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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園婚約期編
50/119

私と手品の黒王子様

 

 偉そうに派手な大見得を切った割にはそこまで大した活躍は出来ず。それでも意外かな、彼女達の貴族令嬢ならざる体力と根性のおかげで見事ミッションクリア1位に輝く事ができた。

 さて。この後の予定は自由時間を兼ねた昼食タイム。

 学園側から支給されるサンドイッチを各自好きな場所でいただいて、この郊外オリエンテーション実践演習の行程は終了となる。

 ならば渡すチャンスは今!と思い立ち、私はエフィー先生に預けておいたリュックを受け取ると、意を決してリリシュさんとルヴィーナさんに話しかけた。



「ええと。私から貰っても嬉しくはないかもでしょうけど、力を合わせて首位を勝ち取ったチームメンバーの、その、多少は馴れ合ったよしみと思って。嫌いでなければどうぞ召し上がって下さい。こちらはカップケーキなのですけど……」


ーーうう~っ!女子に手渡す差し入れカップケーキに、どうして告白イベントのような緊張感を感じているのか!


「あっ、はい。うち、甘いものは大好きです。ありがとう。」


 ん?ルヴィーナさんは、本当は一人称が「うち」なんだ?

 それに少し雰囲気が変わった??ちゃんと私と目も合わせてくれているし。……ちょっとびっくりしたのでジイッと彼女を見ていたら、パッと後ろへ距離を取られた……

 相変わらず警戒心があるけど、「食後のデザートにいただきますね」と言ってくれたので、うん、これは大きな進歩だと思う。

 

ーーけれどもう一方、リリシュさんの方は私がカップケーキを差し出したとたん、銀縁眼鏡の中の顔を歪め、そして盛大な悪態をついた。


「私に差し入れとはホントおめでたくて呆れます。第一、こんな馬鹿みたいにキラッキラしたカップケーキは見た事がありません。さぞかしお高いお店から取り寄せたものなのでしょうね。この色付き粉砂糖のトッピングだけでも、庶民の一体何日分の食費になるのでしょうか?」


「え?いいえ、これは私が自分で作ったもので……」


 目をパチクリさせた私を彼女は更に嘲笑う。


「ああ、ご自分で?それはそれは聡明な王女殿下サマ、庶民の真似事とは大変素晴らしいご趣味ですね。魔力保有量にしてもそうですが、その資質の何もかもが抜きん出て優秀であらせられる貴女は、私どものように平凡でつまらぬ者の気持ちなど欠片も考えもしないのでしょう。」


「!、リ、リリシュさんは、何をおっしゃりたいの?そんなにも私の存在が気に入らないの?それとも気に入らないのは私の身分?王族だから?……いえ、違う。貴女はフレイ君にはそんな目を向けてはいない。なら、やっぱり私個人が嫌いだと?」


「ええ、嫌いです。私は貴女個人が、ずっと大嫌いなんです。」

「!!」


 こ、ここまでストレートに大嫌いと言われるなんて。

 私個人という事は、私が今まで起こした行動や言動の何かどれかが、そこまでリリシュさんの気に障ったと?それにずっとという事は、彼女と私は以前どこかで出会っている?もしかしてこの王立学園に入る前に……?


 公爵令嬢であった昔も、王女身分になった今も。周囲から向けられる一方的な嫉妬や悪意、根拠も謂われもない誹謗中傷には慣れている。そんなものをいちいち気にしてたら際限がないし、反応すればするほど相手の思うつぼだ。第一、私の事をよく知らない人にとやかく言われても、だから何?と思う。

 けれどこのリリシュさんは、私という人となりを見知った上で、それで私が大嫌いだ、私自身が大嫌いだと言っているのだ。例えそれが不敬罪になると分かってても言う?

ーーこれは、かなり傷つく、なあ………


「……分かりました。それほど毛嫌いされているのなら、今後私はできるだけリリシュさんとは関わりません。必要な時はお互い割り切り、他はきっぱり不干渉といきましょう。それでいいかしら?」

「…………」


ーーあ、もう、さすがに涙腺が……。

 とっととこの場から立ち去ろう、うん、そうしよう。彼女に涙なんか見られたくない。そんなもの、絶対に見せてやるもんか。

 そう思って顔を隠すようにやや俯き、受け取ってもらえなかったカップケーキをその場から引こうとした瞬間、



ーーズォオオォン!!!

「え!??」


 手の上のカップケーキが、黒い何かに飲み込まれていた!

 モヤモヤしたその黒い何かはリリシュさんの方へ飛んでいき、彼女の手元で手品のように一瞬で掻き消えてしまった。


ーー黒いモヤモヤが、カップケーキを食べた!?


「不干渉ですって?ーーそんなの冗談じゃありません。私は貴女が大嫌いと言ったでしょう?これからも私は貴女を酷い言葉で中傷します。貴女の胸に突き刺さる悪意を吐きます。その聡明ぶった高慢で美しいお顔を何度だって歪ませてあげます。この世の何もかもに絶望して泣き叫ぶ、私はいつかそんな貴女のお顔が見てみたいのですから。」


「なっ!そ、そこまで何で!私の何がそこまで気に入らないっていうの!?そんな執着じみた嫌がらせをされるほどの恨み、私には全く身に覚えがないんだけど!せめて理由を説明して!!」


 あまりの酷い言われように激昂する私に、けれど彼女はそこで突然、興味を失ったかのように踵を返した。

 わ、わけが分からない!言いたい放題言って!一体何なのか!

 


ーーけれどその去り際。私は怒りと混乱のあまりに、彼女が最後にポツリと口零した需要なセリフを聞き逃してしまっていた。



「やっぱり忘れてる……僕はそういうところが、大嫌いなんです。」






*********





「………姉上、あの、昼食をお持ちしました。クライシス教師が、貴女だけまだ受け取りにいらっしゃらないと。」


ーー何が『何日分の食費になるのでしょうか?』よ!粉砂糖は一般の粉砂糖だし、色粉は私が食用花を乾燥させて自分で作ったやつなんだから!売ればそれなりだと思うけど、原価は決して高くないんだから!


「ええ。姉上は不必要な贅沢はされません。王女なのですから少しくらいはなさってもと、こちらが残念に思っているくらいです。あ、卵を茹でて潰したものと、レタスとベーコンとチーズが入ったサンドイッチパンですよ。ユーフェリア姉上はチーズがお好きでしたよね。筒に入った紅茶もお持ちしています。」


ーー『何もかもが抜きん出て優秀』って、この私のどこが!

 頑張っても頑張ってもいつも何だか上手くいかない事ばっかで!時に変な方向へ暴走するし天然とか言われてるしよく怒られるし!

ーーあ、そのよく怒るフレイ君、約束のお弁当、どうぞ。口に合わなかったらっ、その辺にポイッと捨てちゃって、ひくっっ、いいよ。


「姉上の手作り弁当を捨てるだなどと、例えこの王国が滅びても有り得ません。…………ああ、大変お美味しいです。特にこの黄金色の料理が格別ですね。何という料理なのですか?ほらほら、姉上も一口どうぞ。何も召し上がらないのはいけませんよ、さあ、一口だけ。」


ーーもぐ………たらもやきらよ。ふぉっちは、ぎゅーにくのしょーがやき。


「姉上、貴女を勝手に妬む者の言う事など気になさる事はありません。姉上はいつもこちらが心配になるほど頑張っておられます。僕はちゃんとそれを見てきました、全部知っています。持って生まれた素質なんかではなく、何事にも全力で一生懸命だからこそ、貴女は人よりも優秀なのです。僕はそんな姉上を心から尊敬しています。他にも同じく姉上を慕っている者はたくさんいるのです。姉上と運命共同体のこの僕が言うのですから、それは間違いないと思いませんか?」


ーーぐすっ、フレイ君はいいっっつも私に甘いなあー。

 実践演習の結果が2位なのも、あれ絶対わざとだったでしょう?

 追い越されそうだったらと、あの手この手を考えてたのに、ずびびっ、全然追いついて、こっ、来ないんだもんっ。


「さあ?何の事でしょう?全て姉上の実力でしょう?」

「どこがっっ!うっ、うええん!いつもそうやって!私、知ってるんだからね!甘やかし、過ぎなんだからっっっ!」

「それは仕方ありません。僕は姉上が好きなのですから。」

「そう!それはろうもありがとっ!私もぶれいくんはふきれす!だからひょっとだけ、らまってその胸貸じてえええーーー!!」

「はい、どうぞ。姉上にならいつでも、いくらでもお貸し致します。」




ふ、ふええええええーーーーーんっっっ!!!





ーー子供のように泣き続ける私を、フレイ君は辛抱強く慰めてくれた。





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