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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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幕間ーお喋り執事の呟き1ー


「スマン、何も言わず、あやつの配下に下ってはもらえまいか?」

「……森羅竜様、ひ、酷いです。契約獣の私を売ったのですか。そしてこてんぱんに負けたのですね、あの討ち入り神竜と近頃は巷で噂の、ヒースクリフ王に……」



 穴ぼこだらけの荒野で森羅しんら竜様が私に土下座なさっています。

 どうやらテリトリーに襲撃してきたヒースクリフ王に、ボッコボコのギッタギタに敗北されたようでございますね。

 

 ……まあ、それも無理はございません。

 だって相手はあのヒースクリフ王なのです。今やその名は世界中に知れ渡ろうかという稀代の英雄王、まさにその彼、ご本人だったという話ではございませんか。

 ええ、ヒースクリフ王と言えばここ数年前、大陸東部から勃発した侵略という名の争乱を、いとも速やかに平定された救世の英雄。

 元は流浪の旅人であったとされるその青年は、近隣各地より義憤厚い勇士らを掻き集めて義勇軍を立ち上げ、それぞれの地に居座る侵略軍を瞬く間に退け押し戻し、とうとう敵の本軍すらも完膚なきまでに撃破殲滅。そして現在は、争乱で行き場を失った人々に是非にと懇願され、荒れ果てた大陸中央地帯に国を起こし、求められるままにその国の初代国王になったのだとか。

 

ーーされども何故、そのヒースクリフ王が、私の主様である森羅竜様を襲撃してきたかという理由、なのですが……

 その前に先ずご説明申し上げます。実は彼、ヒースクリフ王は人ではなく竜種で、しかも森羅竜様と同じく神竜だったのです。

 ええ。神と等しき神力を持つとされる13が神竜のうちの一体、それも闇竜と対極をなす光竜様であらせられました。なれば英雄王たるもさもありなん、といったところでございますね。


「えらいベタ褒めだな……そしておまえ、世情に詳し過ぎるぞ?」

「今をときめく英雄王ですからね。これくらい、どこにいても耳に入って当然です。寧ろ、森羅竜様が世の中の噂にうと過ぎる、超鈍感竜なのでございますよ?」

「…………」

 

 まあ、森羅万象を司る、といえば聞こえはよろしいですが、単に世界規模の世話好き点検補修好き。世界各地のあらゆる気脈や大気などの大自然の乱れをパトロールして小まめに補修する。そんな地味なライフワークを大いに好んで寧ろ生き甲斐とする森羅竜様が、ええ、はい。万が一にも勝てる相手ではございませんでしたのに……!

 なのに何故、馬鹿正直に真っ向勝負を受けていらっしゃるんですか。逃げるか断れば宜しいのにわけが分かりません。森羅竜様って、やっぱり結構なお馬鹿さんですよねー。


「馬鹿って、おまえ、あのなあ……」

 

ーーはあ。人生って、分からないものです。


 まさか神の遣いたる鳳凰の私が、神以外のどなたかの契約獣になってしまった事さえ青天の霹靂でしたのに、今やその主様に戦利品代わりにあっさり差し出される事となろうとは……

 フフフ。こういうの、世間では“身売り”、と申しましたっけね……


 ああ、くどくどと駄文を、大変失礼致しました。

 神竜から神竜へと売られていく私の名はイシャンと申します。

 通常において見た目は人のなりをしておりますが、これでも聖獣でございまして、有り難ーい神の遣いたる鳳凰でございます。

 また、不老不死の身の上でありますが、その私を食べても生憎ながら不老不死にはなれません。ええ、そこのとこ、どうぞ宜しくお願い致しますね?

ーーああ、といっても、はい。もはや森羅竜様とは今日でお別れでございましたね、くはははは。


「……いつも思っていたのだが、おまえは男のくせにやたらお喋りだよな。しかも結構言いたい放題、ずけずけ言う」

「あら?元主様、お喋りな元契約獣で大変申し訳ございません。けれど私、嘘が申せませんので、どうしてもこのように言いたい放題となってしまいます」

「ぐっ。ま、まあ、もう俺がとやかく言う権利はないか……。なあ、俺の大切な友、イシャンよ。どうか頼む、あいつを助けてやっくれ。本当に俺は不甲斐ない。森羅竜だなどと偉そうに名乗りつつも、こたび発生した大地の呪いをどうする事もできないのだ」

 

 森羅竜様は、再度私に向かって頭を下げられてしまいました。


 ああ。本当に。馬鹿みたいに他人の事ばかりなお方。

 きっとあえて負けの勝負を受けられたのですね。務めを果たせぬ自責の念から、ならばせめて、光竜様のご意思に沿おうとのお考えで……

 

 そうなのです。先の争乱以降、私が耳にした風の噂によりますと、ヒースクリフ王は世界各地に住まう神竜方のもとを訪ね歩いては、彼らの神力の一部を賭けて討ち入りまがいの様々な勝負を吹っかけていらっしゃるのだとか。

 ううむ…何とも、これは大変気になりますね。

 13の神竜の持つ全ての神力をその手に集め、英雄王の彼は一体何を望んでおられるのでしょうか……?


「それにしても理解不能です。森羅竜様の契約獣である私は、確かに森羅竜様の力の一部とも言えますが、そもそもの話、私などが一体何の役に立つというのでしょう?不老不死である事と神託宣言以外、これといって私にできる事はございませんのに?」

 

 はい。鳳凰なんて実はそんなものです。

 しいて言えば、派手な極彩色の異様なパーツの怪鳥です。

ーーいえ、だから。私を食べても不老不死にはなりませんってば。味だって、絶対に美味しくはないと思いますよ?


「出会った最初におまえを食べようとしたの、未だに根に持ってるよなあ。だが俺の大好物は鶏肉なんだから、仕方あるまい」

「そこで開き直られる理由が分かりません。まあ、ですが森羅竜様、鶏肉を余り食べ過ぎると関節系に痛みを伴うご病気になりますので、これからはほどほどになさって下さいね。お身体を、今後はどうかご自愛なさいませ」

「おまえ……」


 こうして身売りされていく私ですが、それでも森羅竜様のもとで過ごした日々はわりかし楽しかったですよ。

 んんと、例えばですね。ライフワークで各地を巡る道中、他の大型獣や人間のハンターに追い掛けられては「あやつら、命懸けで神竜を狙うほど何か困ってるのか?」と馬鹿みたいにお人よしなご心配をなさったり、時にどこかの土地の他の神竜様をお見かけすれば「ど、どう接触すれば警戒されずに済むだろうか?テリトリーに侵入して、俺、きっと怒られるよな……」などとうじうじ悩まれる。

 けれどそんな森羅竜様は、一度こうと決めた事は頑固一徹。

 特に誰に頼まれたわけでもないのに、世界の補修を当然の役目として何百年も続けておられるお方。

ーーええ、全くもう、本当に……。

 とても世界最強の種族の神竜だとは思えませんが、けれど聖獣のこの私には、まさに森羅竜様のようなお方が合っていたのだと思います。

 

 森羅竜ラッセルテリオス様。役立たずの私ではございましたが、このイシャン、長年大変お世話になりました。


「ーーいいや。いいや、鳳凰イシャン。世話になったのは寧ろこちらだ。おまえの際立って優れたところは不老不死などではなく、そういうところだと常々俺は思う」

「そういうところ……?どういったところでございますか?」

「いつも泰然として変わらず自分であり続けるところだ。何百年もの気の遠くなる歳月を生きようとも、相も変わらずおまえはおまえのままだ。少しも擦り切れず、淀まず変質せず、ただ常にお喋りなイシャンであり続けている。それだけだが、けれどそれが一体どれほど得がたき事か」

「はあ…。ええと、私は聖なる神の遣いですからね!よく分かりませんが、お喋りな自分であり続ける事は至極当然の事、でございますよ?」

「……ああ、うん。それでいい。その気質であやつの、絶望した光竜の傍にずっと付いていてやってくれ。ただ、それだけでいいのだ」

「…………」


 あら?絶望、ですか。誉れ高き稀代の英雄王が、絶望??

 

 これは……どうやら複雑な事情がありそうですね。

 なるほどなるほど。そういう事ならば仕方がございません。凡庸な私如きがどうにかできるとは思えませんが、少しでも英雄王のお役に立てるよう、この先は頑張ってみましょうか。



 ーーそんなやり取りを最後に、鳳凰の私イシャンは最初の契約者である森羅竜様とお別れを致しました。

 そして新たにヒースクリフ王の契約獣になったというわけです。

 彼が独自に創造した、秘宝のルーティンパネルカード、という不思議な所有形態をとっての主従契約でした。





*********




「ーー役目?いいや、君にしてもらいたい事があるわけではない。俺はただ、13の神竜の神力を集めているだけ。この世界を滅ぼす為に、それが絶対に必要なのだから」

「そ、そうなのですか。へえー、とんでもない野望ですねえ」

「…………」


 ヒースクリフ王は大層寂しそうな瞳をしたお方でした。

 争乱後に打ち立てたエルドラシア王国、その国の王として最低限の職務を遂行する傍ら、尚も暇をみては世界各地の神竜のもとを訪ね歩き、討ち入りまがいの勝負を続けておられました。

 残念ながら役目はないと言われてしまいましたが、それでは不老不死の私は大変暇なので、勝手に彼の傍で働く事に致しましょうか。

 

 可能な限り、どこへ行くにも彼の後ろに引っ付いて行きます。

 元は流浪の旅人であるヒースクリフ様は、身の回りの事は大抵は何でもご自分でなさいますが、それでも装備品の細々としたお手入れや修繕、裁縫道具などを使っての繕いなど、また調理や調合なども意外と不得手のようでして、そこに私の出番がありました。

 王宮でも彼の執事(自称!)としてせっせと働き始めましたが、これが思った以上に私の性分に合っておりまして。人に紛れて生きるのは楽しいものでした。


 

 

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