私と運命のルーティン勝負3
「もちろん、確実といえる根拠はございます。ーーですが、ユーフェリア姉上。今、この場において。それをご説明申し上げても宜しいのでしょうか?」
「当然ですわ!フレイ様の出題なされたこの問題、わたくしは納得がいきませんもの!ーーああ。そちらのアルバート様!まさかなど、何もありはしません!こ、肯定も否定もしなかったのは、そのっ、あまりに荒唐無稽なフレイ様の持論に、わたくしの思考がすぐに追い付かなかったからっ、ですわよ!」
「いや、それならば、あえて否定する必要などないのでは...その通りだと言っておけば、貴女の世間の評判は上がるだろうに。」
ーーああっ!マズイ!!
人を騙して振り回す嘘つき女じゃなくって、やっぱりそう好意的に取られちゃうんだ!これは思った以上にヘタを打ってる!でもどうにもここは引っ込みが付かない!だって反論もなしでは、私が本当は王冠なんて望んでいないって本心すらもバレちゃうかもしれない....!
「では納得のいくご説明をしましょう。どうぞ、ご覚悟を?」
ご覚悟って、何がよ!?
フレイ君ったらキャラが違う!義姉想いの謙虚な義弟でちょっぴり負けず嫌い。間違ってもそんなドSな顔をする子じゃない!
けれど。すでに獲物を捕らえたような面持ちで彼は話し出す。
「ーー“高貴なる知の姫君”、王宮でそう称えられる聡明利発なユーフェリア姉上。その姉上と僕のささやかな勝負は、実はわずか8歳という幼少期のあの運命の出会いから始まります。」
ーー何か始まったよ!!
何だい、運命の出会いって!私が8歳の時って、まだフレイ君とは顔合わせをしてない筈!全然記憶にないんだけど!?
「ふうむ。殿下は8歳で一体どんな勝負を?」
「ファンくらぶ必聴!きっと超愛らしい幼少期のユーフェ様!これは絶対に聞き逃せないってば!」
後ろの近衛騎士達が私の真横に進み出た。
あの、緊迫した警備体制を取る必要は今どこにもない筈なんだけど?そして息ピッタリだな!この2人やっぱり仲良し過ぎない!?
「ーーあれは忘れもしません。毎年春に催されるオルストフ国王陛下のご誕生パーティーに参加する為、王城の迎賓殿に数日前から滞在していた時の事です。実家のセヴォワ公爵家よりも荘厳な雰囲気、煌びやかで絢爛な装飾の部屋。いつもと違う周囲の環境で緊張のあまり夜明け前に目を覚ましてしまった僕は、ふと部屋の窓から庭園の片隅でうずくまっている少女を見つけてしまったのです。ーーーーええ。それが後に僕の義理の姉上となられる、ユーフェリア・レストワール。僕のサヴォワ家とは当時すでに犬猿の仲と言われていた、レストワール公爵家の惣領姫でした。」
*********
「ーーおい、そこのおまえ。そんな所で何をしてる?」
地面にしゃがみ込んだままこちらを振り返った少女は、闇色の髪とラベンダーの花のような瞳の色の女の子だった。
手は土で汚れているけれど、不思議とスカラリーメイド(※屋敷で最低辺に位置する厨房の食器洗いメイド)には見えない。絹仕立ての衣服を身につけているし、よく見れば容姿も整っている。なんというか...この俺を見て、面倒だと言わんばかりに顔をしかめる人間なんて初めてだった。
「.....鳥さんを埋めてるのよ。さっき私の部屋の前に捨て置きやがった罰あたりな奴がいたの。食べる目的以外での殺生なんて天罰が下る所業ね。」
「うっ。それ、し、死んでいるのか....」
浅葉色の鳥が地面に掘られた穴の中に花と一緒に納められていた。
かわいそうだとは思ったけれど、首があらぬ方にねじ曲がっていてすごく気持ち悪い。色も黒ずんでて...死骸とはこんな.....
朝から嫌なものを見てしまったな。
「わざわざ君が埋めているのか? 家の侍女を呼びつけて処理させればいい。獣の死骸なんて触ったら、手や衣服が汚れてしまうだろう? 」
「あー、はいはい。こんな事くらいで使用人に勤務時間外労働なんてさせたら気の毒よ。労働組合なんぞない縦社会上等な貴族身分制度のこの世界。 ただでさえ定休なしの連日残業オーバーなんだから、せめて朝くらいゆっくり寝かせてあげたいわ。」
「ろうどうくみ...ていきゅ...?」
ポンポンと知らない単語が女の子の口から飛び出す。
俺は物覚えが早く聡明なご子息だと、いつも皆に口々に言われているけれど。この子はもっと難しい言葉を知っているのか。
ポカンと目を見開いて驚いていると、その視線に気づいた女の子は、ちょっときまりが悪そうに目をそらした。
尊敬されるのが、この子は苦手なのか....?
「ええと、とにかく!使用人任せにしたら、こうやってちゃんと葬ってくれるかどうか分からないし!...最近、これと同じような悪趣味な嫌がらせ、どうやら多いみたいでみんなも大変そうなの。」
「多い? これと同じような所業が、よくあるって事なのか!? こんなくだらない姑息で下劣な手口を、誇り高きこのエルドラシア貴族の者が命じていると...! 」
「そうよ。まあ、お城に滞在中もやらかすとは思ってなかったけれど。こうなるともう、身内に手引してる奴がいるって事よね...。嫉みや当てつけ、貴族間同士の派閥争いにはこんなの日常茶飯事よ。前世にも嫌がらせはよくされたし、私はもう慣れっこ。わざわざ人出もお金もかけて、ご苦労な事よねぇ。」
「知らなかった...時おり感じの悪い奴がいるな、とは思ってたけど。裏でこんなくだらない事を.....。派閥争い、か。ならば君の家は、とても家格が上なんだな。よければ家名を聞かせてもらっても?」
この王城の迎賓殿に滞在を許され、俺と同じ年頃の女の子。
それはもしかしたら.....
「家名? 知りたいのなら、当ててみれば? 当てたらご褒美があるかもよ。でもねぇ、身分も派閥も実際は意味なんてないんだから。」
「な!み、身分に、意味がない.....? あった方が偉いし、得じゃないか? 俺の両親もまわりの大人もいつもそう言ってる。権力があれば何でも欲しいものは手にできるし、皆が尊敬して傅くんだと。」
「うわっ!洗脳されてる!貴族のお子ちゃまって、こんな風に厚顔無知の鼻持ちならない奴に育っていくのね!俺様王子とか、リアルだと超ドン引きだし!おお、嘆かわしやっ!!」
「はあ!?ーーこ、厚顔無知!?“俺様王子”って、それは俺を馬鹿にしているのか!? いいか!俺の名はっ 」
「しゃらぁーーーぷ!!」
「うおっ!わっ、顔近いっっ!!」
お、女の子とこんなに顔を近づけたの、は、初めてだ!
だけど、俺の肩を掴む女の子の手は意外にも強くて動けない!
「いい? よおーく、聞きな? 権力と聞けば一族の繁栄と金に名声に時にすり寄ってくる美女達と!めっちゃお得感溢れる超魅力的なものに君の目には写るかもしれない。けれどね、結局その手には何にもないのと同じなのよ。」
「何もないのと同じ...?ええと。そこに美女達は、関係ないだろ?」
「あるよ!そんな権力目当てに集まる輩なんて、逆に権力を失えば蜘蛛の子を散らすように消えてなくなるんだもの。そうなればお金も名声もついでにその美女達も去っていき、あっという間に手元からなくなっていくの。ね? それだったら何もないのと同じでしょう? 」
「....そ、それは.......」
きゅ、急にそんな事を言われても...
でもどうしてだろう? 今日会ったばかりの、しかも風変わりな女の子の言う事だっていうのに、不思議と心に重く響いた。
ーー彼女の言った事を、よく考えてみる。
もしも。もしもの、例えばの話。俺がある日、セヴォワ公爵家の子供じゃなくなったら。その時は俺に何が残る? 一体誰が、それでもこの俺の傍にいてくれる.......?
「おっと!そろそろ完全に夜が明けちゃうわ。じゃあ、俺様王子予備軍の君、願わくば改心する事を!さらば!ごきげんよう!」
「ーーあっ!ま、待て!君の名っ、当ててみろと言った、君の名は....!」
*********
「その女の子の名はユーフェリア。僕の従姉にしてレストワール公爵家の惣領姫。現在はユーフェリア・レストワール・エルドラシア。姉上、貴女なのです。互いの家同士が不仲であった為、公式に面と向かってお会いしたのはその2年後でしたが、僕の事をまったく覚えておられませんでしたね。」
「あああっ!あの!あの時の、俺様王子予備軍の子っ!」
「ええ。あの時の俺様王子が、この僕なのです。そして“権力なんて手にしても、何もないのと同じ”、それをおっしゃったユーフェリア姉上が、王冠を望んでの派閥争いもご自分が優位に立ちたいが為の勝負事など、なされるわけがないのです。ーーこれが、確実といえる根拠なのですが。そこの見届け人のアルバートにエルディアス、よく理解できただろうか?」
「ーーいや。え? という事は。やはりまさか、だったと?」
「だからさあ。そんな事は知ってるってば。ユーフェリア殿下が実は大のお人よし、って事くらいさ。」
「っ嘘ぉおお!!イメージが!だ、だって、あの時と態度が全然違ってる!一人称が“俺”じゃなくなってるし!」
「俺様王子予備軍、とかおっしゃるものからとりあえず出来うる限り回避してみました。ユーフェリア姉上は不遜な態度の男はお嫌いなようでしたので。」
「か、髪の色も違ってた!私が会ったのは栗色の髪の子で!」
「僕のプラチナの髪色は珍しくて目立つのです。これを目印に誘拐されそうになった事も少なからずありまして。普段のプライベートでは、魔法で髪色を変えているのです。」
「ちょっと待て!じゃ、じゃあ、フレイ君には私の本性も企ても!6年前からからすでにバレバレだったと!!」
「殿下!恐れながらっ、口調が大変乱れておいでです!」
ーーーあっ!!!
「き、ききき棄権します!このルーティン勝負はわたくしの負けでっ、よ、宜しいですわ!だから退席をっ、!ーーーもおぉ、いやああああーーーっ!!!」
「で、殿下!お一人ではいけません!お待ちをっ!!」
「ここは追わないのが紳士だけど!でも追わなきゃいけないのが俺ら近衛騎士の職務!ーーあ!フレイ殿下はダメです!ここで追ったら100%嫌われます!」
「なっ...!!」
コマンド→全力で逃げる




