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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園婚約期編
58/119

私と予期せぬ2人の来訪者


 郊外オリエンテーションの日から休校日を挟んで2日後。

 自室のテラスから照りつける眩しい朝日で目を覚まし、のろりのろりとベッドから鏡台に移動して鏡を覗き込めば、昨日までのみっともなく腫れ上がった目元がスッキリ元に戻っていた。



「っはああ……。いっそまた、知恵熱でも出てくれれば登校しなくて済むのに……」


 うあー。ものっ凄く憂鬱だ……学園に行きたくない……

 

ーー適当な理由でも付けて、しばらく休んでしまおうか?

 

 例えば王女権限を使っての、王国が運営する病院や孤児院へのお手伝いとか、やってみたかったそれら施設のプチ運営改革だとか。

 また、今年は極寒と予想される冬に備え、薄いのに温かい肌着でお馴染みの吸湿発熱原理を利用したヒートテックの研究開発だとか。更には前世から興味のあった食材ロス減を目指しての、廃棄食材にスポットを当てたエコロジーで美味しい調理レシピの提案など。ーーそれとも他に、私がアドバイザーになっている王都のお店の覆面調査とか流行りものの市場調査とかの、本格的なマーケティング戦略活動とかでもいいし。もうなんだったら最悪、あのレストワールの実家に引きこもるのも一つの手かもしれない。

 うちは名と形ばかりの家族。法務大臣の実父は超多忙な人で、どうせいつもあの公爵邸にはいないし、別邸で暮らす母クレメイアは娘の私に全く関心がない。私が突然実家に帰ったとしても、案外どちらも気付きもしなさそう。

 ううーん、あと、現在の義父であるあの王様には、レストワール領での新種の作物開発、とでも言っておけば大喜びで帰省許可を出してくれそうだ。昔、私が開発したあのお米のフェリア以外にも、この世界で再現したい作物はまだまだ山ほどあるし。

 

 よし!そうしよう!そんなカンジの理由で、………


「ーーダメだ!甘いぞ私!そんな下手なごまかしが効くわけがない!クラスメートに拒絶されたショックで登校拒否のヘタレ王女!うん!バレバレだ!フレイ君にはきっとしっかり感づかれてしまう!そして心配症な彼はどこにで駆け付けて来ちゃう(実際過去の王宮にもやって来た)気がする!なんてはた迷惑な義姉で仮初の婚約者で運命共同体の私!ーーっ申し訳なさ過ぎる!」


 ぐだぐだと長い現実逃避で自分でも鬱陶しいと思うけど!

 実はこの私ユーフェリアは、先日クラスメートのリリシュ・ラッティナ男爵令嬢に面と向かって「貴女の事が大嫌い」と、キッパリ宣言されてしまったのだ。

 

 その理由は分からないし、本人に直接聞いてみても答えてはくれず。

 けれどあの酷い憎まれよう……レストワールの家自体にそれ相応の深い因縁か、もしくはこの私自身の過去の行動や発言に、何かしらの重大な過失があったのかもしれない。

 そんなリリシュさんからの手酷い拒絶にショックを受け、その直後に会ったフレイ君の前でグジグジと泣くわ、イジイジ拗ねて八つ当たりの悪態はつくわ、の散々だった私…………


 あはは、ははっ……。

 申し訳なさと羞恥で合わせる顔がない………


ーーなどと、身支度をしながらくさくさと思っていたら!

 

 そんなネガティブ思考すら全てお見通しだと言わんばかりに、朝一でフレイ君が私の部屋を訪ねて来ていた!



「おはようございます。ユーフェリア姉上。」

「お、おはようございます…って!こんな早くからなんで!?」


 思い立ったら即準備をと、とうぼ…旅行用トランクを引きずりつつ寝室からミニダイニングに移動すると、いつも1人で食事をする真っ白なアンティーク調円卓テーブルに、どう見ても幻ではないフレイ君がしれっと座っていた!

 

ーーう、嘘でしょおおお!?なんでここにいるの!!

 しかも一緒に登校するつもりなのか、彼はすでに王立学園の制服を着用している!ーーって!いや、まずは何よりもこの部屋!王女の私のプライベートな居室なんだけど!?


 挨拶は返したものの、困惑のあまりフリーズした私を見て、フレイ君は即座に席から立ち上がって頭を下げた。


「事前に約束もなく、このような早朝からの不躾な訪問、誠に申し訳ありません。ですが姉上は郊外行事以降、本殿宮での晩餐を2日続けて欠席され……理由は特にないのですが不思議に何となく、今日のこの時間にお会いしておかなければ、姉上が王宮から出ていってしまわれるのでは?……と思いまして。」


ーーバレバレだったーーーッ!!!

 

 で、でも!なんかさすがにこれはびっくりだよ!君はもしかすると、私以上に私の事が分かってたりして!?

 というか、侍女のメイリーも!一応は婚約者で義弟という間柄とはいえ、どうして勝手に彼を部屋に通しちゃってるのっ!?しかも日が昇ったばかりの結構な早朝なんだけど!

 ええと!わ、私は何を言われても構わないけど、もし人に知られたらフレイ君が咎められちゃうよ!?


 思わずメイリーをジトリと睨んでも、何故か素知らぬ顔。

 けれど不意に私が押してきた旅行用トランクに目線を向け、無言でその首をゆるく左右に振った。

 

ーーメイリーにもバレバレか!!

 まだ何にも言ってないのに!トランク1つで、自分でも唐突に思いたった登校拒否逃亡計画がお見通しのバレバレですか!?

 そんな私とメイリーの様子を見て、フレイ君はニコリと微笑む。


「姉上、僕は申し上げた筈です。貴女の事を心から慕う者は、僕の他にもたくさんいるのだと。」


ーーそ、その言葉は、グジグジ泣いたあの時の……!

 

 あっ、とした顔をした私にメイリーはコクりと頷く。

 そして一通の手紙の乗ったトレーをテーブルの上に置いて、そこでようやく彼女は口を利いてくれた。


「ええ、その通りでございます。何があったのかは存じ上げませんが、昨日からのユーフェリア様はお好きな読書も自主研究もなさらずと、また、ファフテマ候爵令嬢のキャメリーナ様からのお手紙さえも、有り得ない事に開封もせずと放置されたままで。差し出がましいとは存じますが、このメイリー、主の非常事態と判断致しまして、こちらのフレイ殿下を勝手に招き入れてしまいました。お叱りは後ほど如何ようにも。」


「え?……キャメルからの手紙が!?」


 そこではたっ!と思い出す。

 キャメルは郊外オリエンテーション出発前の差し入れイベントで、あのアルバート・キットソンに平手打ちをぶちかましていたのだった!それも、ほぼ全校生徒の集まる学園の門前で盛大にバシィッ!と。

 

 す、すっかり忘れていた………

 自分の事で頭がいっぱいで、よりによって親友の一大事をスルーとか!な、なんて自分勝手で薄情な……!


ーーこんな事くらいで、うじうじへこたれてる場合じゃない!


「シャキッとしろ!私!ーーあのっ!心配かけてごめんなさい、フレイ君、メイリー。気遣ってくれて本当に有難う!おかげで私、しっかり目が覚めました!うん!もう完全に立ち直ったよ!」


「ユ、ユーフェリア様……」

「姉上……もう、勝手にどこへも行かれませんか?」


 まだ心配そうな顔を向ける2人に、精一杯大きく頷く。


「もう大丈夫です!そもそも、一度引き受けた秘宝集めだって責任持ってやり遂げなきゃだし!フレイ君だって、呪いが解けなきゃ困るものね!ーーだから。こんな情けない私だけど、どうか呆れて見捨てないで、またこれからもよろしくお願いします!」


「まあ!ユーフェリア様を見捨てるだなんて、生涯絶対にありません。」

「そうです。そこはご安心下さい。僕らは運命共同体、なのでしょう?」


 即答する2人に思わずジーンとする。

 なんだか深い信頼で繋がったチームか家族のようなやり取り。

 しっかり者で優しいお姉さんメイリーに、なんでも優秀で全てお見通しのフレイ君は、まるで……まるで、なんだろう??


 弟、じゃないし。んん?ひょっとして、家長……!?


「?……あの、姉上。お話は変わりますが、ここで自分もこのまま朝食をご一緒しても構いませんか?実は急いでやって来たので、何も食べていないのです。その後、ご報告したい事もありますし。」


「あ、うん。メイリー、大丈夫かな?」

「あら!ではフレイ殿下の分も早急に手配致します!少々、お待ち下さいませ。」


 メイリーが朝食の準備の為に慌ただしくミニダイニングから立ち去ると、私は彼女が置いていったキャメルからの手紙に手を伸ばす。

 

 昨日届いた手紙……やはり内容は差し入れ事件の事だろうか?

 開封をしようとした矢先に、けれどフレイ君が再び口を開く。


「ユーフェリア姉上。一つだけご忠告を申し上げておきます。」


「あ、はい?」 あれ?……いきなり、空気が凍った??


「もし、姉上が次にまた、突発的に遠いどこかへお逃げになりたくなった時は、その際は必ずこのフレイもお誘い下さい。勝手に1人でだなんて、それはいけませんよ?」


「えっ、いや、遠くへだなんて!ええと!ちょっとだけのつもりだったし、本当に王宮から逃げたりなんかしないよ!?」


「ユーフェリア姉上。貴女はご自分が思っていらっしゃる以上に危険な身なのです。そして狙われるだけの相応の価値がおありになる。……自分はそれが時に堪らなくご心配でなりません。」


 ね、狙われる……?私が、どこの、誰に??


「いつか姉上が、本当にこの自分の前から突然いなくなってしまった時は。その時には、きっとどんな手を使ってでも、何を引き換えにしてでも貴女を探し出し、そしてタイムリミットの卒業までどこかに閉じ込めてしまうかもしれません。……手段も理由も建前も言い訳も、そんなものはいくらでもどうとでもなります。周囲と本人から多少でない文句は言われるでしょうが、一切黙らせますし、次の王はエルディでも十分務まると思うのです。」


「と、閉じ込める!?……や、そんなっ、え、ええっ??」


ーーあれ?なんかフレイ君の様子がおかしい……?

 もしかすると彼は、狙われているという私の身が心配なあまり、例えばそんな夢を見たとかで物凄く神経質になっちゃってるんだろうか?

 

 それにこういうの、B級映画や短編小説のラストとかでよくあるよね?

 物語の最後の最後で、追い詰められ精神が病みに病んでしまったキャラに、運悪く捕まった憐れな主人公が一生涯閉じ込められるバッドエンド。

 私はもしかして今、そんな危機だったりしたの……!?


ーーいやいやいや!まさかまさか、そんなわけがっ!


「逃げません、いなくなりません!いつか国王陛下のお義父様からもう失格で用無しと、そう言って追い出されない限りは、うん!自分からは絶対に!」


「本当に、そうでしょうか?」


「うんうん!よく分からけど!狙われている(?)という可能性があるというのなら、できる限り公務も外出も控えます!もうむやみに王宮から出ないようにします!だから安心して下さい!」


「……………………」


 あー、もう!これは絶対信じてなーい!信用されてなーい!


「分かった!万が一、勝手にどこかへ行ってしまった時には、私はフレイ君の言う事を何でも1つ聞きます!私でできる事なら、どんな要望でも聞き入れます!ね、これなら信じてくれる?」


「……………な、何でも………?」


 お。瞬きもせずに呆然となってしまった。

 一体どんな要望が彼の頭を過ぎっているんだろう?

 ちょっと浅はかな発言だったかな?……でもね、フレイ君の事だもん。私が本当に嫌がる事は頼まないし、絶対にしないもの、ね?


 

 そんな風に2人の気遣いに励まされた私は、ちょっとだけ緊張しながらもその後フレイ君と同じテーブルで楽しく朝食を摂った。



ーーけれどその直後。想定もしなかった2人目の来訪者が訪れる。



「ユ、ユーフェリア様っ!あ、あの!クレメイア様が突然お見えです!」

「…………え?」

 




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