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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第2章 街に着いてもスローライフ(Throw Life)!
100/177

100、強請

 静かなギルド長室の中でくるくると石が舞っている。


 恐ろしいのは全くの無音ということだ。


 多くの石を同時に扱いながら、キャッチする際にも投げ上げる際にも一切のロスがないのだ。


 その神業を涼しい顔で小揺るぎもせずに継続させているのが、なんの職業も持てない持たざる者というのがどうしても信じられない。


 納得がいかないのだ。


 我々は神から授かる職業に基づいて、それぞれ最適な能力を発揮して生活している。

 越えられない聖なる枠組みの中に住んでいるのだ。

 何の職業もなく、そして職業を持つ者を超える力を秘めるこの男は、ワシの理解の範疇を超えている。


 それ故、ワシはこの男が恐ろしい。

 何もかもを破壊してしまいそうで、な。



「ナンノヨウダ」


 手を止めずに投神が問う。

 歌劇場の俳優のような古臭い、芝居がかった言い方だ。

 だが巫山戯ているわけではなくて、これが彼の普通の喋り方。

 魔声帯を持たず、異世界出身だから我々にそう聞こえてしまうのだろう。


「勇者様かたが投神殿に会いたいとおっしゃっている

 済まんが勇者様がたがおられるアルターという街に行って欲しい」


「…………」


 表情を変えずにただ石を投げ続ける投神殿…。

 ワシの真意を見定めるかのように鋭い視線が注がれる。

 静か過ぎる部屋の温度が上がったように、汗がにじんでくる。

 Sランク冒険者として長らく活動し、気づけばギルド長にまで登りつめたワシが彼の無言の圧力に押されているのか…!?


「きょ、強制クエストという訳ではない

 ギルドからのお願い、指名依頼と思ってもらって良い」


「………ホウ?」


「な、投神殿は知らぬとは思うが、勇者様がたは人類の先頭に立って魔人との戦いを導いて下さる尊いお方なのだ!

 その勇者様がたと会えるなんてとても光栄なことなんだぞ

 もちろん、アルターへの送迎や必要な物資はギルドが責任を持つとも!

 頼まれてはくれまいか?」


「………フクガナイ」


「ふ、服?

 あぁそんなもんはギルドが提供しよう」


「ホウ…?」


「では明日、市場に行って必要なものを揃えてから跳んでもらう

 細かいことはカイファーに聞けば良い

 よろしいな?!」


「……ヨイゾ」


「よし…、ではカイファー!」


「……はい」


 扉を開けてギルド情報部所属の忍者カイファーが入ってくる。


「投神殿、彼女は忍者のカイファーだ

 しばらくお主の補佐をしてもらう

 詳細は彼女に訊いてくれ」


「……ヨイゾ」


「今日はもう遅い

 カイファー、投神殿を宿へお連れして明日に備えろ」


「はっ、承知致しました

 投神様、こちらへ」


「アア…」


 投神殿はカイファーに連れられて部屋を出ていった。

 彼から発せられる何かから開放されたように、一つ息を吐いて脱力する。

 どうしてワシのペースが乱されねばいかんのだ。



「奇妙な奴だ…」


 彼は誰に対しても物怖じしない。

 ギルド長という役職の威光は異世界人には通じない。

 その分フラットにワシという人を見ているというのか…。

 この世界の者にはできない人の見方、捉え方やも知れんな。

 不思議と悪い気はせんが…。


 投神殿がこれから会う勇者様がたも、我らからすれば異質の存在。

 彼らの邂逅がこの世界に何をもたらすのか…。

 枠組みの中でしか生きられないワシには到底予想すらできない。


「時代が変わろうとしているのか…」


 いつもの空気に戻った部屋でワシは、柄にもなく予言めいた独り言を呟いたのであった。




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 さっきのおっちゃんの話しが長すぎて、ついついジャグリングしちゃったけど、ちょっと失礼だったかな?

 ま、怒ってなかったようだし、なんか服とか買ってくれるって言ってたから、問題なかったと思われます。


 決して強請った訳ではないよ!


 コートの下は裸だし、履いてた靴まで持っていかれたから、人に会いに行くのにこの格好じゃ流石にヤバいと思ってね…。

 岩ばかりの大地にいる時と文化レベルがほとんど変わってねーな、俺…。



「あ、1階で買い取りをお願いしたいから、ちょっと、待っていてもらえますか?」


 これから行動を共にすると思われるクノイチさんに声をかける。

 さっき部屋で別れたパーティーにもらったアイテムを換金しよう。

 何かよく分からんが、いっぱいくれたからね、

 少女をずっとおんぶしていたからかな?

 その背中のリュックにはいっていた子は、いま教会で治療中だろう。

 後遺症とかもなく治ると良いんだけど…。


「あ、今日もギロリさんは空いている」


 見目麗しい女の子じゃないからか、ギロリさんのところだけは誰も並んでいない。

 ラッキー。


「こんばんは、ギロリさん」


「こんばんは、投神様」


 眼光がやたら鋭いのだが、彼はこの状態がデフォなのだろう。

 背後に控えるクノイチさんをチラリと見たが、それ以上は特に何も反応しなかった。


「買い取りをお願いします」


 貧弱なゴブリンから得た長剣と小剣、盾。

 それに加え大きめの猫の爪や魔石をゴロゴロとカウンターに乗せる。


「なかなかのζλ∴∃ですな」


「そうか?

 査定を頼みます」


 ほとんどの荷物をフウに連れて行ってもらった宿に置いてきてしまった。

 それが何処の街の宿か分からないんだよね…。

 生活用品を買わないといけないからお金が必要なのだ。


 ギロリさんはカウンターの上の20個程の魔石を箱に入れる。

 宝箱みたいな綺麗な造りで、さり気ないが精緻な飾りが彫られている。

 全部入れ終わるとフタを閉めた。


 チーン


 安っぽくて懐かしい音が鳴った…。

 これはアレだ。

 電子レンジの温め完了のチンだ。

 あの箱は魔石の査定をする為の装置か…?


 魔石以外のアイテムはギロリさんが鑑定をかけて査定をしている。

 鑑定使えるのね…、当たり前か。


「…∝∶Ω⊄∶で∑∶∃⊇Ω⊂Ξ√Ω∅Ωです

 よろしいでしょうか?」


 計算を終えたのかギロリさんが金額を提示している…、ようだが全然分からん。


「はい、それで大丈夫です」


 ギロリさんは公平な方とみた。

 彼を信じる。

 俺はスマートにギルドカードを出して投気を込める。


 チャリーン


 効果音っ!

 いちいち古臭いな!


「チャージしました」


 ギロリさんがカードを返却する。

 これで買い取り終了だな。


「ありがとう

 また頼みます」





 クノイチさんに連れられて宿の前に着いた。

 さっきのチャージ額がどれだけか分からないので訊いてみる。


「クノイチさん、俺はこのお金でこの宿に泊まることができるか?」


 カードを掲げながら質問した。

 言葉はシンプルを心がける。

 細かいニュアンスや前後関係や心情を含めない。

 誤解を生むからね。


「投神様、∌Ω∈∂のアルター行きはギルドからのδ∃∝∂でございます

 本日より⊂∵∝∂するアルター行きに∇Ωする⊃δ∃はギルドが⊄∟Ω致しますので、ご安心下さい」


「え〜と…、もしかしてギルドが払ってくれるってこと?」


「はい、その通りでございます」


 太っ腹!

 要するにアルターに行くのは仕事で、必要経費はギルド負担ってことなのね。

 これは出張か。

 了解しました。


「ありがとう、宜しく頼みます」


 クノイチさんは宿に入って受付を済ませてくれた。


「それでは投神様、朝にお迎えに上がりますので」


「朝ね、了解!」


 クノイチさんはそう言って宿から出ていった。

 明日もクノイチさんが案内してくれるようだ。

 助かるわー!

 1人でアルターなる場所へ行けって言われても途方に暮れるだけだからな。

 よし、明日に備えてゆっくり休もう。




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 …とある街にある屋敷。

 颯爽と歩く黒衣の剣士が一人。

 魔剣士ダーグである。

 ダンジョンに潜って必要なアイテムを得て帰還してきたのだ。





 このなかなか豪華な屋敷は魔族のバオリ家が所有している。

 普人族の貴族の邸宅を買い取ったものらしい。

 大陸南部のオ・ジィオー王国は比較的魔族に寛容な街が多く、魔族の隠れ家的な住居も多く存在している。

 その中でも最も華美な住居と言えるだろう。


 バオリ家は先日終絶に至る道のゲートダンジョン内で一人の子を残して壊滅してしまったリーン家とは関係が深い。

 他国から流れてきたリーン家を一時的に安全と思われるダンジョン内のセーフティゾーンで匿っていたのだ。

 そこに異常繁殖した上位ゴブリンである血頭巾の群れに襲撃されてしまった。

 救援要請を受けて我ら星を求める者どももすぐに向かったが時はすでに遅く、救い出せたのはセリシアただ一人であった。

 バオリ家からも救援に向かったらしいが、返り討ちにあったということだ…。

 もう少し早く我らに連絡をしてくれれば、助かった生命があったかもしれないと思うとやるせない。

 せめて唯一救出できたセリシアは他の者の分まで実りある人生を歩んで欲しいのだが…。


 一つの部屋の扉の前に止まり、ノックをした。



「セリシア、居るか?」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 100話おめでとうございます。 遂にセリシアちゃんがきますね。 投神さんとの再会はまだ先かな? セリシアちゃんと投神さんの再会 楽しみにしてます。 [気になる点] やはり会話できないのは…
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