依頼
潮の匂いが立ち込める深い霧が辺りを白い闇で被っていた。
大型の船をロープで、港に繋ぐアレに足を掛け待っていた。汽笛の音が遠くに聞こえる。その時、背後に靴音。
「私の後ろに立つんじゃない!」
振り向きざまにコートの懐から取り出した銃を構える。
背後から近付いた男は、両手を上げ敵意が無いと示す。
「すまない。撃たないでくれ。でもよ、お陰であんたがあのスナイパーだって解ったよ。」
向けられた銃を見ながら、
「手、下ろしてもいいか?」
私が頷くと、男はゆっくりと手下ろし、懐から写真を出した。
「依頼のターゲットだ。こっちが報酬だ。」
持っていた銀色のアタッシュケースを差し出した。
無言で受け取ると、依頼者に背を向け立ち去る。
その背中に、
「中身は確かめないのかい?」
「約束と違えば、次のターゲットはあんただ。」
と答えた。
ビルの屋上。そこが最適な狙撃ポイントだ。
目標が、この時間に必ず通る場所を狙える。
準備し、待つ…。
時間だ。オープンカフェの前をターゲットが通りかかる。
狙いを付け、引き金を引く。
『ズキューーーーン!』
弾丸はターゲットへ。
男は決意して、彼女をこのオープンカフェに呼び出した。そう、この指輪を渡す為に。
彼女に少し目を瞑っておいてとお願いし、準備する。
片膝を付き、小箱を開きさし出す。そして、目を開けるようにと…。
ターゲットの額を捉えた弾丸は、見事に…外れた!
弾丸は、男が差し出した小箱の指輪を弾き飛ばした。
彼女が目を開いて見たものは、空の小箱…。
一瞬、きょとんとしたものの、からかわれたと激怒し、男をビンタし背を向けて大股で歩く。
今度は、男がきょとんとしたが、彼女が去って行くのを見て慌てて追いかけた。
彼女は対向車線にタクシーが来るのを見付け止めた。
運転手は、とてもラッキーだと。何故なら、先程客を降ろしたばかりだったから。
直ぐに発車しようとして、先程ラッキーだと思った事を後悔した。乗り込んだ女性と追いかけて来た男性も乗り込み口論を始めた。
弾かれた指輪は、ウエイターの右手に直撃。
痛みで、運んでいた熱々のコーヒーを、たまたま下にいた男の頭にぶち撒けた。
熱さに耐えかねた男は勢いよく立ち上がり、目の前のテーブルをひっくり返した。
丁度、通りかかった男はひっくり返ったテーブルの角が弁慶の泣き所へ直撃し、うめきながら道路へと転がり出る。
目の前に飛び出してきた男に驚いた運転手は、急ハンドルを切り車を対向車線へとはみ出させた。
口論は一層激しくなり、運転手の意識がそちらへと。その直後、対向車線から自分の車線へとはみ出した車。
気が付くのが一瞬遅れた運転手は驚いき焦った。
慌てて、ハンドルを切り向きを変えた。
タクシーの向かった先は、先程まで二人が居たオープンカフェ。
オープンカフェで起きていた騒ぎに気を取られて立ち止まっていたターゲット。
タクシーは、ターゲットを巻き込んで、オープンカフェを破壊した。
「ターゲット始末完了。」
私にかかれば、造作も無い!
「起きなさい!」
それは、現実に戻る呪文。
「ニヤニヤしちゃって、何の夢をみてるの?」
と、見下ろすのはお母さん。
今日もやっちゃたか…。




