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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園婚約期編
56/119

竜生時代の僕と解放戦争3



「彼女はただ、ささやかに穏便に生きたいと望んだ。ーーけれど!そんな小さな夢すら叶わぬ世界など、この世に存在する必要はあるのだろうか!?……なあ、アゼル!俺のこの怒りがっ!どう不当で間違いであるのか、君は反論できるのか!?」

 

 

 見たこともないほど激昂する友に、僕は返す言葉すら見つからない。

 身勝手にも彼の事を彼女に頼まれてはいても、こんな信じたくもない終わりを目にした今、どう対処すればいいのか。僕はただ、壊れる彼の前に呆然と立ち尽くしていて…………



 何が正しかったのか、どうすれば正解だったのか。

 何に縋り何を求めて何を手にしてればこんな結末は回避できたのか。


 過ぎ去った今ではもう、そんな思考すら全てが無意味だ。

 次へと活かそうにも次などいう機会はどこにもなくて。



ーー少なくとも、こうして最悪な結末を迎えてしまった、この今は。





*********





 この大陸の東に位置する軍事主義国家、イエニスの侵略軍が本格的にこの周辺の小国らに一方的な侵略を開始した。

 

 長きに渡る平和に溺れ、また、日々の暮らしも貧しかったことからまともな軍隊も持たぬそれらの国々は、最初こそは成す統べもなくその村や町を蹂躙されていったのだが、ヒースクリフが気概ある民達を呼び集め奮い立たせ、侵略軍に対抗する義勇軍を結成。

 竜でありながらも人間のフリをして泥まみれになって戦うヒースクリフは、その次々と打ち出す優れた軍略と的確な指揮能力、更には天竜特有の万人を惹きつけるカリスマ性も相まって、日々目覚ましい快進撃を続けていく。

 

 また、竜眼こそは失えど、この世の魔法全般を得意とするこの僕も後方支援部隊にて参戦。そして槍を使った武術の才能があったハーシェンヌは、自身の身の丈の2倍に及ぶ大槍を縦横無尽に振り回して敵をなぎ払い、美しいが恐過ぎる美人ランサーとして仲間を大いに活気付けた。

 言うまでもなく僕ら3人が竜であることは秘密だけど、竜ならば当たり前の急激な天候変化をいち早く読む感覚能力と、大陸のあらゆる地形が当然ながら頭に入っている事から、戦局においての大事な攻め時も引き際も十二分に心得ていた。

 

 そんな事情からして「天が彼らの味方をしている」、とまで噂されるようになったこのヒースクリフ率いる義勇軍の活躍に、やがて我も我らもと手を挙げ協力体制を結ばんとする他の義勇軍も次第に数を増していく事となる。いつしかそれらはヒースクリフ軍の掲げる指針や方策に倣い従い、僕の高性能な魔法による伝達手段で密に連結して動くことから、ヒースクリフ軍を含めた全体を「天の遣わし解放軍」と人々は期待を込めて呼ぶようになっていった。

 


 そして現在。その勢いある解放軍の動きに押しに押されたイエニス軍は、侵略下に置いていた各地で苦汁の撤退を余儀なくされいた。こうなれば今や誰もが知るところ。イエニス軍の非道なる侵攻は、ここに来てついに陰りを見せつつあると。

 

 そんな順風満帆な時期を見計らってのある日。

 僕はヒースクリフが異常なほど大事にしているという幼女とやらに、ようやく一目会う機会に恵まれた。




*********




 上空からしか辿りつけない険しい山奥深くの小さな隠れ里。

 まるで時間の流れが他とは違うかのような、不思議な霧がかった静かな地にその幼女は保護されていた。

 

 見たこともない極薄の布で囲った天幕の中のような変わった畑。そこでしゃがんで野菜の成長を見ていた彼女は、やって来たヒースクリフを見ると即座に立ち上がって深くお辞儀をし、次に続く僕にも頭を下げる。

 

 

「初めてまして。ミシェルと申します。母と2人、ヒースクリフ様には大変お世話になっています。ご友人様におかれましては、人の為にこの度の戦でのお力添え、心より感謝申し上げます。」



 透けるような色白な肌に腰まで流れるぬれ羽色の黒髪。知的で純真な光を宿す紫陽花色の瞳はどこか虚ろいで儚げで。

 

 先月12歳の誕生日を迎えたと言うけど、ならば幼女でなく一応は少女になるのか。でも全体的に小さくて細くて、ちゃんと食べてなさそうなくらいの青白い顔。人間でいう二十歳前後の姿のヒースクリフとそうして並んでると、やっぱり予想通り100%犯罪にしか見えない。

 僕やヒースクリフが実は神竜である事は、人間の中では彼女だけが知らされているらしく。それでも小さな彼女は毅然と背を伸ばしていた。


「へえー、一体どんなすごい娘かと期待してたけど、案外普通だね。容姿はハーシェンヌのが全然美人だし。ねえ、君、その程度の器量でどうやってこのヒースクリフをタラシこんだの?この男は手強かったでしょ?今までどんな才媛や美女が熱視線を送っても涼しい顔でのらりくらりでさ。もしかするとそっちの趣味があるのかとも疑ってたけど、まさかのロリ、ーーうぐっ!」


「アゼル、無礼な物言いは遠慮してくれないか?それにミシェアの事をあまり悪く言うのであれば、もう帰ってもらいたい。本音を言えば、この隠れ里の事は誰にも知られたくはなかったんだ。彼女が一度お礼を言いたいときかないから、こうして君を招待しただけでね。」


 うわあ。ヒースクリフはかなりの重症だった。

 引き合わせてたったの3分でもう、用は終わったとばかりに少女の前に立ちはだかる。まるで深窓なお姫様に守り仕える過保護な騎士のよう。

 まあ、今はロリコンにしか見えなくとも、あと5年も経てばお似合いか。竜という生き物は何百年かはこのまま若いままだし………と、叩かれた頭をさすりつつ、踵を返して立ち去ろうとすれば。



「ーーアゼル様!お待ち下さい!」


 少女が走ってこの僕を追いかけてきた。なんのつもり?


「名を呼ぶ許可なんて出してないけど。」

「!、失礼致しました。魔竜様、あの、これだけは申し上げておきたくて。ーーヒースクリフ様の事を、どうかよろしくお願い致します。」


「はあ?……意味が分からない。」


「あのお方は強くあるようで、けれど実は非常に危ういのです。私をこうして保護して下さるのも、毛色の違った想定外の言葉を吐く人間の私に、たまたま気まぐれに興味を持たれただけ。ただの研究対象のようなもので、私は彼の特別でもなんでもありません。」


「ふうん。謙虚だね。あのヒースクリフを見て、僕はそうとは思えないけど。」


 いやいやいや、あれは違うでしょ。

 明らかに変わったペットを愛でるカンジじゃないでしょ?女の子って早熟って聞くけど、この娘はちょっとニブいのかな?

 この間なんてこの娘が勝利祈願に作ったという草で編んだ王冠を、それはもう嬉しそうに頭に被っていたんだから。「壊れぬよう、最上の保存魔法をかけなければ。地竜のツェートリーにお願いしてこよう」なんて馬鹿な事を言ってたんだけど、知らないみたいだね。


「ヒースクリフ様は、万能で何でもおできになるからこそ、何に対しても淡泊であるとお見受けします。それゆえに心は常に空虚。だから、………あの、魔竜様。これはどうか内緒にしていだだきたいのですが、私は……きっと長生きしません。なので私がいなくなった後の、ヒースクリフ様の事をどうかよろしくお願い致します。」


「は!?……君、預言者か、それとも何か重い病気?」


 いや。だったら光竜のヒースクリフがもう治療してる筈。

 遺言ともとれるわけの分からない言葉を吐く少女を、僕はただポカンと見つめ返す。


「貴方様のおっしゃられた通り美姫でもなく、有力な後見人もおらぬ取るに足らないこの私を、それでも伯父であるイエニス王が執拗に狙うのは。それは万が一、禁呪が破られた時の己の身代わりに使いたい為なのです。禁呪は恐らく魔竜様の奪われた竜眼に使用されたもの。そんな人間の身に余る神の力など、不相応に奪おうとしても上手くいく筈がないのです。ーーいえ、だからこそ、役立たずの私で阻止しなければ。」


「ねえ、君、さっきから何を言ってるの?その禁呪って……」


「生まれ変わりって信じますか?前世の記憶、それも別世界で生まれ育った記憶があるって言ったらどう思いますか?でも私はこんな記憶なんて要らなかった。あってもこの世界では何の役にも立たなかった。もう何もかもが手遅れで。もしも可能なら、こんなつまらない今世の記憶なんて!私は、次の来世では絶対に思い出したくもない……!」


「えっ………………」


「意味不明な事を長々と申し訳ありませんでした。この先のヒースクリフ様を、どうか頼みます。私の望みはもう……ただ、それだけです。」



 そう言い終えると、彼女はもう僕の顔を一度も見ることもなく足早に去っていく。


ーー前世の記憶がある?何もかもが、手遅れ……??

 それに禁呪の事も気になる。イエニスの王は、僕から奪った竜眼を単に戦争利用してるだけではない……?




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