繋る
ポツリと、
「嵐みたいな娘だったね。」
大尉さんは、誰に言うわけでもなく口にした。
「本当」
私と波門さんの二人で…。
「…ですね。」
波門さん。
「に…。」
私。
被った。
「えっと、葵ちゃんって呼んで良い?」
いきなり大尉さんの提案がきた。
「え…。い、良いですけど…。」
「駄目なら日向さんでも…。」
「いえ、呼ばれ慣れてないから…。」
ちょっと恥ずかしい響きだった。照れて、頬が赤くなったのバレたかな?
「大尉が呼ぶんなら、私も呼ぼうかな?」
波門さんが悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。それが合図になり、三人で声出して笑った。
笑いが納まった頃に大尉さんが、
「対戦してみて、どうだった?」
と質問を。
「楽しかったです。」
「負けたけど、楽しかったの?」
「負けたのは悔しいけど。それ以上に桃河さんと戦えたのは楽しかったです。」
「そうなんだ。」
大尉さんの口調がちょっと嬉しそうに聞こえた。
「ゲームなんだから、楽しく本気で遊びたいです。」
「こんな事を言った人が『遊びだから、熱中できる。』って。」
「それ素敵ですね。」
「だね。俺も好きな言葉なんだ。」
「じゃあ、何故楽しかったのか?」
「えっとですね。」
思いもしない質問だった。
「桃河さんの戦い方が、全く私が想像できない戦い方だったから…だと思います。」
「ほう。」
「あんな動きできるなんて思いもしなかったですから。やり方を考えるだけでもワクワクしました。」
「で、二回目にやってみたってわけか。」
「咄嗟にやってみましたけど…。」
「けど?」
「できるわけもなく、やたら忙しいし、パニックになっただけでした。」
「やっぱり。」
と、大尉は笑った。
「でもね。考える事は一番大切な事だよ。」
確か、部長さんにも言われたなぁって思い出してた。
「私も質問良いかしら? 葵ちゃん。」
「何でしょう?」
[ちゃん]付けはやっぱり照れる。
「二戦目の途中でシールド捨てたのは?」
「あれは、桃河さんが白兵攻撃が上手くて気が付くと私の機体の死角に滑り込んで来るから。それなら、いっそ死角を減らそうって思って…。」
「やっぱり、そうだったのね。それにしても、攻撃を上手く防いでたシールドを捨てる気になったわね。」
「あの大きいシールドは射撃戦は良かったんですけど、二戦目は桃河さん白兵をメインにしてきて、大きさがかえって邪魔に感じちゃって。それに、使う時には拾えば良いかな? って。」
「なるほどね。」
感心しながら、波門さんは、
「流石、大尉が目を付けただけはありましたね。」
と。
「葵ちゃんは【リョウサン】をメインに使ってるの?」
「そういうわけじゃないんですけど。私、他の機体をあんまり使った事無くて…。ちょっと時間空いたから見に来たんです。」
「そういう事だったんだ。じゃあ…。」
大尉さんはライブモニターに目を向けて
「見てて、解らない事があれば俺達二人が解る範囲で説明してあげるよ。」
「良いんですか?」
大尉さんからの嬉しい申し出だ。
「良いんじゃないかしら。楽しい時間は共有すれば。」
「そう言う事ですね。」
波門さんも同意した。
「はい、ありがとうございます。」
その後、三人でライブモニターに見入る。そして、楽しい会話が弾む。
大尉は冗談を混じえながら、波門さんはそれを聞いていた微笑む。
楽しい時。私にも、その時が見える…。気がする。
私の中に、現在の私の言葉では表現し難い気持ちが増えていく。
楽しいくて時を忘れるって言うけど、[時を飛ばす奴]に続いて[時を忘れさせる奴]も居るようだ。捕まえたら時を操れるかな?
「ごめん、葵〜ぃ。」
同時に三人で振り向いた。まさか、三人が振り向くとは思わなかったみたいで、驚いた様子だった。
「えっと、お知り合い?」
「あっ。この前、話した朝ぶつかった…。」
全部説明する前に、解ってくれるのは嬉しいけど…。
「す、すみません。うちの葵が! そそっかしくて。」
と、頭を下げた。
一瞬、何が起きたのか解らなかったみたいだけど、直ぐに
「いいから、大丈夫だったし。」
と大尉さんが。
「本当にすみませんでした。」
実宏が改めて、
「私、尾久実宏って言います。やんごとなき事情で…と言うか緊急事態で葵と別行動をしたで御座る。」
だから何故、武士言葉なのよ。あっ、私から紹介しないとか
「こちらは…大…。」
言いかけて思った…。名前知らない!
「大尉で良いよ。その方が通りが良いし。」
と笑った。
「大尉さんと波門さん。このゲームの事を教えてもらってたの。」
「なるほど。」
「で、そっちの成果は?」
「ふふふ、見て見て!」
サイドバックから本を取り出した。それを見た波門さんが、
「あら、樹冬先生の新刊じゃない?」
と驚く。知っているの波門さん。
「さっき、お忍びサイン会をやってて行って来ました。」
「それで、葵ちゃんが時間が空いたからって言ったんだ。」
大尉さん察しが良い。
「そ、そう言う事です。」
照れてる。
「二人でお出かけだったんだね。」
「はい。今日は久しぶりに二人で市内に出てきました。」
実宏のテンション高っ! よっぽど樹冬先生に会えたのが嬉しかったのか…。
「じゃあ、この後は二人の時間だね。楽しんでおいで。」
今、大尉さん達との時間が終わったと分かった。そして、形容し難い思いが形になっていく。
「大尉さん。」
「どうしたの葵ちゃん?」
「私、なんとなく解りました。」
「何が?」
「このゲームで、私の世界が広がっているって。大尉さんと波門さんに会って、桃河さんとも会いました。繋がって世界が広がるんだと。」
大尉と波門は驚き、
「そうだね。」
と二人で微笑んだ。
「じゃあ行っておいで。」
と、大尉さん。
「はい。」
と、私と実宏の二人で。
「またね。」
と波門さん。
「では、さようなら。」
「さようなら。」
立ち去る二人を見送る大尉と波門。
「いい娘ですね。」
背中を見ながら波門が大尉に
「ああ、真っ直ぐでいい娘だ。でも…。」
大尉も背中から目を離さず、
「でも?」
「真っ直ぐだからこそ、たぶんこれから直面する嫌な事で、このゲームを嫌いにならないで欲しいなって。」
「嫌な事ね。それって…。」
「ゲームとは言え、一人で遊ぶんじゃない。色々な人と出会う…。ゲーム以前に人と人の関わり合い。色んな人が居るからね。」
「そうですね。でも、葵ちゃんなら大丈夫だと思いますよ。」
「何でそう思う?」
不思議そうに波門に聞か返す大尉。
「だって、大尉が認めた娘ですから。」
「買い被り過ぎだよ。でも、そうだと良いな…。」
波門は、微笑みで答えた。
その後の実宏とのお出かけは楽しかった。学校で会うのとは違う楽しさがあるのだろう。
でも、何故か他愛もない話が何処か遠い場所の事の様に聞こえた。
ウインドショッピングに、甘い物を堪能して別れた。
楽しかった一日。
………。
……。
…。
。
たぶん…。
日記は付けてない。だから、寝る前に報告しとこう。
ベットに横になり、アカ助と向き合う。が、半分寝てる。
「今日ね。実宏と二人で出かけたんだ。」
「にゃぁ…。」
小さく返事はしてくれる。
「でね、実宏がサイン会行ってた時にね、大尉さんと波門さんに会ってね。」
「に…。」
もう、寝そうだな。
「そしたら、桃河さんと対戦する事になってね。」
「…。」
寝たな。端折ろう。
「楽しい一日だったよ。」
「…。」
報告完了って事にしとこう。




