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#10 そっくりさん

「それで、逃げられたと?」


 頴川は呆れた表情で、ベンチにもたれかかる市ノ瀬を、見下すように仁王立ちしていた。


「すみません、体力、の限界……でしたぁ…………」


 市ノ瀬は今にも死にそうな顔で声を絞る。


 鷲宮から【ミスターP】発見の報告を受け、最初に集まった公園に全員集合していた。


「ところで、鷲宮先輩はどこに行ったんですか?」


 辺りを見渡しても、日傘を差した女子高校生が見当たらない。


「あ、あれぇ、おかしい、さっきまでいたのに……」

「アイツなら帰ったぞ」


 米澤は、来る途中に買ったアイスクリームを食べながら平然と答えた。


「すんげえ機嫌悪かったぞ」


 頴川の鋭い視線が市ノ瀬に突き刺さる。かなり怒っているようだ。


「ほぅ、また痴話喧嘩か。部活中の痴話喧嘩はやめろと釘は何度も打っておいたはずだ。もしや、本物の釘を打たれたくなったのか?私はそれでも構わんぞ」


 ゴゴゴゴゴゴゴ!という音が聞こえてきそうなほどに、殺気立った部長。怯える市ノ瀬先輩、アイスクリームを美味しそうに頬張る米澤先輩。


 混沌としたこの状況に、柳衛は頭がクラクラしてきた。これが超常現象検証部。改めてとんでもない部に入ってしまったことを認識した。


 とにかく、この状況をどうにかしなければならない。こんな所で躓いていたら、【ミスターP】など捕まるはずがない。


「米澤先輩、どうにかしてくださいよ!」

「オレかよ。まぁ、どうにかは出来るけどさ」

「えっ!?出来るんですか!」

「そんな反応すんなら、どうにかしろとかいうなよぉ」


 アイスクリームの最後の一口を頬張ると、ポケットからおもむろにスマートフォンを取り出した


「何するつもりなんですか?」

「【ミスターP】を捕まえるに決まってんだろ」


     *


「はっ、はっ、はっ……」


 いつまで付いてくるつもりだろうか。何度も後ろを振り返るが、その女との距離は一向に離れない。


「いつまで逃げるつもり?」


 女は息切れもせず、平然と質問を投げかけた。


 一時的ではあるものの、確実に彼女からは逃げきった。しかし、いつの間にかどうして、再びの逃走劇が始まってしまったのだ。


 僕は何もしていない。どうして追いかけられる必要があるのだろう。


「うっ、うるせー、おばさん、つ、ついてくんな……」

「おばさん?」


 女の手が伸び、ついに捕獲される。


「ぐへぇ!」

「おばさんじゃないでしょ、ガキ。おねえさんって言いないさい。分かったわね?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 鬼の形相が迫ってくるので、必死に何度も頷き謝罪して助けを求めた。


「ごめんなさい!許してください!助けてください!何でもします!」

「……ふーん、何でもするのね」

「な、何でもってのは僕の出来る範囲のことだからな!」

「勿論、わかってるわよ。――という訳で、これからは私の命令に従ってもらうわ」

「はぁ?そんなことするわけねえだろ!」

「それじゃあ、今までやって来たことを警察に言うけどいいのかしら?」

「けっ、けいさつ?」


 四文字の単語に背筋がスーっと冷えるのを感じる。


「そうよ。警察が来ればあなたは逮捕ね」

「たいほ……」

「死ぬまで牢屋で生活することになるかもね」

「ろうやで……いっしょう……」

「さぁ、選びなさい。私の命令に従っていればいいだけの生活か、牢屋で孤独に生活するか」

「ぐぬぬぬぬぬ…………」

「オレは断然、牢屋だな」


 答えを出したのは、見知らぬ男だった。


     *


「よっ、米澤!?どうしてここが分かったのよ!」


 鷲宮は突然現れた米澤を指差す。


「工作部特製の発信装置が、鷲宮の背中についてんだよ」

「はぁ!?」


 鷲宮が背中に手を回すと、小さな金属が背中にくっついていた。手に取ると一円玉ほどの丸い金属だった。これが発信装置らしい。


「レディになんてもの付けてるのよ!」

「まぁ、いいじゃねえか。どうせ追いかけっこになったら、確実に鷲宮が捕まえるってのが分かってたんだ。でも人前じゃ、その運動神経を見せたくないだよな。――ってのを予測して付けたんだよ」


 鷲宮は持ち前の運動神を他人に見せるのを嫌っていた。それを見越しての発信機だったのだ。


「ぐぬぬ……、部長に言いつけるわよ!」

「あのなぁ、身体能力が高いのなんて他人に見られても良くないか?ましてや、超検部の連中だ。それなりに気心知れてるだろ」

「……それでも…………嫌なものは嫌なのよ」

「……わかったよ。とりあえず、みんなにはオレが【ミスターP】を捕まえたって連絡しておくからな」

「ええ」

「――いい加減、手を放しやがれ!」


 【ミスターP】と名付けられた小学生が突然騒ぎ始めた。


「こういうの、なんていうのか知ってるぜ。誘拐だろ!誘拐!立派な犯罪だ!」

「たったく、ガキンチョめ。それじゃあ、一つだけ約束してくれれば見逃してあげてもいいわよ」

「約束?なんだよ、それ」

「最近、ここら辺で女の子のスカートを捲ってるわよね?それを止めてくれたら解放してあげるわ」

「最近って、僕は今日が初めてだよ!」

「今日の犯行は認めたわね!だったら全部認めなさい!」

「認めるもんか!」

「犯人の特徴だって聞いてるのよ。小さな小学生で、帽子を被ってね、そう!まさにあんな子!」


 そう言って、鷲宮は横断歩道の反対側にいる小学生の男の子を指さした。


「あぁ、確かにあんな感じだな。この子そっくりじゃないか」

「そうね」

「……」

「……」

「君、双子の兄弟はいるのかい?」

「一人っ子だけど……」


 男の子はこちらの視線に気づいたのか、じーっと3人を凝視する。そして、自分の容姿そっくりな存在がいることに気づいたらしく、目を丸くさせた。


「鷲宮」

「なによ」

「この子見といてくれ。オレはあの子に要件がある」


 米澤は横断歩道に向けて走り出した。同時に男の子も走り出した。


「ちょっと!待ちなさいよ!」


 鷲宮の制止など意味はなく、米澤は目の届かないところまで行ってしまった。



つぎで終わりでっせ

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