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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園婚約期編
46/119

私と郊外オリエンテーション1


 キャメルから聞いてはいたけどこの郊外オリエンテーション、集合時間前は毎年ちょっとした差し入れイベントになるらしい。

 ならば当然の如く、自国の麗しきビスクドール王子、フレイ君へと殺到する女子は盛大な数となっていて。しかも彼へ群がるご令嬢達のそのほとんどが、どう見ても神崇拝&何でも尽くします系の真剣な乙女達に見える……



ーーあれ? 何だか無性にいらいらっとする……

 

 寝不足と空腹の所為かな? たまに本や研究に熱中して寝食が疎かになる事もあるけど、でもいつもは全然平気なんだけどなあ??

 

 不思議と言う事を聞いてくれない眉と戦いつつ、ぼーっとご令嬢の群れに囲まれているフレイ君を見ていたら、何だか少々お疲れなカンジのエフィー先生がこちらにやってきた。

 魔法学科担当教師のエフィー・クライシス先生だ。

 肩先までの赤みがかったブラウンの髪と紅茶色の瞳。エルディ君の伯母で中性的な容姿の温和怜悧な先生。実はヒースクリフ王のルーティンパネルカード集めの協力者でもある。


「エフィー先生、おはようございます。早速で申し訳ありませんが、こちらのお菓子の持ち込み検査をお願いできますか?」


 郊外オリエンテーション実習では食当たりの危険性から、携帯食などのドライフーズ以外の食べ物の持ち込みに関しては、担当教師による事前検査が必要なのだ。悪くなりやすいお弁当はお昼の食べる直前にお願いするとして、こちらのカップケーキはせっかくなので今お願いしておこう。

 

 それにこうもいらいらするのは、きっとお腹が空いてる所為。

 ちょっとはしたないけど、つまみ食いしようかな?


「これはユーフェリア嬢、おはようございます。そして殿下まで差し入れ組ですか。ーーいえ、正直に申しますと、自作の魔力回復ポーションが全く追い付かないレベルなのです。今年は人気者が多いようで、私の知る限り過去最多記録になりそうですよ。」


「えっ、それは申し訳ありません。過去最多……やはり今年はそんなにも差し入れが多いのですか?」


「はい。まあしかし、ここの卒業生である私も、在学中はしっかりと今の旦那様に差し入れをしていました。なので健気な乙女心については理解がありますからね?」


 そう苦笑しながら、私が持参したカップケーキの包みをすぐに魔法で検査し、「はい、問題なし」と返してくれるエフィー先生。

 うーん、これは是非とも労って差し上げなければ。


「あの、こちらは手作りカップケーキなのですが、エフィー先生もお一つ如何でしょう? 自分で言うのも何ですが実はちょっと自信作なんです。たくさん作りましたので、お昼にでもどうぞ。」


「えっ、これはこれは!王女殿下のお手製とは光栄の、」

「おはようございます!ユーフェリア姉上!「どうぞ」と、今聞こえましたが、それは僕の為に作ったお弁当なのでは?」


「「!??」」


 群がるご令嬢をかき分け、いつの間にやら傍近くまで来ていたフレイ君。彼はエフィー先生へと向けられたカップケーキの包みを、何故かとても必死な形相で見つめていた。


 え?ーーあ!この包みを約束のお弁当だと勘違いしてる??


「おはようございます。ーーけれどフレイ君、お弁当なら私のでなくても十分間に合っていらっしゃるのでは? 可愛いらしいご令嬢方に囲まれて、より取り見取りの選び放題のようですし。きっと私が作ったものなんかより、数段手の込んだ力作揃いの美味しい差し入ればかりなのでしょう?」


ーーんん? 眉の次は口が言う事を聞いてくれない!?

 普通に挨拶を返すつもりだったのに、より事態がこんがらかるような発言が口から勝手に飛び出てくる??


「姉上、それは誤解です。彼女達のご好意を光栄と存じますが、見知らぬご令嬢が差し出すものをおいそれと口には致しません。全ていつも丁重にお断りしています。そもそも今は婚約者の貴女がいるというのに、」


ーーぴきっ、ぴききききっっっ!!


「へえー、彼女達の好意そのものは嬉しいんだ?それにいつもって、フレイ君はそんなに頻繁にああいう女の子達に囲まれていらっしゃるのですか?……わあー、おモテになるのですねえー、凄いですねえー、ふぅーん?」


「あ、あの、ユーフェリア姉上?何故先ほどから、ところどころ敬語なのですか?」

「あら?敬語なのはフレイ君もでしょう?」

「??、本当に、一体どうされたのです??」


ーーマズい!嫌み口調が止まらない!

 どうしてどうでもいい筈の事がこんなにも引っかかるの!?


「ぷっ!ーーぷはははは!!」

「「!??」」


 その時、エフィー先生が突然笑い出した!


「くくっ、すみません!でもいじけられているお姿が、何ともお可愛いらしいなあと思いまして。私にも昔、これと同じような事がありましたが、私の場合は問答無用で彼をぶん殴りましたからね!」


ーーパアンッッッ!!!


 ちょうどドンピシャで、ぶん殴るような軽快な音が周囲に響き渡る!思わず皆が注目する、そこにはーーー


「食べ切れなかったら他の奴にあげるか捨てる、ですって!?アルバート!貴方って、王国一の朴念仁ね!ホント、最低ですわよ!」

「ーーおい、キャメリーナ嬢!?」


 親友のキャメルが般若のようなお顔で尻もちをつくアルバート君を見下し、そして毅然とした姿でその場を立ち去っていく。

 

 その後ろ姿に「格好いい!お姉様!」「赤薔薇様の鉄槌が下された!」「男はみんなゴミ!滅べ!」という病んだ女子達の声がかけられていた。みんな淑女教育学科の生徒のようだけど、あそこの学科は大丈夫なのだろうか……?


「ーーそうそう!私もあんなカンジで旦那様をぶん殴りましたねぇ。あははは。こういうハプニングも、王立学園ならではの伝統ですねえー。」


「「………………」」




ーー人の振りを見てなんとやら。何だか急に頭が冷えた。

 




*********




 いらつくのは腹ペコだからか!と結論付けた私は、昨日作ったカップケーキを袋から取り出して出発前に食べる事にした。

 人目を避けて木陰に移動すると、フレイ君も後をついてくる。


「もぐもぐ。フレイ君もお一ついかが?さっきは変な事を言ってごめんなさい。」


「え? いえ、こちらこそ。勿論有り難く頂戴致しますが……しかし、姉上? 出発前にもう食べてしまわれるので? それにこんな場所で、立ったまま!?」


「何よ。今日のオリエンテーション実習日は無礼講と事前説明にあったもの。いつもの貴族マナーは、全然気にしなくてもいいって、そうゆってたもん。」


「それはそう、ですが。何だか姉上、今日はいつもとご様子が違いませんか?」


 前世で夏はアイスクリーム、冬はあんまんを、コンビニで買ってよく歩きながら食べたものだ。これが本来の素の私だ。

 それともこういう私は軽蔑されるんだろうか?


「む。嫌なの? 一緒に食べてくれないの?」

「!!、た、食べます!ーーが!」

「フレイ君は、こういう淑女らしくない私は嫌い……?」

「ーーだから姉上!そのようなお顔を、無防備に見せないで下さい!」


 じいっと上目遣いで睨んだら、真っ赤になって叱られてしまった。ちょっと調子に乗り過ぎちゃったかな?

ーーけれど手渡したカップケーキを見たフレイ君は、目を丸くした。

 

「!?、このカップケーキ、星に見立てた模様が描かれているのですか?……これはとても色鮮やかで綺麗です。食べるのが勿体ないくらいですね。」


「うん!あ、ここの部分は流れ星なのよ、なかなか華やかな出来栄えでしょ?トッピングだけでなく、生地もふんわりと上手く焼き上がった自信作だから是非食べてね!」


「え? 姉上の手作りなのですか?これは凄い!どう見ても王都にある高級洋菓子店並みのお菓子ですよ?」


「ホント!? それは嬉しいな!こんなので良かったらいつでも作るよ? だからね、フレイ君。他の女の子からの差し入れは絶対に貰わないでね?」


「はい、それは当然の………っえ!?」


「ね? 絶対に、貰わないでね?」


「それは、え、も、もしかして焼いて……いえ!はい!絶対!」




ーーそんなこんなで2人でつまみ食いをしていたら、そろそろ出発時間だ。

 

 

 集合場所に設置されたアドロス学園長作の巨大転位陣を使い、魔法学科の生徒全員が今年の実習場所であるグレイスケルの森へ移動。

 そこでようやくオリエンテーションの内容説明が行われた。


「ーー以上が、今年の郊外オリエンテーションの実施演習内容です。これより各自、3~4人の決められたグループに別れ、お互いに協力してミッションクリアを目指して下さいね。一応これも授業ですので達成順位は成績に反映されますし、王立学園の中央掲示板にも結果が掲示されます。ここは事前に入念な下見をした安全な森ですが、何か不足の事態が起きた場合は直ちに各所に配置されている守備兵の方に声をかけて下さい。更に一刻を争う場合は、その場でアドロス学園長の名を大声で呼んで下さい。即座に駆け付けて下さる手筈になっています。ーーでは、これまでで何かご質問はありますか?」


「ーーあの!質問ではなくて、要望なのですが!」


 オリエンテーション実施演習の詳しい説明をするエフィー先生。

 そこへ、リリシュ・ラッティナさんが手を挙げた。

 

 銀縁眼鏡のちょっとお堅いカンジの優等生タイプの女子。

 同じクラスになって一ヶ月弱だけど、私は彼女が笑っているところを一度も目にした事がない。その彼女が私の胸に突き刺さる意見を述べる。


「2年生の女子生徒3人という、このグループ決めに私は納得がいきません。変更を要望致します。そもそも私とルヴィーナさんの2人では、王女殿下の御身に何かあった場合に満足のいく対処ができません。このような郊外活動の隙を狙って、殿下の御身を害そうと企む輩が襲って来る可能性も十分に考えられます。正直に申しまして、そんな巻き添えを食うのは御免です。」


「リ、リリシュさん!あの!そんな言い方はっ……!」


 もう1人の女子クラスメートであるルヴィーナさんが、リリシュさんのストレートな言いように慌てふためく。他の魔法学科の生徒達も唖然としていて。

 けれどリリシュさんの言い分はまだ続き……


「それに王女殿下は2年生からの編入で、はっきりと申し上げて基礎が十分ではないと見受けられます。そんな腰掛け気分の王女殿下とご一緒のグループでは、私達のハンディキャップとなるのではありませんか?ーー同様に、勉学に遊び気分と見られる派手な取り巻きの方達と、王女殿下はチームを組まれてはいかがでしょうか?」




ーーぷっつん。






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