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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
幼少期・王宮編
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私とお節介な候爵令嬢


「ユーフェリア様、本日も追い返してしまって宜しいのでしょうか? お会いする事が叶わないのであればせめて、お見舞いのご返事だけでも頂きたい、とあちら様はおっしゃっておられるのですが...... 」


「も、申し訳ないけれどもっ!今日も丁重にお断りして!頑固として居座るようならば、そ、そうね、ユーフェリアは女の子の日で寝込んでいます、とでもお伝え申して!」


「ええっ!そ、そこまでしてフレイ王子殿下とお会いしたくないとおっしゃる...!」


「だって病み上がりなんですもの!寝巻き姿なんですもの!ドレスなんて重くてキツくてもう嫌い!お姫様やるのもめんどーっ!もう、何もかも!みーんな、億劫なのーーーっっ!!」


「ユ、ユーフェリア様.....」



就寝着用ドレス姿で盛大にふて腐れ、自室のお気に入りカウチソファーの上で膝を組んで丸まる私。普段ならば淑女としてあるまじきお行儀の悪さです!と、このメイリーにしっかり怒られるところだけど.....


「ーーあの、一体何があったのか存じ上げませんが、王子殿下をこう何度も無下に追い返しては、外聞も宜しくありません。やはりここは一筆だけでも、言づてを差し上げてはいかがでしょう...?」


「........」


風切り羽のペンとインク壺、羊毛紙をのせたトレーを差し出されるも、だんまりを決め込んで顔も上げない私。

長い付き合いで結局は私に甘いお姉さん侍女のメイリーは、ため息を一つ落として扉の外へと出て行った。





ーーあの自ら棄権して逃げ帰ったルーティン勝負の直後。


前世は元一庶民の日本人。メンタルチキンで実は打たれ弱い私は、本性がバレていたという精神的ショックから熱を出して寝込んでしまい、その後も何やかんやと言い訳を重ねて三日間も引き込った状態を続けている。もちろん熱はすでに引いていて、本当はもう何ともないんだけれど.....。


ちなみにメイリーに絆されつつあるこのフレイ君、勝負の次の日の翌朝一番から、こうして幾度も幾度も幾度も幾度も幾度も(し、しつこいな...)私の部屋を訪ねて来ている。また、彼からのお見舞いのお手紙もすでに10通以上届いているらしいけれど、病気抜きにしても読む勇気なんぞ、私にはありません.......





ーー合わせる顔がないんです。



猫被ってたのが最初からバレバレだったんです。



調子にのって勝負だなどと、もうちゃんちゃらおかしい!何もかも!こっぱずかしい限りなんです...!


「ああ!穴があったら入りたい!そして誰か上から埋めてほしい!暗闇の中で一週間くらい体操座りで反省したい!いっそこの世界から自分の存在を魔法で消し去りたいっっっ!」


「ユーフェ姫が消えた世界? ちょっと、冗談でもやめてもらえない?貴女がいなくなってしまったら、誰が私の愚痴を聞いてくれるっていうの?」


「ーーえっ!? キャメル...!?」


驚いてソファーから跳ね起きると、そこには私の数少ない友人の一人である候爵令嬢、キャメリーナ・ファフテマが立っていた。


ブラウンに近い上品で艶やかな赤毛をおでこで二分して腰下まで長く下ろし、赤薔薇色の美しい瞳の上にはキリリとした眉。はきはきとして気の強い性格のキャメリーナ、ことキャメル。彼女の生家であるファフテマ候爵家には異母弟妹が下に8人とびっくりするくらい多く、お節介焼きがしっかりと板に付いたお姉様タイプ。現在は確か、王立学園初等科の生徒会長を務めているとか。


「ご機嫌よう、ユーフェ様。ねえ、何だかとんでもなくマズイ事になってるじゃないの。王宮では貴女とフレイ王子殿下がついに決裂したとの噂で持ち切りよ。いよいよ二人の王位争いが本格化したようだとね。これ、実際はどういう事かしら? 」


「も、もうそんな噂が!?...それは確かにマズイ!せっかく最近は収まっていた王宮の派閥争いが....」


ちなみにキャメルには私の庶民な本性はバレている。初対面からしてこの彼女、“普通に話したら? 同類だから分かるのよ 、どうぞお気兼ねなく”と、一目でエセお姫様の私を見抜いてしまったのだ。

ううん。前世が元庶民だった私のお姫様演技なんて、所詮はお遊びの学園祭レベルなのかもしれない。大根役者並の白々しさで、みんな本当は影では笑っていたのかも!?ーーふとそう考えたら、もっと気が沈んで重たくなっていく。


「突然だけどキャメル、私は隠居するわ!どうかたまには会いに来てやっね。極寒の地でも原生林の奥地でも熱帯砂漠の果てでも、友人ならば訪ねて来てくれるかしら?」


「ちょっと!何を寝ぼけた事言ってるのよ!その若さで隠居はダメでしょう!?第一、それは隠居じゃなくって命懸けの大冒険と世間では言うのよ!そもそも貴女、王都に複数あるご自分のお店はどうするのよ!あのダイエットと美容に絶大な効果があると評判の果実ベリー専門店に、太らないと噂の夢のような低カロリースイーツ店!珍しい香草美容茶の輸入店に最近では猫がお出迎えするペットカフェまで開いたと聞くわ!そしてそのどれもが今や大繁盛の人気店!あれらのお店はどうするのよ! 」


「え。いや、あれらのお店はアイデアと少し資金を提供しただけで、別に私のお店というわけでは.....で、でもだって!もうね!今さらどんな顔とキャラで顔を合わせればいいか分かんないってのよ!ーーねえ、キャメル!ちょっと正直に答えて!私の本性って、やっぱりみんなにもバレバレだったの!?」


「バレバレ?......なるほど。そういう事ね。」


何故か首を180°後ろに回転させて呆れるキャメル。


「まったく、不甲斐ないわねえ。というか予想通りのヘタレっぷり。は!あまりにも情けなくって、笑っちゃうわね。」


「...キャメル?」


どしたの。後ろには扉しかないよ?


「大丈夫よ。本当に本当のユーフェは私にしかバレていないわ。残念ながらこの私だけだから、安心しなさい。それに候爵令嬢で王立学園のお姉様、などと呼ばれているこの私だって、実際はこんなものよ? 貴族なら裏の顔の一つや二つ、使い分けてて当然でしょう? そんなの、別に開き直っちゃえばいいのよ!」


「キャメルはお茶会や舞踏会でだって、そのまんまのお姉様キャラじゃない!口調が丁寧になるだけで、猫被ってるわけではないじゃない!それに比べて私はもう、ずーーーっと、計算高くて鼻持ちならないキャラやってて!それらが全部、最初っからバレてたってのよ!さらに、あの場にはキットソン候爵子息とギュンター伯爵子息もいたし!ああっ!こうなったらもう最後!私は王宮を出ていくしかないわ!」



ーーーガタンッ!!!



「い、いけません!ユーフェリア様からの入室のご許可がっ!」


「すまないが!エルドラシア王国の未来を左右する一大事だ!侍女殿よ、無礼は承知!実力行使で以ってしても!ここは入らせてもらう!」


ええ!こ、この声はっ!

このプライベートな居室へと続く、応接の間から!今一番会いたくない相手、フレイ君の切羽詰まった声が聞こえた!

ーーか、帰ってなかったんだ!扉前で追い返した筈の彼が!どうして壁一枚向こうの、隣の部屋にいるのよ!?



「あら。ようやく甲斐性を見せてくれそうじゃないの。ユーフェ姫、これはいい機会よ。貴方たちは一度、腹を割ってとことん話し合うべきだと私は思うわ。だから、お邪魔虫はこの辺で退散と致しましょうか。」


「キャメルぅぅぅ!貴女が彼を部屋に入れたのね!というか、今の会話を全部聞かれてたあああ!?」


「だって私、お節介な性分なの。ご存知でしょう?...ああ。あと最後に一つだけ。ーーーユーフェリア・レストワール・エルドラシア王女殿下、春からの王立学園への編入学、学園を代表して心より歓迎致しますわ。」


「が、学園に編入学!? ちょっとキャメル!それはどういう事!? 」


「ーーどういう事も何も!それはこちらの言い分です!ユーフェリア姉上!王宮を出ていかれるだなどと、それは一体どういう事なのですか!ましてやご隠居されるなど言語道断!」


「ーーっ!!」


キャメルと入れ替わるよう、フレイ君が部屋に入ってきた!!

うそおっ!!いつも礼儀正しく謙虚な彼がこんな暴挙を!?あ、いや、実は彼、俺様王子予備軍だったんだっけ!?


だけども!ここは逃げなくては!だって、寝巻き姿なんだよ!

別に前世だったら普通に街を歩けそうな薄めのロングワンピース、でもこの世界の貴族の常識でははしたないってなもんでしょ!?


「あ!ユーフェリア姉上っ...!」


一目散にカウチソファーから飛び上がり、寝室へと逃げ出す私を鬼ごっこの如く追いかけてくるフレイ君!

ーーところでこんな時になんだけど!

その腕の脇に抱え持ってる湯たんぽ、それは何!?


「姉上ッ!どうしてそこまでしてお逃げになるのですか!」


「ちょ、ちょっと待って!今はだってわたくし、こんな格好で!」


「だから何だ!言い訳はもう結構!往生際が悪いっ!」


「フレイ君!人の事言えないけど、口調!口調が!」


「あ!ーーだが、フ、フレイ“君”...!?」


“フレイ様”呼びなんてもうわざとらしいし!どうせ隠居するし!

でも、フレイ君!何でそんなに嬉しそうなの!?


「ぜー、はー、落ち着いて!と、とにかく一度部屋の外へ!」


「聞けませんね!ユーフェリア姉上にこうして拝顔叶うまで、僕が一体何回通い続けたとお思いでしょうか!もしや本当にご病気なのかと、こうしてっ、ーーー!!」


「あっ!!」

「はっ!!」


ザバァーーー!!!


フレイ君の持ち上げた湯たんぽから何故かタイミング悪く詮がすっぽ抜け、お湯がそのまま勢いよく零れ落ちた!!


「ーーぎゃあああっ!フレイ君、大丈夫!? その腕、すぐに冷やさなきゃ! 水!冷水!保冷剤!あ、服はそのままで!無理に服を引っぺ返せば皮膚が剥がれちゃうと医学書に書いてあったから!メイリーっ!」


「そうなのですか!姉上、あの、ですが、大丈夫です。上手く避けたので、お湯はかかりませんでした。」


大慌てでその辺の水差しをひっ掴んで駆け寄るも、フレイ君は両腕を大きく広げて大丈夫アピールをした。


「よ、避けたの!? ああ!良かった!び、びっくりした...!」


でも床に敷かれた絨毯は水浸しのビシャビシャだ。

そして、安心して気が抜けたのか、急激に頭が冷えてきた。

ーーどうやらそれは、フレイ君も同じだったようで。


「ふっ、ーーあはは!」

「ぷっ、くふふふ!ーーもう、何なの!何でそこで笑うの!」


「そちらこそ、ははっ!そしてやっぱり、ユーフェリア姉上はお人よしだ。そうやって逃げるのも忘れ、ご自分の衣服が汚れるのも厭わず、無我夢中で咄嗟に対応なされる。それは口調や態度がどうでも、少しも変わらない。どちらでも、“ユーフェリア”に違いないのです。」



そう笑って、フレイ君は真っすぐに私の目を見た。






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