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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園婚約期編
63/119

私と彼の、守られなかった約束1


 頭の中が強制的に真っ白に塗り潰された。

 あるのは感覚だけ。唇に押しあたったしっとりと柔らかい熱は、ほんの数秒ですぐに離されるも、まだ鼻先にその熱は留まり、



「本当に嫌であれば、殴ってでも抵抗して下さい。…………貴女には、こうでもしないと伝わらない。」

「え?ーーっ、んぅ!」


 て、抵抗も何も!こんなガッチリと覆いかぶさられてはっっ!!

 細い見た目に反してなんて力!馬車の座席に閉じ込められ縫い付けられ、両耳の横には彼の手が柵のように固定されていて。成す術などっ、いや、これ、絶対ないと思うんだけど……!?

 

「なっ、んでっ!こっ、ーーんむーっ」

 

 必死でこの現状に至った理由を尋ねようとも、かぶりつくような荒々しいキスの猛攻にあえなく撃沈していく!くっ、苦しーーっ

 だからなんでっ!私は今、こんな事になってんのーーっ!??

 突然キスをされている意味が分からない!わけが分からない!しかもこれ初キス!それに嫌ならば殴れって……!?


ーーふと、平手打ち事件のあの勇ましいキャメルの姿が頭に浮かぶ。

 

 まさに今、その平手打ちの正当な権利が発生した場面だけど!

 でも非力な私が実行可能か不可能かはさておき、不思議とその手段を選択しようという気には……なれ、ない??

 

 ……こういってはなんだけど、婚約者とはいえあくまで政略的の仮であると約束した以上、同意もなしに異性相手にいきなりこれは、うん。ズバリ痴漢被害に遭っていると言っても過言ではない。前世では刑法176条・強制わいせつ罪、このエルドラシア王国の法令では192条・道徳不適切罪にあたる。いや、そんな罪名など何にせよ!要はこれまでに築き上げてきた信頼を裏切られた、騙されていたと思うべきところであり。ならば私は彼を辛辣になじり罵り罵倒し、今後においては彼との関係を見直す、あるいはきっぱりと断絶する、が妥当な処置で…………

 

ーーそれはでも。うん、嫌だな、絶対に嫌………

 

 

 唯一のよりどころである論理的思考が、盛大に矛盾していた。

 

 

 私は今、突然に、乱暴に、勝手にキスをされている。

 でもその彼を嫌悪し、これを厳しく罰したいとは思わないのだ。そもそも冷静になって現状を確認してみれば圧迫感は感じるものの、いつの間にか頬と肩に添えられた彼の手は少し震えていて。まるで壊れやすいものを扱うかのように慎重で優しい。

 第一、こうしてキスされてても鳥肌が立つとか生理的にダメだとか、そういう不快感は微塵も湧いてこなくて。今あるのは、ええと?………ただびっくり!という驚きの感情と、突然で、前もって断りもなかった事に対する不満の感情、だけ??

 

 

 それより寧ろ、これで誰かが彼を罪人として引っ立てるなり裁判で責め立てようものなら、私は必死で彼を擁護してしまいそうだ。

 そう、「大した抵抗も拒否もせず、しかもその行為を嫌だと感じなかった以上、私は被害者にはあたらないんです!」と……………


 つ、つまり、私は、順序正しくきちんと告白され、それなりの段階を踏んだ後に「キスしてもよろしいですか?」と、彼にねだられていれば、ーーべ、別に構わなかった、と、いう事……!?うん、だって、嫌じゃないって事はそういう事で………

 あ!も、勿論!フレイ君以外は絶対にお断りだけどね!


 そ、そうか、そうだったんだ。ーーならば私は、今世での私は、いつの間にか、このフレイ君の事を…………

 




「むっ、ーーふりゃあッッッ!!」

「!!ーーっ、」


 やりたくはなかったが、最後の手段の正面頭突きをかました!

 

 口が押さえられているので額狙いで威力はあんまりないけど、でもちょっとツボに入ったかも?少なくとも私の頭はもの凄い大ダメージだ!鼻も打ったし!フレイ君にもしっかり効いたのか、あっさりとその身を引いてくれた。


 というか。時間にして10秒もなかったと思うのだが、もの凄く色んな思考が頭の中を駆け巡っていたような…………

 こんな場面においても理知的で可愛くもない自分に呆れつつも。ガンガンと痛む頭を手で押さえながら前に視線を向けてみると、彼はみるみるとその顔を真っ青に、絶望の色に染め上げていく。


「……嫌で、ある、と………」


ーーあっ。ち、違う、違うよ? そんな顔をしないで。

 やっぱり、ああ。………例えフレイ君が間違ってても構わないと、それでもいいのだと、ついさっき自分の口から出た言葉の意味を思い知る。

 それほど深く考えて言ったわけではなかった筈なのに、素直にそう思って口にした言葉だったけれど。そうか、ちゃんと心の奥では自覚していたんだね。ていうかそれ、よく考えたらプロポーズみたい………


「あの、姉上、………申し訳あり、」

「こんなのは嫌に決まってます!びっくりしたあっ!」

「……………………」


 気恥ずかし過ぎて思わず悪態をつけば。フレイ君は顔面蒼白から更に、この世の終わりを見たような顔になった。

 待て待て!うあああーーー、もう、しょうがない!覚悟を決めろ!

 私は今のでショックを受けたのか、更に距離を取ろうとする彼の制服の袖をぎゅっと掴んで引き留め、決死の想いで口を開いた!!



「フレイ君、ちょっと、よろしいですか?」

「…………は、はい。」

「本来ならっ、こういう事をするのなら、したいのなら、ちゃんと手順を踏んで順番を守ってから、ーーっ、その、し、しましょうね!」

「は???」


 情けない私はこれ以上は、彼の顔を見てなど言えやしない。

 真っ赤々になっている顔を伏せ、けれど、はっきりと宣言した。


「だから!「嫌」なんかではない、という事です!」

「ーーっ!!!」

「ニブい私も悪いと思うけど!今のは順番が間違ってると思います!」


 ゴクリと息を呑む音が聞こえた。絶望的な表情から一転、彼の翡翠の瞳には光が煌々と灯り出す。

 こ、この反応……ちょっと面白いな、ていうか可愛い。


「あの、姉上?その、つまり、それは………」

「他の娘にはしないでね?だったら、もう嫌です。」

「ーーっしません!するわけがありません!ユーフェリア姉上にだけです!この名にかけて誓います!」

「う、うん。絶対ね。約束ね。」


 最初から重たいかな?でもフレイ君はモテるからなあ……

 そう思ってしばし見つめ合っていたら、フレイ君が意を決したように表情を引き締め、ピッと姿勢を正した。


「ーーユーフェリア姉上、順序を間違えて本当に申し訳ありませんでした。それでもまだ、この未熟で勝手な自分を見限らずにいてくれるのであれば、貴女にお伝えしたい言葉があります。どうか聞いて下さいますか?」


「はい、大丈夫です。真剣に聞きますので、ええと、どうぞ。」


 一言一句、余さず違わず一生涯記憶しておこう。このムダに良すぎるIQ140の頭脳は、この日この時この瞬間の為にあったのだから!

 向かい合うフレイ君と同じく私も居住まいを正し、淑女らしく両手を膝の上に重ねてその言葉を待っていると、ーーーーー



「ーー王子殿下、ならびに王女殿下に申し上げます!!間もなくご予定時間通り、目的地の王立学園へご到着致します!!」


「「!!!」」


 突然そこへ、馬車と並走して馬を駆る専属護衛騎士の呼びかけが。

 あ。そういえばここ、王立学園へ向かう馬車の中だった。


 


ーーいや、でも、ちょっと!なんでこのタイミングなの!何もこんな大事な時に到着しなくても~~~っっっ!!

 何とも言えない微妙な空気となった中、気をすっかり削がれた様子のフレイ君がそれはそれは残念そうな顔で提案してきた。


「……あの、とても大事な告白ですので、改めて、後でゆっくりと静かな場所で。」

「はい。うん。仕方ないですね……」

「ええと。ーーでは昼食後に、中央棟の中庭で待ち合わせ致しませんか?」

「あ!そこ、紫陽花が見ごろなんだよね!いいね!楽しみに待ってます!」


 1番好きな花は何と言っても色とりどりのラナンキュラスだけど、もう開花時期は終わっちゃったからね。でも紫陽花は私が2番目に好きな花。知ってて提案してくれたのかな?

 思わずにっこり笑うと、そのタイミングで王立学園へと到着。エスコートされて馬車を下りた私は、浮き立つ心に押されるまま自分からその手の形を組み替え、フレイ君と手を繋いで昇降口へと歩き出した。

 その行為に少し驚くも、いつものように歩み始める彼。

 

ーー明日も明後日も明々後日も。この光景がこの先の卒業までずっと続く事を、この時の私はささやかに願っていた。




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