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部長

 その日は、何かが違っていた。

 その何かは、よく分からないけど、漂う雰囲気って言うのが私の感覚に近いと思う。


 日課を終え部室に戻る。

「戻りました。」

 扉を開けると、中から張り詰めた空気が流れ出してきた。何だか、皮膚を刺すピリピリとした何かが混ざっている気がした。

「お帰りなさい。」

 部長さんが迎えてくれる。そして、気が付いた。この張り詰めた空気の出処が部長さんだと。

「日向さん。今日は、私と対戦しょう。」

 ついに、この時がきた! 雰囲気を感じ取っていたのか、他の皆は平静を装っていた。

「解りました。」

 不安とも期待とも解らない複雑な気持ちになった。

「では、アレ使いますか?」

 美星先輩が、珍しく[アレ]って言った。いつもは、否定派なのに。

「アレは、八束はつかさんいないとセッティングが出せないから、【リョウサン】でいきます。」

と、スマホを取り出した。


 気になるワード[アレ]とセットの[八束先輩]。そろそろ両方の正体を知りたいけど、ストーリーにはやっぱり秘密が必要だよね!


「日向さん。私の機体は【リョウサン】で、装…。」

「ま、待って下さい。」

と、部長さんを遮った。

「はいぃ?」

「装備は言わないでください。」

「何故かしら? 私は日向さんが使っている装備知っているのに…。それだと不公平でしょ。」

「世の中って平等な事ばかりじゃないです。むしろ、平等な事の方が少ない…。」

「そうですね…。」

「だから、面白い! って思うんです。」

 ゆっくりと目を瞑る部長さん。そして、

「ごめんない。私は、おごっていたようです。」

 今度はゆっくりと目を開き、

「面白くなくてはパンツァー・イェーガーじゃないですね。」

 ニッコリしたが、今までの『ピリピリ』した空気が、『ビリビリ』したものに変わった。本気から超本気になったんだと思う。

「『遊びだから、熱中できる。』って教わりましたし。」

「【転生者】は伊達じゃないですね。」

 その設定は継続中らしい。

「そ、それは…。」

 言いかけてどう否定していいのか、判らなくなった。


「では、準備しましょう。」

 それが助け舟になった。

「はい。」



 コックピットに入り、シートのセッティングを始める。部長さんとの対戦だから、念入りに…。

 ふと、部長さんとやるから念入りにセッティングするの? と自問。

 しばらく考えてた。

 で、思ったのは…、誰と対戦するからとかとかではなく、普通でいいんだと。ってか普通が大切なんだと。


 そのせいでセッティングの時間が長かったのか、

「日向さん。トラブルですか?」

 美星先輩に心配させてしまった。

「あっ、すみません。何でもないです。」

「了解です。では、セッティング終わったら言ってたください。」


「日向ん。緊張してるのかな?」

 横にいるはずの百地に話しかけた小南。

「何か考えてたんじゃないですかね。日向んの事だから。」

 話しかけた反対にいた百地には慣れているのか驚かない小南。

「ありえるね。」


「副部長は、この対戦をどう見ますか?」

 美星が聞いた。

「そうね。日向さんって、考えて自分で何とかするじゃない。」

「そうですね。凄いと思います。」

「そうなのよ。そこが強みであり、弱点だと思うのよ?」

「強みは解りますが、弱点なんですか?自分で、考える事ですか?」

「そう、日向さんって何かあると自分で考えて対処するじゃない…。」

「ですね…。」

 副部長の意図が読めない美星。

「それでね。考えて行動する事で無駄が少ないって思うのよ。」

「無駄が少ないって良い事じゃないんですか?」

「確かに、無駄が少ないのは良い事なんだけど…。」

 含みのある言い方だ。

「無駄じゃない事だけで土台を作ったとして、その上に積めるものと…。無駄な事まで広げた土台の上に積めるもの。どっちが詰めるか?」

 考える間もなく、

「無駄な事まで広げた方が、積めるものは多いですね。」

「そうなのよ。一見、無駄に思える事の上にも積めるものはある。って思うんだけど…。」

「何か含みがある言い方ですね。」

「今のは、長期的な目で見た場合って条件付きなのよ。」

「あっ。なるほど、」

「短期的に考えると、無駄が無い方が高く積める…。どちらが正解なのか、悩みどころなのよね。」


 少し間を開け、

「副部長って、論理的なキャラでしたっけ?」

と、美星が聞いた。

「ふふふ。」

 不敵に笑い、ポケットから黒縁の細長い眼鏡を出し掛けた。レンズが入ってないのは、眼鏡キャラの先輩である、美星には直に判った。

「これからは、知的なキャラにして目立とうかと…。」

「副部長…。」

「似合ってる?」

「これ以上、眼鏡キャラの比率上げると逆に目立ちませんよ…。」

「な、なんだってぇぇぇぇぇ!」

 漫画でよくある稲妻が副部長の頭に落ちた。


「知的キャラにクラスチェンジしようと思って、コメント考えたのに…。」

「今の、くだりって考えてたんですか?」

「うん…。いつか聴かれるって思ってたから…。」

「副部長は、今のままが一番目立ってますよ。」

 美星がなぐさめる。

「本当? 今のままで目立ってる?」

 美星がちらりと小南の方を見た。

「そ、そうでよ。副部長は今のままが一番良いんですよ。」

 美星のアイコンタクトで小南が割り込んだ。


 少し考えて、

「じゃあ、知的キャラ辞める。」

 眼鏡を外してポケットに戻した。それを合図に、その場の面々誰からともなく小さく笑った。


 そこから扉を一枚隔てたパイロットルームは、ビリビリした空気の濃度が上がっていた。


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