鮫
「赤色が抜けましたか…。」
攻撃の手を止め、一旦距離をとる百地。
「小南なら大丈夫でしょう。」
顔を巡らせ(パイロットの顔の動きと連動している。)副部長を確認する。
「あちらは楽しそうにやってますね。」
「鷲雄が抜けたか…。では、こちらが狙われる確率は下がるはず…。」
目の前の忍者機体をヘビーマシンガンで威嚇する。
「こちらも楽しみましょう。」
ペダルを踏み込み、一気に距離を詰め、シュリケンシューターを放つ。
「来ますか。」
回避行動からのヘビーマシンガンの反撃。連続で撃ち出される弾丸の軌跡が蛇の通り道の様に忍者機体を追い掛ける。
機体を右に、左にと振りハンドマシンガンをかわしつつ間合いを詰め、
「斬!」
右手の忍者構えからニンジャブレードを振り降ろす。
飛び散る火花はニンジャブレードとシールドが起こす刹那の共演。
「今!」
ヘビーマシンガンを構えトリガーに掛けた指に力を…。見えたのは反対の腕で振られる刃。
操縦桿を引きペダルを踏み込み回避。
ギリギリのところで空を斬る刃。
忘れていたかの様に、トリガーに掛けた指に力を込め、発射の合図をヘビーマシンガンに送る。
今まで居た空間に穿たれる穴。そこに居たら穿たれたのは機体だろう。
「ただの指揮機と思っていたが、やるだってばよ。」
「最軽量機を使うだけあって特性を活かせてますね。」
ヘビーマシンガンの銃口が百地の機体を追い回す。
「そこ!」
先読みの滑空砲。キャノン砲じゃなかった。
「移動先の読みは正確だってばよ。」
加速し滑空砲の爆発の効果範囲が到達する前にすり抜ける。その勢いのまま、向きを変え青色機体に迫り、
「やーっ!」
両手のシュリケンシューターは放つ。
「甘い!」
左腕を差し出しシールドでシュリケンを『スタスタスタ』と防ぎながら、半身になりヘビーマシンガンで反撃…。
「えっ!」
弾丸が発射される銃口には、既にシュリケンの先客がいた。
「本命は、こちらでしたか。」
ヘビーマシンガンを捨て、
「これを使う予定は無かったのですが…。」
背中から取り出したのは…。
「あっ、あれは!」
部長さんの声にタブレットをいじっていた八束先輩が引き寄せられる。
「何、何。」
モニターを見て、
「ありゃ、『ビッグバイス』じゃないか。」
「珍しい武器ですね。」
と、美星先輩。
『ビッグバイス』とは?
それは、大っきいペンチ。両手で一本ずつ柄を持って、『ギュッ』て挟むやつ。当然、白兵武器。支点の交差部分にシリンダーとか付いてるから挟む力は強化されているんだと思う。
「しかも、武器アクセサリー使ってやがる。」
八束先輩が感心し、
「解ってるな…。あれをチョイスした奴は。」
機体にアクセサリーで装飾ができるなら、武器にできても不思議じゃない…。
ビッグバイスにアクセサリーで装飾されていたのは、どこからどう見ても『サメの歯』! 胸の鮫の頭とベストマッチしてる。あれに噛まれたら痛そうだ。
「指図め[シャークバイス]ってところかな?」
八束先輩が名前を付けた。[シャークバイス]なんだか心惹かれる名前だ。
「良いですね。採用しましょう。これからは呼称[シャークバイス]で。」
と、部長さん。
構えたシャークバイスの感触を確かめる様に、数回挟む動作をする。が、見た目は噛み付く動作にしか見えない。
「噛み砕いて上げる。さあ、いらっしゃい。」
その顎を忍者機体へ向ける。
「威圧感半端ないだってばよ。」
その声は少し嬉しそう。
「いざ!」
ダッシュ! 否、間合いをつめる為の踏み込み!
ニンジャブレードが、機体の舞いを彩る斬撃の軌跡を放つ。
シャークバイスが、その顎を極限まで開き獲物に襲いかかる。
攻撃と防御が入れ替わりながら、二機が戦う空間に互いの武器が火花の流星を生む。
「不覚!」
左のニンジャブレードに、シャークバイスに咬み付いた。
「いただきます。」
それは、食事の前の挨拶。
『パリーン』と砕け散るニンジャブレード。
咄嗟に下がり間合いをとる。
「まだまだ精進が足りない…。」
と、砕かれた刀身を見る。その事で冷静さを取り戻したのか、口調が普通になっていた。そして、
「す~。」
深く息を吸い、
「は~。」
吐く。深い深呼吸。
「次はその腕を食い千切ってあげようかしら。」
ニンジャブレードを破壊した事により、普段表に出ない残虐な性格が顔を覗かせている。
「参る!」
腰の装備を左手が握り、足元へ叩き付ける。
『ボン』と爆発し、『モワワワワー』と大量の白い煙が上がり、機体を隠した。
「煙幕!?」
少し意表を付かれたが、直ぐに冷静に、
「そんな、虚仮威し!」
と、滑空砲を放つ。
「こんな、開けた場所に隠れるところなんて無いから!」
爆発が煙幕を霧散させ、見えたのは、
「消えた!?」
そこに忍者機体の姿は無かった。
あっ、あれは確か[波長迷彩]。レーダーからも消える、凄い装備だけど長時間は使えないって言ってた。
「レーダーにも反応無し…。何処へ行った!?」
頭をキョロキョロさせているのは焦っているからに他ならない。
青色機体の背後の空間に四角いノイズ…、通称ブロックノイズが現れ、瞬く間に数を増やし形をとなる。それは、百地の機体!
「斬!」
背後からの一閃!
「後ろ!」
突如、危険を報せる[ALERT]と共にレーダーに反応が現れる。
咄嗟に反応しようとしたのは、流石上級生の代表者に選ばれるだけはあると褒めるべきところ。
バックパックと背中にダメージを報せる[ALERT]が表示された。受けたダメージを、確認しつつ機体を旋回させ、忍者機体へと向ける。
「今ので、仕留められなかったのは残念でしたね。忍者の様な動きを考えれば『波長迷彩』の装備をしていても不思議じゃないですよね。」
冷静な分析は、落ち着いた証拠。
「だと、すると私が見失っていた時間から考えれば、もうエネルギーは無い筈。」
目の前の機体を見据え、
「もう、チャンスは無い…。」
「必殺!」
背中に一対の翼の様に装備されているヘキサブレードシュリケンを両手に『ジャキーン』とした。そして、胸の前で『ガシャーン』と合わせ巨大なシュリケンにした。
「風車シュリケン!」
「もう、チャンスが無いと思ってそんな隙きの大きい武器を使うなんて。」
その声には、明らかに嘲笑の響きが含まれていた。
「残念。もう少し出来る人かと思ってましたのに。」
機体を回転させ、投擲の長いモーションに入る。
「だから、無駄です。」
操縦桿を倒し機体が動き出す。
直後、モニターに[ALERT]が告げられ、更にスパークの稲妻の様なものが映る。
「な、何か!?」
[ALERT]の内容を確認し、
「[STAN]!スタンボム!?」
足元から這い上がる様な『ビリビリ』は、機体を行動不能にしていた。
「何故、そんなものが足元に…。」
鮫島青波の脳内で、先程の忍者機体の攻撃がプレイバックされる。
「さっきの攻撃はスタンボムを仕掛けるのが本命…。」
自分に悔しがり、
「動いて!」
操縦桿を『ガチャガチャ』と素早く動かす。
スタン状態から早く脱出する方法…、通称【レバガチャ】はどのゲームも共通である。
回転速度が最高に達し、
「はっ!」
放たれる巨大シュリケン!
「お願い!動いて!」
【レバガチャ】続けていた事により、少しだけ早くスタン状態から脱していた。
「間に合って!」
指からトリガーへと伝達されたのは滑空砲の発射指示。それは間違いなく伝わり『ドォン』と撃ち出された。
二機の間の空間で巨大シュリケンと滑空砲の弾がすれ違う。
巨大シュリケンが、スタン状態から回復直後の鮫島青波の青色機体の胸刺さり背中へと貫く。
滑空砲の弾が、大技直後の硬直状態の百地の忍者機体に直撃し破壊した。
ほぼ同時に、互いのモニターに[LOST]と表示された。
「ふう。私もまだまだ精進が足りません。」
と、忍者の印を結んだ。
そう、百地が練習していたのは[ヘキサブレードシュリケン]を当てる方法。
「何とか、相打ちに持ち込めた。でも、対戦内容は油断で私の負けね。」
深く背もたれに体重を預けた。




