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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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私とイエニスの研究塔3


 誘拐された虜囚である筈の私は、何故かその誘拐犯と食べ物の栄養素と働きについて真剣に熱い議論を交わしていた。


 あー、うん。何故こうなったんだろう、ねぇ?



「ええと、だからね。“御飯代わりにお菓子とケーキ”、そのテーマ自体は大変素晴らしい着眼点だったけれど、優れた栄養価にこだわり過ぎたのは大失敗だと思うわ。それだったら“脂肪になりにくいお菓子とケーキ”、この研究テーマの方が絶対オススメよ!」

「うーん。でもそのテーマだと、フルーツを使用したお菓子やケーキはNGになるのかしら?フルーツは“果糖”とかいうものが多く含まれていて脂肪になりやすいんでしょう?」

「ん?…フルーツ?」


 そういえば、どの試作品にもフルーツが使われている……?


「大丈夫。フルーツはそこまで太りやすいわけじゃないよ?むしろ美容にとってもいいし、適量なら毎日食べた方が良いくらい。大事なのは一番脂肪として吸収されやすい夜の摂取を避けるって事と、砂糖漬けやハチミツ漬けはやっぱりその分は糖分プラスだし、ドライフルーツは手軽で食べ過ぎてしまう傾向にあるから注意が必要かな」


 干し柿に干し杏に干しブドウ、ドライフルーツは縮んで小さく見えるけど、カロリーはそのまま変わらない。

 ダイエット中は食べ過ぎに要注意だ。


「へえ、そうなのね。私は太らない体質だから気にした事もなかったわ。あ!だから甘いものが好きなユーフェはちょっと肉付きがいいのね。ベッドまで運んだ時にどこもかしこもむにっと」


ーーガチャッ!!ズシャッ!!


「わあー、このバナナチップとキャラメルヌガーのケーキ、とぉっても美味しい!ちょっと刺しそこねて半分どっか飛んでっちゃったけど。うん、というかシリー、用意されたフォークがどうして全部お子様用なの?先が丸っこくて刺さらないよ!」

「ああら、先ほど自決しかけたのはどこの誰よ?予想外に過激で潔癖で貞淑なタイプのお姫様、安全仕様のカトラリーが使いづらかったら手で掴んで食べてもらっても構わないわよ?」


 む…フォーク、私の為に考慮されていたのか。

 

 厭味なのか嫌がらせなのか気遣いがちょっと斜め上なのか……

 その辺がイマイチよく分からん王子だ。魔力切れだったからといって、異性と平気で一緒のベッドで寝ちゃえる人、だもんなぁ……

 まあ、手掴みでいいと言われればここは遠慮なく。

 

ーーけれど何だかな。

 私がお皿に残ったヌガーケーキを両手で持ってもぐもぐと食べ始めると、鳩が豆鉄砲を食らった顔をするシリー。

 自分で言っておいて、何故そんな顔をするかな?


「うっ、コホン。そのケーキ、零れやすくて手が汚れてしまうでしょうに。こちらの手掴みで食べやすいタルトにしたら?」

「?汚れたらナプキンで拭けばいいじゃないの。手で掴んで食べるからこそ、よりいっそう美味しく感じるものだってあるのよ!それにせっかくのケーキを半分ダメにしてしまったから、残りはちゃんと食べて感想を言いたいわ」

「そ、そう、かしら?」

「そう!できればこれらの試作品の全てを完食して、その完成度や問題点についての詳細なレポートを作成したいくらい!ーーあ、ねえ!研究レシピか企画書はあるの?さすがにシリーが独自で全てを作ったわけではないんでしょう?」

「え、ええ。私がアイデアと取り入れる食材を考えて、それを学園から送ってうちの料理人が試行錯誤してここまで作り上げたものだけど……。そ、そんなにこれらの試作品に興味があるの?」


ーーそんなの、あるに決まってるじゃないか!

 なんて興味深い試食会なのだろうか!あ、ふむふむ、なるほど!ケーキは基本的にさつま芋やカボチャ、大豆などのタンパク質や食物繊維豊富な野菜を茹でてすり潰して、口当たりの良いムースとして取り入れてるんだ。こちらのプリンはエネルギー抜群なバナナと豆乳ベース。あちらは小麦粉ではなくフェリアが原材料に使われていて、いわゆる米粉スイーツ。

 ああ!健康志向の高級スイーツが、まさかこの世界でしかも誘拐された先で食べられるなんて……!


「次から次へとまあ!しかも、なんて美味しそうに食べる子なの!でもこのお菓子やケーキ、失敗ではなかったの?」

「えっ!とんでもない!今回の研究テーマにそぐわなかっただけで、ちょっとした改良次第で様々な需要が見込める食品だと思うよ!そうだね、例えば日持ちするように改良して、忙しくてゆっくり食事をする暇のない人の軽食用にとか、病み上がりで衰弱した人の栄養補助食品代わりにとか。ね!ちょっと考えただけでも色々なっ、ーーん?」

「よしよし。ユーフェったら可愛い!昔、私とよく遊んでくれたレオルみたいだわ!」


 こらあっ!勝手に人の頭を撫でるなっっ!!

 そのレオルっての誰よ?もしかして私、犬か猫扱いされてる!?

 ペシッ!とシリーの手を頭から振り払った私は、お次はさっぱりとしたものでちょい胃袋の休憩をと、テーブル中央に飾られたカットフルーツに手を伸ばす。

 ……ええと。どれにしようかな?

 

 バナナ、パイナップル、メロン、グアバ、マンゴー、チクー、ブドウ、ザクロ、アケビ、ドラゴンフルーツ、ets………


「なんて種類の多さ!イエニスは熱帯だから新鮮なフルーツが豊富に手に入るんだね。フルーツがこの国の主な農作物?」

「そうよ。フルーツだけは一年中事欠かないわね。でもね、昔からうちの国は穀物や野菜の生産が全くダメで輸入に頼りっきり。今回使った野菜もみーんな輸入品よ。だからどんな研究にもフルーツをなるべく積極的に取り入れて、海外への出荷需要を増やせればと思ってね」

「え?穀物と野菜が全くダメ……?」


 そ、それは……どういう事?

 シリーの何気ない言葉に唖然とする。フルーツは豊富に実るのに穀物や野菜が実らない……?

 いくらこのイエニス王国の気候がほぼ年中夏だからといって、それでも作れる農作物はたくさんある筈だ。

 数百年前のミシェルの時代は確か……小麦やとうもろこし、野菜だってキャベツや人参は普通に栽培されていたし、茶葉や香辛料なども生産してお城に税金として納められていたのを見た記憶がある。


ーー今はフルーツだけって、どうして?それで大丈夫なの??


「シリー、あのっ、フルーツの需要拡大よりも先ず、王国内の土壌について調査研究をするべきじゃない?穀物や野菜が全く育たないだなんて異常よ。土や水に何か原因があるのかもしれない……」


 もしも水が汚染されているのなら、農作物以外にも家畜や人にだって影響を及ぼしてるよね。数年単位では何ともなくても、数十年、数百年後には取り返しのつかない恐ろしい病気が発症してしまうんじゃない?というか、もうなってる可能性もある……?

 けれど私のその危惧は、実にあっけらかんとした返事で返された。


「ああ、原因は分かっているの。呪いの所為よ」

「の、呪い……!?」

「そう、このイエニス王国全土は、およそ三百年前から呪いに蝕まれている。だから作物が育たない。フルーツだけが唯一赦された恵み。神竜リオルが残してくれた最後のよりどころ」

「な、何故そんな呪いが、イエニスに!?」


ーーいや、ああ!もしかしてそれは!

 だって三百年前といえば、ちょうどあのミシェルの時代で!


「あの時の竜眼が原因!?」

「!!」


 思わず口から零れた言葉にシリーが瞠目する。正解だった。


「ーーわ、私の所為!?禁忌の呪法に対抗した、あの私の呪祖返しが原因で!?そ、それでイエニス王国の大地が呪いを受けたの!?当時の王や王族の命だけではあがないきれず、その大地まで呪われていただなんて……!」


 竜眼というものは、使いどころを間違えればこんなにも恐ろしいものなのか!ーいや!そもそも人如きが竜眼を手に入れようとなどするから!ああ!伯父やラージス、ミシェルの命だけでは済まされなかったと……!


「え、そんな……。ど、どうすればいい?どう償えば、その呪いはどうにかなるの?ねえ、シリー!何か、何か方法はなかったの?三百年間、貴方を始めとするイエニス王家の代々の子孫達は、今まで呪いに対して何の手立ても方策も見つけられなかったというの!?」


 わけの分からない言葉を私は放っているのだろう。

 イエニス王国は閉鎖的な国。だから恐らくこんな不名誉な歴史はイエニスの者しか、もしか、王家かその中枢を担う者達しか知り得ない情報だと思う。


ーーけれどシリーは、「やはり、そうか」と呟いた。


「リオルの言う通りだった。貴女はあの、ミシェル・ラド・イエニス。悲劇のミシェル王女の生まれ変わり……なんだね?」




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