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責任とってヒロイン全うしてやるわ

作者: 雪兎

 

 年に一度の星まつり。夜空には数多の流れ星が降り注ぎ、人々が浮かれ、騒ぐ中、エリーゼはひとり神殿へと入っていった。神殿の最奥部にはこの世界を作ったとされる二柱の神の石像がある。エリーゼは彼らの御膳に膝を付き頭を垂れた。そして、勢いよく土下座して叫んだ。


「というわけなので力を貸してください!!」






 ことの発端は数日前。この日エリーゼは、幼なじみで大親友のエミリアに話があると呼び出されたのだ。うっきうきで待ち合わせの時間より1時間ほど早くついてしまったが、エリーゼを見つけて顔を輝かせて駆け寄るエミリアは世界一可愛かったので問題ない。開口一番エミリアは、エリーゼの手をとって言った。


「エリーゼ!来てくれてありがとう。どうしてもあなたに一番最初に伝えたかったの」


 それから大輪の花が咲いたような満面の笑みを浮かべて口を開く。


「あのね、私好きな人ができたの」


 そう言って頬を染めるエミリアは大変可愛らしく、幸せオーラ全開だったので、エリーゼもつられて嬉しくなってしまった。それから相手の話や、出逢いなんかを聞いては、それを語るエミリアの愛らしさに悶え、心いくまで話して、満足して帰宅したエリーゼは、自室に戻ったところではたと気がついた。さっと血の気が引いて、いても立ってもいられず部屋を飛び出した。隣の兄の部屋へと駆け込むと、兄の背中に飛び付いた。


「お兄ちゃんどうしよう!!このままだと世界が滅んじゃうよぉ」


 突然こんなことを言われたら冗談か何かだと思うのが普通の人々であろうが、彼は違った。作業する手を止めて、真剣な面持ちでエリーゼに向き直る。


「何があったんだ」

「あのね、前に『星が降る夜に』ってゲームの話したの覚えてる?」

「ああ。お前が大好きだったっていう乙女ゲームだろ」

「そう!それでね、私の好きなキャラ、隠し攻略キャラの“ルイス・テネーブル”っていうんだけど」

「どっかで聞いたことあるような名前だな」

「そりゃああるよ。だってお兄ちゃんの名前だもん」

「……俺か!?いやでも名字なんて名乗ってるのはお偉い貴族さまくらいだろ。俺はただの農家の倅だぞ」

「シナリオの中でお貴族さまの養子になるのよ」

「それは本当に俺のことか?」

「そうなの!それでね、3軒おとなりのエミリアちゃんっているじゃない」

「お前と仲良しの娘だろ。知ってるよ」

「エミリアちゃんがヒロインなの。このゲームの」



 エリーゼが前世の記憶を思い出したのは、3歳の星まつりの日だった。兄と出かけた初めての星まつりに興奮して、あれも見たいこれも見たいと好き勝手に行動しているうちに兄とはぐれてしまったのだ。たった3歳の子供が迷子になったらその場で待つ、なんて鉄則を知っているはずもなく、兄を探して歩き回るうちに見つけたのが、道端で泣きじゃくる幼い少女だった。のちの大親友ことエミリアである。星まつりのために精一杯おめかししてきたのだろう可愛らしく着飾った少女にふらふらと歩み寄ったエリーゼは、少女の顔を見てぱちりと瞬いた。どこかで見たことがあるような?そう思った時。エリーゼの脳内に見知らぬ世界の記憶が流れ込んだ。日本と呼ばれる国で生まれ育った少女の記憶を一通り眺め、それが自分のいわゆる前世の記憶だと理解したのだ。


 その前世の記憶のなかには、一つのゲームの記憶もあった。そのゲームこそが『星の降る夜に』。エミリアがヒロインであり、兄のルイスが隠し攻略キャラの乙女ゲームだった。さて、このゲームのあらすじだが、ある年の星まつりの日、ヒロインはこの世界を作ったとされる二柱の神の声を聴く。その声に導かれるまま、四つの精霊と契約を交わし、星の乙女として覚醒する。そして彼女は、この世界の危機を示唆する神の言葉の通り、攻略対象の4人と世界を救う旅に出かけることになるのだ。その旅の途中で彼らと仲を深め、最後は愛の力で世界の平和を取り戻す、とまあよくありがちなストーリーだ。


「だからね、エミリアちゃんはヒロイン─星の乙女として旅に出て、彼らと恋をしなくちゃいけないのよ」

「愛の力とやらが重要なら、その好きな人とやらも連れていけばいいんじゃないか?」

「それじゃダメなの。旅に出る4人はそれぞれ精霊の加護を受けていて、愛の力はその精霊の力を強くする?みたいな」

「もともと精霊に気に入られているやつじゃないとダメってことだな」

「そう!でね、好きな人の名前もエミリアちゃんに教えて貰ったけど、ゲームで見たことのない名前だったから、愛の力を発動するためのもとになる力がないかも知れないの」

「成る程なぁ……四つの精霊と契約を交わすことが星の乙女になる条件なら、他に精霊と契約出来るやつを探せばいいんじゃないか?」

「確かに精霊と契約を交わすのは覚醒の条件だけど、もともと創世の神々がエミリアちゃんを気に入っていたから……星の、乙女に…………」

「あぁ、そうなるのか。それなら……」

「流石お兄ちゃん!!その手があったわ!!!」


 ルイスの言葉を遮るようにエリーゼは手を叩いて立ち上がった。


 この時、エリーゼの頭にそれはもう素晴らしい考えが舞い降りて来ていた。創世の神々も、精霊たちも、エミリアを気に入っているからこそ星の乙女に選んだのだ。そしてエリーゼだってエミリアを思う気持ちなら誰にも負けないと自負している。創世の神々だって四つの精霊だって、エミリアを愛する気持ちは同じ。ならばこの世界で誰よりエミリアを愛するエリーゼが誠心誠意頼み込めばなんとかなるかもしれない。まぁ、エリーゼは精霊なんて見たことないし、神々の声を聞いたこともないけれど。一年で最も神々や精霊たちの力が強くなると言われている星まつりの日なら、どうにかなるかもしれない。いや、どうにかしなければいけないのだ。


 だってエリーゼはもう十年以上前から知っていたのだ。エミリアが星の乙女であることも、その宿命も。けれどもエミリアは全部知った上で微塵も頓着しなかった。だって終わった世界の記憶なんぞより、たった今目の前にいる兄や、エミリアたちの方がいつだって重要だったので。そうやってまるっと無視して来たつけを払う時が来ただけだ。だから。


「責任とってヒロイン全うしてやるわ」


 そのためなら土下座だってなんだってしてやる。私とエミリアちゃんの幸福な未來のために。

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