王子になった友人を持つ僕の災難1
エルディアス・ギュンスター視点です。
ようやくこれが書けました。彼サイドはネタバレになるので長らく封印されていまして、読者様からすると彼はちょっと変な子扱いだったと思います。
ーー初めて彼と出会った時、僕は災害レベルの魔力暴走を引き起こした。
本当ならば村一つ簡単に吹き飛ばしてしまえる威力の爆風の中で、しかし、それを引き起こした犯人は歓喜に身を震わせていた。
「ーーああ!やっと、会えた!君とようやくこの世で再会できた!僕の唯一この世に存在する友で、神によって選ばれし同胞で、何よりも大事な“故郷”そのもの。夜のとばりに眠るこの僕と対をなす、明けの明星招く光の王よ……!」
そんな意味不明な言葉を吐き、狂ったような瞳で見つめてくる当時6歳の僕に、彼は信じられないくらい冷静に言葉を返してきた。
「そうか。そんな風に言われる事情はさっぱり分からないけれど、ああと、取り敢えず落ち付いてゆっくり深呼吸しようか。率直に言うが、これ以上は非常にマズい。事前に君のお父上に用意してもらったこの王国最強の守護結界が、どうやら予想外に数分と持ちそうにないようなのだ。6歳にしてご父君を超える魔力とは……君は相当凄いな」
「王?ーーねえ、僕の懐かしき友よ、何故そんな硝子のような無気力な瞳をしてるの?君はだって、すべからく君が望んだ夢を叶えた筈だ。なのに、何故……」
そこまで好き勝手に言い終えた僕は、自身の無尽蔵に吐き出す膨大な魔力に飲まれ、そして崩れ落ちるように昏倒した。
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「姉上が女子クラスメートの間で孤立されておられるようだ。対処しようにも、下手に手出しすれば更に彼女達の反感を買ってしまう恐れがある。エルディ、何か良い案はないだろうか?」
週末のその日、友人がわざわざそんな事を言いにうちまでやって来た。
キラキラ輝くプラチナの髪に翠玉の瞳、いつ見ても妹のイリアが大切にしている異国の人形にように整った顔だなあ、と場違いにもぼんやりと思う。
ーーその人形じみた少年の名はフレイ・セヴォワ・エルドラシア。
本来は大貴族家であるゼヴォワ公爵家の嫡男で、今はこの王国の筆頭王位継承者のうちの1人。しかも資質の選定だとかを理由に、暫定的な王子殿下のご身分までオマケに付けられちゃってて。
そして来週には一足先に14歳の誕生日を迎える彼は、この新学期に入ってから急に背が伸びてきた気がする。ーそこ、ちょっと羨ましいんだけど!
ちなみに彼が言う「姉上」とは、説明するまでもなくあのユーフェリア・レストワール・エルドラシア、ーーユーフェリア王女殿下の事だ。
筆頭王位継承者のもう片方で彼の暫定的な義理の姉、そして本来はセヴォワ公爵家と対立しているレストワール公爵家の惣領姫。
うちの家格が伯爵家程度で良かったと思う。だってそんな面倒臭い政治事情はホントカンベンしてほしい。そして女子同士の間で抱いてる感情なんて、僕にはもっと未知で理解不能でサッパリ手に負えないし。
「ーーだからそんなの知らないよ。別に気が合わない人間とムリに仲良くする必要もないんじゃない?王立学園は勉学を学ぶ場所だし、厳しいあの騎士訓練学科は例外として、週4日制の半日ちょいの緩いカリキュラム。午後や週末は親友だとかいうあのファフテマ候爵令嬢や、他の顔馴染みのご令嬢達とお茶会とか開いて交流してるって人づてに聞くよ?なら女子の友達は普通にいるわけだし、それでいいんじゃないの?」
ていうか、正直そんな事まで知ったこっちゃないよ。
女子クラスメートといっても、魔法学科2年生の女子はユーフェ嬢を除けばたったの2人だけだし。この王立学園で仮にも王女殿下を蔑ろとか、勇気あるのか無謀なのか単に大馬鹿なのか。
ーーまあ、礼儀作法も貴族言葉も面倒臭くてスルーしてる僕なんかが、他人の事なんて言えた義理もないわけだけど。
「しかし、姉上を強引に王立学園に編入させたのはこの自分なのだ。可能な限り快適で有意義な学園生活を送っていただきたいと考えている。第一、あんな寂しそうなご様子の姉上はとても見ていられない。」
うっわあ。相変わらず呆れるレベルの超過保護。認めたくはないけど、やっぱりこれが世間で言うヤンデレとかいうやつなんだろうなあ……
フレイ殿下は昔からユーフェ嬢限定ではた迷惑な病気が発動する。
彼女と王宮の一棟、外殿宮という宮で一緒に暮らすようになってからというものの、彼女の起床時間から就寝時間、基本生活習慣やその日交流のあった人物録、好きな食べ物や好む本のジャンルにお気に入りの王都のお店のリストまで。とにかくあのユーフェ嬢の事ならどんな事でも事細かに(主にこの僕を使って)調べ尽くし、毎日欠かさず日誌を付けてるってんだからホント半端ない。
ここで日記ではなく日誌という点がポイントでさ?聞けばどうやら彼にとって、それらは傾倒的な探求欲や支配性嗜好とかではなく、あくまで必要不可欠な“公務”、という感覚らしい。
つまり、あれらのストーカー行為をれっきとした犯罪だと、彼はきちんと認識していないっての?
ーー義理の姉の日々の観察記録が一国の王子殿下の公務……。
うん、おかしい。どう考えても理解できないし納得できない。
でもこの件はこれ以上追求しない方がいい、この僕で改心できるものならばとっくの昔にしている。もう僕は諦めた、知らない。
しかもここ最近のフレイ殿下は、ユーフェ嬢に対して更に厄介な行動まで起こしそうになっていて。いや、実際に一度だけ、みんなの目前でそのセクハラ行為なアレをやらかしてしまっていたっけ…………
「!、ああもうっ!それは今はどうでもいい!ーーあ、あのさ!そんなヒマがあるんなら、もっと秘宝集めに時間を割いたら?ヒースクリフ王のルーティンパネルカード、この間の行方不明騒ぎで手に入ったⅡ番の「太陽の砂時計」を合わせても、まだ全然集まってないじゃん!秘宝のカードを全部集めないと、君とユーフェ嬢の呪いが解けないままで困るんじゃない!?」
そう。実はこのエルドラシア王国の王家筋には、国内最高位魔法師のあのアドロス学園長にも決して解けない恐ろしい呪いがかかってて。その呪いを解く為には、初代エルドラシア国王ヒースクリフ王の秘宝を集める必要がある。
ハッキリとそれを忠告すれば、フレイ殿下はおもむろに右手を天井に向かって掲げた。ーー途端、その先端にこぶし大の光がキラッと発生したかと思うと、彼の手の上には1枚のルーティンパネルカード。
今の会話で話した「太陽の砂時計」の、そのパネルカードだ。
過去から現在に至るまでのあらゆる世界の記憶を気まぐれに見せ、時に切望する時間軸へ人を運ぶ奇跡の秘宝。
「アメリア女王時代の王宮から帰還した後、このパネルカードは今までと変わらずあの古びた柱時計の文字盤上にあるし、静止していた筈の針も正常に時を刻み始めた。けれど自分が来いと念じれば、いつでもこうして手元に現れるようになったのだ。これはこのパネルカードが僕を所有者と認めた、という事だろうか?」
「ふん。珍しく君が殴って怒鳴り付けたのが効いたのかもね。ていうか、それを使えば面倒臭くて手間だけど、その女子クラスメート達の事も何とかできるんじゃない?ーーええと、例えばさ。彼女達がユーフェ嬢をあそこまで避ける理由となった場面の記録を見せろとか、そんなカンジでその秘宝を使えば対処方法も分かるかもだし?」
神レベルの秘宝をそんな程度の事で使用するのもどうかだけどね。
ーーけれどその僕の提案に、彼は即座に首を振った。
「ダメだ。この秘宝はその程度の事で安易に使えない。……いや、“何となく”、可能な限りはこの秘宝を使ってはならない、そんな気がする。」
「!、ーーそれ、絶対幸運の、から?」
返事代わりに、彼はその手の平からパネルカードを消した。
「ふうん。せっかく手に入れたってのにガッカリだね。可能な限り使ってはならない秘宝か。そっちは気まぐれで発動したくせに、こっちが意図的に使うとダメって、それめちゃくちゃ理不尽なんだけど。それ相応のしっぺ返しか代償でもあるのかな……」
「恐らくは。そしてエルディ、自分でもこれは理由が分からないのだが、ユーフェリア姉上はあの彼女達……リリシュ・ラッティナ男爵令嬢と、ルヴィーナ・ミシュレ子爵令嬢と、“何となく”、仲良くなった方がいい。」
「…………………」
ーーあははは。あ、そういう事。それで冒頭の相談に戻るわけ。
確かに考えてみれば、彼が病的に執着するあの大事な義姉のユーフェ嬢、その彼女の交遊関係に、寂しそうだからなんて理由でそこまで必死になる道理はないもんね。だってそれならそれで、自分が学園内でもずっとユーフェ嬢にくっ付いていられるってわけだし。
むしろ今以上、彼女に友人が増えちゃったらどんどん独り占めできなくなっていく。うん、観察対象も増えて僕が面倒臭い、やっぱり邪魔だ。
けれどそんな独占欲的な負の醜い感情なんて、きっと彼は微塵も持ってなさそう。持っていたとしても、自覚していないような気がする。彼はただ純粋に、あのユーフェ嬢にとって最善となる未来を必死で選び、そこへ進もうとしている。
ーー例えそれが、苦難ばかりのいばらの道であったとしても。
ああ、厄介だ。すごく厄介な昔馴染みの友人王子と、彼が生まれ持ったやっぱり厄介な宿命とその恩恵たる絶対幸運のスキル。
けれど仕方ない。王子なんかなってしまった憐れな友人を持ってしまった、これがこの僕の宿命なわけで。
「あー、ハイハイ分かった、分かったよ。でもやっぱり僕には女子の事なんてお手上げだから。うーん、だからちょっと、性別が雌で一応は女子だとも言えなくもない、あの幼なじみの僕の友人に聞いてきてあげるよ。……まあ、気まぐれで気性の荒い娘だし、あんまり期待しないで待っててくれる?」
「は?………それは、まさかの、あのお方か?」
「うん?はーちゃんだよ。世界の果てに住んでる覇王竜のはーちゃん。ーーじゃあちょっと、そこまでサクッと行ってくる。」




