#5 生徒会長登場!
市ノ瀬に罰ゲームが執行されてすぐの出来事だ。
バタンと乱暴に扉が開く音がして、自然とそちらに視線が向く。
超検部の部室に入って来たのは、なんと、小学生ぐらいの小柄な女の子だった。だが、頴川学園の制服を着ているので彼女は立派な高校生だ。襟元にはⅢのマークがついている。
「失礼する、生徒会長だ!今日も君たちに依頼を届け……て……。きゃああああああああああ!!!」
小さな生徒会長は、その体型に似合わない雄叫びを学園中に響かせた。
「あら生徒会長。叫び声なんて上げてどうかしたのかしら?」
「あっ、あんた!どうして――なんなのよ、その椅子は!」
生徒会長は頴川をびしっ、と指差す。
「何か問題でも?彼は椅子になっているだけなのよ?」
平然と答えた頴川の尻の下には、四つん這いになった市ノ瀬が苦悶の表情で生徒会長を見つめていた。
「それが問題なのよ!そんなプレイをしているから――」
「プレイ?何を言っているのかしら。貴女の頭の中では、ただ椅子に座っているだけがそういうプレイになってしまう変態なのね」
「あっ、ひゅあ、ちゅがう、違います!そんなことを考えてたわけじゃないもん!」
会長は赤面させて全力で否定する。
「ふふっ、明日には変態生徒会長なんて通り名が付いたら大変ね」
「そんな名前が広まるわけないでしょう!頴川学園で今まで私がやってきた数々の栄光を見ていれば、そんな名前を広める生徒は1人もいるはずが無いわ!」
「数々の栄光、ね。それは『《《始業式代表挨拶パンチラ事件》》』のこと?それとも『《《球技大会ノーブラ事件》》』のこと?あるいは『《《生徒会室すっぽんぽん事件》》』のことかしら?」
「やああぁぁめぇぇてぇぇぇっ!!!」
会長はその場に崩れ落ちた。事件の名称を聞く限り、全くその内容を知りえない柳衛でも彼女にとって随分な屈辱だと察することはできる。
「部長、会長がそろそろ泣き始めちゃいますよ?」
鷲宮もさすがに会長が哀れと感じたのか、頴川を止めに入った。
「ふん。今日はこれぐらいにしておくわ」
そう言って市ノ瀬から降りると、自分の椅子に腰を下ろした。
市ノ瀬は安堵の表情を浮かべて、バタリと大の字で地面へ倒れ込んだ。
「さて、柳衛さん。そこの小さい存在について説明をしてあげるわ。彼女は頴川学園生徒会会長、出雲逢桜よ。小さいけどこれでも3年生。一応先輩として慕ってあげて」
「一応じゃなくて、きちんと先輩なんだけど!」
出雲はむくりと立ち上がって反論した。
「はいはい。分かったわよ。……それで、生徒会長さん。超検部に依頼をしに来たのよね?」
「あ、そうだった。すっかり忘れてた。――って、あんたのせいだからね!」
頴川をぎろりと睨むと、制服のポケットから四つ折りにされた1枚の紙をテーブルに広げた。その紙を覗き込むと、何やら堅苦しい文章がびっしりと書き込まれていた。
「今回の依頼内容はそれを確認しておいてね」
「ちょっと待ってください。依頼って何ですか?」
「超検部には生徒会から直々の依頼を受けてもらっているのよ」
「なるほど?」
「……昴流!もしや、ろくな説明もせずに超検部へ入部させたのね!」
その通りだ。
「私は知らないわ。生徒会から貰った契約書を彼女へ預けただけよ」
清々しいほどに凛とした表情で頴川はしらを切った。
「彼女は米澤が勝手に連れて来たのよ」
「またあいつなのね!昴流、あいつは首輪を繋いでおいてって言ったわよね!――それで、当人はどこにいるのよ!」
「やあ、生徒会長!」
「いやあっ!」
いつの間にか出雲の後ろにいた米澤が、ひょっこり飛び出してきた。
「いつからそこにいたのよ!」
「会長が部室に入ってきてからずっとですよ?」
「まったく。あなたは次に何かやらしたら退学だから。そのところ、理解してる?」
米澤は生徒会に恨みを持たれるようなことをしたのだろう。一体どんなことをしたんだろうか。
「はいはい、分かってますよ」
「よろしい。それで……、何の話だっけ……。ああ、依頼のことね。詳しくは資料を見といて。何か問題があれば追加の資料を渡すわ」
「期限はいつまですか?」
鷲宮が問う。
「1日でも早い対処をお願いするわ。とんでもない奴よ。私も被害にあったんだから。――それじゃあ、そろそろ私は失礼するわ」
出雲は扉まで戻ってき、ドアノブに手を掛けたところで一旦立ち止まった。
「あ、そうだ。スカートを穿くのなら、スパッツは穿いておくべきよね?」
出雲は意味不明な言葉を残して超検部の部室を去って行った。
ドドドドドド!