私とイエニスの研究塔7
「いつも思うのですが、姉上は言葉足らずです!欠けてはならない大事な部分が欠けていらっしゃいます!実は計算ずくなのでしょうか!?」
「天然です!そのっ、私、昔からあまりお友達がいなくて、だから説明下手?うーんと、要は会話スキルが低くて。もう言った気になってたりとか、逆に一人でべらべら喋り続けたりとか……ええと、とにかく、ごめんなさいっ!」
「ご友人が……そ、そうなのですか。しかし説明下手、なるほど。知能が高い人ほどそういった傾向があるみたいですね。頭の回転や情報処理能力が高すぎて、それに周囲が追いつけないと。そして回りが何故分かっていないのか当人は理解できない、そういう事ですか……」
「いやいや。単に私がうっかり屋さんだからだよ……」
私はフレイ君にこってり怒られていた。
告白した結婚歴が前々世のミシェルの事で、しかも、それがただの書類上のものだと知ったフレイ君は、ホッと肩を撫で下ろした後は、呆れ果てたのか深いため息を吐いている。
「承諾の意思もなく、書類上だけの結婚歴であったというのなら、まあ、赦します。ーーしかし、大地の呪いを解くのにご協力する、その点に勿論異論はないのですが……その為には先ず、僕も打ち明けねばならない重大な秘密があります」
ーーえ? あ、あれ?
本当に結婚してたらダメだったの……? 生まれる前の事でも??
「フレイ君が私と同じくとってもヤキモキ焼きで困ったちゃんなのは分かりました。でもよぅ~く考えてみると、フレイ君の前世に可愛い奥さんがいたとしたら、私ももの凄ーく嫌だなあと思うので、今後は肝に銘じておきます!」
「……こ、困ったちゃん……」
「はい。ところでその重大な秘密とやらですが、もしかしてフレイ君が持っている“絶対幸運のスキル”、の事ですか?」
「!!、ーー知って、おられたのですか!?」
ピンときたので聞いてみたら大正解だった。
まさか私が全然気付いていないと踏んでいたフレイ君は、被ったヴェール越しでも分かるくらい盛大に狼狽えていた。
今日は感情が豊かだな。お顔が見れないのがホント残念だ。
「ええと。実は少し前から気付いていました。あのね、きっかけは王立学園への編入学を賭けた、あのルーティン再戦勝負の時だよ。カードゲームのイカサマについてなら、知識として色々な方法を知っているけど、それでもあの時の状況からして、何度再考してもイカサマは限りなく実行不可能だった。なので、運に関する何か特別な力を持っているのかなあと」
「ルーティン勝負、お懐かしいですね。しかし、そんな前から……」
あの日、フレイ君は白のフロックコートを着ていた。
王宮で使用していた遊戯用ルーティンパネルカードは、裏の装丁が王国のエンブレムで色彩がド派手。よくある袖口や胸元のポケットに仕込みカードを忍ばせてのイカサマは無理だった。
それにフレイ君は、勝負の最後に……その、テ、テーブルから身を乗り出して、私にジリジリと迫ってきたのだ。
服にタネを仕込んでいる状態で、まさかそんな大胆な行動はしないと思う。ーー多分?
「あと、始業式の日の馬車の中。倒れて寝かされている私の横で、王様とそんなような会話をしていたのを聞いてしまいました。そもそもフレイ君って、いつも判断に迷わないよね。なのに失敗してるところを見ない。あ、ううん。迷ってる事も勿論あるにはあるんだけど、それは有効な手段や具体的なアイデアが出ない時だもの」
「選ぶだけしか能がありませんからね。とにもかくにも先ずは選ぶべき選択肢候補、そして何よりも、その中に正解が存在していなければ全く無意味……実際は、人が思う以上に有用性は高くないスキル、なのです。ーーその、姉上は、そんな僕の事を……」
ーーん? フレイ君の声が段々と萎んでいく。
やっぱり、私に知られたくないスキルだったんだろうか?
「……狡い男と、嫌いになりますか?僕は今まで、そんな卑怯なスキルで貴女をずっと騙し続けていたのです。以前、頻繁にしていた貴女との勝負、ルーティンゲームにしてもそうなのですか、そのうちの何割かは運が重要となる勝負でした。それらが全て、僕がこのスキルで勝敗をコントロールしていたかもしれません」
いや、勝負といっても所詮遊びでしょう?
ーーそれにそもそも、
「フレイ君はそんな事をしていなかったよ?」
「ーーえ!?」
「うん。だって、フレイ君はね、私に小さな嘘を付く時はそれはそれは見事な作り笑いをするもの。大きな嘘の時は、だいだい口元を手で覆い隠しちゃう。そういう時は目も合わせないかな?不満げな時や悔しい気持ちの時は手を固く握り込んでいるし、怒っている時は無表情になって、全身の動作が極力少なくなる。それでね、私と勝負している時のフレイは、いつも私の顔を真っすぐに見ていたの。イカサマしてる人って、多少なりとも後ろめたさを感じているから、普通そんな風にはしない」
いくら表面を取り繕う教育を幼少期から叩き込まれた上位貴族の子息といえども、まだ未成年の男の子が完璧に感情を押し隠すのは難しい。だから、注意深く見ていればそれくらいは気付くよ?
「あのね?フレイ君は王宮で私と勝負している時は、いつも純粋にとっても楽しそうだったよ。ーーね?これは合ってるかな?」
悪戯っぽく笑ってそう尋ねると、フレイ君はハッと息を呑んだ。
「はい。あの当時、姉上との勝負はその勝敗はどうあれ、いつもとても楽しい時間でした。そしてそれは、姉上も同じでしたよね?」
「あら?もしかしてフレイ君も、私が嘘を言うと分かるの??」
「さあ?それはどうでしょうか?」
「え?はぐらかす?そこは狡いなあ!」
「あはは。僕はやっぱり狡いんです。すみません」
これは一杯食わされたかな?
本当の事を言うと、勝負中に彼が一度も“絶対幸運のスキル”を使わなかったかどうかは分からない。けどね、もしスキルを使ってしまった事があるのだとしても、それは何か特別な、それだけの大事な事情があっての事だろうし、私はそこは信じているもの。
それにね、ーーー
「フレイ君、生まれ持ったスキルは卑怯でも狡い事でもないと思う。ーーこの際だからもう一つ告白するけど、私もミシェルの時は神様の贈り物、何百年に一人とされる稀少なスキルを持っていたんだ。フレイ君は“絶対記憶力のスキル”って、知ってるかな?」
「“絶対記憶力のスキル”……!?」
魔法とは全然違う、神様からの特別な贈り物とされるスキルって、実は他にも色々な種類があるんだよね。地球でも様々な特種な力を持った人がいたように。
「ーーそのスキルは確か、一度目にしたものをいつまでも鮮明に脳内に記憶できるという……生まれる前の姉上が、ミシェル姫が、そのスキルを持っていたと!?」
「うん。おこがましい事を言うけどね、私は自分でも記憶力の良い方だと思うんだけど、それでもあのミシェルはそれ以上、ううん、あれはもはや、人の領域を超えていた。例えば一度見た人の顔は当然ながら、その指先の指紋、ええと、ここの細かい紋様が一人一人違う形状をしているんだけど、ミシェルは出会う人全ての指紋の形状を、何年経ってもずっと覚えていられたの。彼女が目にしたものは、例えば道端の石ころだって忘れなかった。それを周囲に言えば気味悪がられると思って隠していたけれど、ミシェルは間違いなく“絶対記憶力のスキル”を持っていた」
ーーでもね、王家の姫がそんなスキルを持っていたところで、実際は何の役にも立たなかった。それで大人のミスを指摘すれば可愛いげがない、時にはズルをしているのでは?と、怒られる事もしばしばで。
「そうだったのですか……。では、もしかして。ユーフェリア姉上の聡明さは、そのミシェル姫の時の影響を受けているのかもしれませんね」
「あー、うん。それなんだけどね、フレイ君は私を気味悪がらない、そう信じているから。だからこれも言っておくね」
「はい?」
「どうやら私、ミシェルの記憶を思い出してから、何だか記憶力がもの凄ーく良くなってる気がするんだよね。まだ昨日の今日だから何とも言えないんだけど……」
「!?ーーま、まさか、今の姉上に!ミシェル姫の“絶対記憶力のスキル”が!?あの、大丈夫ですか?何か反動などは!?」
え?気味悪がるどころか、私の心配をしてくれるの??
やっぱりフレイ君はフレイ君だなあ……いかん、嬉し過ぎてまた抱き着きたくなっちゃうよ。
「まあ、それはそうと。色々と考えるのが得意で研究大好きな私と、正解がどれか何となく分かるフレイ君。この最強の私達二人が組めば、大地の呪いもきっと直ぐに解ける、ーーね、そう思わない?」




