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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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私と小飛竜の方だった王子様4



「リリシュさんが、ラージスとそっくり瓜二つ……?」


ーーいや。でも今、私の事を「ミシェル王女殿下」と呼んだ。

 本人の私でさえも存在を拒み、忘れたままでいたかった前世の名と身分を。ーーとなれば、リリシュ嬢はラージスの生まれ変わり……?


「え?ならリリシュさんは、本当は女の子でなく男の子?……でもどうして私の夢の中に入って来れるの?」


 前世では私の従兄弟であったラージス。

 彼はイエニスの王だった私の父を弑逆し、王位を簒奪した王兄(父の腹違いの兄)の息子だ。城から落ち延びて以来、何年も会う事もなかった彼だが、それでもやはり、分厚い銀縁眼鏡を外したリリシュ嬢の素顔は間違いなくそのラージスそっくりで、髪さえ短かければまさに本人そのものに見えた。

 

 さっき思い出したばかりの私のもう一つの前世、東の軍事主義国家イエニスの王族だったミシェル。そのミシェルの従兄弟にあたるラージスが転生した姿がリリシュ嬢、ーーだなんて真実、ただの夢にしてはあまりにも荒唐無稽で突拍子がなさ過ぎる。

 まあ、夢って大概そういうものだけど……


「強引に攫われたにしてはかすり傷一つなく、そして案外平気そうですね。それで、僕が貴女の見る夢の中にどうして現れたか、ですか?」


 戸惑う私に、ラージスはとんでもない事を口にする。


「それは僕と貴女が前世において、他の誰よりも縁が深かったからです。形式上でも結んだ縁があれば、夢くらい繋いで渡れる。ーー忌ま忌ましい事に、ラージス・ルド・イエニスとミシェル・ラド・イエニスは、聖教会に婚姻を受理された正式な夫婦だった。……全くふざけてる、笑い話にもならない話ですね」


ーーな!わ、私とラージスが夫婦だった!?


 でも、ああ、そうか。そういう事、だったんだ。

 それならば、リリシュ嬢が私に悪意を向けていた理由も納得できる。むしろ、よくぞあの程度で済まされていたものだ、とさえ思えてくる。もっと手酷い報復をされていたとしても、彼にはその正当な権利があると言えなくもなくて。

 ……ああ、何と言う深い因縁だった事か!


「ーーそう。血の繋がった血族の、姪である私をいつまで経っても捕えられなかったから、あの伯父は勝手に結婚誓約書を作成し、金銭と武力に物を言わせて受理させてしまったという事ね。そしてその繋いだ縁を使って、半ば強引に自分の身代わりに仕立て上げた……」


 呪術はそれを扱う呪術者自身の血が何よりも重要。

 自分と近い血統の者ほど、強力過ぎる呪術の反動を押し付ける、自らの代替え品の役割を十分に果たしてくれるというわけだ。


「何て人道にももとる悪魔のような所業……!つまり、身代わりにされたのは姪の私だけではなく、……」

「そうです。あの血も涙もない悪魔のような父王は、実の息子の僕でさえも禁呪が跳ね返った際の保険代わりに、身代わりの駒にした。勝手に息子の妻にした元ミシェル王女殿下、貴女ごとね。古き言い伝えでは竜眼の力を完全に我が物とすれば、優に千年以上の寿命を得られるとされているのですから、息子の一人くらい惜しむ道理もなかったのでしょう」


 酷い話だった。私は死んだ当時12歳であったが、あの王国の王族の婚姻は子供を産めれば何歳でも良いとされていたのだ。

 けれど!そんなものの為に人を勝手に結婚させるだなんて!

 ではラージスは、もしかして私と同時に命を落とした?いつもユーフェリアの私に突っ掛かってきていたのは、呪術返しに自分を巻き込んだから……?


 禁術による呪術返しの反動は絶大だ。

 あれによって伯父のイエニス王は確実に死んだ筈だし、呪術返しを行った私自身は勿論のこと、私と形式上の夫婦であったというラージスも命を落としたのだろう。それが禁呪の恐ろしい仕組み。人を呪わば墓二つ。


「ーー知らなかったとはいえ、私は貴方を道連れにしてしまった?それで私の事を怨んでいる……」

「ハッ!そんな事を一世をまたいで怨んでいるわけないでしょう。そもそも僕は、貴女の、ミシェル王女の父上を殺した男の息子であるわけです。怨むのなら貴女こそが、でしょう?それに遅かれ早かれ、どのみち父王の身代わりで殺されていた。逆にあの狂王の野望を止めてくれて、僕は貴女に感謝しているくらいですよ」


ーーは、はあッ!?

 ラージスが、リリシュ嬢が、私に、感謝?


 わけが分からない。いつも盛大な皮肉と嫌みばかりで、郊外オリエンテーションでは散々に私を貶し罵ったのだ。前世での事を怨んでいないというならば、ではそれなら、一体何の理由があって……!?


「ラージス、貴方という人間が分からない!何が目的で、わっ、ーー、ーー!??」


ーーその先の言葉か、続かなかった。

 

 口から出される筈の音が、黒いモヤモヤに飲み込まれていくのだ。

 あ!これは郊外オリエンテーションの時にも見た不思議な現象で、その黒いモヤモヤはやはり、このラージスの手元から発生している!?


「絶対に手に入らないのなら、怨まれていた方がまだマシでしょう」

「?」

「いえ。……とにかく、どう足掻いてもこのルートでは最悪な結末しかありません。このままでは貴女はイエニスに連れて行かれ、破滅の道具とされる。こうして繋がった今なら、あの“彼”に気付かれず逃げおおせるチャンスかもしれません」


 ルート?結末?ーー私が、イエニス王国に連れて行かれる!?

 

 でも!何故私を毛嫌いするラージスが、わざわざ夢の中にやって来てまで私を逃がそうとするのか?彼の真意が全く分からない。身辺に気を付けるよう事前に忠告もしていたし、私が攫われると彼にとって都合の悪い事でもあるのだろうか?

 そう考えていると、彼はいきなり歩を進めて無防備だった私の腕をぐいと引っ掴んだ!


「こちら側へ、僕の行く場所に大人しくついて来て下さい。現状ではそれしか方法はありません、多少のリスクは覚悟してもらえますか?」


ーーいや!彼は私を一体どこへ連れて行くつもりなの!?

 

 勝手に声を奪い、強引に腕を引き、シリーと同じくこのラージスまでもが私を連れ攫おうというのか!例え私を助ける意図であるとしても、逃げたその先が無事で済むとは到底思えない!ラージスの事など信じられない!

 ああ、もういい加減にして!これ以上わけの分からないところへなんて、私は絶対に行きたくない!


「抵抗してもムダです。僕が持つ、この“靫葛ウツボカヅラの卵”の力は神竜の恩恵の中でも群を抜いて特別。貴女の幸運の王子様だってどうにもできません。そもそもこれほど容易く貴女を連れ攫われ、さっさと助ける事もできないとは……」


ーー違う!連れ攫われたのは私が甘かったからで!フレイ君はシリーを警戒してたし、小飛竜に乗って私を助けにも来てくれた!

 でも、シリーのばら撒いた小瓶の中の粉で小飛竜ごと落下し、彼は地面に叩き付けられ……


 ああ。そのフレイ君は無事なのだろうか?

 大変な時こそしっかりしなきゃいけないのに、私はあっさり気絶なんかして、そしてじめじめしたこんな夢の中に逃げ込んで、呑気に現実逃避?  

 嫌な事、手に負えない事があるとすぐに逃げる、隠れる、そして果てには自暴自棄になって何もかも諦めてしまう。前世から何も成長していない、本当に、ただムダにIQが高いだけの役立つの大馬鹿者。何もできない、実は気弱で情けない王女だ。



ーー腹が立った。無性に、この自分自身に腹が立った。



「ーーっ私は!自分の窮地くらい自分で何とかしなきゃ!今世では決して諦めたくないし、もう絶望もしたりしない!フレイ君の事だって絶対に助ける!方法がなければ自分で作ってみせるし、ルートだって切り開いてみせる!こうなったら最後の最後まで往生際悪く、トコトン頑固に抗ってやる!だからラージス、その手を放しなさい!」

「くっ、ーーな、声が!何ッ!?」



ーーパアアアッッッ!!!


 気付けば、ラージスがその場で膝を折っていた。

 

 眩しそうに彼が目を眇めたその先には、あの“草の王冠”。

 私の頭の上には、崩れ落ちた筈のルーティンパネルカードの“草の王冠”が再び現れ、後光のような強い光を放っていた。

 その光は、この暗闇の夢をも打ち消す勢いで、ーーーー


「ミシェル王女!この手を取らなかった事、後悔しますよ!」

「しないわね!ーー残念だけれど、この娘はそっち側に連れて行かせやしない!闇は闇に帰りなさい!」

「ちっ!」


 ラージスは光を恐れるように闇の中へと消えていった。

ーーそして彼と入れ替わるように現れたのは。


「ーーちょっとぉぉぉ!貴女、何攫われちゃってんのぉぉぉ!?」

「う!あ、はい!?」

「私!忠告したわよね!ちゃんと貴女に忠告した筈よね!?あの小飛竜の王子様を信用しちゃダメって、彼は貴女を騙して油断させておいて、いつか自分の意のままに従う王妃という名の奴隷にするつもりだって、ーーそうしっかり念を押しておいたのに、どうしてこんな事になってるのかしら!?」


 サイドだけ淡いすみれ色のメッシュが入った綿菓子のようにふわふわとした特徴的な髪。背には蝶の翅がパタパタと煌めく妖精さん。

 確か魔法学科適性試験の時に出会ったその妖精さんは、何と言うか、もう盛大にプリプリと怒っておられた。

ーいや、でもッ!


「え?ちょっと待って下さい?ーー「小飛竜の王子様」って!、だって、それはフレイ君の事を指して言っていたのでは……!?」

「違うわよ!!に害を為しているよ!!最近だって、外部から飛来する小飛竜に問題が起きていたでしょう!あれも彼の仕業よ!」

「分かるかかあああ!!聞いてない!知らない!それがシリーの仕業だなんて私は知らなかった!そして「小飛竜の~」だけではなく、ちゃんと言って下さい!私にとって「小飛竜の王子様」といったらフレイ君の事に決まってます!勘違いして当然です!」


 編入学して出会ったばかりのあの当初に、シリーが小飛竜に関わっていた事などどう察してそして警戒せよと……!?


「あら、そうだったかしら?」

「そうです。妖精さんはお喋りが一方的です。独りよがりです」

「妖精さん……ええと、そういえば名乗っていなかっけれど、私の名はアーシェよ。13の神竜が一体、“紡竜つむぎりゅう”のアーシェ。よろしくね!」

 

ーー紡竜の、アーシェさん?

 一体それはどんな恩恵を持つ神竜なのか?つむぎという響きからして“草の王冠”の持つ絶対的カリスマ性とは、何だか少し違うような?伝説の神竜が持つ恩恵は、もしかして一体につき一つとは限らない……?

 

 しかし相変わらず一方的なアーシェさんは、はたまたろくな説明もないままに、さっさとお別れの言葉を告げる。


「あ!ちょっと貴女、もう戻らないとヤバいわ!すでに最悪ルート突入だけど、さっき闇を退けたあの調子で頑張ってね!大丈夫!貴女にはあの幸運の王子様がついてるもの!だからまあ、きっと何とかなりそうだし、多分何とかなるんじゃない?じゃあ、取り敢えず、何とか生き延びてねーーー!」


 適当だ!何とかばっかりで助言になってないしーー!

ーーん? でも「幸運の王子様がついてる」って、それはどういう事……!?




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