王子になった友人を持つ僕の災難2
覇王竜のはーちゃんは、産まれて初めてできた僕の友人だ。
うちのギュンスター家は代々に渡ってこの覇王竜と親交があり、父に連れられて彼女と出会ったのが、確か僕が3歳の時だった。
火竜、水竜、風竜、花竜、魔竜、ets.ーーこの世界に現存するあらゆる属性の竜達の頂点に立ち、まさに世界最強と謡われる覇王竜。
それは例え一国の君主であろうと、相対すれば膝を折らねばならぬ絶大な存在者であり、伝承神話やおとぎ話の中でもここぞ!という場面で、お約束通りに登場してくる有名お節介でしゃばりしゃしゃり竜。
聞くと大層凄そうなこの友人のはーちゃんは、時に神竜王とも呼ばれているらしいけど、その頭に付く“神”はきっと貧乏神の“神”、そこからきてるんじゃないかと正直僕は思う。
だって、覇王竜のはーちゃんが住んでるこの目の前の竜宮殿は、いつ見ても今にも倒壊しそうなオンボロ遺跡……いや、あー、よもや打ち捨てられて幾千幾万年の、辛うじて雨風だけが凌げてそうな廃屋で………
「どあああっ!ダーリン、そこの影でこっそり聞いてれば、さっきからぶつぶつ好き放題言い過ぎ!でしゃばりしゃしゃり竜とか貧乏神竜とかオンボロ遺跡って!ちょっとは気を使って!一応、偉大なる覇王竜のお家だから!ほらほら!入口の大きさだけは何とか誇れるし!」
石造りのボロボロ支柱がズラリと立ち並ぶ竜宮殿の入口。
その柱の一つから、突然叫び声を上げて女の子が飛び出てきた。
「あっ、はーちゃん、久しぶりー!」
「うん、久しぶりー!ってぇ、じゃない!そりゃあ、ちょっと雨雪や雨風や木枯らしに突風につむじ風と、果てには花嵐までも舞い込んでくる吹き抜け仕様の開放的なお家だけど!ボクの成長と共に段々とランクアップしてきてるからね!ここは家主のレベルで変化変容する気まぐれ宮殿(←一応!)だから!そういうシステムだからしょーがないの!だってボクはまだ幼竜なんだもん!人間でいうならやっと年頃になってきた花の乙女!なんだからね!」
「うっわあー。このオンボロ遺…お家、雨風も凌げてなかったんだ……。それに、はーちゃんが年頃の乙女??神話にもガッツリ登場しといて何言ってんの?むしろはーちゃん、世界最高齢のぶっちぎりおばあちゃん竜なんじゃない?」
確かに僕の目の前に立っているのは年若い少女だ。
10歳くらいの、しかも各パーツがミニマムサイズの女の子。短くあちこち元気にハネている蒼い髪と竜眼が特徴的な金色の瞳。喋るとよく動く頭のてっぺんには、ドリルのように捻れたぶっとい角があって、たまーに凶器になっていたりするけど。
そして数年前に、その角ごと彼女の身長を追い越したこの僕、エルディアス・ギュンスターの昔馴染みの友人で、もはや兄妹のような存在だ。
そのはーちゃんは、こうして挑発すればとにかくすぐに怒る。
だって裏表のない、単純お馬鹿……素直なちびっこ竜だからね。
ーーああ、だって、ほら。横にピョコンと伸びる彼女のお耳が、ああしてピクピク動く時はまさに竜体化の前兆、ってやつだし。
「ーーっボク!おばあちゃん竜じゃないもん!それに神話に登場してるのはボクじゃないんだもん!この覇王竜は称号なの!約千年単位で代替わりしてんのー!ボクはまだ百年も生きてない若竜なのーー!もおおお、怒ったあああ!ダーリン、勝負!」
ドロンッ!と一瞬で、はーちゃんはその姿を竜体へと変化させた!
キラキラ光る蒼い鱗に覆われた大木のように太い胴体、地に伸しかかる手足は力強く、その先には鋭く伸びる3本の鍵爪。
全長約10メートルに及ぶこの巨大竜は、ぐわあああ!と勇ましく咆哮して眼下に見下ろすこの僕を威嚇している!
「その勝負、受けて立つ!ーーで、さっそくだけど勝負方法は!?」
「よし、ダーリンいい度胸だ!そしてよくぞ聞いてくれました!ボクとダーリンとの通算776回目の勝負は!ズバリ!ーー影踏みっこ勝負、なのっだあああーー!!」
「…………え?影踏みっこ?はい、踏んだ、けど?」
「な?え?………う、うえええッ!??」
「…………ねぇ、むしろ何でその勝負で勝てるとか思ったの?しかも太陽を背にしといてさ……」
「ああッ!今のボク、竜体だったあああ!!」
「………………………」
*********
まあ、確かに人型のはーちゃんとの影踏みっこなら、結構いい勝負になっていたかも………いや。やっぱりフェイントなしで一直線に突進してくるだけの彼女に、この僕が負ける気がしない。
これで通算539勝237敗になるわけなんだけど、世界最強と謡われる次代覇王竜の選定方法に知能は関係ないの?強ければそこは全然問題ないっての??世界中の竜達よ、おまえ達はそれで納得してるの!?
この先の竜種の将来に思わず頭を抱えたくなった僕だけど、ここに来た本来の目的を忘れちゃってはいけない。
「えーと。ちょっと不憫さを感じないでもないけど!でも勝ちは勝ちだから。さて、はーちゃん、僕のお願いを聞いてくれる?」
「むううっ!仕方ない!だって“勝負に負けたら勝者の小さなお願いを一つ聞く”、それがダーリンの住むお国での勝負ルールなんだもんね!ーーうん、いいよ!そちのお願い、叶えてしんぜよう~♪」
「え?あ、ああ。そういえば。確かに僕ははーちゃんにそんな勝負ルールがうちの王国ではあるって、以前説明してたっけね。」
でも実はそれ、ちょっとだけ前にあのユーフェ嬢が提案した、独自の勝負事ルールだったりするんだけどさ。
国王陛下の電撃宣言により、仮の王女身分となったそのすぐ後。ライバルであるフレイ殿下に対し、しょっちゅう些細な賭け事やゲーム勝負を申し込んでくるようになったユーフェ嬢。しかしそれらはフレイ殿下が言うに、そうする事で王国内の貴族間における勢力図バランスを上手く調整していた、という事だったみたいで。
「ははっ。……ユーフェ嬢って、時に突拍子もない事をし出かすんだよね。何を考えてるかサッパリ読めないし、アルバが大怪我をした時なんて、急に高飛車なお姫様を演じ出したりして。とにかく彼女は見てて飽きないし面白い。」
一度くらいは彼女と勝負をしてみたい、何となくそう思ってしまうくらいには、僕はユーフェ嬢の事を気に入っている。
そしてもし僕が彼女に勝てたら、その時はどんな事をお願いをしてみようかな?
「!!、ーーダ、ダーリン、まさか浮気の危機!?」
「へ?」
「前回と同じで、恋愛ごとにはめっぽう疎いと達観してたのに!むしろこのくらいの容姿の方が好感度高いと思ってたのに!ーーそ、そんなあ!」
「前回……?はーちゃん、一体何言ってんの?」
どうしたんだろう?うっかりユーフェ嬢の名を出したとたん、はーちゃんの様子がおかしくなった??
「ダーリン!そのユーフェ嬢ちゃんとやらは、大人っぽいタイプの女の子!?髪は長かったりする!?もしかしてダーリンより年上!?」
「大人っぽい、かも?髪は確かに長いよ。そして一つ、年上だけど?」
「どわあああッ!ヤバいよヤバいよ!ーーダーリン!ちょっと3日だけ待ってて!すぐ帰るから!また3日後に訪ねて来て!」
「え?はーちゃん、お願い事は…………」
はーちゃんは、そのままどこかへ走り去って行った。




