私と郊外オリエンテーション3
まだスタートもしてない………
ーーさて!と意気込み、私は彼女達にクルリと背を向ける。
ドヤ顔で派手な大見得を切ったからにはこの郊外オリエンテーション、ミッション達成順位1位を絶対に勝ち取ってみせなければ!
幸運にも前世譲りの無駄に良すぎるIQ140のこの頭脳!彼女達に首位を取らせてあげる為の策はいくらでも思いつくし、そしてちょっとぶちギレ状態の私は、それらの手段をより好みする気は欠片もなかったりする。
ーーよおしっ!特別に今回限り、私何でもやっちゃう気満々だよ!後の事なんか知らーん!
ーーというわけで。まずは最初の第一手!!
ライバルとなる対抗馬達を蹴落とす作戦から早速開始!!
「ーーあら、ユ-フェ?開始前の宣戦布告のご挨拶かしら?ーあっ!ねえ、それよりもさっきの貴女ってば!まるで物語に出てくる正義の女王様みたいで超格好良かったわよ!あれはもう犯罪ね!ノックアウト犠牲者が出る寸前のヤバさだったもの!」
「なんであれが犯罪?……え、ええと、ところでちょっとお願いがあるの。ーーっねえ!シリーを含めた男子グループの皆様ぁー!!」
ーーザワワワッッッ!!!
私はこちらをガン見している男子グループ達に向かって声をかけた。
君達ってば余裕だね?チームで作戦を練らなくてもいいのかな?
「あのねー!この障害物競争ミッション、やっぱり足が遅くて体力のない私達女子グループは、貴人方男子と比べて圧倒的に不利だと思うの。ーーだからね!ここは私達にハンディキャップを下さいなー!はい!私は全男子グループにスタートロス、10分を要求しまーすっ!」
「「「ーーはッ!!ユーフェリア殿下の仰せのままに!!」
ーーん?あ、あれ?いいの!?
というか、何故彼らは最敬礼で返答してるの?
それは横暴だとか意義ありだとか断固拒否だとか、君達に反論はないの?10分って、結構なロスタイムだよ?ホントにいいの!?
「はああー!?それってどうなの?先生は提示された条件と環境下で各自ミッションに臨めって言ったわけだしさ。ユーフェ嬢のグループが体力や足で劣るってんなら、その分を魔法でカバーしてこその魔法学科の生徒なんじゃない?」
エルディ君が1人だけごもっともな反論をした!
ーーでもゴメン!君についてはしっかりと対処済みだから。
私はニッコリ笑ってエルディ君の横に行き、小声で彼を脅す!
「エルディ君エルディ君。私は始業式の日に君の転位魔法に驚かされて昏倒しました。一歩間違えば、頭に大怪我を負うところでした。」
「う!ーーそ、その時の事はホントに悪かったと思うけど!でも僕は倒れる前にちゃんとカバーするつもりだったし、その借りはもう十分に返したから!」
むぅ?いつ返された?……仕方ない、ならば次の一手を!
「ねえねえ、聞いたところによると君は、最近無許可で勝手に王宮に侵入したらしいね?そしてそれ以外にも、実はちょくちょくあのびっくり転位魔法で外殿宮のフレイ君を訪ねて来ている。これ、ギュンスター伯爵様にバレると結構マズいのでは?」
「!!っーーあの騎士!口止めしたのに!や、やめて!父さんにバレると命の危険で半端ないお説教食らうんだけど!うああっ!もう、分かったよ!スタートロスの要求くらい呑むから!でも!その後は容赦しないからね!」
ーーよし!最大の勝ち馬候補のエルディ君が陥落!
君の弱点がお父上のギュンスター伯爵様だという情報は掴んでいる!あの剛胆な流浪人の伯爵様、貴族マナーや生活態度には寛大だけど、この王国にオイタをする子にはホント容赦しない人だから!
ーーでは、さてさて。お次は新馬戦たるシリーがターゲット!
私は子供のように口を尖らせるエルディ君(ちょっと可愛いな)を無視し、再度シリーに向かい合うと、フレアスカートのポケットからあるものを取り出して彼に見せた。
「あらあら?この私には一体何の取引を?ーまあ、ここは普通にレディーファーストと言いたいいところだけど。私もこれでも一応隣国の王子様なのよね。留学して来たからには優秀な成績を上げておかないと、国に帰った時の立場がねえ?ーーって!それ何!?初めて見るものだわ!な、なーんて綺麗な装身具!!」
「ーー“組紐”、という私が考案した手工芸品です。フレイ君の誕生日祝いの贈り物にと、今回頑張って作ってみたものですが。ええと、はい、フレイ君。一日早いプレゼントですけれど、良ければ受け取って下さい。14歳のお誕生日、おめでとうございます!」
「ーー僕の誕生日祝い、ですか!?しかも姉上がお作りになった!?」
私が差し出した突然の贈り物に驚くフレイ君。
日本の伝統工芸品で、絹糸や綿糸を組み上げて編んだ紐を組紐といい、仏具や日本刀の装飾飾りに使われていたものだ。某有名なアニメ映画に出てきたやつね。前世で読んだ入門テキスト本から作り方を思い出し、丸一日かけて編んだその組紐を元に、装身具となるブレスレットを作ってみたんだけど……
「この紺碧色と白金色の紐の組み合わせ、そして組み込まれている玉は翡翠石。まさに僕の目と髪の色ですね。複雑なパターンの編み模様が実に美しく、素晴らしい品です。姉上、素敵な贈り物を有難うございます。……一生涯、大事にします!」
ーー良かった!フレイ君はプレゼントの組紐ブレスレットをとても気に入ってくれたようで、早速その場で左手首に装着してくれた。
うん!補正アップでキラキラ王子様が5割増しでキラキラ輝いた!
「物理的にキラキラなんだけど!何か変な魔法効果かかってるよね!?」
「さあて?ーーところでシリー。この組紐の作り方を知りたくはなあい?もしかしたらこの技術が、シリーのお国で些少のお役に立つ事もあるかもしれないよ?」
「こ、この組紐の製法と使用特権を!この私にも共有させてくれるっての!?ーーも、勿論知りたいわ!スタートロスの条件くらい、組紐の特権に比べたら何でもないわね!ええ!絶対にこれ、今後のファッション界に特大の旋風を巻き起こすわよ!」
ーーよし!シリーもこれで陥落!
まさかフレイ君の誕生日プレゼントがこういう風に役立つとは!何にしようか随分悩んだけど、気に入ってくれて良かった。
そして、人一倍美意識が高いシリーは美しい物が大好きで流行にも敏感。見た事もない組紐ブレスレットを見せれば絶対に食いつくだろう、という私の目論みがまんまと大当りしたわけだ!
ホッと胸を撫で下ろしていると、いつの間にかど真ん前に来ていたフレイ君が、ニコニコと上機嫌で私の顔を覗き込んでいた。
「え!?どわわわっ!!あ、ああああの!?」
「お次は僕ですよね?ユーフェリア姉上は、一体この自分のどんな弱みを握っておられますか?……それとも姉上の魅了のそのお力で、僕を骨抜きに籠絡してしまうおつもりでしょうか?」
ーーえええええっ!??
「ちちち、近い!フレイ君ってば近いッ!ちょっと待って!」
「“待て”ですか?でもそれをなさると、“よし”をせねばなりませんよ?」
「なんでそうなるっ!魅了って、私にそんな力はないから!」
というか弱みを突き付けられそうなのに何故嬉しそう!?
そしてその“よし”をした場合、一体私はどうなるっての!?ーてぇ!麗しのビスクドール顔がどんどん近付いてくるんだけど!?
ーーちょ、ちょっとホントに待って!!
ねえ、フレイ君!そもそも君はどうして私の髪を掻き上げ、左耳をロックオンしちゃってるの!?
ーーぞぞぞぞぞ、ぞくぅぅぅっっっ!!!
「ひいっ!降参っ……あっ、やんっ、!……っあぁんっっ!!」
「!!!」
ーーあ、あああ、あれ??
いいいい、今、一体何が起こった………??
何か変な裏声が出ちゃったし!うああっ、何かでも!ま、前に、これと同じ事があった……??
一部分の記憶がふっ飛んだらしい私をよそに、何かやらかしたフレイ君は顔を両手で覆いながら後ろを向いてた。
ーーおい!こら!説明しろおっ!ってぇ、やっぱいいわ!!
「……姉上が、か、可愛い過ぎる……その、僕の完全完敗です。というよりも、しばらくこの顔を元に戻せそうにありませんので、スタートが遅れます……」
「いやいや!それどういう事!??」
ーーよく分からんけど!何か凄いセクハラを受けたぞ!??
「……あっらー、キラキラ王子様ってば、まさかの肉食系?」
「授業中に何やってんの………」
*********
ーー安定安全の常連入着馬は予想を超えて手強かった!!
スタートロス10分を男子一同から晴れてもぎ取ったというのに、負け犬気分でリリシュさんとルヴィーナさんの元へ戻った私。
「あ、あのあのっ!大変お疲れ様です!終わり良ければまあ良し!ですよ!よよ、良かったら美味しい飴でもどうぞ!」
「その、お見事、でした。……ですが婚約者同士といえど、破廉恥な行為はいけませんから!そこは慎んで下さい!」
ーーあら?ちょっとだけ好感度が上がってない??




