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IQが高い転生お姫様は穏便に隠居したい  作者: 星船
王立学園編入学日編
36/119

私と即席鍋と一角獣と幻の彼2


「一応はこれも主の危機。ユーフェリア姫の一角獣よ、古き誓約に基づいてその姿を現せ。」



ーーパアアアアアッ!!!


 “私”の一角獣に、“古き誓約”??

 何故そんな訳知りな言葉を彼が?と考える間もなく、私の身体の奥からキラキラとまばゆい光が溢れ出た!

 その光は少し前方で止まり、まるで糸を紡ぐようにクルクルと回り出すと、やがてこの場に何者かを具現化させていく。

 

 けれど一角獣と聞いて私はすぐにピンときた!

 王立学園で倒れた時、夢の中で勝手に名乗って私を追い掛け回し、容赦なくその頭の角でぶっ刺したあの腹立つ角っ子モンスター!

 見てはいけないのについ振り返って見てしまった、その子の本当の正体。

ーーそう、こんな風に真っ白な、


「うおぅ!? 突然バーン!と、白馬が現れたぞ!!」

「つ、角付いてる!ーーっなんか凄いの、来たあああ!!」

「あれ食材か!? 赤ワインで煮込む? 馬刺し? それとも馬肉鍋?」

「アホかボケぇ!!食べたりなんぞしたら罰が当たるわ!あれは食を守る聖獣様だ!取り敢えず料理人一同整列!!心して拝んどけぇぇぇ!!」

「「「ーーへい!!らっしゃい!!!」」」


 う、うるさいな、後ろの料理人達……

 でも突然厨房に降って湧いた人外に、言うほど誰も動じていないみたい。

 王宮料理人って、ユニークでメンタル強いなー……

ーーおっと!現実逃避してる場合じゃなかったね。

 私は改めて角っ子モンスター、“きゅーたん”へ向き合う。


「ーーご機嫌よう。あれが悪夢でなかったのなら、貴方の名はきゅーたん、で間違いないのかしら? 勝手に人に契約を押し付けたそこの一角獣くん?」


「うん!ごきげんようっ、ゆうふぇちゃん!ちゃんとおぼえててくれてたんだ!かってにって、あははー。でも、ちくっとさしただけだから、いたくなかったよね?」


 にやあ~っ!と黒く笑う、けれど体躯は白い一角獣。

 細い角と背に流れる優美なたてがみは淡いモスグリーン、瞳の色は光沢のある神秘的なメタリックシルバー。別名をユニコーンともいい、この世界でも幻の存在とされている美しい白馬の聖獣だ。

 けれど、その一角獣を見たリュカさんが「はて?」、と首を傾げる。


「……きゅーたん? 私が知るパネルカードⅤ番の“一角獣”は、貴方とは別の者と記憶しております。もしや、聖獣が代替わりなされたか?」


「ううん、ちがうよ。ぼくはゆーふぇちゃんだけのもの。かんぱにゅらさまからの、とぉーっくべつなおくりもの。ーーだからそっちのあなたでも、ぼくはしたがわないよ?」


「そっちのあなた……?」


 黒い笑顔から一転、すうっと無表情になったきゅーたんは、フレイ君の方に顔を向けていた。彼を挑発するような言い方だ。

 それに苦笑のみで流し、彼は私に問い掛ける。


「姫よ、一つお尋ねします。神の与えし恩恵、またはルーティンパネルカードだとか云々以前に。古来より伝え聞く幻の聖獣の彼ら。そもそもそのうちの一角獣は、どんな奇跡を起こす力を持っているのでしょう?」


 尋ねておきながらも、貴女ならばこれくらいはご存知でしょう? と、その湖の水面のように凪いだ翡翠の瞳には書いてあった。

 

 違う。私の知る彼は、こんな無機質な瞳で人を見たりしない。

ーーけれど今、大事なのはそれではなく。


「一角獣とは、神がその手で直接生み出した聖獣の一つ。文献によればその性質は極めて好戦的で獰猛、けれど強く気高く勇猛果敢。地上のどんな獣よりも速く駆ける事ができると伝えられています。ですが、今必要なのは毒の判定。ーー彼のその、鋭く長細い角が、」 


 私は右手の人差し指できゅーたんの頭に生えている角を指す。


「彼、一角獣の角はあらゆる種類の毒を感知すると言われています。また更に角自体に解毒作用があり、汚染された湖を丸ごと清浄してしまう力があるのだとか。神の恩恵の一つたる秘宝のこの一角獣も、それと同じ存在と認識して宜しいのでしょうか?」


「うん!せいっっかーーーいっ!そのぜんぶが、まちがっていないよ。ねえ? それでね、ぼくのごしゅじんさまの、ゆうふぇちゃんは、ぼくになにをのぞむのかな?」


 きゅーたんはコテンと可愛らしく首を傾げた。

 どうやらこの押しかけ聖獣は、何でも私の望みを叶えてくれるつもりらしい。なれば、こそ。逆にその見返りが恐ろしい……


「きゅーたん、聖獣なのに笑顔が全っ然清くない!ーーリュカさん、どう思いますか!? あれにお願いしてしまって大丈夫なんでしょうか!? 実は本当は悪魔か魔獣との契約だった、なんて最悪の展開になったりしませんか!?」


「せ、聖なる一角獣様を魔獣呼ばわり!?」

「やっぱベルマーレ侍女長は最強だ!」

「解毒作用……じゃあ、何でも食材にできるって事!?」

「は!うさぎ肉の刺身!タランチュラ煮込み!フグの肝揚げ!」

「おおー!料理人ならば一度は調理してみたい夢のベスト3!」


 だからうるさいってば、後ろの平和ボケ料理人達!そしてそんな危険素材で料理作っても、絶っっっ対に提供させないからね!

 ああ、でも。あれこれ迷っている自分が、無性に馬鹿馬鹿しく思えてきた……

 リュカさんが、そんな私の肩にそっと手を乗せる。


「ユーフェ様。聖獣といえど、気が進まないのであれば無理に頼る必要はございません。いざとなれば、この私めが責任を負いましょう。」


「ええー、ひどいなあ。ぼく、いいこだよー?」


「古来の王宮では毒味という役割を担う者がおりました。僭越なれど御殿医という立場の私めが、この身と名誉をかけてこの鍋に毒なぞない事を証明致しますぞ!……そちらの料理人達の胃袋で!」


「リュ、リュカさん…!」


 その言葉が最後の後押しとなった。


「え?は?俺らの胃袋?」

「おい、ちょっと待て…」

「リュカさん、有難うございます。でも私は決めました。きゅーたん、ーーいえ。聖なる一角獣よ、この鍋に毒がないか、貴方の力で判定してもらえる?」

「はいはーい!もっちろん、おーけぇ!ぼくにまかせて!」


 弾んだ声で返事をした一角獣が調理台まで軽やかに闊歩すると、上体を屈ませて完成間近かの鍋にその銀の角を翳した。

 角から溢れ出るキラキラと淡い光。聖獣が毒性検査をしたのならば、誰も文句など言えないだろう。これで王家の方々に鍋が提供できる…!


 ん?後ろの料理人達が、何故か不満顔をしている??


 



*********





「ーーでは第17問目です。東の公国ファレスファーランドの我が国への主要輸入品を3つ上げなさい!」

「絹糸、銀食器、後は…ええと、ええと…!」

「はい!羊毛紙!それに銀食器じゃなくて青銅食器!」


 オルストフ王子の回答に、アメリア女王が大様に頷く。


「その通り、正解です。クレメイア、惜しかったですね。オルストフ王子はよく勉強されていますね。はい、勝者へオレンジを一粒。」

「よし!冷たいオレンジげぇっと!ひやぁーーっ、シャリシャリ!冷たぁーーーっ!」

「むうぅ!いつもオルフに勝てない!私のが一歳もお姉さまなのにぃ~っ!」


 

 何だろう、この状況?

 ちょっと立ち疲れた感の出た親切なドアマンに再び扉を開けてもらい、リュカさんと2人で鍋の乗ったキャビンを押しつつ食堂へ入ると、アメリア女王がクイズ大会をされていた。

 テーブルの中央のお皿に残っていた冷凍オレンジを賭けて、時間潰しのオリエンテーション? なんてナイスなお婆様だ!

 因みに医師見習い候補生設定のフレイ君は厨房に残った。

 


「ーーこれで正解数はオルストフ王子が8、クレメイアが7、ミュゼットが2ですね。ミュゼットはもう少し頑張りなさい。」


 いや、ミュゼット王女はこの中で一番年下だもの。2問も正解できたなんて、まあまあ良くできた方なのでは?


「…違う。それを答えたの、横のコル。」



………………………



「……あ、ああら!ベルマーレ、もう代わりの晩餐の用意が?」


「……え、ええ!とてもとても、とーーっても温かい鍋料理をお持ち致しました!どうぞ皆様方、こちらをお召しになって、しっかりと身体の芯から温まり下さいませ!」


 霊気もきっと吹き飛ぶ温かさだよ!

 壁際に控えていた使用人達に指示し、キャビンの上から鍋を食堂のテーブルに移してもらい、早速蓋を取ると熱々の湯気が溢れ出た。

 アメリア女王が一番に感嘆の声を上げる。


「まあ!なんて美味しそうな香り!このように本当に出来立ての料理なんて、この子達にとって初めてではないかしら?」

「煮えた肉がいっぱい!肉!俺に肉をたくさんよそって!」

「ふわあ~。蓋を開けただけで、何だか食欲が出てきたわ!」

「湯気が。ふわふわ…」


 待たされていい加減お腹も空いていた為か、鍋の蓋を開けただけで好意的な発言が飛び交う。私はお玉で鍋料理をたっぷりとお椀によそい、アメリア女王から順番に手早く配膳していった。

 女王と王子王女達が食前の感謝の祈りを捧げ終わると、全員が待ちきれないとばかりにスプーンを動かす。


ーーさあ!ユーフェ特製即席鍋をどうぞ召し上がれ!


「あつ!あちちっ!でも美味い!肉があつあつで美味しい!」

「うん!お野菜もお肉も凄く柔らかくてほかほか!」

「……心まで温まる味ですね。あら? ベルマーレ、この白い固まりは何かしら? パスタのペンネに似ていますが、丸い形をしていますね?」

「もちもち、ゴクン。」


 アメリア女王がお椀に入った丸い固まりに首を傾げる。


「それは“すいとん”です。すり下ろした長芋と小麦粉、片栗粉を混ぜたものですが、少量でも満腹感が得られ、だるさや疲労回復にも効果があります。」


「素朴な食材ですが、とても美味しいですね。スープによく合っていて、何よりも身体が温かくなっていくのをつぶさに感じます。」


 それはきっと、家族みんなで一つの鍋を囲って食べているのもあると思う。それだけで、普通の有り触れた食材がいつもより美味しく感じるものだ。

 そんな中でふと珍しく、ミュゼット王女が大きな声を出した。


「星!お椀に星が入ってる。お花も、いっぱい。」

「え?ーーあ!うそ、可愛い~!」

「ホントだ!雪だるまっぽいのもあるぞ!」

「まあ!よく見たら、色々な形の人参やじゃが芋が紛れ込んで!」


 私が飾り包丁で細工したお野菜だ。

ーーよし!サプライズ成功!バッチリ喜んでもらえた!野菜嫌いのオルストフ王子も口を付けている!

 隠れて小さくガッツポーズをした私は、小さなお椀にそれらのお野菜を盛り付け、亡きコルセア王子の席にそっと置いた。


 鍋料理はやっぱり家族みんなで、大勢で食べるのがいいよね!



 

うさぎの生肉は細菌が多く、野兎病という感染症を引き起こす危険性がある。

種類によって多少異なるが、フグは肝臓部分が最も毒性が高い。



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