駆け寄ってきたのは
昼休み、購買で菓子パンと紙パックのいちご牛乳を購入して、未だに長い行列ができている購買を眺めながらベンチに腰掛けていた。
「安芸せぇ~んぱいっ!ずいぶんと酷い目にあってますね。大丈夫ですか?」
「ああ......そう見えるか?」
僕のもとに駆け寄ってきた後輩の女子を見上げながら聞き返す。
「見えませんよ。睨まないでください、安芸先輩。良ければ私が慰めてあげましょうか?先輩が良ければですが......」
振られたにしてはなんだか清々しさすら感じる後輩。
隣に腰掛け、髪を耳にかける仕草をして潤んだ瞳をこちらに向けてきた。
「良いよ、別に。本気じゃなかったんだ、やっぱりあの告白」
「本気でしたよ。本気の本気......じゃなければ、他の男子からの告白を断り続けませんよ。そうじゃないですか、先輩」
「そう......だね。なら、尚更近付いてくるっておかしい感じが......」
「未練があるからに決まってるじゃないですか。罵られたい、とかでしたか?」
小悪魔的な表情を浮かべ、からかおうと口角を少しあげて訊ねてきた。
「それはそれで......ちょっと傷付く」
「しませんよ、先輩に。私が恋人になったらあんなことやこんなことして尽くしますよ。それでも......ですか?」
「魅力的で魅惑的だけど......無理だよ」
「やっぱり胸の大きさですか?先輩は」
身体をのりだし、そう訊ねる彼女。
「こんなとこで何言ってんの!決してそういうつもりは......総合的に、っていうのも反感を買いそうだけど」
「総合的......私だったら、今のような酷い目にあいませんよ。それに料理だって練習して──」
「その気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう......その想いはもっと葉月さんに釣り合うような素敵な相手に向けなよ。じゃあ、これで」
立ち上がり、足を踏み出そうとすると手首を掴まれ、震えまじりな声で「待ってよ、安芸先輩」と呼び止められる。
「友達としてなら......」
そう返し、彼女の手を振りほどき歩きだした僕。