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六つの剣の物語  作者: 山本桐生
5/9

地獄と秘策

 かくして、オーク6000体との戦いが今始まるのだった……って言ってもな、数が数だし俺がどうにか出来るもんでもない。

 というわけで……

「フレイさん。これからどうするんです?」

「そうね。逃げるしかないわね」

「でも囲まれているんですよね?どうやって?実は隠し通路が遠くまで伸びているとか?」

「隠し通路は無いわ。方法は層の薄い所を強行突破……かしら?」

 きょ、強行突破?オーク6000体の中を強行突破とか無理じゃない?

 だったらこのまま……俺が思った事を彼方が続けた。

「このまま篭城では駄目なんですか?城壁があるって事は敵に攻められる事を想定してですよね。だったらある程度は篭城で耐えられる。その間に援軍が間に合う。ここはそういう造りなんじゃないですか?」

「相手が普通の人間ならね。もちろん援軍の伝書は飛ばしているけど。多分、オーク相手では間に合わないわ」

「ねぇねぇ、暁くん。そのオークって小指サイズしかなくて思ったより簡単に倒せたりしないの?」

「確かに。ハムスターに噛み殺されそうな暁でも倒せたんでしょ?本当は凄く弱いんじゃない?」

「お前、ハムスターに噛み殺された人間見た事あんの?」

「暁くんがその一人目になるんだねぇ~」

「この野郎ども、舐めんじゃないよ。オーク相手だと大人二人でも厳しいと思うぞ。まぁ、あの時は俺とフレイさんだから切り抜けられたんだよ」

「ええ~本当にぃ~?」

 うわっ、なんか遥が人を小馬鹿にするようなイラッとする顔してるぅ!!

「それは違うわ」

「やっぱり」

「ちょっとフレイさん!!」

「剣を持っている大人が少なくても五人は必要ね」

「フレイさんが言うなら信じられる」

「ちょっと遥ぁ~~~お前って奴ぁ~~~」

「そろそろ夜も明けるから、まずは様子を見ないとね。行くわよ、三人とも」

「えっ、俺達も?」

「当然、仲間でしょ」

 そう言ってフレイさんはニコッと笑うのだった。


 この街の人間ではないフレイさん。しかし世界一の剣士とも言われるフレイさんは街から意見を請われていた。

 完全に夜は明けていないが、空はだんだんと明るくなる。

 その中、俺たちは城壁の上から様子を見詰めていた。

「あれ、思ったより少ないような気がするよー」

「でも姉さん、あの相手……」

 遠目からでも分かる。正面に人ではない、獣面の巨体、オークの集団。明らかに普通の人間では一対一で対抗出来ない。

「あの数で2000体くらいかしら」

「見積もりの半分以下で良かったじゃないですか!!これなら住人全員の力を合わせればどうにかなりそ……」

 と、一瞬だけ喜んだけど、思い違いに気付いてしまう。

「分かったみたいね」

「分かっちゃいましたねぇ……この下がちょうど街の出入り口。って事で別の出入り口の所に2000ずつ配置してあるとか、隠し通路を警戒して散らして配置してあるとかそんな感じなんじゃないですか?」

「おっ、暁くん冴えてるねぇ。もしかして暁くんは頭冴えてる系男子?」

「そういう部分にもお前は俺に惚れていたのだよ」

「姉さん、騙されないで。コイツは押入れの上段にエロ本を隠している系男子」

「俺だけじゃねぇよ!!てか何で知ってんだよ!!?」

「はいはい。じゃあ、話を戻すわね。アキラの言った事は概ね正解。まずこの森への街の城壁は円形になっていて、それぞれ四方に四つの出入り口があるわ。そこに各2000体ずつ。その外側に100体程度の小さな集団が20程度散っているわね」

 そこで俺は挙手。

「はい、フレイさん!!計算が合わないんですけど!!それだとオークの合計が10000体なんですけど!!」

「そうね。少ない見積もりでは6000だったけど、少し明るくなって正確に近い数字が分かったの。オークは10000体以上よ」

 万って……一万以上って……逆にこちらの戦力は……


 フレイさんみたいにたまたま街を訪れていた剣士や傭兵、この街の守衛、その他の戦える大人が5000人程度。

 ただその何倍もの老人や女子供など戦えない街の住人がいる。

 しかもオークに攻められたら、この森への街は援軍が届くまで耐えられない。そして逃げるための隠し通路などは無い。

 そこで考えられる方法は三つ。攻撃に耐えられない以上、逃げるためにはこちらから打って出るしかないわけで。その三通り。


 第一はこの街の戦力を全部一つに合わせて一ヶ所から突破する。

 これなら突破し道を造る事が出来る。その道を維持し住民達を逃がす。

 ただ一ヶ所だけしか城門を開けないため、住人全員が逃げのに時間が掛かる。

 その間にオークたちの援軍が駆け付ければ、道を維持する事は不可能になり、後からの住人達は逃げ切るのが難しくなる。


 第二はこの街の戦力を分散して複数ヶ所から突破を試みる。

 この場合、開ける城門が複数になるため住民達が街から逃げる時間は第一よりずっと短くなる。

 しかし、こちらの戦力は少なくなるため、そもそも相手のオークの群れを突破出来るかが問題となる。


 第三は多くの戦力を一ヶ所に集め城壁の外へと出る。

 そこで囮として戦い、オーク達の援軍を集める。

 オーク達を集めたところで、層の薄くなった場所から最小戦力で逃げ出す。

 この場合、囮として出た人間は確実に全滅するだろうし、全滅が早ければ、最小戦力では逃げ切れなくなる。


 どのパターンにしても相当数の被害は出ると予想していた。

 この街の住人の半分以上が犠牲になるだろう。もちろんその犠牲の中には子供なども含まれている。

 今、この森への街は誰を優勢して逃がすのか……命の取捨選択の段階。

 ちなみにオークを街の中に誘い込み迎撃する案などもあったが、相手の目的が分からないので上記の三つに絞られた。


「フレイさん、俺、ブルッちゃいますよ。これ助かるんですかね?」

「私たちはこの街の住人ではないわ。オークの群れを突破したら私達だけすぐ逃げちゃえば良いのよ。それだけなら逃げ切れる可能性は高いわね」

「やったぜ、遥!!こりゃ助かるっぽいぞ!!」

「ええ~、本当にそう思ってるぅ?」

「街の住人を見捨てるなんて外道。ド外道ね。こんな奴に姉さんを任せられない」

「んじゃ、仕方ねぇ。別の方法で行くか」

「暁くんには別の良い方法があるの?」

「フレイさん、別の案をお願いします!!」

「何、この他力本願。やっぱり暁は糞」

「信じらんねぇくらいストレートな罵倒だよ」

「……なぜかしら?三人とも、この街に家族も居なければ、この世界の住人でもない。自分達の命が大事でしょう?」

「んん~まぁ、俺も命が大事なんですけどね……多分、これ……俺達三人が原因じゃないかと……」

 俺は思っていた事を続ける。

「さっき篭城の話をした時、ここが耐えられないのは相手を人間で想定してて、オークを想定していないからでしたよね。それってオークが集まって攻めてくるなんて事は今まで無かったからだと思うんです。それに俺はオークに襲われていますし」

「おっ、暁くん冴えてるねぇ。もしかして暁くんは頭冴えてる系男子?」

「そういう部分にもお前は俺に惚れていたのだよ」

「姉さん、騙されないで。コイツは押入れの下段にエロDVDを隠している系男子」

「俺だけじゃねぇよ!!だから何で知ってんだよ!!?」

 こりゃ隠し場所を変えねば。

「それはさて置き、もしそうなら俺達だけ逃げるってわけにはいかんでしょ」

「ふふっ、じゃあ私から第四の案よ」

「おおっ、さすがフレイさん!!」

「倒すのよ。逃げるんじゃなく、相手のボスを倒す」

 そう言ってフレイさんはオークの集団を指差し、言葉を続ける。

「見える?一番奥の方。一際大きな巨体が見えるでしょう?」

 指差す方向へと目を凝らす……かなりの距離もあるし、まだ日は完全に出ていないけど……見えるか?

 ……って、見えたわ。

 確かに周りのオークよりも一周りも二周りも大きな巨体が見えた。着ている甲冑や持っている武器も良い物のように見える。

「遥も彼方も見えるか?」

「うん。私にも見えるよ。彼方は?」

「私にも見える」

「カナタにも見えるのね?」

「はい。それが何か?」

「……アキラもハルカも伝説と言われる剣を持っているわ。その剣が視力を含めて身体能力を底上げしているのよ」

「……」

「カナタも剣を持っているのね」

「……刀身の短い、黒い二本の剣です」

「……深淵(クロア)魂を裂く深淵ルルエ・メルグ・クロア。それがカナタの剣の名前よ。伝説で語られる剣は六本あってね。そのうちの四本がここにある。これでどうにかなるわ」

「でも何で最初から第四の案が出なかったんですか?」

「……第四の案は私達が先頭に立って戦うからよ」

「私達?って俺とかも?」

「もちろん。私。そしてアキラ。ハルカとカナタもよ」

「待って下さい。俺自身は構わないけど、遥と彼方にそんな事はさせられません」

「二人の力が必要なのよ」

「……二人を危険な目に合わせるくらいなら外道と言われようと俺達だけ逃げる方法を選びます」

 今の俺に一番大事なのは遥と彼方だ。

 二人は絶対に守る。それで他の誰かが犠牲になろうともだ。

「俺の剣と同じような力が二人の剣にもあるんなら、戦う事は出来るんでしょうけど、俺がオークに襲われた時だって死ぬ可能性はあった。今回は俺の時よりもっと危ない。この街を犠牲にしても二人だけは絶対に逃がします」

「でも暁」

 彼方の言葉を遮る。

「彼方だって遥にそんなマネさせられないだろ?」

「そ、それはそうだけど……姉さん?ちょっと笑ってる?」

 確かに……遥の奴、ちょっとニヤニヤしている。

 あっ……これはちょっと嫌な予感……と言うか、何を言い出すか何となく分かってしまう。

「さっきまでオークが来たのは自分達のせいだから責任を取るみたいな雰囲気だったのに、暁くんの急転直下な掌返しが凄いなって」

「……遥と彼方が危険なら話は別なんだよ」

「暁くんが私と彼方の事を心配してくれるのは嬉しいけど、どうするかを決めるのは私自身なんだよね。って事でフレイさん。私は戦えますよ」

「遥っ!!」「姉さん!!」

 俺と彼方の声が重なる。

「お前、分かってんのか?戦うって、剣を持って相手を殺すんだぞ?」

「そうだね~~~怖いけど、他に選択肢が思い浮かばないよ。暁くんは代案ある?」

「……ねぇけど」

「オークに囲まれている時点で危険なんだし。確率の問題かも知れないけど、どの案だって死んじゃう可能性があるんだよ。だったら私は自分に出来る事をめいっぱいやりたいな」

「……姉さんは私が守る。だから姉さんが戦うなら私も戦う」

「このド阿呆ども。俺達は異世界転生した無敵の主人公じゃないんだぞ?」

「ド阿呆は暁くんじゃないの?」

「お前の方がド阿呆だ」

「いや、暁くんの方がド阿呆だね。自分達のせいかも知れないのに、暁くんはここの街の人を見捨てられる人なの?」

「見捨てられるね。余裕。余裕ですよ」

「私と彼方の『二人だけは絶対に逃がす』んだよね?暁くんは逃げないの?私と彼方が逃げ出す事に成功したら、暁くん一人だけでも戻るつもりなんじゃないの?私と彼方はそんな暁くんだけを置いて逃げ出すと思う?」

「……」

「……」

「……ん、すまん。阿呆ってどんな漢字だったか考えてて聞いてなかった」

「暁くん!!」

「な、何だよ?」

「暁。姉さんの性格は知っているでしょ」

 もちろん知っている。

 遥が真っ直ぐな視線を向けていた。この目、覚悟を決めた遥は絶対に曲がらない。

「……はぁ……」

 俺は大きな溜息を一つ。

 遥のニヤニヤした顔を見た瞬間、こうなるんじゃないかと思ったよ……

「……フレイさん……第四の案でお願いします」

「……良いの?」

「良いも悪いも……これしかなさそうですし」

「暁くん、きっと大丈夫だよ!!」

「どこからそんな自信が?」

「だって暁くんが死ぬ気で守ってくれるんだろうし」

 そう言って遥は笑った。うん、可愛い。

「死ぬ気で守って、そして死ね」

「死ぬ気で守るけど死なねぇよ!!」

 そして彼方は相変わらずだった。


 やがて夜は完全に明けるのだった。


★★★


 オークのボスを倒す。

 オークにもそこそこの知能はあるが、本能は獣に近く、群れはボスを中心にして動く。そのためボスさえ倒してしまえば、群れは統率を失い散開する可能性が高い。


「やべぇよ。本当にこれから始まっちまうよ」

「さ、さすがに私も少し緊張する」

「ね、姉さんは、わ、私が守るから」

「三人ともそんなに緊張しない。その剣がある限り簡単に死ぬなんて事にはならないわ」


 俺の手には魂を蝕む闇夜ルルエ・アチェリス・オリオ

 遥の手には(サヴァリ)

 彼方の手には魂を切り裂く深淵ルルエ・メルグ・クロア

 そしてフレイさんの剣。魂を飲み込む氷土ルルエ・ウエーカタ・エポティア


 俺達は城壁の門の内側、その最前線にいた。

 この城門が開けば、すぐ目の前にはオークの大群。もうすぐこの城門が開く事になる。


「それが六つの剣ですかぁ!!凄いですぅ!!」

「フレイさんの剣は見た事がありますが、他の剣を見るのは始めてです……でも伝説は本当だったんですね……」

 ここに集まったのは2000人程度、旅の剣士、傭兵、この街の守衛や戦える住人。おっ、アイツはラナ亭で見た奴だぞ。

 そしてリナルナとレナロナも。

 ここにはオークのボスと対峙する本隊として戦力の高い人間が集まっていた。

「おおっ、ドナドナちゃんも一緒ですぅ!!」

「全然違いますぅ!!リナルナですぅ!!」

「どっちでも良いですぅ!!」

「どっちでも良くないですぅ!!」

「う、うるせぇ……大丈夫なのか、これ?」

「大丈夫です。私もリナルナも母さんにしっかりと鍛えられましたから」

 とレナロナ。

「ラナさんに?」

「そうさ。二人ともこの街でも一、二を争う戦士に育てたつもりだよ」

 さらにラナさんもいた。

「ふふっ、ラナは王国の騎士団に所属していた事もあるのよ。その後に傭兵として世界を飛び回っていて、私達はその時に会ったのよね。ラナはもちろん、そんなラナに鍛えられたのだからリナルナとレナロナも相当の凄腕よ」

「フレイにそう言って貰えるなんて光栄だね」

 そう言って笑うラナさんからは全く緊張や気負いが感じられない。まさに普通。これから買物にでも出掛けるようだった。

「さて、じゃあ、相手が攻めてくる前にこちらから行きましょうか」

 ここでは部外者であるフレイさん。しかしその名前の知名度と実力から作戦指揮を取る事になる。

「アキラ、良いかしら?」

「すんません、お腹の調子が」

「暁くんは準備万端のようです!!」

「ふふっ、ハルカ、最初はお願いね」

「分かりました、任せて下さい!!」

「姉さん、頑張って」

「カナタも覚悟は良い?」

「大丈夫です」

「コイツ、大丈夫な顔してねぇ。緊張してやがる」

「う、うるさい。死ね。腹痛で死ね」

 フレイさんはニコッと微笑んだ。そして。

 黒剣を掲げる。これが門を開ける合図。その合図で街の城門が左右に開けられていく。

 他の城門も同時に開けられているだろう。そちらは陽動とこちらへと援軍を少しでも遅らせるための出撃。

 俺達が先頭に立って戦う……本当に大丈夫なのか、本当に戦えるのか、本当に生き残れるのか……しかし、いくら不安を抱いていても城門は開けられてしまう。

 そして目の前に広がるオークの大群。

 ただ思ったよりも自分で落ち着いているのが分かる。

 これもフレイさんに聞いた伝説の剣の能力の一つ。

 身体的能力の強化向上、戦闘技術の自動行動、恐怖心などの軽減、これが第一段階の能力。

 そして各々に剣固有の第二段階がある。

 遥の(サヴァリ)に備わる第二段階の能力、それは……

「ハルカ」

 フレイの言葉に遥は頷き、幅広い櫂のような剣の切っ先をオークの大群に向けた。

「……(サヴァリ)

 遥の言葉に反応するように剣自体が発光する。


 それは静かに、まさに光。

 遥の剣からオークに向けて一筋の光が走る。

 次の瞬間。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!


 空気を震わす轟音と共に大爆発。巻き上がる砂塵。そして大量のオークが空中に弾け飛ぶ。

 これが(サヴァリ)の能力。そこから放たれる光線は爆発しオークの群れを吹き飛ばした。全部とは言えないが、かなり数のオークが絶命し、群れの壁に穴を開ける。


「姉さん……凄い」

「……これ、遥の力で相手を全滅させるの簡単じゃないか?」

「んん~ダメ、私の感覚ではあと弱いのが一回撃てる程度」

「ほら、行くわよ」

「わ、分かりました!!」

 フレイさんに続いて俺も走り出す。そして遥と彼方、ラナさんやリナルナレナロナ、そしてそれに続く戦士達。


 オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 響く雄叫びと、数千の人間が駆ける地響き。不安、重圧、緊張、興奮、全てが熱気となりこの場に渦巻いているようだった。

 戦闘の始まりである。


 最初にオークとブチ当たったのはフレイさん。

 フレイさんの倍もあろうかという巨躯のオーク、そのオークが持っていた戦斧を振り下ろす。

 しかしフレイさんの黒剣がそのオークの両腕を斬り飛ばした。

 ギィヤァァァァァッ!!鼓膜を劈くようなオークの金切り声、しかしその声は長く続かない。

 その光景を見た瞬間、俺の体は闇夜(オリオ)に操られるように勝手に動く。強化されたジャンプ力で跳躍すると、そのままオークの首を斬り落とした。

 そして着地と同時に次のオークへと剣を突き立てる。それは相手の甲冑など存在しないかのように容易く。さらに剣を横薙ぎにしてその体を斬り裂いた。

 うおっ、我ながら自分の体とは思えないな、体がメチャクチャ軽く感じる。

 サッと視線を横に向けるとそこには遥と彼方。

「たぁぁぁぁぁっ!!」

 遥が剣を横薙ぎにすると、オークは甲冑ごと上下に分断される。遥の一撃は相手の武器も甲冑も体格も関係無く斬り裂いていた。

 そして彼方。

「ふっ」

 オークの攻撃を避け、避けながら相手の足を斬り付ける。オークがバランスを崩した瞬間、その喉元と心臓、同時に剣を突き立てる。

 遥の攻撃は力強く豪快に相手を蹴散らす。彼方は素早い動きで巧みに二本の剣を扱い敵を撃つ。

 これが俺達の剣の力。

「うおりゃぁぁぁぁぁっ!!

 オークを斬り伏せ、突き刺し、薙ぎ払いながら前へと進む。目の前に溢れるオークの巨体でボスの姿は見えないが、フレイさんは氷土(エポティア)の力でボスの大体の居場所が分かるらしい。

「ほら、二人とも油断するんじゃないよ!!」

 ラナさんが持つのは大剣。その動きは中年の女性とは思えない。目で追うのすらやっとの速さで相手の懐に飛び込み剣を振るう。

「ですですぅ」

 リナルナは細身の剣。あれは漫画とかでも見た事がある。レイピアだ。素早く何度も斬り、素早く何度も突き、隙を見付けて致命傷を狙う。

「分かっています!!」

 レナロナは槍。残像を残すような速さの突きで、一本の槍が複数の槍のようにも見えてしまう。槍は何度もオークの体を突き絶命させる。

 これ楽勝なんじゃない!!?

「遥!!大丈夫か!!?」

「だいじょうぶだぁ、だいじょうぶだぁ」

 あ、あいつ結構まだ余裕がありやがる……

「彼方は!!?」

「うるさい声掛けんな」

 向こうも大丈夫そうだ。

「アキラ!!二人が心配なのは分かるけど自分に集中して!!」

「かしこまりました!!」

 返事をしながら闇夜(オリオ)を一閃。オークを肩口から斬り裂いた。

 フレイさんはもちろん、俺も遥も彼方も、そしてラナさんにリナルナにレナロナ……オークになんて全く苦戦する事は無い。

 周りを見る余裕だってしっかりある。

 もしかしてオークって奴は俺達が思っているよりも弱いのでは……しかし断末魔はオークだけのものではなかった。

 改めて周りを見回すと……

「ぐあぁぁぁぁっ」「あっ、あ、あ、あ……」「た、助けてくれぇぇぇぇっ!!」「腕が、俺の腕がぁっ!!」「あ、ちょ、待っ、ああああっっっ!!」

 人の悲鳴。

 オークの一撃で二、三人の男が同時に吹き飛んだ。まるで人形のように人が軽く弾け飛ぶ。その一撃で人の形を失い肉塊になる者もいる。オークに掴まれればその握力だけで握り潰され殺される。単純なその腕力だけで人が千切られる。

 人とオークの雄叫びと悲鳴。金属と金属、肉と肉がぶつかり合う鈍い音。飛び散るのは人の血液とオークの体液。

 剣の力がなければ精神が尋常ではいられない。

 ここが地獄。

「くっそぉぉぉぉぉっ!!」

 そしてその地獄を少しでも早く終わらせるのが俺達の役目でもある。

 剣を、闇夜(オリオ)を力いっぱいに振り下ろし、突き立て、オークを斬り払う。

 少しでも早く、一分一秒でも早くオークのボスに辿り着き、倒さなければ……

「フレイさん、ボスはまだですか!!?」

「まだ半分も進んでいないわ!!」

「半分もまだ!!?」

 じゃあ、これからボスに辿り着くまでにどれくらいの人間が死ぬんだよ!!?

 もしかしたらその死ぬ人間の中に遥と彼方も……ん?

 ……遥……

「たりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 遥は力で相手の武器を弾き返した。そしてそのまま剣を振るいオークを斬り倒す。

 遥を見詰める……いや、正確には遥の持つ剣、(サヴァリ)をだ。

 もしかしたら……やってみる価値はあるかも知れない。

「遥!!話がある!!」

 俺は遥に駆け寄り、その肩を掴んだ。

「暁くん!!?こんな時に!!?まさか告白!!?」

「違う!!彼方!!遥に話がある!!俺達二人を守ってくれ!!」

 彼方はすぐさま駆け付け、俺達の周りのオークを斬り倒した。

「さっきのお前の剣の光線みたいなの、あと一回ぐらい撃てるんだよな?」

「撃てるけど、さっきみたいに強いのはもう無理だよ。でも弱いのだったら何とか」

「その威力、出す時に爆発しないようにとか調節出来るか?」

「調節?わ、分からないけど多分大丈夫だと思う」

「よし。遥なら絶対に出来る」

 そして俺は思い付いた事を遥に伝えた。

「ちょ、暁くん、それ本気と書いてマジ?」

「本気と書いてマジ。そうじゃないともっと大勢の人間が死ぬ」

「……」

「……」

「……分かった。やる」

「よし。フレイさん、こっち来て下さい!!秘策です!!ラナさんとメコメコ、レナロナもお願いします!!」

「全然違いますぅ!!リナルナですぅ!!」

 フレイさん、ラナさん、リナルナレナロナが集まる。

「ラナさんとリナルナレナロナは俺達の周りの敵を食い止めて下さい」

「何かあるんだね。分かった。行くよ、二人とも」

 ラナさんは何も聞かず行動に移す。ラナさん、リナルナとレナロナで俺達を囲むようにして近付くオークを押し返していく。

「アキラ、秘策って?」

「時間が無いんで、いきなり実践になります!!」

 俺が考えた秘策。それは……

続きます。

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