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六つの剣の物語  作者: 山本桐生
9/9

森の民と嘘

 エルフは森の民とも言われる種族であり、自然に寄り添い生きる存在だという。その亡骸は森の中、木々の根元に埋葬するだけで弔いになるらしい。

 ちなみに襲ってきた三人もエルフだったので、一応埋めてきた。まぁ、そっちは乱雑に纏めて穴に放り込んだけどな!!

「ありがとうございました」

 見た目は小学校の高学年くらいだろうか、少年のエルフがそう言って頭を下げた。続けてノルマリエさんを含めた三人のエルフも頭を下げる。こっちでも頭を下げる文化があるんだなぁ。

 その後は焚き火を囲んで話を聞く事に。フレイさんが。

「僕たちは海鳴国に向かう途中だったんです」

 少年のエルフ、リリーが言う。

 その言葉に反応するように遥が……

「私たちそ」

「おっと、謎肉が焼けたらしいぞ、ほれ」

 何かを言い掛ける遥の口の中に、俺は焚き火で焼けた謎の肉を突っ込んだ。

「あちあち、美味しい」

「方向的には森への街かしら?」

「はい。そこにフレイ・フルランスさんという高名な剣士の方がいらっしゃるんですが」

「フレイさ」

「ほら、姉さん、このパン美味しいから食べて」

 何かを言い掛ける遥の口の中に、彼方がパンを突っ込んだ。

「はぐはぐ、美味しい」

「有名な剣士さんね。お知り合い?」

「はい。昔からの友人に会いに行く途中でした」

 そう答えたのはノルマリエさん。

「そうなの。でも森への街の出来事は?」

「……何かあったんでしょうか?」

「数日前に街全体がオークの大群に襲撃されたの。被害も出たと聞いているわ。伝説の魔王が関係しているとも噂されているようだけれど……」

 リリーとノルマリエさんが顔を見合わせる。

「それにフレイ・フルランスは大陸中を旅して回る剣士だと聞いているけど、まだ森への街に滞在しているの?」

「分かりません……分かりませんけど、僕はどうしてもフレイ・フルランスさんに会わなくちゃダメなんです」

 そう言ってフレイさんを見るリリーの表情。真っ直ぐに、逸らさない視線に何か決意のようなものを感じる。

 フラッと知り合いの所に遊びに行く、そんな感じじゃない。

 ただそんなリリーの決意を隠すかのように、ノルマリエさんは明るく言うのだった。

「それにしてもカレンさん……まだお若いのにしっかりしているんですね。お話の仕方も落ち着いていますし、先程の剣捌きもその年齢では信じられない技量です」

 今のフレイさんはリリーと同じ年代の子供の姿。確かに剣を振るうようには見えない。

「カ」

「おら、これも美味いぞ」

「姉さん、こっちも」

 何かを言い掛ける遥の口の中に、俺と彼方が同時に料理をブチ込む。

「ほがほが、ふがー」

 フレイさんは自らをカレンと名乗り、名前を偽っている。もちろん相手を信用していないから。

 そして俺と彼方の役割、それは遥に余計な事を言わせない事。

「生まれた時から家族に大陸中を連れ回されて色々と教わったせいね。ちっとも子供っぽくないの」

 そう言ってフレイさんは笑う。

「今は四人だけで旅をしているんですか?」

 と話の流れでノルマリエさんは言うのだが……リリーの後ろの二人の女性エルフ、こっちの反応を伺っている……ようにも見える。

 当然か、こっちも相手を信用してないんだから、助けられたとはいえ向こうだってこっちを信じられんだろ。

 フレイさんの言葉の端々から何か情報を得ようとしている。もちろんフレイさんもそんな事は分かっているので、意味があるような無いようなという会話が続いていくのだった。


★★★


 その後、夜も更け、リリーやノルマリエさん達から少し離れる。 

「ハルカは何か感じた?」

「うーん、ノルマリエさんの話には嘘が混じってるけど、私たちを騙そうとする悪意は感じないかなぁ。リリーの方は言葉に嘘無いと思うよ」

 フレイさんに聞いた所、リリーもノルマリエさんも昔からの知人などではなく、会うのも初めてだと言う。つまりノルマリエさんの話は嘘。

「カナタは?」

「分かりません。でもお互いに疑心がある以上、早く別れるべきだと思います。どんな問題になるか分からない」

「アキラは?」

 最近よくフレイさんに言われる。周りをよく観察して、とにかく考える。それが生きるための術だと。

「……うん、的外れかも知れないですけど……あの襲ってたエルフ達って盗賊とは違うんじゃないかと」

「どうして?」

 フレイさんが言葉を促す。

「ノルマリエさんが相手の心当たりに『奴隷商の人攫い』とか言ってたじゃないですか?つまりこの世界には奴隷が居て人身売買もあるわけですよね。だったら相手にしてみれば襲ったエルフも、助けに入った俺たちも商品みたいなモンだと思うんですよ。それを片っ端から殺そうとします?」

「そう言われると……私なんて速攻で殺されそうだったもん」

「それに相手にしてみれば一人でも連れ去れば利益になるのに、わざわざ何人も殺すってのは不自然じゃないですか?」

「……欲しかったのは金銭じゃなくて、人か情報……」

 彼方の言葉に頷き、俺は続ける。

「俺が最初に見た時、リリーが他の二人に守られているように見えたんだよ。最初は子供だからと思ったけど、もしかして目的はリリーだったんじゃないか?」

「でもでもエルフの子供がめちゃ高く売れるとかなら、やっぱりお金目的って事にもなるんじゃないの?」

「……確かに遥の言う事も一理ある……じゃあ、やっぱり盗賊ぅ?」

「ただの盗賊が口封じに仲間まで殺すとは思えない。それに盗賊ならもっとお金を持ってそうな相手を狙うと思う」

 彼方の言う通り、リリーやノルマリエさんの服装は比較的質素に見えた。大金を持ち歩いているようには見えない。

「……まさかリリー暗殺計画……」

「怖い事を言い出しやがる」

「姉さん、さすがにそれは」

「何にしろ、やっぱり分からないなぁ……フレイさん?」

「ふふっ、なかなか面白いわね」

「もしかして当たってた?」

「さすがに正確な事は分からないわ」

「フレイさんが分からないんじゃ、俺たちじゃ絶対に分からない予感」

「ただそんなに間違ってはいないと思うけど。まず、奴隷商の可能性はほぼ無いわ。この大陸でエルフを奴隷にするには危険過ぎるのよ」

 フレイさんが言うには、エルフは自然に生きる事を理念としているため、人間や亜人種を物のように売買する奴隷を認めていない。

 生きている者を、物として扱う事が不自然であるからだ。

 そしてエルフを奴隷として欲する大多数は俺たちのような人間だという。自分達に似ていて、さらに見目麗しいエルフを自分の思い通りにしたいと。

 ただその大多数の人間が住むのは剣堅王国や海鳴国。もしこれらの国でエルフを奴隷にしようものなら、エルフが王を勤める妖精の国が黙っていない。

 国家間の問題へと発展する可能性がある。

 その為、剣堅王国や海鳴国ではエルフを奴隷とするのは極刑に値する重罪であり、そのリスクを負ってまでエルフを奴隷とする事は少ない。

 他に暗国という未知の国はあるが、現在地とはほぼ反対方向の遠地なので関係は低いと思われる。

「まさか本当にリリーやノルマリエさんを殺す事が目的ですか?」

「じゃあ、それをすぐに教えてあげないと!!」

 立ち上がって今にも走り出しそうな遥の腕をフレイさんが取る。

「待ちなさい」

「だ、だって、暁くんが言う事が本当なら、また狙われるって事でしょ?」

「本人達も分かっているはずよ」

「やっぱり、そうなるよなぁ」

「暁くん?」

「だって話を聞く限り、エルフが奴隷にされる事はほぼ無いだろ。そんな事はエルフであるノルマリエさんが一番知ってるはずなのに、相手の心当たりに『奴隷商の人攫いか』って言ったんだぞ。普通は『分からない』って言うだろ」

「……分かっていたけど言えなかった。だから咄嗟に嘘が出た……」

 彼方の言葉に俺は頷いて続ける。

「だったら相手を知ってるし、その目的も知ってるんじゃないかと思うんだけど。それとさらに引っ掛かる事がある……フレイさんって大陸中を旅してるんですよね?」

「そうね」

「何でリリー達は大陸中を旅するフレイさんが森への街にいる事が分かったんだ?街がオークに襲われた事も知らないのに」

 森への街が襲撃された話を出した時、リリーとノルマリエさんが顔を見合わせた。同時に動いたその仕草に不自然さを感じない。本当に何も知らなかったように見える。

 情報の伝達が遅い世界。なのにフレイさんの居場所を知っていて、接点の無いフレイさんに会おうとしている。

「……で、俺は考えたわけですよ。誰かがみんなを引き会わせようとしてんじゃないのか?」

「みんなって暁くんや彼方、私とかだよね?もしかしてリリー達も?」

「そのリリーはフレイさんに会いに行くって……つまりフレイさんが森への街にいたのはただの偶然じゃない……」

 彼方の言葉で、俺たちは揃ってフレイさんを見詰めた。

 リリーは言っていた。僕『は』どうしてもフレイ・フルランスさんに会わなくちゃダメなんです、と。

 つまり俺たちをこの世界に召還した存在、その存在がリリーにフレイさんと会うように指示したんじゃないのか?

 全ては妖精の塔にいる、妖精の中の妖精(リリノリリ)

「私は……」

 言い掛けたフレイさんの動きが止まる。そして鋭い視線が闇の中に向けられた。

「フレイさん?」

「……複数の気配が近付いて来るわ。リリー達の方に向かっている」

「姉さん?」

 遥が顔を横に振る。

「私には何も感じないよ?」

「相手が自分の心を押し隠す訓練をしていて、気配を絶つ術を持っていたら、さすがにハルカでも分からないわ。私も今は氷土(エポティア)の力を充分に使えないから、気付くのが遅れたわね」

「どう考えてもさっきの奴等の仲間ですよね。ど、どうします?」

「……私が行くわ」

「フレイさん一人だけで?」

「剣の技量は相手の方が遥かに上。まともに相手をすれば勝てない」

「つまり足手まといですね」

「でも戦いに行くわけじゃないの。リリーやノルマリエ達と一緒に逃げるだけよ。街道を進んだ次の街で合流しましょう」

「でも本当にフレイさんだけで?私達にも何か出来る事があるんじゃ……」

「姉さんの気持も分かるけど、一緒だとフレイさんの邪魔になる。こんな闇の中じゃなおさら」

 確かに、夜の闇の中、しかもこんな森の中で動けるのはきちんと訓練された者じゃないと無理。現状の俺たちには出来ない。

「三人とも。私が出て少し経ってからここを離れなさい。アキラ。ハルカとカナタをお願いね」

「安心して任せて下さい」

「お願いされるのは暁くんの立場なのに」

「態度が気に入らない」

「お前等……」

「ふふっ」

 フレイさんは笑った後、俺に小さく言う。

「街に着いて、三日経っても合流出来なかったら妖精の塔を目指しなさい。お金は荷物の中にあるから」

「ちょっとフレイさん」

 合流出来ない、つまり逃げる事に失敗する可能性があるという事。

「じゃあ、行ってくるわ」

 そう言って、フレイさんは黒剣を手に、闇の中に消えていった。

 その数分後、少し離れた場所から聞こえる金属同士がぶつかる音。そして悲鳴。フレイさんが敵と接触したのだろう。

「強くなりたいね」

 遥が呟いた。その言葉に彼方が頷く。

「……行こうぜ」

 俺達は荷物を持ち、その場から離れるのだった。

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