私と即席鍋と一角獣と幻の彼3
さて。寒々しい王家晩餐から一転、女王をはじめとする王子王女達の和気あいあいとした暖かく楽しい晩餐も無事終わりを迎えた。
成功の一端は何といっても私が発案し、王宮料理人達みんなで協力して作ったユーフェ特製アツアツ即席すいとん鍋!
フリーダムなオルストフ王子は嫌いな野菜を自ら進んで食べ、アメリア女王の食事の手を止めさせるほど驚かせていたし、少食なミュゼット王女も普段より多く召し上がっていたという話。私の母、クレメイア王女も可愛い形の野菜にそれはもう大はしゃぎで。
お母様、子供の頃はあんな風に普通に笑える方だったんだな………
ーーあ、ええと。とにかく、王家一家晩餐ミッションは文句なしの大成功に終わったわけだけど……?
鍋を乗せたキャビンをガラガラと押し、本殿宮の通路を進む傍ら、私はリュカさんと今後の話し合いをする。
「リュカさん、それでこれからどうしましょう? そろそろ星時計の間に戻れば、何となく元の時代に帰れるような気がしません?」
「ふうむ…ユーフェ様はそう思われますか?」
「うーん…、もしかして、ですけれど……」
実はこの過去に飛ばされる直前、私は王様とフレイ君と家族揃って初の夕食をキャンセルする事になり、それをとても残念に思ってしまった。
だから賑やかな晩餐、言うなれば一家団欒のひとときを私に体験させようと、“太陽の砂時計”がここへ飛ばしたのでは?
どうして選択されたのがアメリア女王とその王子王女達の晩餐シーンだったのか、そして何故私がベルマーレ侍女長という方に見えていたのか。それについては理由が分からないし、ちょっと他にも色々と謎が多いけど……。
でもそういう可能性もあるかもと、私はリュカさんに話してみた。
「……なるほど。気まぐれな秘宝の事です、案外当たっているかもしれまん。試しに星時計の間に戻ってみる価値はございますな。」
「ええ。それと別に」「ユーフェリア姉上!!」
ーーーえ。 この声、は……!?
「見つけた!姉上!ああ!ご無事で良かった!」
「あ!もしかして、本物のフレイ君!?」
「おお。今度は正真正銘の、本物のフレイ様ですな。」
偽者でないフレイ君が、曲がり角の向こうにいる!
そう、やっぱり長年彼の侍医を務め続けているリュカさんも気付いていたみたいだけど、厨房にいたあのフレイ君は実は偽者。
そして、ーーああ!うんうん!こっちのフレイ君が間違いなく本物だ!あんな無機質な目ではなく、生き生きと輝く翡翠色の瞳。
彼は珍しくぜいぜいと息を弾ませ、一直線に私達のもとへ駆けてきた!
「ーーっリュカに、姉上の診察をお願いしたものの、いつまで経っても終わった様子がみられずっ、ノックに返答もなしと部下から報告を受けまして、そのっ!もしや非常事態やもと、急ぎ星時計の間に立ち入ってみればもぬけの殻!ーーっ血の気が引く思いをしました…!」
「うそ!時間が普通に経過してる!それはご心配をおかけしました!」
「いえ。ーーとにかく、気が気ではありませんでした。もしやユーフェリア姉上が、とうとう拐かされておしまいになったのかと!」
真っ青な顔で私の手を両手で固く握りしめるフレイ君。
そんなにも私の事を心配してくれてたんだ…!
ーーでも「とうとう拐かされた」って、それどういう事?
「こほんっ!あー、えー、今のお話によりますと、この私めも行方不明だったという事ですが、そこはどうでも宜しいのですね…。」
「?……どなたでしょう? 何となく、見覚えのある……その片眼鏡は昔、どこかで見た記憶が……」
「フレイ君!リュカさん!リュカさんだよ!若返っちゃったとはいえ、あのリュカ・アシュリーさんだってば!」
「ーーえ!?」
まあ、この変わりようでは無理もないか。優しげで穏和な初老の紳士様が、鋭利で冷たい双眸の片眼鏡紳士様、なんだもの。
けれど、さすがにむっと拗ねた顔になったリュカさん。
「何ともつれないものですな。こちらはユーフェ様共々、逆にあのそっくりなフレイ様の偽者を見破ってみせたというのに……」
「偽者…? 僕だと騙る、偽者がいたのですか!?」
「はい。出会い頭にユーフェ様の腰を抱き寄せておられましたね。」
「え!? リュカさん、説明するのそこ!? そこは重要かなあ!?」
けれど劇的に重要だったようだ。
一瞬で驚愕の表情になったフレイ君は、ワナワナと口元を震わせた!
いや、あの!どど、どうして!?
「だ、だだだ、抱き寄せ…!あっ、ーー姉上!!」
「は、はいいいっっ!!?」
がっしりと両肩を掴まれた!!顔が近ーーい!!ビスクドールなフレイ君のお顔の眉間に深いシワがっっ!!それでも美人だけどね!!
「それは一体全体、どういう事です? 以前から思っていたのですが、ユーフェリア姉上は異性に対して少々、いいえ。寧ろ、危機感という言葉を正しく理解なさっているのか本気で疑いたくなるレベルで無防備過ぎるのではありませんか!? そいつ、不届き野郎の僕の偽者は、他に貴女にどんな破廉恥な行為を!?」
「は、破廉恥ぃ!? いいえ!それ以外は特には何も! ーーあっ、お転婆って、説教をされました!偽者さんには危ないところを助けていただいただけで!その後は面白そうだからと、それはもう便利な魔法で色々と協力してくれました!」
「フレイ様、ご自分の今までの破廉恥かつ、誰がどうみてもセクハラな所業の数々は棚上げですか、そうですか。ーーああ、ですがあのフレイ様の偽者、決して害意のある方ではございませんでしたよ。」
「姉上を、お転婆……。そんな風に言わしめるような、一体どんな可憐な一面を見せっ……あ、いえ。えー、しかし。偽者が色々と姉上らに協力を? そいつ、本当に何者なのでしょう?」
少し冷静になったフレイ君は、そろそろと私の肩から両手を下ろした。
解放されて、同じく私の頭も冷静になる。
「あれ? そういえばフレイ君はどうやってここに来たの? もしかしてあの、はた迷惑で身勝手な柱時計の力で、フレイ君もこの過去に飛ばされちゃったの?」
「あ、はい。…なるほど、ここは過去の本殿宮なのですか。内観仕様からして、予想するに先代アメリア女王の時代でしょうか。こんなはるか遠い場所へ、姉上を連れ去るとは……(帰ったら絶対粉砕してやる、あの人攫い柱時計…!)」
「え? 何か言った? 」
「いいえ?……ああと。どうやって僕が過去へと、そうお尋ねでしたね。ですが、詳しくお話をさせていただくにしても、ここでは誰か人が来てしまいます。できれば場所を…そうですね、星時計の間へ移動しませんか?」
フレイ君の提案に、私は一もニもなく頷く。
帰還する為にも、やはりあのヒースクリフ王の秘宝、“太陽の砂時計”のもとに戻る必要がありそうだものね。
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星時計の間に戻った私達は取り敢えずキャビンを入口の脇に置き、早速一番隅っこに飾られた柱時計へ足を進めた。
前世で有名だった童謡に歌われるお爺さんの大きな古時計。ゼンマイを巻く為の穴が二つある文字盤の中央には、あのルーティンパネルカードⅡ番の“太陽の砂時計”が嵌まり込んでいる。
「憎々しい事に、普通にしれっと時を刻んでおりますな。ううむ…。まだ帰還の条件を満たしていないのでしょうか?」
「あの暴力的な秒針音が起動合図、のようですからね。「おまえの弱点はどこか分かっている、そこを壊されたくなくば速やかに姉上のもとへ連れていけ!」と脅しつけましたら、即座に起動したのですか。やってみましょうか?」
「え? 弱点!? フレイ君、この秘宝の事を知っているの!?」
もしかして!フレイ君はヒースクリフ王の秘宝の事を知っている? 王家に掛けられた、あの呪いの事も……?
「いえ。その秘宝とやらについて、詳しくは存じ上げません。けれど、この魔法アイテムらしき柱時計の弱点は分かるのです。……見れば何となく、僕はそういうのが分かってしまうので。」
ーーーはい?
何かおかしな言葉を聞いたぞ?
あれ? デジャブだ。これ、私が聞いてしまってはいけないような……
王立学園から帰城する馬車の中でも、彼の口からこれに関するスキルだとかの話を耳にしそうになった。多分、物凄ーっく重要な彼の秘密。
そんな戸惑いをよそに、彼は意を決したように語り出す。
「ユーフェリア姉上。ーーこれを機に、お聞きしていただきたい大事な話があります。けれどこれを聞いたのならば、今、姉上が関わっているであろう面倒事を、僕にも全てお話し下さいませんか?」
貴女の為に協力したいのです、と続けた言葉に思考がパニックになる。
ーーど、どどどど、どうしたら!、いいの!?
王家の呪いを解く為のルーティンパネルカード集めに、フレイ君に協力してもらう? 呪いは彼にとっても他人事じゃない。知る権利も呪いのそれを聞いて、その後どうするか選ぶ権利も彼にだってある筈だ。それに秘宝そのものだって、単純に手に入れたいと思って当たり前なわけだし。
そもそも私が彼に打ち明けずとも、王様は多分近いうちに呪いの事もヒースクリフ王の秘宝の事も、フレイ君に直接話をする筈だ。何故かというと、たったのあと2年後、王立学園初等科卒業までに呪いが解けなかった場合、エルドラシア王家の体面を保つ為に、私とフレイ君を政略結婚させると明言したのだから。
ーーだったら今打ち明けて、彼と共に秘宝集めをした方がいい。
フレイ君には、エルディ君やアルバート君らの優秀な友人達がいる。私では彼らの協力を得られるかどうか分からないし、全然その方がいいに決まっているもの……!
「あの!フレイ君!(弱点が分かるとやらの秘密について)私に告白をする前に!私も聞いておきたい事があります!」
「告白!? えっ!いえ、あの、そういう意味の、好意の告白の、それではなく、姉上は、何か勘違いっ、ーーうっ!!」
今度は私がフレイ君の両手をガッチリと握り締めた!ちゃんと目を見て、嘘偽りのない彼の本心を聞いておきたいからね!
だって世の中には、本能的に子供が嫌いっていうタイプの人もいる。キンキン騒がしいだとか、理屈が通じないだとか、無邪気なのが癇に障るとか、悲しい事にそういう人も存在する。
ーーだからこの点はしっかり確認しておかなきゃ!
「あのね!フレイ君!ずばり聞くけど子供は欲しい!?」
「え!?こ、こここ、子供ぉぉぉ!??」
「うん!そう、自分の子供!!将来、(愛する人と)結婚したら、やっぱり産んで欲しいかな!?」
ーーあれ? 思春期の男の子には、話がダイレクト過ぎた?
フレイ君は、これ以上はないってくらいに顔を真っ赤にさせてしまった。
「バ、バカップル………」
後ろでまた放置されたリュカさんが、ポツリと一人呟いた。




