私と至福らしい晩餐と白い婚約1
38~40話サブタイトル変更しました。
「ーーで、宜しいですかな、ユーフェ様。僭越ながら申し上げさせていただきますれば、王位継承者選別までの期間限定の仮であるとしても、貴女様の今のご身分は紛うことなき、このエルドラシア王国の王女殿下なのであります。」
いや、うーん。どうだろう。その王女殿下身分も次代の女王陛下の地位も、そもそも私は微塵も望んではいないんだけど……と思うものの、リュカさんの片眼鏡はキラーン!と光る。
「ですから、例え無自覚ゆえのポンコツ発言でいらっしゃったと致しましても!ユーフェ様のそのお言葉一つで、多大なる影響を局地的に及ぼす恐れがあるのだと、どうか切にご理解いただきたく!特に初恋を病的に拗らせまくっておられる、色々と面倒臭い夢見がちな男子を!さしたるご覚悟もなく惑わされぬよう、こうしてお願い申し上げたい次第でございますれば!」
「え? ポ、ポンコツ発言!? そして、その“初恋を病的(?)に拗らせた男子”って……ひっ!えー、はいはい!あの!ええと、フレイ君!この度は、私の言葉足らずのはしたない言動で大変惑わ(?)させてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした!!」
「いいえ!姉上が僕に、そのように頭を下げる必要など!ーーっリュカ!確かにユーフェリア姉上の、あれら小悪魔的発言は僕も天然ではどうかと思うが!けれどその言い方はあまりにも!」
「こ、こここ、小悪魔的発言……!?」
「はっ。何かおっしゃいましたかな?普段は冷静沈着で感情の起伏が少なくあられるのに、どなたかの事となるとそれはそれはもう!端から見てて呆れるほど短絡的で暴走傾向にあるフレイ様?」
「ぐっ…!図星だけれど、凄く腹が立つ!」
ーーあらら。珍しくフレイ君が年相応の反応をしている!
ええと。ご覧の通り、ちょっとおかしな状況になっています。
ここは現在、二十年以上も前の過去の王宮。そして星時計の間の応接ソファーに向かい合って座り、若返った片眼鏡冷徹バージョンリュカさんの、こんこんと続く毒舌説教を受ける私と横のフレイ君。
しかし私の中の、このリュカさんの印象がどんどん変わっていくなあ。
ひなたぼっこしながら縁側でお茶をすすっていそうな、あのニコニコ顔の恵比寿様のようなリュカさんは今いずこへ??
それにその、初恋を病的に拗らせたっていうのはもしかして、以前フレイ自身が口にしていた「大事に想う人がいる」の、その人に関する事、なのかな……?
ーーああと、いやいやいや!
そんな自分に全然関係ない事を気にしてる場合じゃなかった!
私はつい先ほど指摘された“無自覚ポンコツ発言”、とやらの数々を思い出し、心の中では盛大に頭を抱えていた!
これはあくまで言い訳だけど!あまりにも今日一日で衝撃的な事が起こり過ぎてしまい、私の頭が少々残念な事になっていたのだ!
本来ならば「子供が好きか嫌いか?」、「お互い、将来子供がちゃんと産まれるように、秘宝集めを一緒に頑張ろう!」と言うべきところを!「結婚したら、やっぱり産んで欲しいかな!?」だの、「フレイ君そっくりの子供なら、私も絶対欲しいし!」だなどと!まるで、こ、小作りをっ、私が誘っているも同然なはしたない発言の連発……!!
ーーうん!まさに私、お年頃な未成年男子を惑わす痴女だね!!
あれ?……けど、そんなセクハラ発言に了承の返事をしたフレイ君は、空気を読んでわざとのっかっててくれてたのかな?
女性に恥をかかせまいと、冗談っぽく流すつもりだった??
ーーうう~ん? でもそうだとしか、他に考えられないもんね。
だってフレイ君は、王様に私との政略結婚を「それは有り得ません」ときっぱり断ったという。有り得ません、て。それどんだけ問題外なんだ。
私がゼヴォワ公爵家と対立するレストワール公爵令嬢だから?それとも政略結婚も有り得ないほど、私がフレイ君のタイプではないという意味なんだろうか?彼はそういえば、何の抵抗もなしに私の事を“姉上”と呼ぶようになったわけだし。
うん、だから私との子供なんかを、彼が望むわけがない………
「僕の顔を見て百面相……? 実にお可愛らしいですけど、まさかへこんでおられるのですか?」
「ーーふっ、この様子では、ユーフェ様はまた何かしら、天然で頓珍漢な解釈をなさっておられますなあ……まあ、宜しいです。この先はこのリュカめが、面倒臭がりやな国王陛下に代わってご説明申し上げましょう。」
「? リュカ、もしかしてそれは、姉上が引き受けたと聞く面倒事、とやらの……?」
「ええ。ユーフェ様やフレイ様、そしてこのエルドラシア王国が関係する、とても重要な国家機密でございます。どのみちフレイ様におかれましては、国王陛下ご自身かアドロス学園長殿、もしくはこの私めが、近日中にでも全てお話する予定でありました。」
鬱々と考え込み出した私をよそに、けれどリュカさんは重々しい口調であの話をフレイ君に打ち明ける。
ーー“子が産まれなくなる呪い”
現在発動中らしい、このエルドラシア王国の王家に掛けられた、あの迷惑千万な呪いの話を…………
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「なるほど……子が産まれなくなる呪い、ですか。確かに元王女である僕の母、ミュゼットが産んだこの自分の後は、他の王族筋に誰一人として子は誕生していませんね。傍系にも全くという今のこの状況は、実は兼ねてより僕も不思議に思ってはいました。」
「えっ、さすがはフレイ君。私と違って薄々感づいていたんだ!」
「いえ、その、単に(姉上と)同じ年頃の男子で、(姉上と)釣り合う身分の者をリストアップし、(姉上に相応しいか)精査していた事がありまして………」
「同年代の貴族男子調査を?」
「ああと!確かにここまでくると、偶然では説明がつきませんね。つまるところ、この呪い自体は今から遡って14年前、もしくはそこから数年間の間に掛けられた可能性が高いという事が言えると。ーーなあ、リュカ。オルストフ国王陛下とオルヴィナ王妃の間にお世継ぎが誕生しなかったのも、その呪いが原因だった可能性があるのではないか? お二人がご結婚されたのが今から16年前の事、そしてその後、オルヴィナ王妃は不妊でいたくお悩みだったと聞く。……ん? リュカ、どうかしたのか?」
あれ? フレイ君が呼びかけるも、黙り込んでしまったリュカさん。
彼はセヴォワ公爵家に雇われてフレイ君専属侍医になる前は、王宮の御殿医を務めていたという経歴の持ち主。
ならばオルヴィナ王妃の不妊治療にも関わっていたと思うんだけど?
「…………例え、その役職をすでに辞したとはいえ。王の許可なく、かのオルヴィナ王妃殿下に関する事は申し上げられません。ああ…、まあ、とにもかくにも。先ずはヒースクリフ王のルーティンパネルカード、その秘宝を集める事が第一でございます。ーーと、言いたいところでございますが。ユーフェ様にフレイ様、ここいらでそろそろ、私達も晩餐に致しませんか?」
「「え?? 晩餐、(ですか)(を)!??」」
「はい。実を申しますとこのリュカめ、もうお腹が空いて空いて今にも倒れそうなのでございます。ちょうどそこのキャスターに、大量に作った“ユーフェ様特製アツアツ即席すいとん鍋”、とやらもまだ残っている事ですし。それにユーフェ様ご自身が賑やかな晩餐を体験されれば、案外それで帰還条件を満たすやもしれません。」
「何!? ユーフェリア姉上が手ずから調理されたという!その至福の絶品鍋がまだ残っているのですか!?姉上の夢の手料理が、まさにそこに!ーーええ、リュカのその晩餐の提案は僕も大いに賛成です!」
「でしょう!拝見致しましたユーフェ様の包丁捌き、それは繊細で大変見事なものでございました。鍋に入っている“すいとん”という具材も、素手でお上手にこねられておりまして!女王陛下らの晩餐を終えられましたら、この私めも是非食してみたいと思っておりました!」
「そうなのですか!白魚のような、その腕で……!そもそも王立学園から帰ってより、僕は何も食べていませんし、姉上もきちんと食べてはいないのでしょう?腹が減っては何とやらと申しますし。せっかくのこの機会、ご相伴の栄誉に与りたく!」
「ええ!では早速準備を致しましょう、フレイ様!」
「え、いや、あの!えええっ!?」
意気投合した二人は即座にソファーから立ち上がった!
そして入り口脇に置いていたキャビンから、いそいそとリュカさんが大鍋をこのソファーテーブルの上に移し、フレイ君は引き出し部分からお皿やカトラリー類を張り切った様子で取り出していく。
いや、フレイ君、その真っ平らなお皿でお鍋はちょっと。その細長いスプーンも、スイーツ専用だから汁物は掬いにくいと思うし、いやいや!そちらはバー・スプーンで、更にもっと細いから!そしてそれは、台ふき布であってナプキンじゃなーーいっっ!
「ーーて!いや、それよりもあのね!この鍋料理に高級食材は何ひとつ使ってもないし、本当に素朴で庶民的な料理なんだけど!だから、その、リュカさんやフレイ君のお口に合うかどうかは、ね!」
本当に今からここで、リュカさんとフレイ君と3人で晩餐を!?
ーーあれ? 私はどうしてこうも気恥ずかしいんだろうか!? アメリア女王陛下一家に提供した時とは全然別の緊張感が……!?
「姉上の手料理が口に合わないなどと、そんな事は絶対にある筈がありません!ええ!これに関しましては、例え神に逆らってでも絶対です!」
「そこでスキルを完全否定されますか!なんと男らしい!ちょっと見直しましたよ、フレイ様!そしてユーフェ様、アメリア女王陛下や王女殿下達の皆様も、ーーああ、あの好き嫌いの多いオルストフ様も、それはそれはとても美味しかったと、そう太鼓判を押されていらっしゃったではございませんか。」
「お義父上が召し上がれたのに、この僕は召し上がれないなどと、まさかそんな意地悪はおっしゃいませんよね?ユーフェリア姉上?」
ーーいや!何故そこまでこの二人はこの鍋を食べたいのよ!?




