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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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幕間ーお喋り執事の呟き3ー

すみません、長過ぎるので4部に分けます。

本日中に4部目も投稿します。


「イシャン、しばらく留守にする。もしも俺が半月経っても帰らなかった場合、速やかにこの封書を公開してほしい」

「それ死亡フラグですけど!嫌です!やめて下さい!こんな不吉な封書、断固として受け取り拒否致します!そんなお役目は死んでも御免ですよ!いえ、不老不死の私は死ねませんけど!」

「死亡ふらぐ……?」



 あわわわわわわ。

 ついにヒースクリフ様が恐ろしい事を言ってきました。

 なな何なんですか、世界を滅ぼすのではなかったのですか、まだちっとも滅んでやいませんよ、この世界。あ、まあ。滅ばない方が勿論よろしいのですけど。

 

 ううっ。あれほど無気力で自暴自棄だったアゼル様も、最近は少しお元気になられてきたご様子ですし、勝手な期待感でそのうちヒースクリフ様も、と鷹揚に構えていた私が大馬鹿者でした。


「神竜様巡りでしたら私も着いて行きます!ダメと言われても勝手に引っついて行きます!そもそもこの私がいなければ、一体誰がヒースクリフ様の破れた靴下を繕うのですか!他に誰が!度々腐らせてしまう携帯食のチェックをすると言うのですか!完全無欠で非の打ち所のないようにみえて実はズボラで不器用、時折魔法空間から取り出してはぼんやりと眺めていらっしゃるあの後生大事そうな草冠を、うっかり壊しかけては再び編み込むのはこの私です!そしてそして、一番重要なのは!この私の無駄で無意味なお喋りに、ヒースクリフ様以外の誰がトコトン付き合って下さるというのですかあっ!」


 ぜぇー、はぁー、ふうー…

 少々ヒートアップしてしまいましたが、ここは是が非でもお止めしなくてはなりません。でなければ、もう二度とヒースクリフ様は帰って来ないような気がするのです。

 こういう流れと予感を、“伏線”と申すものだと、以前お会いしたつむぎ竜様が私に教え下さいました。

 

 あのお方もなかなかお喋りで、また、娯楽目的の一風変わった物語をご自分で綴られるのがお好き方でございました。

 ええと……ざまあもの、だとか、逆はーれむもの、ちーと転生もの、といった斬新でユニーク、かつ独創的なお話を喜々として何時間も語り聞かせ………

 

ーーあら?ヒースクリフ様が、変なお顔をされております。


「あ、あのな、イシャン。靴下は余分に替えを用意していくし、携帯食は買い込み過ぎないように注意する。ミシェルの形見である草の王冠を、おまえがいつも丁寧に整えてくれるのは本当に有り難いと思っている。ーん?携帯食は、魔法空間に入れていて何故腐るのだろうか?」

「え、知りませんよ。ヒースクリフ様の二つ目の神力の所為では?」

「そう、なのだろうか?ううん、解せないな……」


 困惑顔で首を捻られますが、実は光竜であるヒースクリフ様には二つもの神力がございます。


 一つは病気や怪我を直す、癒しと再生の神力。

 もう一つは、指定範囲内での能力アップ補助効果の神力。


 後者を簡潔にご説明致しますと、ヒースクリフ様が指定されたフィールド内で戦闘訓練や筋力トレーニングなどを行った場合、通常よりもはるかに効率よくスキルアップができる、といったものです。

 これは勉学や魔法の修練においても有効でございまして、なればこそ、ヒースクリフ様の立ち上げた義勇軍は全勝無敗、まさに鬼のように最強だったというわけです。


ーーこの神力は秘宝のⅩ番、“天の杯 地の匙”となっていて、後に創立する王立学園にて活用される事となるのですが、まだそれについては先のお話ですね。


 おおっと、ヒースクリフ様をお止めしなくては!


「お茶を!新たなる創作茶を開発致しました!私がいれば旅先でも美味しいお茶をお入れできます!襲撃先の神竜様を、美味しいお茶で籠絡してしまいましょう!」

「あ、ああ、うん。イシャンの入れるお茶の威力は凄い。勝負せずして、神竜の何体かは快く神力を分けてくれた。実際助かった」

「私でなく、お茶が凄いのです!ですが、ならば私を!」


 必死で懇願するも、ヒースクリフ様は首を縦に振りません。


「残念ながら、この時代ではもうこれ以上の神力は集まらない。なれば俺は、秘宝の“太陽の砂時計”を使って過去か未来へ飛ぼうと思う。イエニスの緑樹竜があの状態ではどうにも……。勝手を言ってすまない。イシャンのパネルカードは持っていくから、何かあれば喚ぶ」


ーーか、過去か未来へ、ですか……!?

 

 それは、一体どれほどの神力を消費する事になるのでしょうか?

 13もの神竜、全ての神力を集める為ならば、ご自分の命の事などどうなっても宜しいのでしょうけれど………


「これっぽっちも了承できませんが、私如きが何を言ってももう無駄なのですね。ーーけれどこれだけは申し上げます。ヒースクリフ様、貴方がいなくなっては大勢の人々が困ります。アゼル様も、この王国の皆様も、それはそれは深く悲しみましょう」

「俺は、世界を滅ぼしたいと望むような奴なんだが?」


 淡々と吐き出されたその言葉に、思わず私は失笑してしまいます。

ーーハッ。何をおっしゃいますか!


「あのですね!ならば言わせてもらいますが!果たして本当にそう思ってる人が国を興しますか?神竜巡りを優先したいでありましょうに、それでも争乱で困窮した人々を見捨てられずと留まり、重責であろう王座に座って善政を敷き、たったの僅か5年でここまで安定した王国を築き上げた。こんな私から見ても、貴方様はやはり稀代の英雄王でございました。ーー断じて!頭のイカれた気狂いの破滅思想者などではない!」

「だが、それでも。俺の優先順位は覆らない。この世界を滅ぼす、それは絶対で決定事項だ」

「ですから!それは…っ」

「これ以上の話し合いは不毛だ。出立は三日後にもう決めた」

「…………」


 

 ダ、ダメです。もう、本当に、どうにもならないようです。


ーーああ、森羅竜様、申し訳ございません。

 この私などでは、ヒースクリフ様のお心をお救いする事が適いませんでした。力不足で不甲斐ない私でしたね………

 

 悔しさと悲しさがない混ぜになって泣きそうになる私に、ヒースクリフ様は最後のお言葉をかけられます。


「……イシャン。一つだけ言っておく。俺にとっておまえのお喋りは、決して無駄でも無意味でもなかった」

「へ?」

「必ず帰るつもりだ。ーー留守を、どうか頼む」

 




*********





 そして、その後。

 約束の半年の期限が刻々と近付けども、やはりヒースクリフ様は帰ってきません。ふん、こんちくしょうです。


「はあ……どうしましょうか。このままですと、本当にこの封書を国民の皆様に公開しなくてはなりません……。やっと軌道に乗ってきたエルドラシア王国ですのに、王が変われば今後は一体どうなる事やら……」


ーーは!そういえば…っ!

 

 ヒースクリフ様は過去か未来へ飛ぶというお話をされた時に、確かイエニスの緑樹竜がどうたらこうたら、と言っておられました。

 緑樹竜様、ですか……。

 

 恐らくその神竜様の神力を、彼はまだ手に入れられないのでしょう。

 イエニスといえば、先の争乱を引き起こした問題の国です。今や敗戦国となったその王国は、大陸の最東端に位置していましたっけね。

 そこに行けば、ヒースクリフ様の手がかりがある……?

 

 追い詰められた私は、藁にもすがる思いで単身イエニスに向う事にしました。

 本当はいけないのですが、約束の期限が差し迫っていましたし、居ても立っても居られなかったので、本来の姿である鳳凰となって空を飛んで行く事にします。




*******




「これは…随分と荒廃した国ですね。争乱から5年も経っているのに、主要食となる穀物地帯も見当たらなければろくな田畑もない。唯一、果実の実りはあるようですが……」


 そもそも侵略国ですので、国土は戦場にならなかった筈です。

 自業自得でしょうが、被害を及ぼした相手国への賠償金の支払いなどで困窮しているのでしょうか?

 

 国境を越えてより延々と続く枯れた大地に唖然としていると、私は突如、背筋が凍るような寒気に襲われました。

 


 な、何でしょう、これは、この気配は……!?



『ふふ。のこのこと、そっちからやってくるなんて』

「!?」


 気が付くと私は捕われていました。

 いつの間にか辺りは真っ暗闇の世界で、へ?ーま、真っ黒な竜!?の前足に、乱暴に掴まれてしまっています……っ!

 

ーーこ、恐い、震えが止まりません!

 この方はどなたでしょう?神竜??けれど纏うオーラが、神竜様特有の黄金色ではございません、まさに闇の深淵そのものです!

 本能的に拒否反応を感じているのか、ガタガタと私の全身を身震いが襲いかかります!


『自覚がないみたいだけど、聖獣はある意味神力そのもの。君を食べてしまえば、僕は彼を手に入れられるだけの力を得られるのかな?』


ーーた、食べられちゃうのですか、私!?

 不老不死の鳳凰ですが、ぱっくんと丸のみされてしまった場合は一体どうなるのでしょうか??


『丸ごと僕の身体に吸収されるよ。意識は残ったまま、僕の一部としてずっと離れずに永遠に一緒さ』

「ひぃッ!何だか最悪な展開です!た、助けて下さい、ヒー…」


 いえ。ヒースクリフ様は現在この時代にいらっしゃいません。彼から喚び寄せる事はできても、私からは不可能です。

ーー本当の本当に万事休すです……!

 ああ!そうこうしている間にも、真っ黒な竜の大きなお口がグワアアッ!と開きました!


「し、森羅竜様!!森羅竜、ラッセルテリオス様ああああ!!」

「ーーその手を放せ。夜のとばりに眠る王、闇竜メフィレス!」

 


ーーえ!?



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