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シチュエーションボイス

依頼用 朗読 クリスマス

作者: 月夜黒

 今日は12月24日。


 いわゆる恋人たちを中心として世界がにぎわうクリスマス前夜。

 幼馴染の家と集まって一緒に合同クリスマス会を開くのが私たちの家の恒例で毎年すごく楽しみにしていたのだけれど……

 今年は布団に入っても眠れず心に雨が降っているかのように沈んだような気分でいた。


 その原因はおとといの夕方、いつものように学校帰りに幼馴染の陽の家に遊びに行った時のことだった。

 ただなんとなしにお互い何をするでもなく、いつも通り漫画を読んだり他愛のない話をしていた時のことだった。

 突然、いつもと違う声色のように名前を呼ばれ、驚きもしながら振り向くと、突然キスをされたのだ。

 キスをされ、ふざけるでもなく

「好きだ、付き合ったほしい」

 と言われた。

 その時はキスをされた、とかそういうこと以上に陽にそういう気持ちを抱かれていたことの驚いて、陽がいつもの陽じゃないように見えて、どうしたらいいかわかんなくなって、そのまま逃げるように何も言わず帰ってきてしまった。


 幸い気を使ってくれたのか避けてしまっていることを分かっているからかはわからないけどその後は話さずに済んでいるけど……母親に言うわけにもいかないしかといって毎年楽しみに参加していたこの行事を休む言い訳も思いつかない。

 かといってこのまま参加してようと顔を合わせていつも通りにふるまえる気もしない。

 目をつぶるだけでもあの光景が浮かんで…きっと明日も目が合おうものならまた後先考えず逃げ出してしまうに違いない。

 けど参加しないわけにはいかないし…

 でも今陽とは絶対に合いたくないし……


 結局その日はひたすらにそんな行き場のない思考がぐるぐると頭の中をめぐり続けてしまっていた。







「んん…」

 カーテンの隙間からまぶしく照らす日差しに目が覚める。

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 結局何の対策もなく、今日が来てしまった。

 時計を確認するとすでに昼近くなっていた。

「寝すぎちゃったな…」

 あと数時間もして夕方になったら陽と顔を合わせなければならないと思うとどうしようもなく気が重い。

 それに昨日眠るのが遅くなってしまったのが相まって体もだるい。

 このまま今日一日なにもせずごろごろしていられたら、いいのにな…

「あーあ、ほんとどうしよ…」




 陽とは、生まれた時から一緒にいた。

 同じ病院で生まれ、小、中学校と当たり前のように同じ学校に入学し、なんと高校への進学先までもれなく一緒だった。

 高校まで同じだったことには驚いたけど一緒にいることに違和感なんて感じたこともなく、むしろこれからも全く変わらず昔と同じように当たり前にいると思っていた。


 私にとっては誰よりも友達で、でも友達以上に一緒にいて安心できる友達、だったのだ。

 小さいころからいろんな姿を見て相談だってされて、小さい頃はよくお風呂だって一緒に入っていたほどだ。

 ここまで家族のようにしていて、今更何か変わるなんてありえない、幼馴染はずっとずっと幼馴染なのだ。


 むしろ、そうでないと困る。

 そりゃ私だって昔とは全然違う顔つきとか体格にどきっとしたことがないわけじゃないけど…でもしょせんあいつはあいつなのに。


 なのに…


 でも……あいつのあんなに本気でまっすぐな表情…はじめてみた。

 ふざけてるいつもとは別人のように見えて、そしたら少女漫画みたいに心臓が早く動いて…

 それも確かではあるけど…

 でもだからって、私人と付き合ったことなんてないし、わかんないよ…ましてや陽となんて…


 そんなことをだらだらと考え込んでいると、部屋のドアがノックされ、母親にご飯に呼ばれる。

 いつの間にかもうそんな時間らしい。


 ぐったりとする体を起こし、リビングの席に着く。

 もぐもぐとご飯を口に入れるが、味なんて今はわからない。

「お母さん、今年は何時くらいから?」

 と聞くと、6時くらいからかなと返答が来る。

 そっか……と微妙な返事をすると、

「今年も楽しみでしょ、何が食べたい?」

 ときかれるが、なんでもいいよ…とあいまいな返事を返す。


 人の気も知らずに…と思わず思ってしまったが、実際去年もその前も楽しみにしていたし、そう思われていても仕方がない。


 でもいろいろなことにもやもやしてしまって…落ち浮かなくて…

 珍しく自分から宿題や部屋の片づけに手を付けたものの、やっぱりうまく続かなかった。


 けれどここにいたらどんどん気分が沈んで周りのことに八つ当たりしてしまいそうで、外に出ることにした。


 外は冷たい風が吹きつけて、想像以上に寒かった。

「手袋くらいしてくればよかったかなぁ」

 そんなことを思いながら外を当てもなく歩き続ける。




 外に出れば気分も晴れるかとも思ったけど、失敗だった。


 陽と何度も何度も通った通学路、よく陽と遊んだ公園、陽とよく寄ったお菓子屋さん

 歩けば歩くほど。気がまぎれるどころか今は思い出したくないいろんなことを思い出ししまう。


 でもあのころは本当にお互い何も考えず…楽しかったな…

 つい最近までそんな日常とが続いていたはずなのに、いつの間にかそんな無邪気な日常には戻れないような気がしていた。

 私は友達みたいに陽といられたらそれでよかったのに…

 これからどうなっていっちゃうんだろ…


「あ…この場所…こんなところまで来ちゃってたんだ」

 ふらふらとそんなことを考えながら歩いていると、いつのまにか町のはずれの高台まできてしまっていた。


 懐かしいな……よくこの場所で陽の相談聞いたり二人で景色を眺めてたりしたっけ……

 そこからはいろいろなことを考えた。


 この街の景色だって、小さいころからずっとそのままだって思ってたけど、よく見たらところどころ変わってる…

 私もこんな風に少しずつ変わっていっちゃうのかな…

 陽はもう、いつのまにか変わっちゃったのかな…


 あの頃はこんなことになるなんてみじんも考えてなかったな…

 でも私がほかのことで思い悩んでたりするとよく陽も探しに来て話聞いてくれたっけ…

 そういえば、二人で夜中までそのまま話し込んで、二人してこっぴどく怒られたこともあたっけ…


「懐かしいな…」

 ただぼーっと憂いているといつの間にか日が落ちて暗くなっていた。

 冬だから日が落ちるのが早いんだ、そろそろ帰らなけきゃ……

 そう思った時だった。

「クリスマスのこんな時間に一人?ちょっと俺たちと遊んでかない?」

 振り向くと少し年上の金髪でギラギラしたファッションのいかにもな格好の二人組がいた。

 どうしよう、いつもはこういう時陽がいてくれたから油断していた。

 男たちは私の意思に反してずんと近づいてきて、粗雑に手を引っ張る。

 ぐいぐいと抵抗できない力で引っ張られ、強引に連れていかれそうになる。

 叫ばなきゃってわかってるのに声が出ない

 どうしよう…!


「いやがってるだろ!手を離せよ!」

 その声を聞くな否や、男たちはそそくさと去っていった。

 誰よりも聞きなじみのある安心する声、見るとそこには陽がいた。

「ど、どうしてここにいるの?」

 聞くと、暗くなっても時間になっても帰ってこかないから心配して探しに来たらしい。

「陽、」

 告白の返事もしなくちゃだし、この前のことも正直頭に浮かぶ…けど今はもう少しだけ、何も考えずただ話していたかった。

「少し、はなそっか」



 それから、日がさらに落ちるのも構わず、ただ他ひたすらに話をした。

 他愛ない話と思い出を、ぽつりぽつりとはなした

 どうでもいいことを、ただ笑って話した

 私がいろんなことを話すと陽はいつも通りうんうん、と話を聞いてくれて私が笑うと陽もあははって笑う


 いつぶりだろう、こんなにも安心する気分になれたのは。


 私が少し口を閉ざすと、私の気持ちを汲み取ってくれた陽も同じように口を閉ざし、同じ景色を眺める。


 話していたら楽しいけど、話していなくたってつまらなくはない。

 ただ変わらず当たり前のようにある景色のように、振り向けばいつもそこにある。私の視界の隣の景色にいてくれる。

 ただ、それがうれしかった。


「ねえ、陽。陽の気持ちに気づいてあげられなくて、ごめんね。

 それと、助けてくれてありがとう。


 陽が気持ちを伝えてくれてから、私はずっと変わってしまうことが怖かった。変わってしまった現実を見るのが嫌だった。

 でもほんとは変わっていたのなんてほんの少しで、陽は陽だった。

 私はこれからも陽と一緒にいたい。

 もうちょっとだけ私の最高の幼馴染でいてほしい。

 だから今日は手をつないで、一緒に帰ろう?


 私が手を差し出すと、陽がやさしく握ってくれる。

 暖かくて、いつのまにか大きくなっててでも安心する手。


 手をつないで、他愛のない話をしながら二人で家に帰った。


 家に着くと、二人して親にこっぴどく怒られた。

 おこられたあとは二人で暖炉で冷えた体を温めて、いつもより少し豪華な夜ご飯とケーキを食べた。

 楽しくて暖かい、いつもの日常がそこにはあった。



 これからも、代わらないものを大切にしていきたい。

 それに私が気づけた、ちょっぴり成長できたクリスマスでした














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