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#7 捕獲作戦

「ふ~ん、ふふふ~ん♪」


 キッチンで軽やかな鼻歌が聞こえてくる。自作のエプロンを身に着けた彼女は、米澤の幼馴染である霧島きりしま天璃あまりだ。


「コースケくん、今日の夕食何だと思う?」

「カレー」

「せいか~い。流石だね」

「匂いでわかるだろ」


 スパイシーな匂いがリビングまで届いていた。匂いに釣られてお腹の虫も鳴っている。


「そっちに持っていくね」

「ああ」


 霧島は両親が亡くなってから、ほぼ毎日のように米澤の家に来ていた。半同棲と言われてもおかしくはない。


「今日会長に会った?」

「部室に来たよ。変な依頼を引っ提げてな」

「あの依頼ね。下手すりゃ警察沙汰の件をヘンテコ部に頼まなくてもいいのに……」

「そのヘンテコ部は、生徒会の手に負えない仕事をしてるんだから間違ってはないさ」

「でも……」

「新入部員ちゃんも入ったし、何の問題もないよ。任せておけって」

「……うん、わかった。コースケのことだかから解決はできるんでしょ」

「勿論だとも」


 米澤はカレーを頬張りながら、笑顔で答えた。


「ところで、新入部員ちゃんって、女の子?」

「そうだけど?」

「ふーん、そうなんだ」

「なんだよ」

「なんでもないよ」


 霧島も席に座るとカレーを食べ始めた。


「新入部員ちゃんって、どんな子なの?」

「身体に邪神の書物を取り込んだ高校1年生」


 霧島は訝しい顔をして、米澤を見る。


「ヘンテコ部にお似合いな子ね」

「なかなか面白い奴だぜ」

「…………その子、気に入ったの?」

「ああ」


 その返答に霧島は誰がどう見ても不機嫌な表情を浮かべた。


「何かやったか、俺?」

「自分の胸に手を当てて、よく考えてください」

「難しい問題だなー。分からないなー」

「ごちそうさまでした」


 いつの間にかカレーを食べ終わっていた霧島は、キッチンに食器を持っていく。彼女の食事の速さは異常だ。霧島の前に置かれた食べ物は、瞬く間に胃袋へと収容される。初めて見る人は度肝を抜いてしまうほどだ。


 そして、食べる量も異常だ。本人は、米澤にバレていないと思っているが、とうの昔に知っていた。


 何故なら、現在、キッチンで食器を洗っているように見せかけてカレーの残りをバクバクとこっそり食べているはずだ。これでは大食い選手権で優勝も夢ではない。


「まったく」


 女心は難しい。


 なるべく音をたてないようにキッチンへ行くと、予想通りカレーの残りを物凄い勢いで食べていた。


「霧島」


 名前を呼ぶと、咄嗟にカレーを隠してこちらを振り返った。


「どうしたの?」


 動揺を全く感じさせない声のトーン。何事も無かったような振る舞いだ。だからこそ、こちらが動揺させたくなる。


「――好きだよ」

「………………バカじゃないの?」


 やはり、彼女は動揺という言葉を知らないらしい。平然とした顔で冷たい視線を返されただけで、米澤の心に深い傷を残した。


     *


 午前9時。部室に部のメンバーが全員集合したところで頴川が立ち上がって説明を始めた。


「さて、本日は超検部全員の力を持って【ミスターP】の捕獲を完遂する。各位全力を尽くすように!」


 【ミスターP】という名前が決定してから結局何もせず、一週間が経過した土曜日。珍しく休日に部活があるなと思ったらこれだ。


「部長、なんで私まで呼んだんですか?米澤だけで十分だと思うですけど」


 明らかに鷲宮は不機嫌だった。それもそのはず、収集が掛かったのは昨日の夜だ。どこかへ出かける予定でもあったのだろう。


「まぁまぁ、そう怒っても仕方がないだろう?ボクとのデートだったらいつでも行けるんだからさ!」

「うっ、うっさい!違うんですよ部長!私はこんな変人とデートだなんて!」

「そうなのかい?君から誘ってくれたからてっきりデートだと……」

「あああああっ!あんたが喋ると話がややこしくなるから黙ってなさい!」


 そう言われた市ノ瀬は肩をすぼめてから、口にチャックのジェスチャーで

「もう喋りません」とアピールする。


「デートに行きたかったけど、市ノ瀬が部活に出ようっていうから鷲宮は無理にデートに誘えなかったってことろだな」


 米澤はニヤニヤと笑って火に油をドバドバ全力投下する。その代償は机の下で償わっれた。ドンと机が揺れたと思ったら、米澤は足を抱えて飛び跳ねていた。


「痛ってええええ!!!力加減考えろよ怪力女!」

「当然の結果よ」


 鷲宮はフン、と鼻を鳴らして米澤を睨めつける。


 ここで頴川が席を立った。さすがは部長、止めに入るのだろう。部長として務めているだけあるなと感心する。


「さて、えんもたけなわだけれども――」

「どこに宴の要素があったんですかぁ!?」


 部長も乗っかるタイプだとは思っていなかった。感心していた気持ちを返して欲しいぐらいだ。


「まぁ、前日に呼び出してしまったのは申し訳ないとは思っているさ。だけど相手が強大で凶悪な敵となれば話は別だ」


 確かに、スカートを捲ってくる凶悪な敵だけれども。


「一度も顔を見られてない頭脳犯」


 ラッキースケベが頭脳犯ときた。


「早く捕まえないと新たなる被害者を出しかねない」


 依頼が来てから特に何もせず1カ月も経っていることには突っ込まないらしい。しかも、すでに部活内にも柳衛という新たな被害者が出ている。


「――なんてことはどうでも良いんだ」


 突っ込みどころが満載だった。新入部員が攻撃を受けたのに、特に思うところはないらしい。


「報告されている被害の日付と日時をまとめた結果、土曜日の昼前後に一番被害が多いことが判ったんだ」

「……というのが判明したのが昨日の夜だったってことですね、昴流パイセン」


 未だに足を抱えている米澤がそういうと、頴川は首を縦に振って肯定した。


 それにしても、米澤と頴川の距離感から察するに2人の付き合いは長そうだ。米澤が「昴流パイセン」と呼んでいるのもそのせいだろう。


「――そういう訳だ。出発するとしよう!」


 頴川の掛け声に、今まで一言もしゃべっていない十文字だけが拳を天に突きあげた。

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