裏側の僕と牙城の神竜9
僕は気配を消す隠遁の魔法を自分に掛け、フレイ殿下と合流する為に再び砦内に足を踏み入れた。
行けと言われた南の実験施設へ向かう前に意見やアドバイスを聞いた方がいいと思うし、誘拐されたユーフェリア嬢は本当に大丈夫なのかとか、それでフレイ殿下が暴走して何かとんでもない状況になってるんじゃないかとか、うん、そこすっごい気になるしね。
因みに実体化していた月ちゃんは「パワー切れじゃー」と言い捨てて再び僕の持ってるパネルカードの中に戻っていった。
月ちゃんの必要とするパワーって、勿論アレだよね……。
僕にはイマイチよく分かんないけど、ユーフェリア嬢に会えたフレイ殿下にお願いすれば、きっと大丈……いや、間違いなく即満タンチャージになるんじゃないの?
『ふっ。謙遜するでない。エディっちも負けてはおらぬぞ』
「いやいやいや。フレイ殿下の病的に重た過ぎる犯罪級のアレに、僕は微塵も勝ちたいとは思わないから!」
ーーなんて呑気に会話しながら歩いてたら、後ろからいきなり少年兵に声をかけられた!
「あ!そこの侍女さん!そのっ、君よりも少し背の高い、こう、可憐で清楚でマジリアル天使!な、侍女殿を見かけなかったかな!?プラチナの髪に翡翠色の瞳の超絶美少女さんなんだけど!できれば彼女の名前も知りたい!」
「は、はいぃぃぃ!?」
ーーび、びっくりしたあ!!
ええっ!?何で隠遁の魔法が効いてないの!?
何だか立派そうな軍服を着てるけど、歳は若そう。金色混じりのツンツン赤髪ヘアーで、とにかく威圧感がハンパない!
ていうか!そのプラチナの髪と翡翠色の瞳の侍女さんって、もしかしなくてもフレイ殿下の事なんじゃあ……!?
「し、知りません!!そして背が低くて悪かったね!」
「あれ?ーー何か君、異様に気配が薄くないか??」
うわっ!魔法効果を打ち破られたってわけじゃなく、単に野性的感が鋭いのか!けどヤバい、怪しまれてる!?
「ええと、あの!そ、その美少女侍女さんなら多分、何となーく、砦の外、なんじゃないか、なぁー」
「そうか!ありがとう!」
律儀にお礼を言うと、肉食獣のようにギラついた瞳をした少年兵はあっという間にその場から走り去って行った。
ふう…。気配は鋭いのに頭は空っぽみたいで助かった。
あんな面倒臭そうなのに追いかけられるとか、やっぱ予想通りにとんでもない状況になっちゃってるねぇ………
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「あ!ホントにそこにいた!」
「鳥が……!、その声は、もしかしてエルディか!?」
「そうだよ!そこに着地するから気をつけてーっ!」
その後、フレイ殿下とは直ぐに合流できた。
見下ろす眼下に彼らしき姿を見つけ、急いで急降下する。
そろそろ太陽は沈みきろうという時刻で辺りは薄暗い。僕は月ちゃんのサポートを頼りに砦の上空を飛んでいた。
「よくここにいると分かったものだ。実はちょうど今、君に魔法文を送ろうかと思っていたところで」
「あー、うん。月ちゃん経由でフレイ殿下の居場所を小精霊達に探してもらったんだ。精霊の情報網って、これが結構すごいんだよ」
『うむうむ、そうであろう、そうであろう!』
フレイ殿下は予想外の場所にいた。
砦のど真ん中に聳え立つ、石造りの塔の尖った屋根の上。
こう如何にも砦の主要部っぽい建物で、どうやって中に忍び込もうかと思ったけど、塔のてっぺんなら全然楽勝だ。
本日はこれで二度目。魔法で鳥の姿に変幻した僕は、フレイ殿下のいる小尖塔の先にひらりと降り立つ。
「よいしょっと。ところで何でこんな場所にいるの?ユーフェリア嬢は大丈夫?彼女とは無事にコンタクトできたの?」
「姉上は………」
あれ?暗く浮かない顔をしている。
無事じゃないんだったら即その場で救い出してそうなのに。魔法無効化がどうとか、帰還手段がどうとかは関係なく、何が何でも彼はユーフェリア嬢をその手に奪い返している筈で………
鳥の姿で首を傾げる僕に、月ちゃんは重い溜め息を吐く。
『どうやら知ってしまったようじゃの。貴殿の愛する大事な姫は、容易に取り戻す事はまかりならん。このまま嫌でもこの国に留まらねばならず、そして一刻も早く、姫の為にこのイエニスの大地の呪いを解く必要がある。そうでなくば……』
「じゃないと、ユーフェリア嬢が死んでしまうって?」
「エルディ!ーっ何故それを知っているのだ!?」
フレイ殿下は弾かれたように顔を上げた。
まあ、考えるのが苦手な僕でも一応は元神竜だったわけだし、呪いの原因となった三百年前の出来事も勿論知っている。知ってるどころか当時者のうちの一人だ。けれどまさか、ここまで酷い状況になっていたとはね………
「僕の奪われた竜眼による大地の呪いが三百年も続いてるんなら、ミシェル姫への呪術の影響も続いてる、例え彼女が生まれ変わったとしても、ずっと。ーーそう考えるのが当然でしょ?」
「エルディ、君は…っ!」
「ええと、ね。実はその、僕はね、」
「いや、いい。それはどうでもいい」
「ど、どうでもいいって!え、ええー…」
「いや、そうではない。例えエルディが過去に何者であったとしても、今はこの僕、フレイ・セヴォワ・エルドラシアの友人の、エルディアス・ギュンスターなのだ。だから、どうでもいいと」
「ふぇッ!?」
ちょっとッ!何て口説き文句をサラっと言うかな!?
そそそ、そういうセリフはユーフェリア嬢だけに言っててよ!!
『おおお!友愛パワーがすんごいのぅ!!』
「月ちゃん……お願いだから黙ってて?」
「けれどエルディ。友人として、どうかその力を貸してもらえないだろうか?大地の呪いを解く、ーー引いては姉上に掛かった呪いを解く為には、どうやら僕の力だけでは困難であるようだ」
「うん。ていうかそんなの、わざわざお願いされるまでもないし!今生ではちゃんと僕を頼ってくれて、その、ちょっと嬉しいし安心した。ーあ!でも一つ忠告しておくけど、今のそのフレイ殿下の顔はユーフェリア嬢には絶対見せない方がいいよ」
フレイ殿下は頭部を覆うヴェールを外していた。
何というか、うん。予想をはるかに越えて凄まじいな……こんな超絶美少女なら誰だって追い掛けたくもなるよね。まさにリアル天使だ。いや?逆に魔性かも?一国くらい簡単に滅ぼせそうな傾国の美姫で、もはやこれ、災害級レベルだね………
「フレイ殿下は男に生まれて本当に良かったね!」
「は!?突然何を言う!?ーーや、しかし。このまま侍女のフリをしていた方が姉上の傍にいるのに都合が良い。しばらく変装を続けるつもりなのだが……」
「うん、それがいいだろうね。けど、もう一度念を押すけど顔は絶対に見せない方がいい。見せたらユーフェリア嬢はきっとめちゃくちゃへこみ、しばらく口を利いてもらえなくなるかも?」
『………う、うむ。その可能性は確かに否定できぬ』
「よく分からないが、分かった……」
口を利いてもらえなくなると聞いて即頷くフレイ殿下。
ユーフェリア嬢の事となると彼は必死だ。そこは昔から決してブレない。そんな彼だからこそ、僕はこの先も全力で協力するよ。
まあ、こっちの月ちゃんを始めとして他にも協力者はいっぱいいるんだ。三百年前のあの昔と違ってね。
しみじみとそんな事を考えてたら、ふと砦の上空でーーー
ピェェェェェーーーッッッ!!!
極彩色の大鳥が上空を旋回しながら嬌声を上げていた。
『何と!ほ、鳳凰じゃ!鳳凰の宣言が下された!かの聖獣は有り難き神の遣いなるぞ!このお声とお姿は、ありとあらゆる世界中の人々に神託として齎されるであろう。古今東西、世が大きく変革する時のみ、鳳凰はそのお姿を人々の前に現すのじゃ!』
「鳳凰……?えっ、もしかして、イシャン?」
「あの執事は、本当に鳳凰だったのか……」
僕とフレイ殿下は並んで夜空を見上げた。
あの鳳凰が告げる世界の変革が、きっと僕らにとって良いものでありますようにと、ーーーそう強く願いながら。




