお前が客を連れてくるとは」


 中から応えがあり暖簾が上げられる。

 ハンさんというこの方も耳長族だ。

 耳長族の方はやはり皆さんイケメンですね。

 投神様もなかなかイケメンですが…。


「…ふっ

 その装備ようやく売れたのか」


「おう!

 このあんちゃん、目の付け所が良いだろ?」


「どうかな

 ん、手に持ってるコートは…」


「あぁ、ジンズのだとよ」


「それでか…、入れ」


 投神様が手に持ってるコートを見て納得したのかテントの中に招き入れてくれました。




「ホウ…」


 中は意外に広く、様々な武器が所狭しと陳列されています。

 この街にこんな武器屋があったなんて知りませんでした。

 情報部なのに…。


「お前の職業は何だ?」


「………」


 ハンさんの問に投神様は何も答えない。

 答えられないのです。

 投神様は職業を持てないことを恥じているように黙っています。


「ア、ロールノコトネ

 ダイドウゲイニン、カナ」


 違いました。

 言葉の意味をを考えていただけのようです。

 それにしても大道芸人ですか…。

 そんな職業、つまり神与職としては存在しないです。


「そんな職業は知らんな…

 何が得意だ?

 獲物は何を使う」


「エモノ…、オレハナゲル」


「投げる?

 投擲系か…」


 ハンさんは頷くとお店の奥を指し示します。

 そこには台の上に様々な投擲系の武器が並んでいました。


「ホウ…スバラシイ

 クナイモアルジャン」


「苦無を知っているのか」


 忍者の専用武器である苦無があります!

 しかも高品質です!

 私も欲しいぐらいです。


 投神様はその苦無を手にとる。

 柄尻が輪っか状になっているタイプだ。


「ヒモ…ナガイヒモハアルカ」


「紐?

 ロープならあるぜ…、こっちだ」


 ほとんどのダンジョンは迷宮型ですが、稀に野外タイプなどもあります。

 その場合には段差を移動する為のロープは必需品となるので、冒険者向けの装備屋で扱っているのでしょう。


 投神様は数種類の中から一番丈夫そうな物を選び、5尋ほどの長さを指定した。

 そしてそのロープの先端を苦無の柄尻に結びつけた。


「縄鏢か…、使えるのか?」


 縄鏢…、聞いたことはあります。

 古代の忍者も使っていたとされますが、縄鏢に適用される魔技が存在しない為に廃れた筈です。


 ヒュンッ!


「ひぇっ!?」


 投神様はロープのうねりを利用して苦無を投擲!

 私の眼の前に飛来したかと思ったら、縦横無尽に店の中の武器たちに寸止めを決めていきます。

 高レベル忍者の私が全く反応できていません…!


「はっはっはっ、すげぇなあんちゃん!」


「お前の実力は分かったから辞めろ

 外でやれ」


「アア

 ヨイナ、イクラダ」


「はっ!?

 ギルドがお支払い致しますので!」


 驚いていたら、投神様がまた自腹を切りそうになってます。


「ヨイノカ」


 謙虚なのか話しが通じてないのか分かりません。


「はい、もちろん大丈夫です

 他にもご入用でしたら、お揃え下さい

 アルターは前線なので突発的な戦闘もあるかもしれません

 ギルド長からはしっかりと装備を揃えるようにと指示を受けておりますので」


「あんちゃん、アルターへ行くのか

 なら装備はちゃんとしておいたほうが良いぜ!

 俺たちが見繕ってやる」




 こうして投神様の装備が揃い、ようやくアルターへと向かう準備が整うのでした。


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