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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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裏側の僕と牙城の神竜4


 南に行けと言い捨てて、緑樹竜リオルージェは姿を消した。

 まあ、樹木と成り果てた彼女の本体はここにあるわけだし、本気で呼べばまた出てくるんだろうけど……



「つ、疲れた。……女の子の扱いって、僕にはさっぱりだよ。女子って、変に本音を隠すし言葉に裏があったりで僕は苦手。その点、はーちゃんは単純明快でいいなあ。今頃どうしてるんだろ?あ、連絡取らなきゃだった」

『ほう。元神竜殿は彼女一筋なのじゃな。その“はーちゃん”、とやらがわらわは羨ましいぞ!』

「へ?ーや、まあ、あ、あのさ、“エルディ”でいいよ。さっきは僕の暴走を止めてくれて、その…っありがとう」

『なんと!こ、これは!お友達にらんくあっぷ、とな!?』


 素直にお礼を言えばどこからともなくキラッ☆と光花が舞った。

 大精霊なのに偉ぶってなくて月ちゃんは話しやすいなあ。

 でも多分、相手のタイプによって合わせてくれている。緑樹竜と話していたさっきは、優しいお母さんといったカンジだった。


「しかし、小飛竜の実験施設って言ってたよね。ユーフェリア嬢をこの砦に連れて来たあの偽者王子は、不思議な青い粉をばら撒いてフレイ殿下の小飛竜を飛行不能にしてしまった。そういった危険な類いの魔法薬の研究をする施設……?」


 そんな重要な施設の情報を僕らに流すなんて……

 そこで何を見て、一体何を判断しろと言うのだろうか?

 

『さあて。このわらわは、もう目星がついておるんじゃが、実際に足を運んで見た方が良いじゃろう』

「ふうん……あのさ、月ちゃんって、なんでそんなに訳知りなの?フレイ殿下のお母さんが精霊と意思疎通ができる人で、そこから色んな情報を得ているらしいって話は聞い事があったけど。小精霊の情報網って、思った以上にすごいんだね」

『うむ。精霊というものは人の目には見えぬが、古くから大自然のそこかしこに宿って存在しておる。そして精霊同士でのみ繋がる秘密の伝達手段があるのじゃ。だがの、そうやって世界中の情報を常に手にしておっても、わらわ達精霊族というものは基本的に動いてはならぬもの、静かに見守るのみが星の掟なのじゃ』


 精霊族は俗世界に不干渉、確かにそれは有名な話だ。

 だからこそ、精霊の、しかも大精霊クラスがこうして人の前に姿を現すなんて、それはものすごく稀な事で……


「でも月ちゃん、随分と干渉しちゃってない?大丈夫?」

『ああ、よいよい。今回の案件はこの星の命運すらも大きく左右するであろう、と上からも判断されておる。本来ならばもっと早い段階で動くべきところを、如何せん止むに止まれぬ事情があってのう』

 

 ほ、星の命運を大きく左右……?

 連れ攫われた自国のお姫様をただ助けに来たって話が、ええー、そんな責任重大で壮大な案件に繋がるっての?

ーーでも、まあ……繋がっちゃうん、だろうなあ……

 

 思わず遠い目をする僕に、月ちゃんは樹木の緑樹竜を指差した。


『ところで気付かぬか?あの緑樹竜殿の本体、大地に繋がる根元付近に問題の竜眼が埋まっておるぞ』

「え!?僕の竜眼が、あそこに……!?」

『そうじゃ。三百年前、元神竜殿の竜眼は失敗した禁呪によって闇に蝕まれ、竜眼の魔力を使って敷いた結界範囲内の全ての大地を死滅させるところじゃったのじゃ。そのまま放っておけば間違いなくイエニス全土が干からびて砂漠化、国は僅か数年で確実に滅びていたであろうな』

「ちょっ……僕の竜眼が、何かとんでもない兵器になってる……」


 禁呪の事は勿論知っている。

 それの関係者は全て闇に蝕まれて非業の死を遂げ、転生してもなお、繰り返し永遠にその魂に影響を受け続けている。だからこそ、理不尽で不条理な世界そのものをヒースクリフは見限ってしまった……

 

 しかし、侵略戦争を起こした強欲のイエニス王は禁呪の失敗で死んだし、国の重鎮らもヒースクリフが主導となって国際裁判にかけて残らず一掃した。自業自得だけど、敗戦国となったイエニスは巨額の賠償金を背負わされ、他にも数多くの制裁処置を受けて、その後は大きく衰退していった。

 

 

『神竜の力を私利私欲に使おうなどと、罰が当たって当然よの。しかし、緑樹竜殿はその自らの竜体で蝕まれた竜眼を包み込み、大地への侵食を最小限に押さえてこられたのじゃ。なればこそ、このイエニスの大地は水を通すし、果実の恵みだけは残された』

「果実の恵みだけ?え?、それは、どうして?」

『わらわにも正確な理由は分からぬのだが……。穀物や野菜というものはの、人が長く健康に生きる為に大自然に手を加え、長い歳月の中で改良に改良を重ねて作り出したものなのじゃ。言うなれば、自然の摂理の中には本来は存在せぬもの、星の与えた恵みではない』


 ん?……そうなの?

 確かに小麦や野菜は勝手に育たないけど、果実は毎年その時期が来ればほっといても木にいっぱい成ってるね。

 

『そうなのじゃ。果実は何万、何億年も昔の、星の誕生時から元々この大地にある恵み。恐らくはそれ故に、果実の恵みだけは辛うじて残されたのであろう。そして緑樹竜が持つ実りの神力は、樹木の形態を取る事によってより広範囲に影響を及ぼしておる。星のエネルギーが循環する地の底の地脈を通して、イエニス王国中の大地に行き渡っておるというわけじゃ』

「え?ーーっじゃあ、緑樹竜が樹木に変容したのって!」


 国土を砂漠化させない為に?彼女はその身も命も犠牲にして、このイエニスの大地を守り続けてきたの?

ーー三百年間も、ずっと一人で……


『しかし、同属の神竜の竜眼を奪わせ侵略戦争の片棒を担いでいた、それもまた間違いなく、こちらの緑樹竜殿の仕業なのじゃ』

「…………わ、わけが分からない。だから何で、そんな事を……」


 でもあの様子じゃあ、もう話をする気はなさそうだし……


ーーああ!もう限界っ!

 僕はあれこれ考えるキャラじゃないんだよ!深読みが必須で難解な事はフレイ殿下とユーフェリア嬢の仕事でしょ!僕には荷が重いよ!

 

 いい加減に頭がパンクしそうになった僕は、緑樹竜リオルージェについて理解する事を早々に諦めた。

 こういうのは適材適所、また遭遇したら月ちゃんにお任せしちゃおう!


『ま、丸投げはどうなのじゃ……』 

「何か言った?ーあ!はーちゃんに連絡しなきゃだった!」


 はーちゃんが今どこにいるか分からないから、届くのにちょっと時間がかかっちゃうかな?でも、まあ。今日中には届くでしょ。

 僕は魔法空間から魔法紙をひょいと取り出し、はーちゃん宛てに今のこの状況を簡潔に書き込むと、さっさと風魔法で送り出す。


「これでよしと。あのさ、月ちゃん。一度フレイ殿下に事情を説明しておこうと思う。砦内に戻るね?」

『了解じゃ。エディっちよ、ごー!じゃ!』

「は?……エ、エディっち!?」





*********




 

 思いがけず、かなりの時間をロスしてしまった。

 侍女服の長い裾を掴んで回廊を全力で追いかけて行くが、ユーフェリア姉上を抱き上げた奴の姿はすでにどこにも見当たらない。



「あのように姉上の身体に触れるなど……!しかも部屋に運び込んで、奴は一体何をしようというのか!?は!ま、まさか……!」


ーー無理矢理にでも事に及び、既成事実を立てにエルドラシア王国の王女を強引に妻に迎えようとの目論みか……!?

 

 あのくせ者王子は恐らくイエニス王国の王子だ。


 実を言うとその結論に至る情報はあったのだ。今から数年前、国王陛下の養子となった時に王の口から直接聞いた事があった。

 東の軍事主義国家イエニス王国より、エルドラシア王国のレストワール公爵令嬢への縁談の話が上がっているのだと。なればこそ、その縁談が正式に申し入れられる前に、王は僕と同時に姉上をご自身の養子として迎え入れ、彼女を王女身分にしたのだ。

 他国といえど王族からの正式な婚姻の申し入れを、いち公爵家が正当な理由もなく断るのは難しい。下手をすれば自国の権威を蔑ろにした、軽んじられた馬鹿にされたと、国家間の問題へと発展してしまうのだが、対等となる王家の姫への申し入れならばその限りではない、との事で。

 

「ーーあの時の申し入れ相手があのくせ者王子の事だったならば!やはり姉上の身が危ない!奴は、奴はどっちに行った!?」


 今こそ絶対幸運のこのスキルをフルに使う時!

 持てる力全開でめいいっぱい精神を集中した僕は、“何となく”導き出された方向へ向かって駆け出した!


 やがて辿り着いたのは別の建物に繋がる連絡通路。更にそこを進ん行くと、無骨な石畳みの螺旋階段が視界に入った。


「ここだ!この建物の上階に、ユーフェリア姉上が運び込まれた!」


ーーしかし、僕はその時。

 気が急く余りに、背後から追跡していた人の気配に全く気付けなかった。

 あっ!と身構えた瞬間には時すでに遅し。


「うっ……!」

「ーー君、何やってんの?この先はむやみに立ち入っちゃダメでしょ?この中央塔は、ラージリーン殿下のプライベートな居住区域、なんだからさ?」


 隙のない身のこなしの少年が、僕の両腕をきつく捻り上げていた。




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