小南
日課のランニング中。
今日は小南先輩かな?
部長さんかな?
いつの間にか、考えながら走ってた。
部室に帰ると、小南先輩が椅子にかけて何かを拭いてた…。何だろう?
私に気が付いて、
「お帰り。」
と、手を止めた。
拭いてたのは『VRゴーグル』って言うんだけ? それに見えるけど。
「はい。」
手渡された。
「私が使っている狙撃用のスコープ。固定用のバンドの長さ合わせないとね。掛けてみて。」
「えっと。」
頭の上から被るようにして、ゴーグルを目に当てて、バンドで固定する。
「こめかみ辺りの感じはどう? 横から光入ると見難くなるよ。」
「じゃあ、ちょっと隙間があります。」
頭頂部辺りを触る感覚があり、ゴーグルが上に上がり、良い感じにフィットして目の前が暗くなった。
「良い感じです。」
「オッケーだね。」
その言葉を合図の様に、視界が開けた。
「ゴーグルの先が開閉式になっていて、手動で上に上げられるんだ。」
カッコいいな、このゴーグル。
「まあ、ゴーグル無くてもモニターに表示でるんだけどね。私はこのゴーグルが好きで使ってるだけ。」
「こだわりは必要だと思います。」
「嬉しい事を言ってくれるね。」
笑顔になった。
「あっ、そう言えば、聞いてなかった。」
「?」
「右利きだよね。」
「そうです。」
「じゃあ、このまま使える。」
何の事だろう…。頭の上に?マークが出てたみたい。
「ほら、こうやってライフルを構えると。」
小南先輩がポーズをとってくれた。それを見て…。
あっ、なるほど! 利き手と使う目の関係か。
「とりあえず、使う時まで前は上げてて。」
コックピットに入ると
「ゴーグルのコードを前の差し込みに。」
起動と共に認識される音がして、モニターに表示された。
「機体はね。【ON−13−狩守】を選択して。」
いつも通りに、カチャカチャと選ぶ。
機体は、いつも使っていた【リョウサン】に近いと、思ったけど全然違う…。
百地先輩のお勧めの【矢影】よりも装甲が少ない…と、言うか関節部分に全く装甲が付いていない。更に、全体的に突起が無くて、のっぺりした感じ。
そして何より、頭が全く違う。何かゴテゴテと色々なものが付いている。
「変わった感じのする機体ですね。全身の装甲が少なくて、のっぺりしていると言うか、出っ張りが無い感じです。」
「目の付け所が良いね。」
続けて、
「何故か? それは、微妙な動きをする為に装甲が邪魔しないって事さ。狙撃って角度が0.1°ズレただけで目標に到達する時には大きなズレになるんだ。」
「繊細な動きができる機体が良いって事ですね。」
「そそ、だから余計な出っ張りさえ削ぎ落としてるって奴。」
新たな知識に、ワクワク…。あっ、今夜はどんな夢を見ることやらだ。
「装備は、S−1に。右は、スナイパーライフル。左はピストル、ワイヤーアンカー、対装甲ダガー。そんだけ。」
意外と、装備少ない。
「ワイヤーアンカーは登ったりする移動用。スナイパーライフルは特殊な操作があるけど、後は普通かな?」
少し考え、
「機体の運動能力に関しては、【リョウサン】と同じぐらいで、装甲は紙だから。」
装甲が紙なのは一目瞭然だな…。
「出すよ。地上出たら、ゴーグルの前を下ろして。」
いつものリフトアップで上がる。
ガコンと止まり、地上に到着すると、
「右の青トリガーを引きっぱなしにして。」
『ピコン!』って電子音が流れ、ゴーグル内の右の目の部分にスコープマークが現れた。
その時の様子を外から見る。
機体がスナイパーライフルを構えると、連動する様に頭の装甲が開きセンサー類が露出する。そして、スコープを機体の目の所に合せる。
「それが、狙撃モード。左の操縦桿を前に倒すとズーム。左の赤トリガーを引くと高速ズーム、青トリガーなら低速ズーム。右のオレンジボールで狙いを付けるのは同じ。後は、右の赤トリガー引くだけ。」
狙撃モードにすると全く操作が変わるんだ。
「あっ、スナイパーライフルは連射できないからね。」
早速やってみると解ったのは、ズーム凄い!
なんか『凄い』しか感想が無いのは仕方ないか、私の言葉の引き出しが少ないからか…。当然、ボキャブラリーが少ないなんて言うのは、またまだ先に知る事になるよね。
「的出すから、撃ってみて。」
ジーっと狙いを付けて、ドーンと撃つ!
『ズキューーーーン!』の効果音が付いたかの様に、放たれた弾丸!
的の端っ子に当たった!
「良い感じじゃん。」
小南先輩のお褒めの言葉。嬉しい!
「次はね。操縦桿をしゃがみに入れて…。」
直ぐに両方の操縦桿を内側に倒した。モニターの風景が少し上に動く。
「その状態で、左右の上半身旋回ペダルを同時に踏んで。」
踏むと更に風景が上がった。
「今は、伏せの状態。この状態にすると、スナイパーライフルの脚が自動で展開して、安定が増しブレが減るから更に当り易いと思うよ。」
早速狙いを付けて…。
『ズキューーン!』
今度は、的の真ん中近くに当たった。
これは、気分が良いかも。
「地形を高低差がある奴に変えるよ。」
「マップ変更するね。」
モニターがブラックアウトする。
次に風景が映った時には、小高い丘の上で下を見下ろせる場所に立っていた。
「じゃあ、【リョウサン】をセットアップするから撃ってみて。」
ゴーグルの前を上げて、何処だ、何処だ?
探しているとレーダーに反応が出た。結構距離あるのに映るなんて、この機体のレーダー性能は高いんだ。
ゴーグルの前を下げつつ、伏せの動作を入れつつ、狙いを付ける…。
距離あるけど、正面ならたぶんそのままの位置で…。撃つ!
『ズキューーーーン!』
弾は【リョウサン】のボディを貫くと、動かなくした。
当たりどころが良かったみたい。嬉しい!
「やるね。次は、【リョウサン】を…。」
少し考えて。
「三機出すから。」
止まって撃っているからか、当て易い。三体ぐらい余裕、余裕!
物事が、思っている上手くいくと心に隙きが生まれる…。
人、それを【慢心】と呼ぶ!
先輩に合わせる顔が無い!
また、ゴーグルを前を上げ探す。
レーダーに反応!
三体が正三角形の配置で移動している。
ゴーグルの前を下げ、先頭の【リョウサン】に狙いを付ける。
『ズキューーーーン!』
よし! 当たった!
「次!」
思わず声が、出てしまった。
ん? あれ? 残り二機が見当たらない。
さっきまで、かたまって動いてたのに…。
ゴーグルの前を開いてレーダーを見ると、二手に分かれ左右バラバラに動いてる。
とりあえず、向かって右の奴をと、狙いを付ける。
良い感じに狙いが定まり、トリガーを引く力をかけ…。
あっ…。岩の陰に入り、今度は左に向かって動き出した。
今度こそと、狙いを定めると、急にターンした!
虚しく地面を穿つ弾丸。
動きが読めなくて、全く当たらない。
夢中になってやっていると、突然『ALERT』が鳴り響き、モニターを埋めた。
慌てて、ゴーグルを上げ確認すると、いっぱい撃たれてて機体が破壊だった。
いつの間にか、もう一機が近いてて攻撃されてた。
口を開きかけ、慌ててマイクのスイッチを切る。
「危ない、危ない。ネタバラししそうになった。」
一人つぶやき、
「考えるから、放置しろって言われてた。」
言われた事を自らに反復した。
ぶつぶつ…。
「今のは…。」
最初の一機を撃った時は、物陰に隠れたり、突然向きを変えたりとか無かったのに…。
考え中…。
もし撃たれたのが、自分だったら?
いきなり撃たれたら…。
驚いて逃げる?
何んで?
それは、撃たれないようにするため…。
そっか! 撃たれないようにしているんだ!
最初は撃たれるのを知らなかったから逃げなかった。
撃たれるから逃げる…。と言うよりは回避行動をした。
で…。
回避行動しながら、撃った奴を探して来た。私が一機を深追いしてたから、もう一機が近付いて来るのに気が付かなかった…。
いつも答えは単純なのだが、非日常からの問い掛けは難しい…。
だったら、撃った後は場所を変えた方がいいのかな? 同じ所からだと、どこにいるのかバレやすい?
自分なりの答えは出た…。合っているかは不明だけど…。そもそも答えがあるの?
思考スパイラルに落ち…そうになったが、頭が爆発しそうになったから止めた!
やってみた方が早い。たぶん…。
「リセットお願いします。」
「了解。」
セットアップして、最初に周りの地形を確認する。
先頭の一機を狙い撃つ!
やっぱり、残りの二機はバラバラに移動を始めた。
私がやる事は、即座に立ち上がり、目を付けておいた場所へと向かう事。
「やっぱり、凄いね。ここまで自分で考えて動くなんて。」
思い出す様に、
「私は先輩にみっちり扱かれたっていうのに、ちょっと嫉妬するな。」
複雑な表情でモニターを見ていた。
移動して、撃つべし!
移動して、撃つべし!
移動して、撃つべし!
繰り返す。
当たらないけど。で、近付いて来てやられる…。
位置取りとか、思っていたよりも相当難しい。後は、微妙な動きができる機体も納得した。
狙撃って難しい。でも、だから面白いと実感できた。
「このぉぉぉぉぉ! 当たれぇぇぇぇぇ!」
今日も呪文の効果は低かった…。
はっ! ま、まさか…。連日、呪文を使い過ぎてMPが無くなっているんじゃあ…。
お家で寝ているから、MP回復してるよね。
一瞬、考えたけど、本当はそんな間は無かった。
「どうですか?」
部室に入ってきたのは、部長、副部長、美星だった。百地に関してはいつも通りに気配を消して三人と同行していた。
「お帰りなさい。どうでした、新しい顧問の先生と話は付きましたか?」
「とりあえず、近い内に交流戦をお願いしたわ。」
「おーっ。日向さんも本格デビュー戦か。」
「基礎的な事は、そろそろ終わりね。」
部員全員が、モニターを見て納得しているようだった。
「そろそろ終わりましょう。」
あれ? 部長さんの声だ。今日、来た時は居なかったはず。遅れて来たのかな?
終わらせて、モニタールームへ入ると皆いた。
「お疲れ様。どうだった?」
小南先輩が、近づいて来てた。
「撃つ事よりも、撃つ場所を選ぶのが難しいです。」
「そうだね。撃つけど、撃たれないだね。」
「日向さん、狙撃で一番大切なのは…。」
部長さんからのお言葉は…。
「目力よ!」
「目力ですか?」
「そうです。眉間に皺を寄せ、睨むように狙い撃つ!ですよ。」
眉間に皺…。右手で皺ができる様に寄せてみる。
「こんな感じですか?」
「そんな感じです。」
「次、やってみます!」
美星先輩の眼鏡がキラリと光り、
「どこの、後ろに立つなのスナイパーですか!」
突っ込んだぁ!
最近、美星先輩の何かが開花しつつあるみたい…。
テッシュを取りゴーグルを拭いてから小南先輩に返し、本日の部活を終了した。




