勇者(盗賊(泥棒))
セレンの15歳の誕生日。
「実はあなたは勇者なのよ」
母の放った一言にセレンは驚愕する。
「そんな唐突な……。」
セレンは勇者に憧れている。幼い頃に勇者が主人公の物語を読んでからずっと。ただ、唐突すぎて旅に出る覚悟が出来ない。
「そうよね。唐突すぎるわよね。でもあなたは勇者なの。辛いと思うけど、覚悟を決めなさい。」
「分かったよ。それで、どこに行けば良いの?」
まさか目的地も無く旅をする訳ではないだろう。
「王都に向かうのよ。王様が勇者にしか反応しない首飾りを持っているわ。」
首飾り。確か、物語でもそうだった。
「出発は二日後よ。それまでに準備を進めておくわ。」
そしてセレンは二日間、期待と不安を感じながら過ごした。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「気をつけてね。少しだけど、鞄にお金をいれておいたわ。」
セレンは手を振りながら進む。
セレンの冒険が今、始まる!
「ここらへんで休憩するか。」
セレンは順調に進んでいた。モンスターにも出会っていない。ただ、三時間程歩いて疲れてしまった。
「あれは!」
セレンの目線の先には、ゴブリンがいた。ゴブリンはモンスターの中でも最下級に位置する。今のセレンでも十分倒せる相手だ。
「音をたてないように近づいて……。」
セレンの武器はナイフだ。近づかなければ当たらない。
「はあっ!」
セレンはゴブリンの首めがけてナイフを振る。
「ぐおおおおっ!」
ゴブリンは跡形もなく崩れ去る。
「やったあ!」
セレンの勝利。モンスターには弱点がある。首にある小さい石だ。それを砕いてしまえば、どんなに強いモンスターでも倒せる。
「あの洞窟で休憩するか。」
洞窟は比較的モンスターが少ない。
「そういえば、お金っていくらはいっているんだ?」
鞄を開ける。
「100リン?少なっ!」
この世界の通貨の単位は「リン」である。それにしても少ない。リンゴすら買えない。
「こんなんで何が買えるんだ。」
何も買えない。
「まずはお金を稼ぐ方法を考えなきゃ。」
そんなことを考えているうちに、セレンは一つの村に到着した。
「もう夜か。」
セレンは一文無しとも大差ない。宿には泊まれない。
「となると……。」
セレンはさっきの洞窟に戻って来ていた。この洞窟は村から30分程歩けば辿り着ける。
「よっと。」
火を起こす。幸い、リンゴの木を見つけたので、食料には困らなかった。
「これからどうしよう。」
お金を稼ぐ方法。冒険者は一般的に、モンスターからドロップするドロップアイテムを売って、生計を立てている。ただ、アイテムをドロップする確率は2%だ。今のセレンでは厳しい。
「とりあえず、村にギルドがあったから、職業を決めるか。」
「勇者」とは肩書きであり、職業では無いのだ。勇者に向いている職業と言えば、戦士しかないと思う。
「さて、寝るか。」
翌日、セレンは村のギルドに来ていた。
「あなたは、敏捷と器用さが非常に高いです。攻撃力は並程度。耐久力、魔力は並以下です。」
ギルドの人がそんなことを言ってくる。
「じゃあ、俺がなれる職業は?」
セレンは尋ねる。
「盗賊一択ですね。」
「は?」
セレンの盗賊(泥棒)ライフが今、始まる!!