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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園編入学日編
43/119

自分とお姫様の祝福のキス


 突然だが、自分の名はアルバート・キットソン。

 王都から少し離れたのどかで自然豊かな北の山間部、その辺境の領地一帯を治めるキットソン侯爵家の次男坊として自分は生まれた。

 

 このキットソン領、名竜揃いで有名な小飛竜の買い付け地として今では広く知られているのだが。これは五代前の当主が標高があまりにも高く険しいが為に、木材などの資源利用や観光地促進にも向かない領内の山地を何とか有効利用すべく、小飛竜の飼育牧場を立ち上げたのがそもそもの始まりである。

 そして生来、贅沢とはほど遠い貧乏貴族として育った事もあり、当主自らがその飼育牧場の総責任者、つまりは実質的な労働も伴う牧場主を生涯に渡って務め上げたという。

 その努力の甲斐あって小飛竜飼育牧場はなんとか軌道に乗り、やがてその息子から孫、孫から曾孫へと引き継がれ、現在は自分の父親である現キットソン侯爵家当主がその家業を受け継いでいる。

 そんな事情からして、自分は物ごころの付いた幼少期よりこの小飛竜という生き物に日常的に自然と慣れ親しみ、そして無邪気にも壮大な夢を掲げる少年へと育っていた。

 


ーーーいつかこの小飛竜に乗って大空を自在に翔け、

   物語に出てくるような強くて格好いい騎士になる!ーーー


 

 ある日無謀にもそう決心した自分。当時の剣の師匠であったアドリック老師に頼み込んで彼の騎乗する小飛竜の背に同乗させてもらい、騎士修行と称して領地近郊の田畑を荒らす魔獣や害獣を駆除して回る、そんな少々…いや、他とはかなり違う少年時代を送っていた。

 その後、このアドリック老師は心臓の病に他界されてしまうのだが、この害獣退治の修業は愛馬キャレルと共に継続して行っていた。

 

 けれどそのような生活を送っていれば当然ながら、貴族としての勉強は疎かになりがちだったのだが、ある日のこと、そんな自分の礼儀作法の見苦しさに辟易した少女、キャメリーナ・ファフテマ侯爵令嬢の熱心な教育指導によって解消される事となる。

 

 確か9歳の頃に修業先で偶然知り合ったこのキャメリーナ嬢。

ーー彼女は王国内でも歴史ある名家と名高いファフテマ侯爵家のご令嬢だったのだが、何故かそれ以降も自分を訪ねて頻繁にキットソン侯爵家にやって来た。

 腹違いも合わせた弟妹が多くいる為か、世話好きでお節介な性分のお姉さんタイプの彼女は、隙あれば剣を振り回してばかりのこの自分をとっ捕まえ、貴族子弟としての常識やマナーをスパルタで叩き込んでくれるのだ。

 おかげで大目に見ての及第点ではあるが、どうにか最低限の立ち振る舞いや基本のダンス、儀礼的な挨拶の型の一通りをこなせるようになっていた。



「……不公平ですわ。男子って背が高くて容姿がそこそこ良いだけで多少の不足は帳消しにされる……先ほどのダンスだって本当にギリギリの及第点でしたのに、その次に披露した剣舞に貴族夫人のみな様方、ぽぉーーーっと見惚れてしまって!“苛烈でけれど優雅な物腰の、踊りが大変お上手な小さな騎士様!”、なのですって!」


「……そうか。恥をかいたのでないのなら良かった。けれどそれ程やきもきさせるのであれば、この次の機会は別のパートナーを探そうか?」


 毎年春に恒例の、このオルストフ国王陛下ご生誕パーティーでは王都近隣の全ての貴族の参加が義務付けられている。

 出会ってより、こちらのお節介なキャメリーナ嬢が自分のパートナーに名乗りを申し出てくれているのだが……


「そ、そうね……この私でなくとも、準騎士の称号持ちで将来有望な貴方ならば、パートナーの立候補者は引く手数多よね。けれど、ご覧なさいませ? あのご令嬢の群れに貴方、突撃していけるのかしら? 私以外のパートナーを見繕おうにも、先ずはそのご令嬢と知り合わなければお話にならなくてよ?」


「……………」


 キャメリーナ嬢が促す先には、口元を扇子で覆い隠してこちらをちらちら見ているピンクや黄色や白のドレスを着たキラキラ女子達の群れ。

 自分は今まで剣ばかりの朴念仁で、同年代の女子はこのキャメリーナ嬢としかまともに接した事はなかった。どう会話をすればいいか全く分からない、というか先ず、彼女達の顔の判別が付かない。


 それに準騎士の称号持ちとは言うが、それは全て一重に、このキャメリーナ嬢のおかげだと自分は肝に銘じている。

 去年、長年の武者修行のあの地道な害獣退治の功が、なんと恐れ多くも国王陛下の目に止まり、異例にも未成年にして夢の騎士の第一歩である準騎士の称号を授与される、という幸運に恵まれたのだが。けれど、いくら数多くの素晴らしい功績を打ち立てたといっても、高貴な振る舞いの出来ぬ者に騎士の称号は与えられない。


ーーそれは後に入学する王立学園騎士訓練学科で、一番最初に習うエルドラシア王国騎士としての常識であったのだから。


 そしてこの後のパーティーで驚く事に、国王陛下が壇上にて、二大公爵家から自分の後継者筆頭候補として、フレイ・セヴォワ様とユーフェリア・レストワール嬢を同時指名するという異例の事態が起きる。

 そして縁あってその後の自分は、そのフレイ王子殿下の専属護衛騎士候補となる強運に恵まれたわけだが。





▲▲▲▲▲▲▲▲▲





ーーそれから早二年、その自分の主君であるフレイ殿下がある日ふと、王宮に来た僕に向かって尋ねられた。



「そういえばアルバート。以前、彼女本人が口にしていたのだが、アルバートはユーフェリア姉上のご親友であられる、ファフテマ侯爵家のご令嬢と婚約関係にあるのだろうか?」


「は? キャメリーナ嬢が自分の婚約者、ですか。いいえ? 異例にも最小学年の1年生で、王立学園初等科の後期生徒会長に就任してしまったカリスマ才女が、自分などの婚約者である筈がありません。彼女とは確かに昔から交流はあるのですが。」


「けれど、そのキャメリーナ嬢本人が口にしていたのだが。ーーああ、ほら、1年以上前のあの襲撃事件の時だ。この僕とエルディよりも先にキットソン侯爵家を訪れていた彼女が、自分はアルバート様の婚約者なのだと、だから真っ先におまえを見舞う義務があるのだと、そうはっきりと明言されていた。」


「彼女がそんな事を? 確かに昔、そんな話を冗談でちらっと言われたような……?」


「婚約を、しかも女性の方から冗談で口にするとは考えられないのだが……」


「しかし、自分とキャメリーナ嬢では誰が見ても不釣り合いです。身分は同じ侯爵位といえど、あちらのファフテマ侯爵家は代々に渡って国内外の大商人らと対等に貿易取引を行うやり手の大貴族家。フレイ殿下も一度いらっしゃった、あの小飛竜牧場しか産業も見どころもない、うちは大変慎ましい名ばかりの侯爵家ですので。」


「……そんなにキットソン侯爵家は領地経営が厳しいのか……? 確かに小飛竜の飼育には大量の餌代やら環境整備やらと元手にお金がかかる。けれど、成人済みのあの兄のジェラルド殿も、今は牧場経営の手伝いをしているのだろう?」


「あの兄が手伝ったところで騒がしくうっとおしいだけです。小飛竜どころか馬にも乗れぬ運動音痴、口ばかり達者でおれば面倒臭く邪魔です。」


 相変わらずあの兄のテンションはうっとおしい。

 口を開けばどこかの吟遊詩人か舞台役者のような大仰な語り口調で、誰相手でも気の向くまま喋り続けるのだ。あれは絶対に口から産まれてきたに違いない。


「……あー、うん。ジェラルドは確かにやかましいな……。しかし、そうか。キャメリーナ嬢がアルバートの婚約者ならば、その伝手で姉上ともっと交流の機会が持てる、と単純に考えたのだが。」


「王女殿下とは今でも頻繁に交流なさっておられるでしょうに。この外殿宮でお会いすれば、必ずご会話をされておりますし、お茶もお誘いすれば可能な限りお受け下さいます。時折申し込まれる城下町のご視察も、喜々としてお付き合い下さるではありませんか。」


 視察のあれは、どう見ても乗り物の小飛竜がお目当てと見えるが。

 だが残念な事に、小飛竜で一般の大空を飛翔するには成人の16歳と法律で取り決められている。フレイ様はすでにキットソンのうちから将来の彼専用となる幼体をお買い上げで、熱心な飛翔訓練の努力の成果もあってか、小飛竜を自在に操れる技能をお持ちなのが、彼女にその勇姿をお見せできるのは、まだまだ数年も先だろう………

 

ーーそう。フレイ殿下と政治的には対立している筈の、あのユーフェリア王女殿下は実はこのフレイ殿下の想い人である。はっきりとは口になさらないが、それは傍近くで仕えている者には公然たる事実。

 というか、あれほど熱烈なアプローチを受けていて、一切合切何も気付いていないご様子のあの王女殿下、果たして大丈夫なのだろうか?

 


「アルバート?」

「はい?……申し訳ありません、何のお話でしたか?」


 いかん。あの王女殿下の事を考えていたら、ついついご心配になって主君の言葉を聞き漏らしてしまっていた。


「ああ、うん。もうすぐアルバートの在籍する騎士訓練学科も新入学生を迎える時期だ。確か始業式のその次の日に、毎年恒例の新入生歓迎模擬戦トーナメントが開催されるのだろう? できればユーフェリア姉上をお誘いして、ご一緒にアルバートの応援をしようかと。」


「それならば是非とも、今年も優勝せねばなりませんね。」


「……自信満々だな……けれど本当に二連覇してしまいそうだ。」


 恒例となっている騎士訓練学科の新入生歓迎模擬戦トーナメント。

 新入生の年には並み居る強豪の先輩方を押し退けて三位入賞、去年はなんと優勝の栄誉を手にした。フレイ殿下とユーフェリア殿下が観覧されるというのであれば、今年も引き続き優勝といきたいところだ。


ーーしかし、その時、不意に思った。

 

 その昔、今は亡き愛馬キャレルを救ってくれたあのユーフェリア王女殿下は、頼めばもしや、優勝した自分に祝福のキスを与えてくれるだろうか?

 実はこのトーナメントで上位に入賞した生徒が望めば、会場にいるご令嬢の中から一人を選んで指名し、額か頬に健闘と祝福のキスをお願いする権利が与えられるのだ。

 去年も一昨年も特に希望しなかったのだが、何故か無性に今、あの王女殿下にその祝福を受けたくなった。

 これはきっとあれだろう。お姫様に祝福のキスというものが、憧れの騎士そのもののように思えたからに違いない。




 けれど、当日になってみればそのユーフェリア殿下は知恵熱を出したとかで学園自体を病欠。新入生歓迎模擬戦トーナメントも、ある謎の風避け兜を被った騎士の登場で大混乱に陥っていた。



「ーー王立学園騎士訓練学科の全生徒諸君に告げる!!今年のトーナメントは中止だ!!その代わり、この俺に勝てばその場で騎士の称号が与えられる!!因みにルールは倒れ伏す、又は膝を地に付けた時点で負けとする!!これはその旨の誓約を記したオルストフ国王陛下の書状である!!この通りしかと玉璽が押された正真正銘の本物に間違いなし!!ーーではみなの者、かかって来るがよい!!」


「「「はあああああッ!??」」」


「ガ、ガドゥラケル、またおまえか………」


 何か観覧席で呟くフレイ殿下だが、自分には遠くて聞こえない。

 しかし、突然会場中央に登場したこの風避け兜の討ち入り騎士が、とんでもなく腕の立つ騎士だという事はこの場の誰もが瞬時に察した。されど勝てばその場で即騎士、という彼の宣言は大変に魅力的だった。

 

ーーそして始まった前代未聞のバトルロワイヤル。

 自分も含めた騎士訓練学科生徒、およそ百名余りが意気揚々と一斉に取り囲むも、先ずは挨拶代わりの爆風魔法で半数が吹っ飛んでいった。

 威力が半端ない!それに彼の持つニメートルにも及ぶ巨大な槍捌きのその勢いに圧倒される!一振りで軽く五、六人は巻き添えを喰らって倒れていた!ーーきょ、去年優勝したこの自分が!彼の攻撃を何とか間一髪で避けるだけで精一杯とは…!














「アルバート!アルバート!ーーねえ、大丈夫?」

「惜しかったな。けどあれはない。あいつはない。」


「?フレイ殿下に…キャメリーナ嬢??……そうか、いつの間にかあの騎士に倒されてしまったのか。不甲斐ない。フッ、これでは姫君の祝福どころではなかったな。」


 自分は知らぬ間に気絶していたらしい。

 まだまだ騎士の道にはほど遠いという事なのだろう。自信満々に二連覇などと、驕り高ぶっていた自分が恥ずかしい………がっくりとうなだれる自分の額に、不意にその時、何か柔らかいものが当たった。


「誰の祝福を受けたかったのか知りませんけど。負けたのですから、今回は私で我慢なさったら如何?」


 目と鼻の先でキャメリーナ嬢がにっこりとそう告げた。けれど次の瞬間、ーーふん!とそっぽを向いて立ち去っていく。

 我慢?我慢で何故、キャメリーナ嬢がこの自分に祝福を??


「?ーーどういう意味でしょう?フレイ殿下、分かりますか?」


「分からないのか!あれで分からないとは恐ろしい朴念仁だと思うのだが!……ああ、この察しの悪さ、ユーフェリア姉上に引けを取らん……!」


 

 そう言われても女心など自分にはサッパリで。

 ただひたすら、この時の自分は首を傾げ続けるしかなかった。





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