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#4 罰ゲーム

「つまりだ。キミ自身が邪神を呼びよせるアイテムと化してしまったんだ」

「……それ、どうにかなりませんか?」

「だからこそ、柳衛ちゃんはこの部に入らなきゃいけないわけだよ」


 米澤が水を飲み干して言った。


「この部に入れば、何かあった際にもすぐに柳衛ちゃんを守ってあげられるんだ。今なら入会費が無料だよ」

「怪しい宗教の勧誘ですか!」

「入会費云々はさておき、すぐにキミを守ることに関しては超常現象検証部としての総意だ。――この部に入ってくれないか?」


 こんなの卑怯だ、と柳衛は頭を悩ませた。先日襲って来た怪物がこれからも襲ってくるのだ。あんな怪物を退ける力なんて当然持ち合わせていない。けれど、オカルト研究部モドキな部活に入ったところで高校生活を謳歌出来るのだろうか。


 ――柳衛には夢があった。


 田舎の芋女子だった中学生時代。このままではいけないと一念発起。偏差値の高い都会の高校(柳衛学園には劣るけれど)に進学し見知らぬ土地で高校デビューを果たす為、あらゆるティーン向け雑誌を読み漁り、SNSを駆使してイマドキの女子へと変貌を遂げた。


 その先に求めるのは、校内カーストの上位を牛耳り、イケメンたちに持て囃されるという女子ならば誰もが憧れるであろう夢。


 しかし、頴川学園への転校によりその夢は大きく潰れかけていた。そこへ追い打ちをかける部への半強制的な入部。そうなれば、今度こそ夢を諦めざるを得ないのだ。


「仮に、入部を断ったらどうなるんですか?」

「キミが邪神に襲われた際には出来る限り助けはする。だが、常時キミを守ることは出来なくなる」

「入部したら常に守ってくれるってことですか?」

「そうだ。まぁ、細かいことを言えば守るという言葉は適さないな。魔除けと言った方が正しい」

「なるほど」


 結局、柳衛が進むべき道は一つしかないようだ。どうあがいてもハーレム学園モノへの夢は頓挫されるようだ。


「わかりました。入部しますよ」

「うむ。そうとなれば契約書にサインしてくれ」


 頴川が十文字に視線を送ると、彼女は1枚の紙を柳衛に手渡した。


 契約書には小さな文字で難しい言葉が羅列していた。目で流して同意するタイプの契約書だ。だが、所詮は子供が書いた契約書にサインをするだけだ。特に何も考えずに自分の名前をサインした。


「よし。契約完了だ。改めて超常現象検証部、略して超検部へようこそ」

「そんな略称だったんですね」


 十文字は契約書を回収すると、本棚の隣にあった金庫の中へ契約書をしまった。


「さて、そろそろ鳥コンビがやってくる頃合いかな」

「鳥コンビって市ノ瀬先輩と鷲宮先輩のことですよね?どうして鳥コンビなんて名前つけてるんですか?」


 その問いには米澤が答えた。


「市ノ瀬の名前は市ノ瀬(とんび)。鷲宮は鷲宮(まつり)。さて、2人の共通点は何でしょうか」

「……なるほど。トンビとワシで鳥コンビってわけですか」


 鳥コンビの起源を知ったところで部室の扉が開いた。


「どもー」

「お疲れ様です」


 噂の2人の登場だった。


「あ、柳衛ちゃんじゃん。この感じだと部活に入ることになったのね」


 鷲宮は鞄を机に置いて米澤の対面の席に座った。その隣に市ノ瀬も座る。


「もう契約書にサインはしたかい?」

「はい、書きました」

「んーーー、それはもう救いようがないね」


 市ノ瀬が鷲宮に視線を送ると、彼女も苦笑いを浮かべて頷いた。


「ちょっと、どういうことですか!?」

「契約書っていうのは良く読んでからサインしようって話よ」

「契約内容教えてくださいよ!」

「それは無理だな。契約内容は人それぞれだ。もう金庫に保管したから読むことは出来ないぞ」


 部長はティーカップに口を付けて一息つく。


「頴川学園から卒業する時まで、今後一切、契約書を読むことは出来ない契約が書かれているはずだ」

「頴川先輩、内容知ってるんなら教えてください」

「契約書は生徒会から発行されているものだ。文句は生徒会まで。仮に行ったとしてもどうにもならないがね」

「そんなぁー……」


 柳衛は落胆の声を上げて机に突っ伏した。


「さて、契約の話はここで終わりだ。先日の幽霊騒ぎの件、まだ報告書を提出していない者がいる。なぁそうだろう鳥コンビ?」

「げっ」

「ひっ」


 名指しされた2人は短い悲鳴をあげる。


「早く出してもらいたいのだが、報告書はもう出来ているのか?」

「はい、私は出来ているですけど市ノ瀬が――」

「ちょっ、まつりん!?」

「つまり全責任は市ノ瀬にあるということか?」

「その通りです」

「まつりんっ!!!」

「市ノ瀬」

「っ!な、なんでしょう……?」


 頴川が脚を組んでティーカップを受け皿に置く。鋭い眼光が市ノ瀬を捉える。彼女の瞳は獲物を捕らえる獣のようだった。


 そして、冷たい一言を言い渡す。


「罰ゲームだ」



ばつぐぇみんぐ

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