現れた!?謎のじいさん?
結局あれから一睡も出来ず朝が来た。
俺達奴隷魔族の一日は早い。
まだ陽も昇らぬうちから俺達は鉱山へと繰り出す。
俺は手にした鍬で土壁を掘り進めていく。
「あああああああああ、チックショー! 一体どこまで掘ればええねん! それにこんなところに長時間居ったらいつ落石に遭うかわからへんやんけ。お前もそう思うやろ? クロノス」
「ああ、そうだな。だけど、これが俺達奴隷の仕事なんだからやるしかないさ。サボってるところを見つかったらあいつ等になにされるかわからないぞ、アルセ」
「くっそ! なんで俺は人間に生まれへんかってん。お陰で俺達は一生女を知らん童貞のまま死んでまうんやで!」
アルセの童貞と言う言葉に、なぜか一瞬胸の辺りがソワソワしたような感覚を覚える。
「リリィー、童貞……」
「ん? なんか言ったかクロノス」
「いや、なんでもない。作業が遅れたら不味い、とっとと掘り進めるぞ!」
俺達は休むことなく数時間穴を掘り続ける。
――カーンッ!!
どうやら硬い岩盤に当たっちまったようだ。
「ッチ、どうすんねんコレ? もうやってられへんわ」
不満を口にしたアルセが鍬を地面に投げつけると、脆くなっていたアルセの足元が音を立てて崩落し始めた。
「っえ!?」
「アルセッ!?」
「「――うわああああああああ!」」
俺は咄嗟にアルセの腕を掴み、宙に投げ出されたアルセの体を捕まえた。
だが、態勢が悪くアルセと共に俺の体も奈落の底へと落ちてしまう。
◆
「おい、目覚ましてくれやクロノス!」
「……うぅ」
気がつくと俺の身体を摩りながら、今にも泣き出しそうな顔をしたアルセが視界に映り込む。
「ここは?」
「わからん。俺達は運悪く地底に落ちてしまったみたいなんや」
「地底? ………!? おい、アルセっ!」
「なんやねん突然大きな声を出して、脅かすなや。ただでさえ暗くておっかないんやから」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 俺は一体どれくらい気を失って居たんだ?」
「そんなん俺にもわからんわ。俺だってついさっき気がついたんやから」
不味い! 俺は慌てて足枷に目をやり確認する。
普段はただの黒い鉄球が、今は五芒星を描いて微かに光を発している。
俺達奴隷に付けられているこの足枷には、俺達の生死や正確な位置が看守達に逐一伝わるようになっている。
これは俺達奴隷が脱走などを出来ないようにする為の代物だ。
更にある一定の距離まで看守から離れてしまうと、足枷は自動で爆発し、俺達の足を奪うようになっている。
既に鉄球に施された術式が発動しているって事は、俺達が脱走したと看守達が勘違いをしている可能性が高い。
脱走奴隷は問答無用で廃棄される。
つまり処刑だ!
「どうしてんクロノス?」
アルセはまだこの事に気づいていないようだ。
「落ち着いて聞くんだアルセ。俺達の鉄球が光を放っている。どういう事かわかるよな?」
アルセは恐る恐る自身の両足に付けられている鎖を目で追い、鉄球を確認する。
「!? 冗談やろ!? 俺達脱走したと思われとんのかよ! どうないするねんクロノス!!」
「だから落ち着けって言ってるだろ」
「んなこと言ったってよ……このままじゃ俺達確実に看守に殺されちまうんやで!」
確かにアルセの言う通りだ。
こうなった以上俺達が助かる道は一つしかない。
今すぐ足枷を外し逃走するしかないんだ。
だが、足枷は俺達の動脈を常に感知している。
つまりこれを外してしまうと、脈が途絶えた瞬間に足枷は爆発してしまう。
そうなれば俺達の身体は無事では済まない。
ここから遠く離れれば足枷は爆発する。
しかし、こうしてここに留まって居ても直に追っ手の看守がここにたどり着き、俺達は処分されてしまう。
打つ手無しじゃないか! 一体どうすればいいんだよ?
混乱しそうな頭に必死に冷静になれと言い聞かせ、何かいい方法はないかと考えを巡らせる。
すると慌てたアルセが突然声を上げた。
「おいクロノス! なんか向こうから灯りがやってくんで!」
アルセが指を指す方角に目を凝らすと、真っ暗な地底で足枷の僅かな明かりしかない俺達の元に、真っ直ぐと灯りが向かって来ている。
いくらなんでもやって来るのが早すぎるだろう!
考える時間すら与えてはもらえないのかよ!
絶対絶命のピンチの中、一瞬脳裏に【死】と言う一文字が過ぎった。
だがその直後、明かりの灯る方角から微かに年老いた声音が聞こえてきた。
「そこに居るのか? クロノス」
聞き覚えのないじいさんの声が、アルセしか知らないはずの俺の名を呼んでいる。
「誰だっ!?」
俺は一歩足を引きながら、警戒するようにこちらに向かって来る人影に身を構える。
すると薄暗い洞窟の奥から、光と共に長く伸びた白髪の見慣れぬダークエルフが姿を現した。
誰だこのじいさんは? ランタンを片手に地図を見ながらこちらに向かって来るじいさん。
その身なりを見る限り奴隷ではなさそうだ。
魔族なのに奴隷ではない者がこの世界にいるのか?
しかし、じいさんの足には確かに足枷も付いていない。
だがそれよりもなぜ、このじいさんはアルセしか知らないはずの俺の名を知っているんだ?
「おお! ようやく見つけたわ! 教えられていた時間と場所が違ったから少々焦ったぞ、クロノスよ」
「クロノス、このダークエルフのじいさんはお前の知り合いか?」
「こんな奴俺は知らないっ! お前一体何者だ!?」
「ああ、そうじゃった! お前さんと儂はこの時まだ出会っておらんかったな」
出会ってない? 一体このじいさんは何を言ってるんだ? 意味不明過ぎるだろう!
「儂の名はガルフ。今より400年以上前にお前さんと熱い友情を交わした、お前さんの仲間じゃよ!」




