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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
囚われのお姫様編
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私と小飛竜の方だった王子様2


ーーⅧ番の“法王の錫杖しゃくじょう

 目の前に掲げられたそのパネルカードに私は息を呑む!



「あら?そこまで驚く事かしら?13もの神々の恩恵を封じ込めた初代エルドラシア国王ヒースクリフ王のルーティンパネルカード。けれどパネルカード自身が気に入った所有者を見つければその者の元へと飛んでいってしまう特性の為に、二代目以降は徐々に秘宝はエルドラシアの王宮から失われ、現在は多くが所在不明。ならば他国へと流失した可能性だってあるのだから、この私が所有してても不思議はないでしょうに」


 小首を傾けながら尤もらしい言葉を吐くシリー。

 まさかエルドラシア王国の秘宝を彼が持っていたなんて!しかも!シリーの持つ“法王の錫杖”の方が私の所有カードよりも上位!?考えた事もなかった。パネルカードにランクなどというものがあるだなんて!

 

 けれど論より証拠。私が召喚した“草の王冠”はバラバラに崩れ落ち、編まれていた月桂樹の葉が足元の床板に散らばっていく。


「その表情からして知らなかったようね。Ⅷ番の“法王の錫杖”、ーーこの恩恵の力はね、あらゆる効果・攻撃を直ちに無効化する事よ。ユーフェ、貴女が持つ秘宝の力だってこのように掻き消してしまえるの、とても凄いでしょう?」

「無効化……!?」


ーー頭の中が真っ白になった。


 何だそれ。あらゆる効果を無効化?同列だと思っていたその他の秘宝の力さえ、こんなに呆気なく無効化してしまえる??

 ならばそのシリーが所有する“法王の錫杖”ーーそれこそが、ルーティンパネルカードで一番の、秘宝の中で最も最強最上のカード、という事になる!?


 か、勝てない。だって勝てる術が、ない。


 私の持つパネルカードは意味を成さず無効化された。

 ならば魔法での攻撃も脱出手段もその秘宝によって即無効化され、恐らく無意味になる。ーーそもそも先ず、実用的な攻撃魔法を躊躇なく扱える自信が私にはない。前世においては平和主義国家、人との輪を大切にしよう、争わずに先ずは話し合い、お互いを尊重して助け合おう、そんな教育精神理論を保育園からいい聞かせられた私には、人を殺す事はおろか傷付ける事さえ難題だ。

 ましてやこの私は、保有魔力量が多過ぎて威力を上手くコントロールできないのだ。仮に攻撃魔法を放ったとしても、走行する荷馬車もろとも破壊しかねない。


ーーお、恐ろしい。ムリ。特に相手はこのシリーなのだ。


 ついさっきまで友人だと認識していた彼を害するなんてしたくない。ビビリで情けないと自分でも思うけれど、それでもおっかないのだ。


「シリー、貴方は私をどうしたいの?こんな風に攫って、それでどうするつもりなの?考えうる限り、これはかなり計画的な誘拐よね。そもそも王立学園への留学自体がその為の下準備?ーーいえ。私との長年に渡る文通からしてスパイ活動だったという事?このエルドラシア王国の内情を探る目的の」


 ならば出会った当初の昔、彼が女装して女の子のフリをしていたのも納得だ。そしてその後も私の勘違いを訂正せず、ずっと騙っていた事も。

 

 女子同士であればどうしても気が緩み、ましてや積極的で話し上手、聞き上手の社交的な彼だ。主に文通していた手紙では、お互い興味のあるテーマの論争や研究に関しての意見交換だったけれど、ちょっとした悩み事や周囲の出来事も書いていた。決して重要な国家機密は漏らしていない筈だが、今年は寒冷で全国的に不作で心配だとか、街にどこかの国の観光客が急激に増えた、どこそこの輸入品が爆発的に流行っている、くらいの情報は普通にやり取りしていたと思う。

 

 つまりは……シリーと交わした友情の全部が嘘で、こうしていつか私に……ううん、エルドラシア王国に何らかの害を成す為の、偽装で策略だったという事……?


「ねえ、ユーフェ。一つ聞くけれど、私がペンフレンドの“シリー”本人である事は疑ってないのね?」

「それ……」


 それは当たり前……と言いかけて、口が動かなくなった。

 私の文通友達だったシリーは間違いなくこのシリーだ。最初は男性である事に戸惑いはしたけれど、一ヶ月以上も友人として接していれば分かる。手紙の中から窺い見えていたシリーという人間性や人物像、それはやっぱりこのシリーである彼なのだ。お互い研究が大好きで、新種の穀物“フェリア”を苦労の末に一から共同開発した仲間を、いくらニブい私でも間違えるわけがない。例え手紙をどこかで入手して読み込み、“シリー”に成り済まそうとしたとしても、そこは絶対に騙されない。騙されたりはしない。

 

 でも。今になって分からなくなった。

 私の知っていると思っていたシリーは、人を騙して誘拐するような悪い人ではない……そう信じていたのに。

 ……恐い、恐いよ。彼は私をどうするつもりなの……!?



ーー込み上げる不安と恐怖に立ち竦んだ、そまさにその時。

 私の耳にようやく待ちに待った救いの声が聞こえた!



「止まれ!そこの馬車よ、直ちに停止せよ!ーー警告する!速やかに停止せぬ場合、王命に則り攻撃手段を取る!神妙に従え!」


 こ、この声っ……!!

 捕われた荷馬車に窓はなく、その姿は確認不可能だけど!でもたった今、上空から聞こえた声は絶対に間違いなくっ……!!

 私は大きく息を吸い、渾身の力を振り絞って叫んだ!


「フレイ君!私はここです!ここに捕われています!ーーっ助けて!」


ーーバァンッ!!ドォォオンッ!!

「ーーひっ!」


 突然シリーが高く足を振り上げ、荷馬車の壁を蹴破る!

 いきなりの暴挙に悲鳴を上げつつも、側面の壁の胸より高い位置に空いた大穴から見上げた空には!小飛竜に騎乗したフレイ君の姿が見えた!


「あら。さすがは貴女の王子様ね。あの若さで小飛竜に騎乗でき、尚且つ片手で魔法弾を打ち落とせるだなんて。普段は絶対に周囲に見せないけれど、お綺麗な顔に見合わず意外と武勇に優れているのよね」


ーー凄い!凄いよ、フレイ君だ!幻じゃない、来てくれた……!

 猛烈なスピードで走り続ける荷馬車に合わせ、彼は素早く高度を下げて低空飛行に切り替えると、更に威嚇の魔法弾を左右に二発落とす!


「姉上ッ!ーーああ!ご無事で良かった!直ぐにお助け致します!」

「うん!フレイ君、助けに来てくれて有難う!」

 

 これできっと助かる、ーーなどと安堵したのも束の間。

 シリーは救いに来たフレイ君の登場に全く動じず、おもむろに懐から小さな青い小瓶を取り出した。


「ユーフェ、覚えているかしら?今からおよそ4、5年前、このエルドラシア王国内において大規模な軍馬の熱病騒動が起きた事を」

「え?ーーね、熱病騒動?」


ーー嫌な予感がした。

 確かに彼の言う軍馬の熱病騒動はあった。

 私の見立てでは“馬流感”という感染病で、王国内のほぼ全ての警邏隊駐屯地にて大流行した脅威の熱病。この時の視察で私は、非公式ではあったけれどセヴォワ公爵子息としてのフレイ君と初めて顔を合わせたのだ。本当はもっと前に王宮で出会っていたのだけれど。ーーそして彼とリュカさんら医師団と協力し、速やかに熱病騒動を鎮静化させる事に成功した。


「その熱病騒動の少し前、軍馬より先んじて小飛竜が同様と見られる熱病にかかっていた事はご存知かしら?軍馬よりも小規模ではあったけれど、ちょっとした騒ぎになった筈よ?」

「ーーな、何が言いたいの?ねえ、シリー。その小瓶は何?一体何をするつもりなの?」

 

 シリーの言わんとする言葉の意味も分からぬまま、その小瓶のコルク蓋は抜き取られてしまった。そしてその中身を空いた大穴から外へ、上空のフレイ君目がけて振り撒かれた!


「いけない!フレイ君!逃げてぇ!ーーああっ!!」

「ーークギャアアアッッッ!!」



 小瓶の中から青い煙幕のような霧が大量に発生し、それを浴びた小飛竜は絶叫を上げて苦しみ出した!そして呆然とする私の目の前で、フレイ君ごと真っ逆さまに地面へと墜落してしまった。





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