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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
72/119

僕と奪われた月と願い星1

フレイ君視点です。

裏側の諸事情が語られています。



「おかしい。ユーフェリア嬢は今、この学園の敷地内のどこにもいない」


 エルディの弾き出した答えに僕は愕然とした。

 本日の昼食後、中央棟の中庭で待ち合わせをしていた姉上は、約束の時間からおよそ1時間以上経ってもその姿を現さなかったのだ。

 

 彼女が無断で約束事を破るなど有り得ない。そもそも午前中は同じ教室内にいたのだ。急用ができたのならばその場で僕に断りに来ただろうし、それが無理な場合は他の誰かかしらに言付けている筈で。しかも今日のこの約束は、僕と姉上、2人にとって何よりも大切な事だった。


ーー何か、不測の事態が彼女の身に起きた……?

 

 姉上がお好きな紫陽花を尻目にその中庭を後にし、教室にまだ残っていたエルディに居場所を探ってもらえば、すでにこの王立学園の敷地内にはおられないとの回答。


 くっ!こんな事態になるならば、例え迷惑であろうと鬱陶しがられようと、片時も目を離さず彼女の傍にひっ付いていれば良かった……


「エルディ、嫌な予感がする。ーーいや、違う。実は嫌な予感がずっとしていた、今日、目を覚ましたその瞬間から」

「それは……もしかして、君の絶対幸運のスキルから?」

「ああ。選ぶ意思も、これといった選択肢もない状態でも、不意に吉兆や凶兆を感じる事がある。今朝起きた瞬間、とてつもなく嫌な予感がしたんだ」


 取り返しのつかない、何か恐ろしい事が起きるような予感。


「だがそれは姉上のちょっとした家出を兼ねた出奔騒動の事で、すでに未然に防いで解決したと思った。ーーそう、勘違いしてしまっていたのだ」

「王女が家出って……僕が無性に釘を刺したくなったのもその所為なわけ?それで解決どころか、その凶兆は現在進行形らしいって事だね。…………マズい。太陽が奪われたか?」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇





ーー時刻は本日の朝方まで遡る。

 朝日も昇りきらぬ薄暗い時刻に目を覚ました僕は、その瞬間、理由もなくガタガタと激しい身震いに全身を襲われた。


ーー何か、とんでもなく恐ろしい事が起きる?

 例えばそう、ユーフェリア姉上が、自分の手の届かないどこか遠くの地に行ってしまう………

 わけもなく、何故かそんな予感がして。

 早朝に淑女の部屋を訪ねるなどマナー違反。けれど居てもたってもいられず、簡単に身支度だけを整え、念の為に学園の制服を着込んで彼女の部屋を訪ねてみれば、ーーーーー




「フレイ王子殿下!?このような時刻に、一体どうされたのですか?……その、ユーフェリア様はご起床されていらっしゃいますが……」


 メイリーという名の侍女が僕の訪問に目を丸くする。

 姉上が心を許す忠実な腹心とも言える女性で、王子身分の僕であろうと時には訪問をキッパリと断られた事もある。だが今日という日は断られるわけにはいかない、何がどうあっても。


「侍女殿。姉上におかしなご様子はありませんか?昨日と一昨日と、本殿宮の晩餐に2日続いてご欠席されておられます。体調不良ならば、御殿医が必ず召し上げられる筈ですが、それもありませんでした。……彼女が本当の姉代わりと慕う貴女にお尋ねします。追い詰められたユーフェリア姉上は、果たしてどういった行動に出ると思われますか?」

「!!」


 姉上は郊外オリエンテーションで大泣きされていた。

 ラッティナ男爵令嬢の一方的な暴言によって、見ていたこちらも胸が苦しくなるくらい深く傷付いておられ、泣き止まれた後は彼女の目元が真っ赤に腫れ上がっていたほどだった。

 

 どうやらこちらの侍女殿も、姉上のそのご様子について大層気を揉んでいたらしい。いつもは姉上に申し伝える定型の手順があり、その間は控えの間で待たされるのが通例なのだが、侍女殿はほんの一瞬だけ逡巡した後、なんと今日はそのまま姉上の部屋に通された。


ーーえ!? 意外な事に、そんな流れで侍女殿に案内されたのはいつもの応接間ではなく……こ、ここは!姉上のごく私的な居室のミニダイニング!?

 

 姉上のプライベートルーム……

 普段、彼女が何の気負いもなく無防備に、時にはあられもない格好で寛いでおられる空間なのだ。“王女の部屋”という完璧に取り繕われた来客用の部屋ではなく、夢にまで見た好意ある女性の禁断で未踏のプライベート空間。……ああ。婚約者といえど、よもやここに通される日が来るとは……

 

 ええと。ちょっと落ち付け自分。

 今は興奮している場合ではないし、横に控え立つ侍女殿の視線が痛い。というか、侍女殿は姉上の所へ僕の訪問を伝えに行かないのだろうか?

 疑問に思いながらも失礼でない程度にさりげなく部屋を見渡せば……もっと贅沢をしても良いのに、と思うほど全体的に慎ましやかで物自体が少なく、けれどセンスと知性の高さが感じられる家具や小物。それら姉上の好みやレイアウトを、来るべき将来の為にと頭に叩き込んで記憶し、可愛らしいアンティーク調の円卓テーブルに座って待っていると………

 

 そこへ旅行用トランクをガラガラと押して寝室から出てきた姉上と目がかち合った。そしてその途端、彼女の動きが天敵に遭遇した栗鼠のようにそのままピタリと止まった。 

 

ーー何故、旅行用の、トランクをッ!??

 

 姉上!一体それで、今からどこへ行かれるおつもりなのですか!?

 冗談じゃない!全く以って冗談じゃない!彼女を僕の手の届かないところへなど、絶対に行かせるわけには行かない!

 なるほど。僕が感じた不安感はこの事態を警告していたのか。

 

 無言で頷き合い、利害が完全に一致した侍女殿と共に姉上を説教……いや、必死で説得し、何とか思い留まらせる事に成功すると、そこへ更なる意外な珍客がやって来た。

 姉上のお母君である、クレメイア夫人が来訪されたのだ。


 自分の母ミュゼットの同腹の姉であり、元エルドシア王国の第一王女殿下でもあるレストワール公爵夫人が、このような早朝(自分の事は棚上げであるが)から何故王宮に??


 自分も昔から母とは関係が希薄であるように、ユーフェリア姉上もまた、彼女のお母君とはどうやら疎遠であるようだった。

 事実、こちらの外殿宮に移り住んでからというもの、このクレメイア夫人が姉上を訪ねてきた事は一度たりともなかった。普通であれば自分の娘が王女身分となったとたん、虎の威を借る狐の如く喜々として王宮に入り浸り、“王女殿下の生母”としての権力をめいいっぱい振りかざすものだろうに、それもなし。

 

 「私に無関心」ーーいつだったか何かの折りに、ふと姉上がそうポツリと寂しそうに口零した事があったのだが。

 いや、だがしかし!聞けば自分の母に1年近くもお会いしていなかったとか!姉上、それはもう異常です、いくらなんでも有り得ません!

 レストワール公爵家ではこれが普通なのか?クレメイア夫人とは、一体どういったお方なのだろうか……?




「ーー…このようにお二人はお部屋もご一緒で、大変仲睦まじいご関係のよう。できるだけ早く、そして多くの子を成す、という王族としての務めをしっかり果たさんとしているみたいですね。……ご立派な事です」


 まさに氷の女王といったご夫人だった。

 会話が進むにつれ、突き刺すような殺気が飛んできた。


 言葉とは裏腹に「何故お前が私の娘と朝から一緒の部屋にいる」、という大変重圧の篭った視線を向けてきた。仲睦まじいやら子を成すのが云々は盛大な皮肉と厭味であり、実際本当に僕と姉上がすでにそういう仲であったならば、この人は躊躇なく僕を抹殺してしまいそうな雰囲気だった。

 今までにも儀礼的な挨拶を交わした事はあったのだが、こんなギスギスとした空気を纏ったお方ではなかったと思うのだが。


ーー無関心どころか、大変に娘想いではないか……

 

 どういう深い理由があるのか知らないが、表立って娘を可愛がれない、関われない事情があるようで、その積もり積もった鬱憤すら感じられた。

 というか、姉上はどうしてこれに全くお気づきにならないのだろう?昔から常々思っていたのだが、彼女は自分に向けられる好意に対してとても鈍い………


 凍ったワインを頬に叩き付けられる、といった嫌がらせを受けたものの、クレメイア夫人は特にこれといった用件もなかったようで、熟年の貫禄ある侍女殿にせっつかれ促され、速やかに部屋から辞去された。

 どうやら本当に、娘の様子を見にいらしただけらしく。


ーーしかし僕は、この訪問によって大変な危機感を感じていた。


 クレメイア夫人は僕とユーフェリア姉上との結婚に乗り気ではない。それどころか断固として反対の意を暗に示されたのだ。

 仮とはいえ、王子身分である僕へ攻撃魔法を放つ。それは極刑に処されるのも辞さない構えであり、僕という存在が大いに気に入らない、と宣戦布告されたと同義であったのだ。


 尋常でない焦りが沸々と込み上げてきた。

 あの国王陛下は結局のところ僕と姉上との婚姻を応援しているようであるし、実際、過去の王宮から戻った僕が覚悟を決めたと意思を明確すれば、大喜びで姉上との婚約誓約書を作成してくれた。そして姉上自身も妥協して頷いてくれたわけで。

 

ーーけれどここにきて、実母のクレメイア夫人が結婚に反対と言えば、姉上は簡単にその意思を覆されるのではないのだろうか?

 

 思えば強引な婚約の申し込みだった。王家の呪いの事もあり、他により良い選択肢もない中で仕方がなくのなし崩しに結ばれた結婚契約。自信などある筈がなかった。多少の好意は持たれているようだが、それはあくまでも弟や仲間意識のようなもので、男女のそれではないと思っていた。

 だから、政略的な婚約の約束など容易く反古にもなり得る………

 

 

ーーその後、学園へと向かった馬車の中で僕は姉上に無理矢理キスをしてしまう事になる。

 既成事実とまではいかないが、こうすれば、こういった行為をすれば、少しでも彼女を繋ぎ止める事が可能になるのではと、そう短絡的にも思ってしまったのだ。

 



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