#2 教室
「どうも、柳衛尊です。よろしく願いします」
柳衛が頭を下げると、クラス全体から拍手喝采を浴びた。
あの夜――まさに怪奇現象とでも呼ぶべき出来事から2週間後。柳衛は頴川学園へ転校していた。
あの後、頴川学園から転校手続きの書類が入った封筒が届いた。新手の詐欺かと無視して次の日登校したら、学校で転校の手続きが勝手に進められていたのだ。
1人暮らしをしていた柳衛は実家の両親に連絡したところ、この書類が親元にも届いていたらしく、本人の承諾なし勝手に転校手続きをしたとのことだった。
頴川学園は偏差値の高い高校で、編入試験も行う必要がないとのことだったので、勝手に手続きをしたと言われた。
もう滅茶苦茶だった。こうなればなるようになるしかないと、柳衛は5月という微妙な時期に頴川学園に転校した。
「席は一番前ね」
「はい、分かりました」
先生に促され教卓の前の席に座る。しかし、転校生が教卓の前とはいかがなものか。
休み時間、ある程度予想はしていたけれど女子集団による質問攻めの被害を受けていた。昼休みになればだいぶ落ち着いて、トイレに行けるぐらいにはなった。
席を立って教室を出て廊下をしばらく歩いていると、階段の近くで呼び止められた。
誰かと思えば見覚えのある顔だった。
「よっ」
「あ、あなたは……」
怪奇現象に見舞われた夜、助けてくれたうちの1人である米澤だった。――いや、しかし、彼は助けてくれたと言っていいのだろうか。柳衛の身体に本が吸い込まれた原因なのだ。
ふと、襟元を見ると、Ⅱという刻印のついたバッジがついていた。当時はそんなこと気にも留めていなかったが、頴川学園は襟元のバッジで学年が分かる様になっていた。つまり、米澤は2年生で柳衛の先輩にあたる。
「どうだ、この学校は?」
「思っていたより普通ですね。全国でも偏差値が高い学校なんで、ガリ勉ばっかりだと思ってました」
「まあ、真面目に授業受けてる人もいりゃあ、スマホ触ってるヤツもいるさ。偏差値だけでどんな学校かは判断できないってわけよ。……あ、そうそう。用事があったから昼休みにわざわざ来たんだよ。放課後って暇だよな?」
「……まぁ暇ですけど」
「それじゃあ超常現象検証部の部室に来てくれ。昴流パイセンが先日の件で話があるそうだ」
「わかりました」
半ば強制ではあるものの、先日の件とやらの話を聞きたいので頷いて同意する。
「先日の件っていうのは、私に本が吸収されたことですよね」
「詳しく聞いてないけど、まぁーそうだろうね」
「あそこに現れた怪物についてもどういうことか知りたいんですけど、教えてくれるんですか?」
あの日、頴川に「今日の出来事は口外しないこと」を約束されて何の説明もないまま家に帰されてしまったのだ。
「その辺も含めて放課後に話してくれると思うぞ」
「それならいいですけど」
米澤はもういいか?と手を広げたので、柳衛は最後に一つと質問する。
「ところで超常現象なんたら部って、オカルト研究部と同じですよね?」
「オカ研はオカ研で存在しいてる。あんなインチキな部活と間違えないでくれ」
「はぁ。ごめんなさい」
「それじゃあ放課後迎えに来るから教室で」
それだけ言うと、米澤は去り際に手を上げて階段を上っていた。