私と運命のルーティン勝負2
「ユーフェリア姉上。本日は僕の勝負をお受け下さって有難うございます。実は今回のこのルーティン勝負、一つ変わった趣向のルールを追加したいのですが、ご許可を頂けるでしょうか?」
見届け人&応援人が双方合わせて4名と、予想外にも賑やかになった王城の遊戯広間。いよいよ約束の勝負開始、といったところで対戦相手のフレイ君がルールの追加という妙な提案をしてきた。
関係ないけど相変わらず美少年だ。笑顔がキラキラだ。
「ま、まあ。変わった趣向のルール追加、ですか? 」
ーーフレイ君、やっぱり何か企んできた!
このルーティンというパネルゲーム、そもそもエルドラシア王国で昔から親しまれている貴族のゲームでルールは至って単純。
カード構成は神秘的な図案が描かれた絵柄違いのパネル札が全部で11種類あり、飾り枠のカラーがそれぞれ赤・青と各2枚ずつで合計4枚。合わせて全44枚あるパネル札を裏返して、トランプでお馴染みの“神経衰弱”をするという遊びなのだ。
トランプと違う点といえば二つ。ジョーカーが存在しないという事と、絵柄だけを揃えるのではなく、飾り枠カラーも同色の2枚を揃えてようやくペア成立となる、といった点だ。
ちょっとだけ神経衰弱より難易度が高いよね。
「フレイ殿下。勝負の見届け人である我らにも詳しいご説明を。ペアを合わせるだけのこのルーティンに追加できるようなルールとは、それは一体?」
「何だろ? 揃えた絵柄によって獲得ポイントが違うとか? でもそれならさ、結局は記憶力頼みで今までと何も変わらないよねー。」
真面目アルバ君と毒舌エルディちゃんが疑問の声を上げる。取り巻きの彼らもこのルール追加については聞かされていないみたい。
戸惑う彼ら対し、正面の私を向いて微笑んだままのフレイ君は思いがけない事を口にした。
「はい。では、姉上。そしてついでに皆にもご説明しましょう。今回のルーティン勝負、相手のポイントターンに移った際にもう一方が一つ問題を提示する、といった趣向を加えたいのです。その問題に10秒以内に答えられなかった場合、テーブル上のパネル札はディーラーによって再びシャッフルされます。」
「「え!シャッフル!?」」
「あら。それではせっかく覚えたパネル札が全て無意味になる...双方、どちらにとっても不利益ですわね。しかもわざと不正解を選択すればこの勝負、完全に運頼みといったゲームになってしまうではありませんか。ーーまさかフレイ様は、それが狙いというわけなのでしょうか?」
「いいえ。決してそうはなりません。補足ですが、不正解が3回目となった時点でその者が負けと致します。......問題にお互いちゃんと解答し続けていけば、今までのルーティンと何ら変わりはないのです。例え2回目まではセーフとはいえ、中盤以降にシャッフル目的でわざと不正解、などという姑息なマネは僕は絶対にしません。エルドラシア王家の血統を受け継ぐ我が誇りにかけて、ここにお約束しましょう。」
「あら。そこまでおっしゃられては信用しないわけにはまいりませんわね?...そのフレイ様のご提案のルール追加、承知致しましたわ。ーーそれで、フレイ様。問題内容に関しましての決まりなどはございまして?」
「はい。問題は出題者自身が正解を知っているもの、であるという事が絶対条件とさせて頂きます。」
「それは、当然ですけれど...それだけ、ですの!?ーー出題のジャンルくらいはお決めになった方がよろしくはありません?」
「いいえ。どんな問題が飛び出るか分からない、その方がゲームとして面白いのではないのでしょうか?...出題内容によって、相手の本当の好みや本心が伺い知れるかもしれませんし、ね。」
フレイ君はさも楽しみだ、というようににっこりと微笑む。
あれ? 存外に私の普段の言動が本心でないと、そう彼は面と向かって言っているの?....なるほど。本心を暴いて弱みを握りたいとみた!受けて立つぞー。
「なあ、ガドゥラケル。あれはゲームにかこつけて、ユーフェリア殿下のお心をただ知りたいだけとみえる...不甲斐ない王子よ。」
「だよなあー!男ならそこはガツンと聞いちゃえよ、ての!」
命じてもいないのに勝手に私の応援人となった後ろの近衛騎士2名。彼らがぶつぶつ耳打ちしてるけど、全っ然聞こえないよ。
対人スキルの対照的なこの二人、案外仲良しだったんだね。堅ブツイケメン騎士に友達がちゃんといて良かった!...でもその、あんまりくっついて内緒話してるとこの二人、ただならぬ仲に見えちゃうんだけど。私の目が腐ってるんだろうか.....。
ーーなどと、うっかり気をそらしている間に、見届け人のアルバ君がいよいよ勝負開始の宣言を口にした。
「では僭越ながら。問題解答リミットの10秒カウントはこの俺、アルバート・キットソンが務めさせてもらいます。ーーー双方、先制決めのダイスを!勝負を始めて下さい!」
ーーいよいよルーティン勝負の始まり。
私とフレイ君は遊戯テーブル中央に置かれたそれぞれのダイスを掴み、軽く振って同時に転がす。
私の目は5、フレイ君は2。先制は私だ。
早速手を伸ばし、適当に2枚のパネル札を裏返す。
鳳凰の赤と月と星の赤。最初からペア成立など期待はしていない。記憶してパネル札をひっくり返し、フレイ君のターンとなる。
「ユーフェリア姉上。では僕に問題をお願いします。」
「ーーえ、ええ。問題、ね。何がいいかしら...」
けど、ふと気付いた。まだ2枚しか開示されていないこの始まったばかりの状況では、逆に相手に正解をさせた方がいいのでは? 相手も一度でペアを成立させる確率はかなり低いもの。パネル絵札の情報が増える方にかける方が得策だよね。
ではここはあえて簡単な問題を.....
「ではお聞きします。そちらのディーラーのフルネームを、どうぞお答えくださいませ? 」
「え!?」
ダイスを片付けていたディーラーさんが、思わずダイスを床にパラーン!と取り落とす、という大失態をしながらピキリと固まった。
「ディーラーはディーラーじゃないの? 意味分かんないんだけど。」
「彼の名前...ですか。以前に確か、僕の男爵位の侍従に“サー”(※目上に対する男性の敬称)と呼ばれていましたから、男爵位以上の者でしょうが、名前までは.......」
「恐れながら殿下。10秒です。」
タイムアップ宣言でフレイ君の無回答が確定してしまった。
ーーあれ? おい、ちょっと待って? 最近は毎日のように顔を合わせてお世話になってるこの遊戯広間のディーラー、要は色んなゲームを教えてくれる先生みたいな人だよ? 何故この場の全員、当然のように名前なんて知るわけないって顔をしてるの!?
この世界の礼儀はどうなってんだ!
ちょっと不快に感じながら、私は呆然と固まっているディーラーさんに声をかける。
「正解はエリック・クレイマー。ワドウィン地方の南部を治めるクレイマー伯爵家のお産まれで、王立学園卒業後は王宮使用人試験にトップで合格。その後、20年に渡ってこの遊戯広間の管理とディーラーの責務をこなしていらっしゃる方ですわね。ーーエリック、いつもわたくし達にお付き合い下さり、感謝しています。パネル札のシャッフルを、よろしくお願い致しますわ。」
「は!ーーか、畏まりました!わたくし如きに過分なお言葉を下さり、誠に恐縮でございますっ!」
普段は冷静沈着なディーラーさんがめちゃ動揺してる。突然自分の名前を問題にされてビックリさせちゃったよね。悪い事しちゃったかな?
「使用人の家名や履歴まで....!さすがは帝王学を履修済みの聡明な我らがユーフェリア殿下!」
「ファンくらぶ会員がヤバい勢いで増えちゃいそう...」
今日はやけに私語が多いな。そしてやっぱり聞こえない!うちの近衛騎士は密話のスキルでも持ってるのだろうか?
「ご自分の直属の配下以外の者の身上書にも目を通されておられるとは...少し彼に嫉妬してしまいますね。ーーでは、パネルを裏返させて頂きます。」
一角獣の青と魔鏡の赤。ペア不成立。このルーティン長引きそう。
さて。私のターンだから今度はフレイ君が出題する番だ。
きっと記憶力では絶対に私に勝てないと学習した彼は、私の3回不正解による敗北を狙ってきているに違いない。
一体どんな難しい問題を考えてきたのかな?
「ーーユーフェリア姉上に問題です。こうして城内では恒例となった姉上と僕の勝負。共に次代の第一位王位継承者とオルストフ国王陛下より同時指名されてからというもの、今やこの国の勢力図を二分するサヴォワ公爵家とレストワール公爵家の二大派閥。時に一笑に付せない嫌がらせや怪我人などの実害もあり、表立って衝突する事もあった両家の権力争いの睨み合いを、このような擬似的な勝ち負けといったゲームで置き換えて目を逸らさせて、積もりに積もった軋轢と不満や鬱憤などを少なからず解消させよう、というのがユーフェリア姉上の真の目的と僕は解釈していますが、違いありませんか?」
「「「「えっ!?」」」
「あの!フレイ様!それは問題なのでしょうか!?わたくしへのただの質問と、そう伺えますわ!」
「確実な正解を知っていますので。これは問題です。」
詭弁だーーーー!!答えさせるためだけの、それが目的の質問だよ!だけどもっ、こんなの答えられないよ!
ーーー私の目的は両家を平和的に対立させ、フレイ君が成人する頃合いを見計らって適当なところで上手く負けて引き下がり、彼を立てつつ王宮から華々しく去っていく事だ。だって元日本人の私には女王様業なんて荷がとっーーーても重いし、本音を言うとめんどいんだもん!絶対政権争いなんて御免だからわざと負けて、その後はどこかの片田舎に引っ込んでのんびり隠居生活したい!
その為には、私は好敵手である方がいいのだ。だから現在はなるべく勝ちを取りにいっている。近い将来、その手強く優秀な私に打ち勝つフレイ君が、より優秀な王子として人々の目に映るようにと。
だから!今、この時点でその質問に答える訳には....!
「10秒、です。肯定も否定もなしとは、まさか...?」
「図星でしょ。まあ、僕はそんな事くらい知ってるし!」
「っお待ち下さい!確実な正解を知っている、という根拠をお聞かせ下さいません? でなければこのような問題、納得できませんわ!」




