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生徒会長スッポンポン

すっぽんぽーん。

と、例の事件の話です。

 『生徒会室スッポンポン事件』


 それは、米澤が生徒会室を訪れるという滅多に起きない現象により発生した事件である。


     *


 米澤が生徒会室の扉を開けると、全身に衣類を纏わず、生まれたままの姿で生徒会長、出雲がこちらを見つめていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「失礼しました」


 米澤は何も見なかったことにして、扉をそっと閉じた。

 

「きゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 扉越しに出雲の叫び声が聞こえてきた。このまま逃走しようかと思っていたのだが、ややこしい事になるのは目に見えていたので扉の前で後ろを向いて待機することにした。


 しばらくすると、扉が開いて頬を真っ赤に染めた出雲が目を鋭くさせて米澤を睨めつけていた。今度はジャージを着ている。


「米澤、入りなさい」

「……はい」


 大人しく生徒会室に入ると、背後からカチャリと音が聞こえた。


「なんで鍵を閉めたんですか?」

「そりゃあ鍵を閉めるわよ。話がこれ以上ややこしくならないためにね。それと、今から話すことは他言無用で頼むわよ」

「なるほど。それじゃあさっきのは昴流パイセンに言ってもいいんですか?」

「ダメに決まってるでしょ!」


 出雲は腕をパタパタと動かして怒っているので、米澤は「どうどう」となだめて生徒会長の席に座らせた。生徒会長の席は超検部と違って、贅沢なことに机と椅子が1人分として置いてある。他の役員の席は、長机に椅子が並べられている超検部と同じ仕様だった。


「それで、どうしてアラレモナイ姿になってたんですか?」

「随分と直球な質問ね。レディに向かって遠慮はないの?」

「いやだって、オレですよ?」

「それもそうね」


 妙に納得してコクコクと頷く。


「まぁいいわ。理由を教えてあげる。そりゃあ生徒会室でスッポンポンになるのに理由が無かったらただの変態よ」

「はいはい、それで?」

「これを見なさい」


 出雲は机の下にあった段ボール箱をごそごそと漁ると、黒い布と2本の角が付いたカチューシャを取り出した。


「なんですかそれ?」

「ば、バニーガール衣装よ!」


 出雲は黒い布をぱっ、と広げて見せる。レオタードタイプの、これぞバニーガール衣装と言ったものだった。そして、角だと思っていたのはつけ耳のようだ。


「ふーーーん。……で、なんでそんなものが生徒会室の生徒会長の机の下にあるんすか。結局、出雲先輩が変態なんじゃないすか」

「違うの!これは卒業生を送る会で使う衣装なの!」


 そういえば、来週にそんな会をやるなんて話を頴川がしているのを聞いていた。彼女も強制的に労働力として働いているとかなんとか。――そんなこと言って大半の仕事は十文字にさせているに違いない。


「どうなったら卒業生を送る会でバニーガールの衣装を着るんです?」

「知らないわよ!今回の件は霧島ちゃんにお願いしてたの。そして気づいたら私がバニーガールの衣装を着ることになってたってわけ。どうにかしなさい!」

「そんなこと言われても――」

「霧島ちゃんと付き合ってるんでしょ!」


 生徒会とは無関係だと言いたくなったが、そこを突っ込まれると弱ってしまう。


「別に天璃とは付き合ってないですよ。仲の良い幼馴染です」

「ずっっっるい男ね」


 嫌味たっぷりに言われる。


「そっりゃどうも。それで、バニーガールの衣装で何をするんですか?」

「演劇よ。不思議の国のアリスをやるの」

「…………あの、まさかとは思うんですけど、冒頭とかに出てくる懐中時計を持ったあのうさぎ役ですか?」


 出雲は少し頬を紅く染めて無言で頷いた。


「実は、演劇の脚本が少し変わっていて、うさぎは見間違いで、バニーガールのお姉さんだったみたいな話なのよ」

「ちょっと誰ですか、そんな脚本考えたの!」 


 とんでもない発想を持った脚本家だ。えっちなビデオのパロディじゃあるまいし。そもそも、バニーガール衣装のうさぎ役なんぞ学園側からの待ったが掛かるのではなかろうか。


「霧島ちゃんに聞いたんだけど、脚本家は秘密って言われちゃったの。少なくとも、この学園の生徒ではあると言っていたけどね。――とにかく、私には理由があってあんな恰好をしていたことはご理解頂けたかしら!?」


  立ち上がった出雲はバニーガール衣装の耳を米澤に向ける。


「いや、理解できないです」

「理解する努力をしなさい!」


 バニーガール衣装の耳を米澤の顔に押し当てる。思っていたよりもフサフサしていてくすぐったい。


 米澤は手を上げて反撃をしないとアピールする。


「わかりましたよ。まぁ、オレが珍しく生徒会室に入ってしまったせいでもありますし」

「そういえば、どうして米澤が生徒会室に来たのよ」

「あっ、そうでした。実は昴流パイセンから伝言を預かってるんすよ」

「伝言?そんなのラインでメッセージを飛ばしてくれればいいのに」

「俺もそう言ったら『アイツの連絡先は知らない』との返事を頂きましたが?」

「……私のラインでは友達の欄にいるのに不思議ね。どうやら一方通行の関係だったらしいわ」


 可哀そうな人だ。


「それで、どんな話なの?」

「ネクロノミコンについて調査がしたいとのことです」


 邪神を呼び出すアイテムの中で最上級の代物、それがネクロノミコンだ。ネクロノミコンで召喚する邪神と契約出来ればこの世の支配も容易いと言われている。


「実在しているのかも分からないアイテムを調査するのに意味があるのかしら?」

「その言葉、全世界のオカルトファンを敵に回してますよ」

「私は視えない人だから関係ないの」


 出雲は視えない側の人だった。だから超常現象検証部に強くは出れないという事情があった。ただし、頴川に対してはそれだけの理由で片付けられない何かがあるようだ。詳しく米澤も知らないが、中等部の頃に関係があるらしい。


「許可出来ないって伝えてね。それと先日のレポートはさっさと出して頂戴」

「伝えておきます」

「最後のはあなたに言ってるの。どうせ止めてるのは米澤でしょ」


 お見通しだった。


「その通りです。善処します。それじゃあオレは部室に戻りますよ」

「ええ、よろしくね。――そうだ!ここで起きたことは誰にも喋るんじゃないわよ、いいわね!」

「はい。口を堅く結んでおきます」


 米澤はそう言って一礼すると、生徒会室を出て行った。


 騒がしい男がいなくなったところで、出雲はバニーガール衣装を自分の身体に当てて、鏡を覗いてみる。何度見ても似合っていない。そもそもこの衣装、背の丈に合っていないのだ。


「昴流に弱みを知られたらどうなることなることやら……」


 1人になった生徒会室での独り言が、後に体現されることになることをまだ彼女は知らない。


  


次回から本編に戻るで

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