ガルフ、ルネミア、ウンディーネ、大好き!
ウンディーネに貰ったホルスターにミョルニルを収め、アルセが修行している砂浜へとやって来た。
この砂浜に俺が来るのはここ精霊島に来た日以来だな。
この1年以上、神殿のアーカイブに篭もりっきりだったから、外を出歩く事すらほとんどなかったんだ。
足を取られそうになりながら歩いていると、この場所には似つかわしくない金属のぶつかり合う音が響いてくる。
降り注ぐ日差しを手で遮りながら、音の聞こえる方角に目を凝らす。
すると、波打ち際で二人の男が打ち合っている。
一人は真っ白な髪に老人とは思えない程の肉体美を持つ、上半身裸のガルフだ。その手には長剣が握られており、その達人とも言えるガルフの振るう刀身を手にした武器で受け止めているのがアルセだ。
オリーブ色のタートルネックのノースリーブに、パンツスタイル。
首には何故かゴーグルをぶら下げている。
そして、アルセが手にしているその武器は何故か赤いハリセンだ。
なんでもあの奇妙な武器は街の武具屋にガラクタ同然の値段で売られていたらしい。
それをガルフが購入し、アルセが修行をサボる度にハリセンで叩いていたらしいのだが、何分謎の素材で出来ているハリセンは相当痛かったらしく、怒ったアルセがガルフから奪い取り使い始めたらあの調子だ。
ガルフがハリセンを使用していた時はなんの変哲もないハリセンだったのだが、アルセが「なんでやねん!」と声を張り上げハリセンを振るった瞬間、燃え盛る紅の炎がハリセンから渦を巻いて放たれたと聞いた時は驚いた。
ルネミアに対抗する炎のハリセンを手に入れたアルセは甚くそのハリセンを気に入り、剣の修行ではなく、ハリセンの修行に変わったのだという。
当初ガルフは呆れていたが、剣の修行の時よりも少しはやる気になったアルセを見て、まぁいいかとハリセンの修行を開始したらしい。
一体あのハリセンがなんなのかは謎だが、本人が気に入っているなら別にいいかと俺も思う。
「おーい! もう修行はそのくらいでやめて、そろそろ出発の準備をするぞ!」
「「クロノス!?」」
俺に気づいた二人が武器を腰に収め、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「遂に400年前に旅立つ日が来たんやな? もう待ちくたびれたわ!」
「はは、そりゃー悪かったな。でもそのお陰でアルセも随分と逞しくなったじゃないか」
「当然やな! この1年鍛え上げたんやから。正直今の俺はクソ強いんやから。きっとクロノスでも俺には勝たれへんよ!」
「そいつは頼もしいな。頼りにしているよアルセ!」
アルセの横に立つガルフに顔を向けると、ガルフは寂しそうな表情で一歩近づき、悲しそうに微笑んだ。
「行ってしまうんじゃな、クロノス」
「ああ、行くよ」
「お前さんと別れるのはこれで二度目じゃな」
「それは違うよガルフ。俺は最愛の友の一人と、これから出会いに行くんだ!」
「最愛の友……」
「そうだよガルフ。俺、今ならわかるんだ」
「わかる? なにがじゃ?」
「どうして俺が俺を導くと言うこんなにも大切な使命をガルフ、あなたに託したのか」
「クロノス……」
「ガルフだからこそ、俺はこんなにも重要な役割を任せたんだと思うんだ。長い間ずっと俺を待ち続けるのは大変だっただろう。俺をここまで導いてくれて……本当にありがとう、ガルフ」
「っ……」
ガルフは突然俺に背中を向け、澄み渡る大空を見上げている。
「……歳じゃの」
囁くように呟かれたその優しい声に、俺はそっと微笑んだ。
「さぁ、神殿に行くとするかの」
「そうだな」
「湿っぽくすんなよなジジイ! どうせまた直ぐに会えるんやから」
「そうじゃな、何度でも儂はお前さん達と出会い、最愛の友となるのじゃろう」
この島にきて共に過ごした一年は、とても密なものだった。
ルミネアには甲斐甲斐しく食事や身の回りの世話をしてくてもらったし、ウンディーネには沢山の事を教わった。
二人は時折喧嘩をしていたけど、ルミネアが俺にこれだけ好意を寄せてくれていれば馬鹿な俺でもわかってしまう。それはウンディーネも同じなのだが、俺の心にはリリィがいるからか、二人には親愛の情を抱く様になったんだ。
アルセとガルフとは毎日三人で風呂に入ったが、アルセの身体が修行で逞しくなっていく事に気がついた。二人の関係もすっかり師匠と弟子になって、とくにガルフは子供を愛する親の眼差しだなあれは。
ガルフはアルセが修行で疲れて眠った後で時折俺と酒を飲み、若い頃の話を聞かせてくれた。
そこには俺との出会いもあったんだ。これから出会うガルフとの未来の話。
俺はこの、かけがえのない時間をきっと忘れないだろう。
俺達は神殿に戻り、旅に出る為の外套を羽織り、大切な友達に今一度別れを告げる。
「クロノスたん。私達また会えるわよね」
「もちろんだよ、ウンディーネ。きっと君をもう一度見つけ出すよ」
「……忘れないでクロノスたん、約束よ」
「ああ、もちろんだ」
「それと、向こうで私と出会っても驚かないでね。きっとすぐに私はクロノスたんを好きになるから」
ウンディーネの言葉の意味は良くわからないけど、こんなにも良くしてくれた、大好きな友との約束を俺は忘れたりはしないよ。
「私も一緒に行きたい! アルセだけ付いて行くなんてずるいだろ!」
「ルネミア……。ルネミアにはアルセと違い、大切な家族や友がこの時代に沢山居るんだよ。一度過去に行ってしまえば、もう二度とこちらには帰って来れないんだ。わかってくれ」
「………」
「約束するよ、ルネミア。俺はきっと竜族達が幸せに暮らせる世界を築き上げてみせる。君の幸福に包まれた未来を、誰よりも願っているから」
「……うん。私クロノスに会えて良かった。私はきっとあなたの事を生涯忘れない。私のとても大切な人だから。大好きだぞ、クロノス!」
「ありがとう、俺も好きだよ。ルネミア!」
もしもリリィーと出会っていなければ、もしも前世の記憶を取り戻していなければ、俺はルネミアに恋をしていたかもしれないな。
ルネミアに出会えて良かった。
「クロノス、そしてロクでもない我が弟子アルセ」
「おい、誰がロクでもない弟子やねん! 言っとくけどな、俺はジジイの弟子になった覚えなんてないんやからな」
素直になれず、憎まれ口を叩くアルセの瞳が初めて潤んでいるように見えた。
そんなアルセの言葉を聞いているガルフは微笑んでいる。
きっとガルフにもアルセの気持ちは伝わっているのだろう。
なんたってこの1年以上、二人はずっと一緒にいたんだもんな。
「クロノス、アルセを頼むぞ」
「任せろガルフ。俺は時の勇者クロノスだ! 全てを笑顔へと変える勇者なんだからな。誰も悲しませたりしないさ」
「なら安心じゃな」
「それとな、ガルフ」
「ん? なんじゃ?」
「必ず俺がお前の故郷を今度こそ、この命に代えても守ってやる!」
「!? ……クロノス」
アーカイブで歴史を学んだ俺は知っている。
ガルフの故郷が人の手によって滅ぼされた事を、多くのダークエルフが命を落とした事も。
だから俺は何があっても未来を変えてみせるんだ。
大切な友の笑顔をこの手で守るためにも。
ガルフは俯き、その足元にポタポタとシミをつくっている。
そっと顔を上げて俺を見つめるガルフの頬にはとめどなく熱いものが伝い、肩を震わせ鼻を啜りあげ、これまでに見せたこともないグシャグシャな顔で懸命に笑いかけてくれている。
そのガルフの顔を見るだけで、俺の中にも熱いなにかが込み上げてきたんだ。
その笑顔を必ず守ってやるからな、ガルフ。
「ありがとうクロノス。お前さんの優しさが儂はとても嬉しいよ。きっとお前さんが儂の故郷を救ってくれると信じておる」
ガルフの張り裂けそうな声に、俺は静かに頷いた。
「……任せろガルフ。その為に俺は過去に行くのだからな」
「よくわらへんけどな、俺もジジイから譲り受けたこのハリセンでジジイの大切な場所を守ったるからな。安心しろよ」
「二人共……本当に、本当にありがとう」
最後の別れの時、俺達は顔を見合わせて笑ったんだ。
ただ、意味もなく笑い合ったんだ。
「さて、それじゃあ行くかアルセ」
「おうよ! とっとと行ってジジイの故郷とやらを救いに行くでええ!」
俺はなぜだかわからないが、それの発動の方法を知っていた。
きっと俺が時の勇者だったからわかってしまったのだろう。
「【時渡り】発動!!」
俺が【時渡り】と言う能力を発動すると、俺達の目の前に時空の穴が出現する。
「気をつけて、クロノスたん」
「また必ず会えると信じている」
「勇者クロノスと、我が最愛の弟子アルセに幸あれじゃ」
「ほな、ちょっくら行ってくるわ!」
「行ってきます!」
最後の言葉をかけ、俺とアルセは闇のようなその穴に身を投じた。
そして遂に俺はあの日、あの時代に帰ってきた。
歴史改変の為、俺の過酷な旅はここから始まるのだ。
ご報告。
PCが破損してしまい、書き留めていた話数と、プッロットが消失いたしました。
出来るだけ早く再開致しますが、再開の目処が立たず、キリの良い一章で一旦、一部完結とさせていただきます。
詳しくは後ほど、活動報告に書かせていただきます。
大変申し訳ありません。m(_ _)m




