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#9 愛のベクトルは


 公園で部員たちと別れた後、頴川と十文字は【ミスターP】を一通り探して、路地裏にある喫茶店「Alcyone(アルシオーネ)」で休憩していた。店内に自分たち以外の客がいないことを確認すると、スマホを取り出し、連絡先からとある宛先に電話を掛けた。


「もしもし、私だ」

「……『私だ』って言って電話を受ける人は私の知る限り一人しかいないんです。ヘンテコ部の部長さんですね?」

「ヘンテコ部ではない。超常現象検証部だ」

「そういえば、そんな名前の部活でしたね」

「…………」

「…………」


 奇妙な間が生まれる。お互い信用はしていない。米澤という男を介して成り立っている関係だけでは、世間話の一つも出来やしない。


 云わば、二人は敵同士。――お互い何が原因で争っているのかも分からないが。


「どういったご用件何ですか?」


 沈黙を先に破ったのは、霧島の方だった。


「生徒会から超検部に回って来た例の依頼、もっと情報が欲しいのだけれど」

「あー、アレですか。そちらに提出した分がすべてですよ」

「なるほど。あなたの嫌がらせってわけだ。そんなんじゃ、米澤に嫌われるぞ?」

「彼はこんなことで私のことを嫌いになりません。むしろ、好感を持ってくれるんですよ。あなたも、それぐらいご存じですよね?」

「勿論。過ごした時間が長いからな」

「所詮は中等部からの関係でしょう?何を仰っているんですか?私の方が何年も――」

「…………」

「…………」


 再びの沈黙。今のは、彼女の自爆だ。可愛らしいところもあるらしい。ふと口元が緩むと、対面に座る十文字が何かあったのかと首を傾げた。


「この件は置いておきましょう。――あなたの言う通り、資料に書いていない犯人の特徴ぐらいは知っていますよ」

「フン、最初から素直に言えばいいものを」

「コースケくんの為です」

「なーにが米澤の為だ。生徒会室に来させる為にわざわざ情報を不足させたのだろうが無駄なことだったようだぞ。――ふっ、恋する乙女は大変だな」

「う、うるさいですよ!もう切りますから!」


 その言葉通り、電話は一方的に切られてしまった。


 電話越しの彼女は米澤の為ならば何でもする女だ。今回は彼が喜ぶだろうと思い、あえて情報量を少なく伝えたのだろう。疑問を紐解けば生徒会に繋がるように何かを仕掛けていたはずだ。海外ドラマのような細やかな伏線を紐解くような謎解きが米澤の大好物だと知っての犯行だ。


 一方の生徒会長は、彼女のことを信用しているから中身をろくに確認せずに依頼書を超検部に届けたという訳だ。


「生徒会を裏で支配する、困った女だな…………」


 小さくコーヒーを啜ると、スマホにメールが届いた。送信者は勿論、霧島だ。


 内容を見れば、期待通りのことが記載されていた。


「素直じゃないな」


 内容は米澤だけに送信する。恐らく、これで米澤は事の真相に辿り着くことになるだろう。


 頴川は休日の午後を満喫するように、コーヒーを口に運んだ。


     *


「今回の依頼、何か裏があるとは思わない?」


 鷲宮は日傘をくるくると回しながら、商店街を歩いていた。市ノ瀬は優雅に歩く彼女の後を追いながら辺りを見渡す。


 相変わらず、それらしき人物はいない。


「そんなこと言ってないで、君も少しは探す素振りぐらいしたらどうだ?」

「嫌よ。どうせ見つけなくても、最後は米澤に収束するんだから放っておいても問題ないでしょ」

「そうは言ってもなぁ」

「それに、今回は人為的な流れがあるから、あんまり関わりたくないのよ」

「人為的……ね。それが裏ってやつ?」

「そうよ。まず、依頼が来た時点でおかしかった。珍しく生徒会長が直々にこっちへ来たのよ」


 超検部への依頼は基本的に生徒会に所属する誰から直接送られてくる。一番多いのは書記の宝竜ほうりゅうだ。だが、会長が自らというのは稀なことだ。


「それに、ここに来た時だってそう。部長はわざと米澤と柳衛ちゃんのペアをつくって、部長は十文字ちゃんと2人で何処にいるのかしら」

「どうせサボってるんだろう。いつものことじゃないか」

「部長を追う気はないのね」

「どうせ米澤が――」

「……そうやって面倒なことはいつも避けようとするわね」


 鷲宮は振り返って、市ノ瀬の顔を覗き込む。


 彼女の美しい美貌に、思わず息が止まる。怒っていても凛々しい顔つき。思わず引き込まれそうな瞳に心臓が強く脈打つ。ドキドキと木霊すその音が、鷲宮に聞こえていないのか不安になる。思わず顔を背けると彼女は不服そうにして前を向き、再び歩き始めてしまった。


「……わかんないなら、いいわよ」


 不機嫌そうな声には、呆れが半分。もうひとつは照れ隠しが含まれていた。


「どういう意味か教えておくれよ!」

「そういうところがダメなの!」

「…………」


 市ノ瀬は何か言いたげな顔をしたが、すぐに諦めたように静かになった。


「ねぇ市ノ瀬」

「なに?」

「私が先に答えを出すって言ったら?」

「えっ」


 何を言っているのかという顔で市ノ瀬は鷲宮を見つめる。彼女は呆れたようにため息を漏らした。


「市ノ瀬がどうして他の女子と比べて、私への扱いが違うのか。何となくわかって――」

「鷲宮!後ろ!」


 鷲宮の後ろを市ノ瀬が指差す。


「何よ!あたしの話を最後まで聞く気ないの!?」

「そんなことより――」

「そんなことよりぃ!?」

「――あいつが【ミスターP】だ!」


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