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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
70/119

私と小飛竜の方だった王子様3

シーン追加しました。


 

 気が付くと私は暗闇にいた。胸の中は恐怖と不安感でいっぱいで。


ーーあ。そうだ。そうだった。

 私は友人だと信じていたシリーに騙され荷馬車に詰め込まれ、王立学園からまんまと誘拐されてしまったのだ。

 そしてそんな窮地に陥った私を、フレイ君が小飛竜を駆って助けに来てくれたのだが、その彼も騎乗していた小飛竜もろとも落下してしまい……

 なるほど。きっとそれを見たショックで、私はその場で気を失ったんだと思う。


 そう現状を理解した途端、目前の暗闇の中に血だらけで横たわるフレイ君の幻が現れた。彼は頭から血を流し、俯せに倒れた身体はもうピクリとも動かない……

 

ーーっいや!やめて、見たくない、こんなフレイ君の姿、例え夢や幻でだってみたくないのに……!

 ああ、けれど。決してこれは幻ではないのかもしれない。

 だってあの高さとスピードで地面に落下した場合、前世の世界ではおよそ99%の確率で助からない。人は案外呆気なく死ぬのだ。そう、信じられないくらい簡単に命を落としてしまう。

 だって、ほら。こんな風に血だらけになって息絶える、それは前世の私もそうだったのだから。


ーー前世の私? あれ……そう、だった?

 私の前世は日本人で女子大生。IQが高い事くらいしか取り柄のなかった私は、一体どういう死に方をしたんだろうか……?

 

 よく考えてみれば、私は前世の死因を憶えていない。……その筈なのに、それでも確か、大量に血を吐いて、身体中のあらゆる箇所から血を噴き出して、そんな悍ましく見るも無惨な死に方をした。憶えていない筈なのに、私は何故か知っているのだ。

 暗闇に心まで侵食されていく中、そう自分で自覚すると、血だらけで横たわる幻は突然フレイ君から私に切り替わった。

 虚ろな目を大きく見開いたまま、絶望して死に絶えた前世の小さな私が見える。痩せっぽっちで生きる気力もなく、何も起こさず成し遂げる事もなく、死を自ら望んでしまった無気力で脆弱な少女。

 

ーーそう、できれば思い出したくはなかった前世の私の名は………



「ミシェル!ミシェル!何故こんな!ーーすぐに治療する!だから頼む、死ぬな!死なないでくれぇえぇぇ!!」


 立派な成人の男性が私を抱き抱えて泣き崩れていた。

 人から隔絶した才知と戦闘力を持ち、村を襲ってきた何十人もの武装兵士を、たった一人であっという間に倒してしまった旅人の青年。

 何をやらせても完全無欠の万能さで、聖人君主の如く穏やかな気性をした彼は、まるで物語に描かれる勇者そのもののよう。そんな彼、ヒースクリフの慌て取り乱した姿を私は初めて目にしていた。ーーまさかそこまで、そこまで彼が私などの死を嘆いてくれるとは夢にも思わなかったのだ。

 

 わずかに残る力で“ごめんなさい”、と伝えようとするけれど。もう手も口も眼球でさえも動いてはくれない。当然の報い、だった。


ーー伯父が行った竜眼を我が物にせんとする恐ろしい禁忌の呪術。

 その反動の身代わりに、捨て駒の依り代の一人にされた私は、そこで逆に繋がったその道筋を利用し、禁呪を解呪して跳ね返すこれまた禁忌なる手法を取った。私は我が身を犠牲に、“贄”として他者に呪い返しを行ったというわけだ。

 命をかけた禁忌なる解呪法。けれどこの方法でしか、私の父の仇であるあの憎きイエニス王の暴虐を止められる術はなかった。

 

 私の父は大陸の東に位置するイエニスという国の王だった。

 けれどある日、欲深く傲慢だった王兄率いる一派に卑劣な騙し討ちで殺され、そのまま王座を奪われてしまった。

 いち早くこの簒奪劇を聞き付けた私は、王妃であった母親を連れて何とか遠く小さな村に逃げ伸びたのだが、そこでも平穏には暮らせなかった。



「ーー“シモン”?こんな指先の細かな模様をよく覚えているね。私は長い間旅をしていたけれど、変装を見破られたのは初めてだ。ーー君はとても不思議な娘だね。どうやら狙われているようだし、このまま放ってはおけない。私が保護しよう」

 

 ヒースクリフと名乗る謎の青年が、私と母親の境遇を見るに見兼ねて保護を申し出た。

 私には生れつき前世の記憶があって、その世界での知識と少々他者よりも抜きん出た記憶力と頭脳を持っていた為、私は彼の興味を引いたらしい。

 

 血筋故に伯父に狙われ続ける私達親子にはそれはとても幸運で、有り難い申し出でだったけれど、正直私はこの時にはもう生きる事に少々疲れ果てていた。

 

ーーそれにこんな能力、この世界では何の役にも立ちはしない。私は無力で役立ずで彼にとってはお荷物でしかないのだ。

 

 危険思想を掲げる伯父イエニス王は大陸各地を侵略せんと軍勢を押し進めていたが、小心者で未だ幼い私にはどうにかできる手立てもツテも味方もいなかった。軍勢を止める為の大量殺戮用の道具や毒物を作り上げる度胸もなく、ただ、戦争で今後予想される食料不足に向けての作物改善の研究を細々と行うのみ。

 実際に財産を奪われ虐げられる弱者をその手で救い、勇猛果敢なその力で以ってして多くの人々を活気づけ奮い立たせ、非道なイエニスの侵略に対抗する解放軍を立ち上げた彼に比べれば、私の研究など何の意味も為さない子供のおままごとに過ぎなく。


「ーーいや、私はそうは思わない。ミシェル、君の実りを豊かにする研究はとても意義のある素晴らしいものだと思う。……戦争は間もなく終わる。その時には私も、君の研究の協力をしたい。私は君と共に生きて、君の心の底から笑う顔を見たいんだ」


 ある日、そんなプロポーズ紛いの言葉を言われたが、私の胸中にはただ息苦しさと悲しみが広がるだけだった。

 

 私は英雄と尊ばれる彼には相応しくない。それに精神年齢はともかくも、今の私はやっと12歳になったばかりの子供。剣を持てば一騎当千の如く強く、されど誰もが見惚れる美丈夫な彼とは到底釣り合わなかった。

 それでも明くる日、少しでも彼の働きに報いる事ができればと、月桂樹の葉と蔦で懸命に心を籠めて編んだ草の王冠を手渡すと。


「先勝祈願……?君が私の為に作ってくれたのか!嬉しい、有難う!未来永劫、これは大事にとっておこう!」


 すぐに捨てられて当然のようなそれを、意外にも彼は大袈裟なくらい喜んでくれて、何故かそのまま私は彼の肩にひょいと乗せられた。

 突然のスキンシップに驚くものの、「この位置でないと草冠を被った私が見えないだろう?」と開き直っていて、照れて真っ赤になった私をしばらくは下ろしてくれなかった。

  

ーーけれどその日、家に帰った私はその一部始終を見ていた母に「疫病神が男をたぶらかして何様のつもりだ!」と詰られ叩かれた。


 やんごとない名家の生まれで元王妃であった私の母は、私さえいなければこんな目に遭わずに済んだのにと、毎日のようにこうしてヒステリックに泣き叫ぶ。

 誰も見ていないところで頬や頭を叩き、時に物を投げ付けて私を責め立てた。それはヒースクリフが自分の隠れ里に私と母を招き入れ、仮初の安息の地を得た後も引き続いていた。

 その度に私はあの従兄弟の顔を思い出す。仇であるイエニス王の息子、ラージスという名の今は王子身分となった少年。


「君を見てるとむかつく、イライラする。他人を見る目が明らかに他と異質だ。自分は格が違うんだと高をくくってるのか?いっておくが、身分や位の事を言ってるんじゃない、もっと別の次元で君は……」


 従兄弟でありながらも顔を合わせる度に不快感丸出しでそういう彼は、不思議とあのリリシュ・ラッティナ嬢に似ていた。

 王立学園の魔法学科のクラスメートで、出会った当初から私に突っ掛かってばかりの彼女に。


ーーそう思った瞬間、彼女の声が聞こえた。


「ーーここにきてようやく思い出したんですか。本当に貴女という人はむかつきますね、ミシェル王女殿下。いや、今はユーフェリア王女殿下、でしたか。全く、ご丁寧に人が忠告して差し上げたのに、何故こうして攫われてるんです?馬鹿なんですか?」


「え?リリシュ、さん……!?」


 暗闇の中にふと、いっそう深い闇が渦巻き、そこへ人の姿が現れた。

 それはあのリリシュ嬢であり、けれどトレードマークの銀縁眼鏡を外したその素顔は…………


「ラ、ラージス!!どうして!?」




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