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(1)いじめ

~未桜視点~



 今日も、一日は始まる。


 自分の下駄箱に行けば、そこにあるのは落書きされた私の内履き。

 バカ。

 アホ。

 あばずれ。

 貧乏人。

 死ね。

 そんな文字で汚れた内履きの中には、ムカデやクモといった生理的に受け付けないであろう虫たちの死骸が詰め込まれていた。

 そんな死骸たちを近くのごみ箱に捨てて、内履きを履いて自分のクラスに向かう。


 最初は「うわぁ」って引いたけど、毎日あればいい加減慣れてくる。

 毎日毎日、本当に暇人のようだ。


 階段を上り二階にある私のクラスに入れば、すぐに見えるのは内履きと同じような悪口が書かれて汚れてしまった私の机が見える。

 今日も私の机の上には、亡くなった人に備えるような花瓶とその花瓶に花が活けられている。


 花に罪はないとはいえ、やパリ気分が悪い。

 でも、それに対していちいち反応を示さない。

 ああいった手合いには、基本反応を示さずに無視が一番だ。


 自分の席について持ってきた教科書を入れていれば、べちゃっという感触と共に私の顔に何かが投げられた。

 見れば、それはツンッとした生臭い匂いを放つバナナの皮だった。


 わざわざ、持ってきたのだろうか?


 そう思いながら背後にあるゴミ箱にゴミを入れ投げられた方を見れば、そこにはいつも通り私に対して嫌がらせをするグループの生徒たちがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。



「やーん、なんか臭いと思ったらゴミ箱がこんなに近くにあったわね~」

「ちょっと~、ゴミ箱ならゴミ箱らしくちゃんとしてよ~」



 ニヤニヤと笑いながらもこちらをバカにしたような目で見てくるグループのリーダー格の女子__『園田花音』。


 園田さんは、問題児グループのリーダー格だ。

 彼女にいじめられて学校を転校したりした人や自殺に追い込まれた人だっている。

 でも祖父がこの学園の理事長で、両親が大企業の社長をしているせいかそのことが学園の外に漏れることはない。 


 要は、この学校は彼女のためだけに作られた箱庭だ。


 私に対して嫌がらせしている理由は、恐らく私の成績と家の事だろう。

 いくら祖父が理事長でテストの内容を事前に入手しているとはいえ、私の方が点数が上だったり賞をとったりしているのが気に入らないのだろう。

 複数の男と遊んだりとか。

 髪を金髪に染めたりとか。

 パパ活をしてお金を稼いだりとか。

 そう言ったことに時間を使わず、真剣に勉強すればいいのにと思う。

 まあ、言っても聞かないだろうけど。



「ちっ、ほんと面白くないわね」

「ほんとさ~、なんであいつ毎日学校に来てるわけ?」

「どうせ、あれでしょ?教師共に媚び売ってんのよ。母子家庭で大変だから、点数くださーいって」

「媚び売るだけじゃなくて、股も開いてんじゃない??」



 今日も、彼女たちはありもしない私の悪口をぺちゃくちゃ話す。


 母子家庭なのは事実だけど、私は別に教師に媚を売っていない。

 嫌がらせをされても毎日学校に来るのは、すべていい大学に入るために内申点や出席日数という物で私の経歴に傷をつけたくないから。

 いい大学に入って、いい企業に入る。

 それが、私の目標。

 そうすれば、母さんも楽にできる。

 昼は仕事、夜はバイトといつも忙しい母さん。

 そんな母さんのためにも、あんな奴らに付き合っている暇なんてないんだ。



「ほんと、あんなのがクラスにいるだけで空気悪くなるってわかんないのかな?」

「あ、そうだ~。あいつが、いつ死ぬか賭けない?前のあのメガネブスの時みたいに」

「え~、まじ?」

「やろうよ!!あのメガネブスの時は、あいつがあっさり自殺しちゃったせいで私負けちゃったし!!」

「いいね~、やろやろ~」



 笑いながら、そんな最低な言葉を廃棄で吐いている園田さん達。


 メガネブス__恐らく、私の前に彼女たちに嫌がらせをされて自殺してしまった前田さんのことだろう。

 まさか彼女が自殺しても、反省しないどころか「あっさり自殺したせいで賭けに負けた」なんて平気で言えるとはね。

 …………このクラスの雰囲気を悪くしているのは、私ではなく彼女たちだと思うの私だけなのだろうか?


 そう思いながらも、淡々と授業を受ける。

 貴重品は学校にもっていかないようにしているけど、教科書や体操服は諦めている。

 本当の勉強用の教科書とノートは家に置いてあるから、どれだけ落書きをされようと破かれようと私には痛くもかゆくもない。



 そんな嫌がらせ三昧の学校生活が終われば、私はとっとと家に帰る。

 格安のアパートだけど、母さんがいるこの家は私にとっては天国だった。



「未桜ちゃん」

「母さん?」

「本当に、学校で何もないの?」



 そう言って、仕事の合間で疲れているはずなのに私のことを心配する母さん。

 母さんは、私が受けている嫌がらせのことを知らない。

 だって、ただでさえ仕事で疲れている母さんに余計に心労をかけたくないから。


 私の家には、父親がいない。

 母子家庭という奴だ。

 別に気にしたことはない。

 寂しいと思ったことはあったけど、母さんがいてくれたから。

 母さんは忙しいけど、休みの日にはいつも遊んでくれたり色々なことを教えてくれた。

 不満なんてなかった。


 いつしか、疲れている母さんをゆっくりさせる事が私の目標になった。

 子供ながらに調べてわかったことは、いい大学に入っていい企業に就職すればお金がたくさん手に入ること。

 お金がたくさん手に入れば、母さんは働かなくていいということ。


 これを見て、私は考えた。

 父親がいないことをおかしいと言ってくる学校の友達も。

 母さんに対して変な噂をする近所の人たちも。

 父親がいないからって、勝手に可哀そうな子供扱いしてくる大人たちも。

 嫌がらせされても助けてくれない教師たちも。


 すべて、私には必要ないと思った。

 だから広く浅くの関係を続けながら、嫌がらせのことも無視して勉強するんだ。



「…………母さん」

「未桜ちゃん?」

「私は大丈夫だよ、母さん。学校の普通に楽しいし、成績だって上位なんだ。テストだって、毎回百点だし!!」

「…………そう。未桜ちゃんが楽しいのなら、いいのよ」

「うん。だから私、しっかり大学に行っていつか母さんが毎日疲れて働かなくてもいいくらいお金を稼ぐからね!!」

「…………私は、未桜ちゃんはいるだけで幸せなんだから無理しないでね」

「うん」



 私に必要なのは、母さんだけ。

 私の家族は、母さんだけ。

 母さんが言う、「かっこよくて優しい人」である父親のことは少し気になるけど。

 でも、今いない人のことを気にしても意味がない。

 どっちにしても母さんさえいればいいし、母さんのためにも私は勉強しなきゃ。


 そう思っていた私が、母さんと無理矢理引き離されたのはその一週間後だった。



次回予告:主人公、異世界に召喚されて殺されかける

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